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長期休憩のため、アンは久し振りに実家に帰った。両親がニコニコしながらアンを迎えてくれた。
昔自分が使っていた部屋に荷物を置く。今ではすっかり物置き部屋になっているのを見て、アンは一人鼻で笑った。
上着をハンガーに掛けようと収納を開けると、無造作にアルバムが落ちていた。
……中学のアルバムだ。
上着を脱ぐのも忘れてアンはそれを手に取り、中を開いた。
無心でぼんやり眺めていると、突然背後から誰かに背中を押された。さほど強い力ではなかったが、アンはびっくりした。
「よぉアン!!」
「に、兄ちゃん……! 何でいるの!」
「何でってひでぇなぁ、ベテラン保育士さんよ。俺だって休みにもなれば実家にくらい帰るぜ」
「……それはそうだね」
数年振りに再会した兄妹も、昔と変わらずに会話ができるものだ。(色んな意味で)大柄となった兄は、どすんと床に座った。
「アン、お前一人で来たのか」
「うん。旦那の仕事の都合がつかなくて」
「ふーん。俺は家族で来たぞ。今、妻と子どもは出かけてるけどな」
「そっか、あとで挨拶しておかなきゃ」
「しとけしとけ。お前の義姉さんだぜ」
そんな感じでアンは兄としばらく他愛ない話で盛り上がっていた。
どんなに小さくてつまらない内容でも、アンは笑顔でいられた。人と会話をすること自体がアンにとって楽しく感じるようになっていたのだ――。
「……なぁ、アン」
と、突然兄は渋い声でアンの名を呼んだ。
「なに?」
「お前さ、明るくなったよな」
「へっ? 急にどうしたの」
「いや、ずっと思ってたんだ。お前、昔と比べてだいぶ明るくなった。俺にはそう見えるんだ」
兄は真顔である。
彼が真剣に物事を語るというのはあまりないことだと思っていた。
「私、明るい?」
「ああ。半端じゃねぇくらいにな!」
と言って兄は声を上げて笑い始めた。
思えばアンは、兄に中学の時の話を一度もしたことがない。兄に限らず他の誰かに言った覚えすらなかった。
――兄だったら話してもいいかもしれない。
アンの胸の中にしまいこんでいた、荒れ過ぎた中学校生活のことを。
彼はずっとアンを心配してくれていたようだから……
「兄ちゃんありがとう。私、兄ちゃんだったら話すよ」
「なにを?」
「私の過去の話だよ」
こうしてアンは、アルバムを眺めながら初めて昔の出来事を兄に語るのであった――。
【終わり】
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