私の愛した彼は、こわい人

朱村びすりん

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第三章

27・用心棒

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 ※ ※ ※

 神楽オーナーと一緒に暮らすことになってから一週間が過ぎた。
 以降、彼は私の仕事が終わる時間に合わせてサロンの近くまで迎えに来てくれるようになった。
 その約束は、今日も変わりなく。

 終業後、私は一人でサロンを出た。裏路地に入ったところで足を止める。トークアプリを開き、オーナーにメッセージを送った。

《お疲れ様です。仕事終わりました》

 同じような内容を私は毎日欠かさず送っている。
 これは彼との約束だから。『同居人』である私がすべきこと。

《いつもの駐車場で待ってる》

 返事はすぐに来て、彼からの返信内容ももはやテンプレ化している。
 裏路地を抜け出し、歩いて五分ほどの場所にあるコインパーキングに向かった。到着すると、アルファードの隣で煙草を吸う彼の姿が目に入った。だいぶ見慣れた光景。
 私は彼のそばへ駆け寄り、ペコリと頭を下げる。

「オーナー。本日もありがとうございます」

 私は自販機で買ってきた缶ジュースを差し出した。
 煙草の火を消して携帯灰皿にしまうと、彼は肩をすくめる。

「わざわざ飲み物を用意しなくていいと何度言えばわかる」

 呆れた顔をしつつも、缶ジュースを受け取ってくれた。

「でも、お手を煩わせてしまってますし」
「いちいち気にしなくていいんだよ。俺はアスカの用心棒・・・だからな」

 ……用心棒って言い方。
 同居をはじめたあの日、彼は私を守ると宣言してくれた。だけど「用心棒」はさすがに笑いそうになっちゃう。

「あの、神楽オーナー」
「ん?」
「ご自宅にお邪魔してから平和な日が続いて、私、すごく安心しているんです。本当に感謝しています」

 私の素直な気持ちを伝えると、彼の顔が綻ぶ。

「でも、オーナーもお忙しい身でしょうし。そろそろ送迎をしていただかなくても大丈夫です」
「……あっ?」

 たちまち、彼の声が暗くなった。不機嫌そうに眉間にしわを寄せて。

「やめねぇけど」

 力強く、拒否された。缶ジュースを握る手が、微かに震えている。

「まだ、不安だ。……あの野郎が、いつまたお前の前に現れるかわからないだろ」

 ……タクトのこと、だよね。

 私は一方的にタクトに別れを告げた。手紙を書いて、部屋に置いてきて。連絡先も全てブロックした。けれど、それだけでは不安だった。思い切って番号もメッセージアプリのIDも全部変えた。
 幸か不幸か私は友人が少ないわけで、新しい連絡先を連絡して回るのもそこまで苦労しなかった。
 完全に、タクトとは決別したつもり。
 オーナーがそばにいてくれるから。ユウキさんが後押ししてくれたから。それで決断できたんだ。

 もちろん、タクトが私に拒絶されて怒り狂っているのは想像に容易い。ベル・フルールに押しかけられたらどうしよう。そんな不安も少なからずあった。
 だが、大きな事件は未だ起こっていない。オーナーがサロンの警備を強化してくれたおかげで、万が一のことがあっても大事は避けられるはず。監視カメラだけじゃなく、不審者などがサロンへ侵入した場合に即警備員が駆けつけてくれるよう手配してくれたのだ。
 オーナーも時間を見つけてはサロンに顔を出してくれる。仕事中は相変わらず厳しくて、萎縮してしまうが。

 色んなことが起きすぎた。そのせいか、近頃疲れやすくなった気がする。たまに目まいもするし……。
 だけど平穏に流れる日常に、心はホッとしている。
 タクトの呪縛から、私は解放されたんだよ──?
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