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顔がひりひりして痛い。心も痛い。
多分、城所アンナという人間は全てにおいて疲れ果ててしまったのかもしれない。
――そしてそろそろ潮時なのかもしれない
「『自殺』だなんていう言葉、わたしにはすごくお似合いだね」
登校中、アンは道端で独り言を漏らす。
そして頭の中には――これからどうやってこの命を捨ててしまおうか、という考えばかりが回転していた。
追い詰められたわけではなく、いい加減飽きたのだ。この、今の人生が。
夢すらもどうでもよくなってしまった。ただひとつ問題なのは、自分の命を粗末にする者は天国へ行けないということだった。
こればかりは神様も、見過ごしてくれないだろうか。
アンはとっくに笑顔を失った。学校にいても家にいても、ほとんど喋ることができなくなった。こんな腐った人生なら、耐えるよりもさっさと終らせてしまったほうがいいのだ。
――今日も“苦”の一日ならば、地獄へ落ちよう。
今日は自分が生きていられる最期の日。アンは闇の世界を眺めながらぼんやり考えた。
――しかし人生とは何なのか分からない。思いがけないことが起きた。
朝。下駄箱に行くと、鬼女――大杉がいた。最後の朝にこの女を見なければならないなんて、ついていない。だが、大杉の様子がおかしかった。
「い……いや。いや! 何よこれ!!」
今にも泣き出しそうな顏で大杉は叫んでいた。彼女の目線の先を、アンはちらりと見てみる。
「……?」
アンは目を白黒させた。
大杉の……上履きらしきものが真っ黒でボロボロになっていた。たぶん、誰かに燃やされたのだろう。
(――? 燃やされた?)
「誰よ! あたしの……上履きをこんなんにしたのは!!」
と、大杉はその場にいた生徒たちに問う。当然、誰もが首を傾げるだけである。
「……! まさかあんた?」
いきなりアンの方を振り向き、大杉がものすごい形相で睨んできた。
(私は……やってない)
アンは首を横に降る。
「……ちくしょう、誰なのよ! ふざけんな!!」
大杉は一人で大騒ぎしていた。
うるさい女だ、自分も同じことを何度もしているだろ。アンはそう言ってやりたかった。
それにしても、大杉にこんな嫌がらせをする人がいるなんて――やった人は勇気があるな。アンは感心した。
大杉の様のない姿を眺めながら、アンは何だか清々しい朝だと身に感じていた。
教室。
着くとまたあの女が一人で騒いでいた。
「……ちょっと、何よこれ!!」
大杉は自分の教科書やノートを、次々に机の中から放り投げていた。
遠目でアンが見てみると、――それらは全て刃物か何かで八つ裂きにされているようだった。
「おい大杉。嫌がらせされてんじゃねえか。だせぇな」
「笑えるわね」
クラスのみんなは彼女を見て笑い始めた。このクラスは――クラスに限らず、この学校の生徒たちは人の不幸を見て喜ぶ。アンはそれをよく知っていた。
ざまを見ろ。
アンは思わず鼻で笑った。
「……くそ! くそ! くそ! お前……笑ったわね!?」
今まで聞いたこともないような荒々しい声で、大杉はアンの所に近づいてきた。鋭い睨みつけで、アンを見下して、平手でアンの顏を殴った。
教室中に耳をふさぎたくなるような音が響く。何度も何度も……
しかしアンは一切抵抗しなかった。死ぬときはもっと痛くて苦しい思いをするはずだからだ――。
「このカス!! お前が笑っていいわけないの! あたしに向かって笑うな! 死ね! 二度と学校に来るな! お前は生きる資格もないのよ、このクズ!!」
こいつの言う言葉は、何だか正しいものだとアンは感じていた。生きる理由なんてないと確信し、アンは死ぬことを決意したのだ。
(安心しなよ、大杉さん。そこまで言ってくれるならわたしを殺してくれたっていい)
声に出せない、心の訴え。
(このままわたしを殺して)
やがて、顔面の感覚が失われ、
(このままわたしヲ)
叩かれているのかさえ分からなくなる。
(殺シテクダサイ)
そしてアンの目の前は、真っ暗になった。
多分、城所アンナという人間は全てにおいて疲れ果ててしまったのかもしれない。
――そしてそろそろ潮時なのかもしれない
「『自殺』だなんていう言葉、わたしにはすごくお似合いだね」
登校中、アンは道端で独り言を漏らす。
そして頭の中には――これからどうやってこの命を捨ててしまおうか、という考えばかりが回転していた。
追い詰められたわけではなく、いい加減飽きたのだ。この、今の人生が。
夢すらもどうでもよくなってしまった。ただひとつ問題なのは、自分の命を粗末にする者は天国へ行けないということだった。
こればかりは神様も、見過ごしてくれないだろうか。
アンはとっくに笑顔を失った。学校にいても家にいても、ほとんど喋ることができなくなった。こんな腐った人生なら、耐えるよりもさっさと終らせてしまったほうがいいのだ。
――今日も“苦”の一日ならば、地獄へ落ちよう。
今日は自分が生きていられる最期の日。アンは闇の世界を眺めながらぼんやり考えた。
――しかし人生とは何なのか分からない。思いがけないことが起きた。
朝。下駄箱に行くと、鬼女――大杉がいた。最後の朝にこの女を見なければならないなんて、ついていない。だが、大杉の様子がおかしかった。
「い……いや。いや! 何よこれ!!」
今にも泣き出しそうな顏で大杉は叫んでいた。彼女の目線の先を、アンはちらりと見てみる。
「……?」
アンは目を白黒させた。
大杉の……上履きらしきものが真っ黒でボロボロになっていた。たぶん、誰かに燃やされたのだろう。
(――? 燃やされた?)
「誰よ! あたしの……上履きをこんなんにしたのは!!」
と、大杉はその場にいた生徒たちに問う。当然、誰もが首を傾げるだけである。
「……! まさかあんた?」
いきなりアンの方を振り向き、大杉がものすごい形相で睨んできた。
(私は……やってない)
アンは首を横に降る。
「……ちくしょう、誰なのよ! ふざけんな!!」
大杉は一人で大騒ぎしていた。
うるさい女だ、自分も同じことを何度もしているだろ。アンはそう言ってやりたかった。
それにしても、大杉にこんな嫌がらせをする人がいるなんて――やった人は勇気があるな。アンは感心した。
大杉の様のない姿を眺めながら、アンは何だか清々しい朝だと身に感じていた。
教室。
着くとまたあの女が一人で騒いでいた。
「……ちょっと、何よこれ!!」
大杉は自分の教科書やノートを、次々に机の中から放り投げていた。
遠目でアンが見てみると、――それらは全て刃物か何かで八つ裂きにされているようだった。
「おい大杉。嫌がらせされてんじゃねえか。だせぇな」
「笑えるわね」
クラスのみんなは彼女を見て笑い始めた。このクラスは――クラスに限らず、この学校の生徒たちは人の不幸を見て喜ぶ。アンはそれをよく知っていた。
ざまを見ろ。
アンは思わず鼻で笑った。
「……くそ! くそ! くそ! お前……笑ったわね!?」
今まで聞いたこともないような荒々しい声で、大杉はアンの所に近づいてきた。鋭い睨みつけで、アンを見下して、平手でアンの顏を殴った。
教室中に耳をふさぎたくなるような音が響く。何度も何度も……
しかしアンは一切抵抗しなかった。死ぬときはもっと痛くて苦しい思いをするはずだからだ――。
「このカス!! お前が笑っていいわけないの! あたしに向かって笑うな! 死ね! 二度と学校に来るな! お前は生きる資格もないのよ、このクズ!!」
こいつの言う言葉は、何だか正しいものだとアンは感じていた。生きる理由なんてないと確信し、アンは死ぬことを決意したのだ。
(安心しなよ、大杉さん。そこまで言ってくれるならわたしを殺してくれたっていい)
声に出せない、心の訴え。
(このままわたしを殺して)
やがて、顔面の感覚が失われ、
(このままわたしヲ)
叩かれているのかさえ分からなくなる。
(殺シテクダサイ)
そしてアンの目の前は、真っ暗になった。
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