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第二章
16・お姫様抱っこは恥ずかしい
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多くの車と人が行き交う街を走り、やがて車はとあるビルの地下に潜り込んでいく。新宿三丁目にある高層ビルの駐車場。
スムーズに駐車させ、オーナーはエンジンを切った。
「すぐ近くに俺が経営するバーがある。そこで少し休もう」
「はい。あの……すみません。私ばかり喋ってしまって」
「別に気にするな」
オーナーはふと、こちらを振り向いた。じっと、私を見つめて──
「むしろ俺は、アスカの話が聞けてよかった」
……ん? あれ。
今、私を「アスカ」と呼びました……?
いつも「お前」とか「おい」とか、「鈴本」って呼んでいたのに。なぜ突然、下の名前?
私が困惑しているのも関係なしに、オーナーはさっさと車から降りてしまった。
なんだろう。この不思議な感覚は。
彼に名前で呼ばれただけで心があったかくなった。
「どうした。早く降りろよ」
「は、はい!」
オーナーに促され、慌ててドアに触れる。
そこでふと、思い出した。
そういえば、裸足で来ちゃったんだ……。
アパートを出たとき、靴を履く余裕なんてなかった。無我夢中で逃げ出して、車まで走ったんだっけ。
足裏がわずかに擦れている。
「あの、神楽オーナー」
「ん?」
「ごめんなさい。裸足で来てしまいました」
私が頭を下げると、オーナーはゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。
「大丈夫か?」
「え」
「怪我はしてないか」
「それは、大丈夫です」
彼の意外な声がけに、私は息を呑む。
「アパートに取りに戻るわけにはいかないし、こんな時間に店が開いてるわけでもないしな。参った」
オーナーは数秒悩む素ぶりを見せた後、急に私から背を向けてしゃがみ込んだ。
「来いよ」
「どうしたんですか?」
「背負ってやる」
……えっ。えぇえ? 背負う、ですって!?
なにを言い出すの。
「ボケッとするな。早く乗れ」
「……で、でも、私、このままでも歩けます!」
「裸足で? 汚えし危ねえよ」
「そ、そうですけど。さっきも裸足で走りました」
「ごちゃごちゃ言ってねえで、さっさと来い」
だけど、だけど! 恥ずかしいです、いくらなんでもこの歳でおんぶだなんて!
そう言おうとしたら、オーナーはこちらに体を向けた。サッと両手を伸ばし、私の腰を抱き寄せてくる。
と思ったら。突如として視界が浮き上がった。
……え? えっ? なに。なにこの状況!?
ちょっと待ってちょっと待って!
オーナーに横抱きされている。つまり、お姫様抱っこされている……!
「これでいいか」
よ、よくない! ぜんっぜんよくないんですけど!?
軽々しく私を持ち上げるオーナーは、表情を一切変えずにそのまま歩き出そうとする。
逞しい腕がしっかりと私の全身を支え、スーツを隔てて厚い胸板が頬に触れた。いつもとは違う角度で見上げる彼の顔は、なんだか今日は怖いと言うより……なんていうんだろ、ちょっと、かなり、だいぶ男らしくて色っぽい。
ああっ、待って! 見惚れてる場合じゃない。立派な筋肉を肌で感じている場合でもないの!
「オーナーすみません!」
「なんだ」
「やっぱ恥ずかしいです! 今からでもおんぶに変えてもらえませんか……?」
「は。最初から背負われてりゃよかったろ。わがままな女だな」
「すみません……」
私が泣きそうな声で平謝りすると、オーナーは小さく笑った。
……仕事中は絶対こんな風に笑わない人なのに。プライベートになると表情が柔らかくなるのはずるい。
オーナーは私を背負い、軽やかに歩き出す。
その背中は、やっぱり逞しくて。ほのかに香るセブンスターの匂いが私の鼻をくすぐる。
でも、外に出るとそれはそれは地獄で。チラチラと通行人に見られてしまい、恥ずかしい思いをするハメになった。
周囲の視線に耐えられず、私は彼の大きな背中に顔を埋めた。
このとき、またもや不思議な感覚に陥る。
心が、これ以上ないほど落ち着いたから。
スムーズに駐車させ、オーナーはエンジンを切った。
「すぐ近くに俺が経営するバーがある。そこで少し休もう」
「はい。あの……すみません。私ばかり喋ってしまって」
「別に気にするな」
オーナーはふと、こちらを振り向いた。じっと、私を見つめて──
「むしろ俺は、アスカの話が聞けてよかった」
……ん? あれ。
今、私を「アスカ」と呼びました……?
いつも「お前」とか「おい」とか、「鈴本」って呼んでいたのに。なぜ突然、下の名前?
私が困惑しているのも関係なしに、オーナーはさっさと車から降りてしまった。
なんだろう。この不思議な感覚は。
彼に名前で呼ばれただけで心があったかくなった。
「どうした。早く降りろよ」
「は、はい!」
オーナーに促され、慌ててドアに触れる。
そこでふと、思い出した。
そういえば、裸足で来ちゃったんだ……。
アパートを出たとき、靴を履く余裕なんてなかった。無我夢中で逃げ出して、車まで走ったんだっけ。
足裏がわずかに擦れている。
「あの、神楽オーナー」
「ん?」
「ごめんなさい。裸足で来てしまいました」
私が頭を下げると、オーナーはゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。
「大丈夫か?」
「え」
「怪我はしてないか」
「それは、大丈夫です」
彼の意外な声がけに、私は息を呑む。
「アパートに取りに戻るわけにはいかないし、こんな時間に店が開いてるわけでもないしな。参った」
オーナーは数秒悩む素ぶりを見せた後、急に私から背を向けてしゃがみ込んだ。
「来いよ」
「どうしたんですか?」
「背負ってやる」
……えっ。えぇえ? 背負う、ですって!?
なにを言い出すの。
「ボケッとするな。早く乗れ」
「……で、でも、私、このままでも歩けます!」
「裸足で? 汚えし危ねえよ」
「そ、そうですけど。さっきも裸足で走りました」
「ごちゃごちゃ言ってねえで、さっさと来い」
だけど、だけど! 恥ずかしいです、いくらなんでもこの歳でおんぶだなんて!
そう言おうとしたら、オーナーはこちらに体を向けた。サッと両手を伸ばし、私の腰を抱き寄せてくる。
と思ったら。突如として視界が浮き上がった。
……え? えっ? なに。なにこの状況!?
ちょっと待ってちょっと待って!
オーナーに横抱きされている。つまり、お姫様抱っこされている……!
「これでいいか」
よ、よくない! ぜんっぜんよくないんですけど!?
軽々しく私を持ち上げるオーナーは、表情を一切変えずにそのまま歩き出そうとする。
逞しい腕がしっかりと私の全身を支え、スーツを隔てて厚い胸板が頬に触れた。いつもとは違う角度で見上げる彼の顔は、なんだか今日は怖いと言うより……なんていうんだろ、ちょっと、かなり、だいぶ男らしくて色っぽい。
ああっ、待って! 見惚れてる場合じゃない。立派な筋肉を肌で感じている場合でもないの!
「オーナーすみません!」
「なんだ」
「やっぱ恥ずかしいです! 今からでもおんぶに変えてもらえませんか……?」
「は。最初から背負われてりゃよかったろ。わがままな女だな」
「すみません……」
私が泣きそうな声で平謝りすると、オーナーは小さく笑った。
……仕事中は絶対こんな風に笑わない人なのに。プライベートになると表情が柔らかくなるのはずるい。
オーナーは私を背負い、軽やかに歩き出す。
その背中は、やっぱり逞しくて。ほのかに香るセブンスターの匂いが私の鼻をくすぐる。
でも、外に出るとそれはそれは地獄で。チラチラと通行人に見られてしまい、恥ずかしい思いをするハメになった。
周囲の視線に耐えられず、私は彼の大きな背中に顔を埋めた。
このとき、またもや不思議な感覚に陥る。
心が、これ以上ないほど落ち着いたから。
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