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第七章
64,幻想の「自分」
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目の前がぼやけ、白くなっていく。
またか。こんな時に。
身体が、記憶を求めているのだ。「誠」の記憶を。
──幻想世界で、とある村が炎に包まれていた。あちこちで悲鳴が響き渡る。武装した兵に追われる村人たち。容赦なく兵に刃で突き刺された村人たちの身体は、真っ赤に染まって地面に倒れていく。痙攣しながら白目を向くその様は、吐き気を催すほど壮絶だった。
『一人残らず殺せ』
ある男が、冷酷な声で配下たちに指示を出している。その者の容姿が、リュウキの脳裏にはっきりと流れこんできた。
立派な白馬に跨がり、護衛に囲まれ、本陣で村が崩壊していくのを楽しそうに眺めるのだ。まるで高みの見物をするかのように。
リュウキはその姿を見て、酷く震えた。
(こいつは……)
前に幻想の中で見た男と同じだ。
髪の毛は黒く、整った顔立ち。リュウキと瓜二つの容姿。
(この男は、僕なのか……?)
自分と全く同じ面の男。人々が殺され、村が破壊されていくというのに、腹を抱えて笑い続けている。
──これは、現実なのか? なぜ鎧を着て戦場にいる? 自分は皇帝なのか、将軍なのか? 何なのか。分からない。どうして人が殺されているのを眺めて楽しそうにしている?
(僕は……僕は、誰なんだ?)
考えれば考えるほど頭痛がした。頭を抱え、その場に蹲る。その間にも悲鳴が響き渡り、人々の血が飛び散る。刃が肉に貫通するような音が絶え間なく聞こえてきた。
(嫌だ、やめてくれ。これは嘘だ、僕はただの幻想を見ている、やめてくれ……!)
呼吸が乱れる。幻想の世界を見るのが怖くなった。この場から一刻も早く立ち去りたい。
リュウキは、自らの意思で幻想から抜け出す術を知らなかった。いつも何かに操られるように幻想世界へ連れられ、ふとした時に現実へ戻される。
もう、心が壊れてしまいそうだ──
『リュウキよ』
気がつけば、幻想世界の「自分」が、こちらを見てニヤリと笑っていた。その怪しげな表情は、まるで別人のように見える。だが、声すらも自分のものと似すぎてしまっている。
否定しても、しきれない。
幻想の「自分」はゆっくりと馬から降りると、一歩二歩こちらに歩み寄ってくる。
なぜか周囲の騒音は鳴り止み、背景すらも消えていく。暗闇に包まれた無の空間で、リュウキはもう一人の「自分」と二人きりになってしまう。
いつまでもしゃがみこむリュウキの前に、幻想の「自分」が立ち止まる。目線を合わせたかと思えば、まるで哀れむような声で言うのだ。
『可哀想に。お前は、事実を受け止められずにいるんだな?』
冷たい眼差しで自分と同じ顔が見つめてくる。違和感ばかりがリュウキの中で膨れ上がるのだ。
『否定しようとしても無駄だ。現実を受け止めるのだ。お前は人々を恐怖に陥れる元凶だ』
──待て、何を言っている? やめてくれないか?
『お前は何の罪のない人々を大量に殺した。村を破壊した。兵を動かし、国までも恐れる殺人鬼だ』
──どうして、僕が……。人々を殺した? 村を破壊した? 兵を動かして? そんな覚えなどない。
『リ・リュウキ。お前は幻草の成分を浴び、炎の力を手に入れた。だがその力は人の息の根を簡単に止める程の威力があるのだ。人々はその力に怯えている。誰にもお前に逆らえない。国を制圧してしまうほどの巨大な力だ。気に食わないことがあれば、村の一つや二つ、簡単に破壊する。それがお前だ』
リュウキには受け入れられない言葉だった。幻想の「自分」は、終始冷たい口調である。
見た目は同じでも、雰囲気が全く違う。
拒否し続けた。幻想の世界で語られることなど、信じられるはずかないのだと。
──僕は……僕が、村を破壊するなんて! そんなことするわけがないだろう!?
バッと顔を上げ、幻想の「自分」を睨み付ける。憎たらしいほど、不適な笑みを向けていた。
『何だ? お前は自分のことが信じられぬと申すか』
違う! 僕は皇帝でもないし、将軍でもない!
そう叫びたかった。しかし、声が出せない。口も動かせない。悔しくて涙が溢れそうだった。
目の前の「自分」に顎を手で掴まれ、無理矢理顔を横に向けられる。視線の先には──正に崩壊されていく村。
建物には火が放たれ、老若男女問わず襲われた村人たちの死骸が転がり、辺りは血の海と化している。
目を背けたいのに出来ない。どうしても、出来ない!
『その目でよく見るのだ! なぜこの名もなき村は襲われている!? 人々はなぜ殺された!』
──知らない、僕は何も、知らない!
『とぼけるな! お前の権力に逆らえぬ者たちが、お前の指示で村を襲撃したのだ! 何の罪もない民を殺したのは、紛れもなくお前なのだ! 認めろ、リ・リュウキよ!』
──やめろ、やめろ、やめろ、やめろ……!!
またか。こんな時に。
身体が、記憶を求めているのだ。「誠」の記憶を。
──幻想世界で、とある村が炎に包まれていた。あちこちで悲鳴が響き渡る。武装した兵に追われる村人たち。容赦なく兵に刃で突き刺された村人たちの身体は、真っ赤に染まって地面に倒れていく。痙攣しながら白目を向くその様は、吐き気を催すほど壮絶だった。
『一人残らず殺せ』
ある男が、冷酷な声で配下たちに指示を出している。その者の容姿が、リュウキの脳裏にはっきりと流れこんできた。
立派な白馬に跨がり、護衛に囲まれ、本陣で村が崩壊していくのを楽しそうに眺めるのだ。まるで高みの見物をするかのように。
リュウキはその姿を見て、酷く震えた。
(こいつは……)
前に幻想の中で見た男と同じだ。
髪の毛は黒く、整った顔立ち。リュウキと瓜二つの容姿。
(この男は、僕なのか……?)
自分と全く同じ面の男。人々が殺され、村が破壊されていくというのに、腹を抱えて笑い続けている。
──これは、現実なのか? なぜ鎧を着て戦場にいる? 自分は皇帝なのか、将軍なのか? 何なのか。分からない。どうして人が殺されているのを眺めて楽しそうにしている?
(僕は……僕は、誰なんだ?)
考えれば考えるほど頭痛がした。頭を抱え、その場に蹲る。その間にも悲鳴が響き渡り、人々の血が飛び散る。刃が肉に貫通するような音が絶え間なく聞こえてきた。
(嫌だ、やめてくれ。これは嘘だ、僕はただの幻想を見ている、やめてくれ……!)
呼吸が乱れる。幻想の世界を見るのが怖くなった。この場から一刻も早く立ち去りたい。
リュウキは、自らの意思で幻想から抜け出す術を知らなかった。いつも何かに操られるように幻想世界へ連れられ、ふとした時に現実へ戻される。
もう、心が壊れてしまいそうだ──
『リュウキよ』
気がつけば、幻想世界の「自分」が、こちらを見てニヤリと笑っていた。その怪しげな表情は、まるで別人のように見える。だが、声すらも自分のものと似すぎてしまっている。
否定しても、しきれない。
幻想の「自分」はゆっくりと馬から降りると、一歩二歩こちらに歩み寄ってくる。
なぜか周囲の騒音は鳴り止み、背景すらも消えていく。暗闇に包まれた無の空間で、リュウキはもう一人の「自分」と二人きりになってしまう。
いつまでもしゃがみこむリュウキの前に、幻想の「自分」が立ち止まる。目線を合わせたかと思えば、まるで哀れむような声で言うのだ。
『可哀想に。お前は、事実を受け止められずにいるんだな?』
冷たい眼差しで自分と同じ顔が見つめてくる。違和感ばかりがリュウキの中で膨れ上がるのだ。
『否定しようとしても無駄だ。現実を受け止めるのだ。お前は人々を恐怖に陥れる元凶だ』
──待て、何を言っている? やめてくれないか?
『お前は何の罪のない人々を大量に殺した。村を破壊した。兵を動かし、国までも恐れる殺人鬼だ』
──どうして、僕が……。人々を殺した? 村を破壊した? 兵を動かして? そんな覚えなどない。
『リ・リュウキ。お前は幻草の成分を浴び、炎の力を手に入れた。だがその力は人の息の根を簡単に止める程の威力があるのだ。人々はその力に怯えている。誰にもお前に逆らえない。国を制圧してしまうほどの巨大な力だ。気に食わないことがあれば、村の一つや二つ、簡単に破壊する。それがお前だ』
リュウキには受け入れられない言葉だった。幻想の「自分」は、終始冷たい口調である。
見た目は同じでも、雰囲気が全く違う。
拒否し続けた。幻想の世界で語られることなど、信じられるはずかないのだと。
──僕は……僕が、村を破壊するなんて! そんなことするわけがないだろう!?
バッと顔を上げ、幻想の「自分」を睨み付ける。憎たらしいほど、不適な笑みを向けていた。
『何だ? お前は自分のことが信じられぬと申すか』
違う! 僕は皇帝でもないし、将軍でもない!
そう叫びたかった。しかし、声が出せない。口も動かせない。悔しくて涙が溢れそうだった。
目の前の「自分」に顎を手で掴まれ、無理矢理顔を横に向けられる。視線の先には──正に崩壊されていく村。
建物には火が放たれ、老若男女問わず襲われた村人たちの死骸が転がり、辺りは血の海と化している。
目を背けたいのに出来ない。どうしても、出来ない!
『その目でよく見るのだ! なぜこの名もなき村は襲われている!? 人々はなぜ殺された!』
──知らない、僕は何も、知らない!
『とぼけるな! お前の権力に逆らえぬ者たちが、お前の指示で村を襲撃したのだ! 何の罪もない民を殺したのは、紛れもなくお前なのだ! 認めろ、リ・リュウキよ!』
──やめろ、やめろ、やめろ、やめろ……!!
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