幼い少女が狼と出会ったお話

大神 快虎

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どうしてだろう、なんでだろう。そんな気持ちで胸がいっぱいだった。らいおっとのことが大好きなのに、らいおっとも私のことを好きでいてくれているのに、一緒に居たくなかった。すごく寒いような、そんな感じ。

だから私は家を飛び出した。でも、行く当てはない。だから、この前きた大通りをぶらぶら歩く。

「おなかすいた…」

そういえば、ご飯を食べていなかった。おなかをいっぱいにしたいけど、私はお金を持っていない。

「あれ?アイナちゃん?」

聞き覚えのある声が聞こえる。その方を振り返ると、人間が立っている。ぼりすさんだ。

「やっぱりアイナちゃんだよね?どうしたの?」

私は事情を伝えた。この人は悪くない人だと感じていたから。

「んー、それは、アイナちゃん嫉妬してるかも」

しっと…?なんだろう?

「知らないって顔してるね。嫉妬は、好きな人が相手と仲良く話しているときに起こる、羨ましいとか、そんな感じかなぁ」

羨ましい。私は羨ましかったんだ。だから、一緒に居たくなくて。

「俺さ、これから仕事なんだけど、よかったら一緒に来る?しばらくはあいつと会いたくないだろ」

…そうかも。行ってみたい。私は黙ってうなずいた。




10分ほど歩いていたら、ぼりすの足が止まる。

「ここが俺の仕事場だよ」

指をさされたほうを見ると、小さな一軒家だった。ここがお仕事する場所?ビルとか、そういうところじゃないんだ。

「俺の仕事は漫画家。ここでいつも漫画描いてるんだ」

そういわれ、家の中に案内される。

「やぁボリス。今日は遅かったね」

「ボリス来たの?遅いよ!」

「悪い悪い。ちょっとこの子預かってて」

と、私の頭をなでる。私の前にいる二人は、眼鏡をかけた猫の獣人さんと、人間の女の人だった。

「誰その子…。娘さん、って感じでもなさそう」

「俺の友人のつがいだよ。わけあって俺と一緒にいるの」

「つがい?なら離しちゃいけなんじゃない?向こうきっと怒ってるわよ」

「いや、むしろアイナちゃんが怒ってる説あるから」

んー、怒ってるわけではないんだけど。というか、家の外の見た目とは裏腹に家の中は広くてきれいだ。

「あー、なんとなく理解できたわ。私の名前はクレア。アイナ?ちゃん、しばらくここにいていいからね?なにかほしいものあったらお姉さんを頼ってね!」

「僕はオセだよ。よろしくね」

この人たちもいい人なのかな。

ぐぅ~…。朝から何も食べてなかったからお腹が。

「あっ…」

「お腹空いてるのね。おーけー。ご飯作ってくるわ」

「あ、じゃあ俺の分も頼む」

「ボリスは奥さんのご飯食べてきたでしょ!」

ボリスがガハハと笑っている。と、スマホの電話が鳴りだす。

「あ、電話だわ。ちょっと出てくるね」

と、ボリスはその場を離れた。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「もしもし?ライオット?」

『ボリス!?あ、あ、あぁ!』

電話越しからでもわかるこの焦りよう。面白おもしろ

「何を言いたいのかはわかるよ。アイナちゃんがいなくなったんでしょ?」

『え!?なんでお前がそれを知ってるんだ!!まさか…グルル」

えぇ…。完全に怒ってるじゃん。

「あのな、焦る気持ちはわかるが、まず落ち着け。アイナちゃんが家を出て言った理由ちゃんと考えたか?」

『俺が嫌いになったからじゃないのか?妹が言っていたし』

「は?何それ?馬鹿じゃねぇのお前。アイナちゃんがライオットを嫌うわけないだろ。鈍すぎな?」

こいつ、ほんと鈍感だな。昔っからいつもいつも。

『じゃ、じゃあなんだよ。俺…さっぱりわかんなくて…』

電話越しに今にも泣きそうなライオットの声が聞こえる。こいつにも涙を流す時があるんだな。見たことも聞いたこともないからびっくりするわ。

「直接いうと、嫉妬だよ。嫉妬」

『しっ…と…?そうか、アイナは、嫉妬をしていたのか。それなら、なおさら謝らないと…』

「なら、俺の職場にこい。妹さんは帰らせろ。絶対にだ」

『え?あ、あぁ…わかった。』

プツッっと電話の切れる音がする。はぁ、今までいろいろあったけど、あんな様子のライオットは初めてだ。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


10分ほどしてぼりすが戻ってきた。

「やれやれ、まじであいつの扱いは困る…」

なにかぼそぼそつぶやいている。

「アイナちゃーん!ご飯できたわよ!何が好きかわからなかったからとりあえず、チャーハン作ってみた。お口に合えばいいんだけど」

くれあが皿に盛ってあるチャーハンをスプーンですくい、私の口元に運ぶ。

「はい、あーん」

パクッ…。おいしい。けど、らいおっとのごはんのほうが美味しいな…。会いたい。そう思ったら突然涙が出てきた。

「え!?ええ!?おいしくなかった!?ごめんね!」

「ちがう…。らいおっと…」

寂しい。ごめんなさい。約束破っちゃった。いろいろな思いがでてくる。

突然ガチャ!と扉の開く音が聞こえる。

「ボリス!アイナはどこだ!!」

「せめてチャイム押せよ…。まあいいか。ここにいるよ」

ボリスが、ライオットを手招きする。

「アイナ…はぁ、はぁ、見つけた…」

「らいおっと…私、約束…」

らいおっとは私をそっと抱き上げてくれた。

「ごめんな、アイナ。俺、全然気づけなくて…」

今までで一番優しい、でも、力強いぎゅーをしてくれた。

「ボリス、すまなかった。ほかの二人も、迷惑かけたな」

「大丈夫よ。それより、つがいなんでしょ?ちゃんと大事にしなさいな」

「僕、何もしてないから大丈夫」

「さあ、もうお昼すぎるから。仕事やらないとやばいぞ」

「締め切り!もうすぐじゃん!」

3人がバタバタし始める。

「じゃあ、ボリス。まじでありがとな。お前だけが唯一の親友だよ」

「いいってことよ。もう二度と、その小さな手を離すなよ」

ライオットは黙って深くうなずいた。

「さあ、今日は映画を見行く約束だったよな?行こうか」

らいおっとは私をだっこしたまま歩き始める。


離れて気づいた、らいおっとの暖かさ。一人になるとこんなにも寒かったんだ。もう二度と、自分から離れたりしない。
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