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少し眩しい、オレンジ色の明かり。目の前は暗いのに、その中に夕日の光が混ざり混んでいる感じだった。
よく分からない世界。ここはどこだろう? もしかして死後の世界? 地獄? 自分は死んだのか?
アンは混乱していた。
だが、単純に考えればすぐに分かることだった。――目を閉ざしているだけだった。
(なぁんだ、まだ生きてるんだ)
そう思うとアンはガッカリした。
目を開けるとそこはもう、誰もいない教室の中だった。大杉に殴られてずっと気を失っていたというのは考えるまでもない。
時計を見ると、既に17時を回っていた。
沈みかけている夕日は美しい。
今日は、少しだけ面白いこともあったが、結局は傷つけられた日であった。最期になる日がこんなにも微妙に終ろうとは。アンは苦笑するしかなかった。
自殺場所はやはり――散々苦しめられたここ、学校がいい。屋上からこの身を投げ出してしまおう。
そうと決まれば、アンは死ぬ前に遺書を書こうと思った。全てに対する怒り、恨み、そして苦しみと悲しみを綴るのだ。
アンは立ち上がり、自分の机まで行った。
「……?」
見ると机の上には、一枚の封筒が載っていた。
『アンへ
必ず読んでね
サオリ』
――封筒にはたしかにサオリの字でそう書かれていた。
サオリからの……手紙。
アンはどきりとした。手を震わせながら、中を開けて内容を読んだ。
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アンへ
今更こんなこと言うのはおかしいと思いますが、まず言わせてください。
…アン、ごめんね。
本当に本当にごめんなさい。
私、今までずっと間違ったことしてきた。
大杉と絡むようになって
アンをたくさん傷つけてしまったよね。
何でどうしてこんなことしてきたのか、自分でも分からなくなってしまったよ。
でも私、もう耐えられない
あんな人と一緒になってこれ以上アンを悲しませたくない。
アン、今日見てたでしょ?
大杉が嫌がらせされてたの。
実はあれ、ヨウコがやったんだよ。
アンの為に…復讐のために。
私も応援した。
私たちもう一度、三人で仲良くしたいと思ってるの。
大杉は関係ない。
たくさん反省するよ。
もしもアンがこんな私たちを許してくれるなら…
校門前まで来てください。
アンの顏の傷の手当ても少し出来るとおもう。
待ってます
サオリ
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……全てを読み終えた瞬間、アンは力が抜けて床に倒れた。
信じられない――
神様はなぜ、こんなにも意地悪なのだろうか。限界まで辛い思いをさせられたのに。自殺を決意した直後にこれだなんて。
「何なの、この手紙」
アンは思わずその手紙をグシャッと握り潰した。そしてまたひとつ、アンの頬に涙が落ちた。
「……嬉しいよ、サオリ……ヨウコ」
しばらくの間、立つことができなかった。
涙も止まらない。アンは二人の親友との思い出を頭に巡らせていた。
――この中学校に転校してきた日、アンは荒れすぎている校内を見て本当に戸惑っていた。誰かに話しかけるのも怖くて、数日の間友だちができなかった。
そんなある日、初めてアンに声を掛けてきてくれたのはサオリである。
「この学校荒れてるけど、いい人もいるよ。何か分からないことがあったら何でも聞いてね、アンナちゃん」
サオリの、優しい言葉をアンは今でもはっきりと覚えている。彼女と友だちになってから、アンの学校生活は少し明るいものとなった。
サオリと知り合って数日後、今度は彼女の紹介でヨウコとも出会った。
「よろしくね……城所さん……。わたし、あなたはイジメたりしないから……」
というようなことをしょっぱなから言われてアンは少々驚いた。しかしヨウコは友だちには優しい人で、アンの為に勉強をたくさん教えてくれたりもした。
二人との思い出は、もう数えきれないほどある。
誰か一人が何かに困ったときは三人一緒になって真剣に悩み、楽しいことがあれば心の底から笑い合った。
なくなることのない、大切な思い出があった。
たくさん胸の中にあったのだ。
サオリからの手紙。ヨウコがしでかしてくれた鬼女への嫌がらせ。
これらは全て夢か? いや、違う。
疑う理由なんて何もない。これが現実ならば、アンは行かなくてはならなかった。
自殺場所ではなく、二人の親友が待っている場所へ。
アンは走った。無我夢中で、風のごとく速く――。
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