【完結】君と国境を越えて

朱村びすりん

文字の大きさ
40 / 53
第五章

想いを重ねて

しおりを挟む
 一人でも平気だという人は世の中にはいる。他人と関わるよりもよっぽど楽だという人が。
 けれど、彼女はそうじゃない。彼女の後ろ姿は、いつだって寂しいと叫んでいた。孤独と戦い続ける彼女は、闇の中から抜け出す方法を知らずもがいていたんだ。
 周りと違う部分があると、それだけで偏見を持たれることがある。差別を受けることがある。勘違いをされることがある。
 それは国籍や人種、見た目に限らない。性別や年齢、容姿、宗教など様々な場面で起こり得る話だ。
 俺もよく勘違いされるし、偏見を持たれる。
 解決策がなかなか見つからない難しい問題だ。
 彼女が経験した辛い出来事を考えると、どれだけ傷ついてきたか計り知れない。

 でもな──ひとつだけ言わせてほしい。なにひとつ彼女を、知らなかった俺だからこそ言えること。「高校二年生」の彼女の姿しか知らない俺だからこそ伝えたいことがあるんだ。

 彼女を抱きしめたまま、俺は耳元でそっと囁いた。

「俺の気持ちに、嘘はないよ」
「私の話を聞いたでしょ……?」
「ああ、聞いたよ」
「私と関わると、よくない。不幸になるわ。わからないの? 私は……」

 それ以上言わせないように、俺は更に抱きしめる力を強めた。
 どんな表情をしているか見えないが、彼女の耳が赤くなっている。
 もう、自分で自分を蔑まないでほしい。

「サエさんはなにか、勘違いしてないか?」
「……え?」
「生まれた場所のせいで、みんなに嫌われると思ってるのか?」
「……」

 彼女は言葉に詰まっているようだった。
 構わずに、俺は続ける。

「たしかに偏見を持つ奴とか、差別してくれる輩もいると思う。俺もそういう経験は死ぬほどしてきた。未だに周りの奴らのなんでもない言動に、敏感に反応して勝手に落ち込むことだってある。……でもさ、そんな俺の心の支えになってくれた人が現れたんだよ。玉木サエさんっていう、俺よりひとつ年上の人なんだけど」

 俺のひとことに、彼女の肩がぴくりと動いた。
 体は正直だ。本人には言えないが、可愛いなと密かに思う。

「出会って間もないのに、サエさんは言ってくれたよな。俺のことを『どこにでもいる普通の高校生』って。あれ、すごい嬉しかったんだ」
「それは……そうよ。特別なことなんて言ったつもりもない」
「いいや。俺にとっては超貴重な言葉だった」

 だから、言わせてもらうよ。俺の気持ちを、まっすぐに。

「俺にとっても、サエさんはどこにでもいる普通の女子高生だ。それどころか、魅力的な人と思ってる。いつもクールぶってるけど本当のサエさんは繊細で、寂しがり屋で、でも友だち想いで。他人にもさりげない優しさで手を差し伸べてくれる、素敵な女性だ」

 俺の想いは、止まらない。彼女にはいいところがたくさんあるから、自信を持ってほしいんだ。国籍だとか、出生地だとか、環境なんかで自分自身を決めないでほしい。

「イヴァンは……日本に来たばかりの頃の私を知らないからそんな風に言えるの」
「今のサエさんしか知らないからこそだよ。国籍関係なく、この国で生きるサエさんにも、いいところがいっぱいある。その魅力を知れば、他の奴らもどれだけサエさんが素敵な人かわかるはず。だから、あまり自分を下げたりしないで。人と関わりを持つのが怖くても、俺やリュウジさんみたいに、今のサエさんのいいところをちゃんと見てる人間もいる。それだけはわかってほしいんだ」
「……イヴァン」

 彼女は涙声になると、そっと俺の腕に手を伸ばした。
 細長い指先が俺の肌に触れると、なんともいえない安らぎを感じた。

「イヴァンは……私が『玉木サエ』じゃなくなっても、好きでいてくれるの?」
「当たり前だろ。キョウさん……だっけ? キョウさんがこれからどんな選択をしたとしても、俺の中ではこの先もずっとサエさんはサエさんのままだ」
「本当に……? 嫌いにならない……?」
「何回言わせる気だよ。そんなに信用ならないなら、態度で示すけど。いいのか?」

 俺の言葉に、彼女は無言になった。
 窓の外からは、変わらず雨音が鳴り響く。
 小さく頷くと、彼女はこちらに顔を向けた。頬は赤い薔薇のような色に染まり、とても美しい。おもむろに瞳を閉じると、じっと俺を待っていてくれた。

 ──これで、信じてくれるんだな。

 俺はゆっくりと、彼女の唇に自分の想いを重ねた。
 雨が降る昼下がり。俺と彼女は、初めて口づけを交わしたんだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

30日後に巨大隕石が衝突すると知らされた世界で、本当に大切なものを見つけた

てるぽに中将
SF
20××年、突然に世界中で同時に「30日後に恐竜を絶滅させた隕石よりも何倍も大きいものが衝突する予測」があり、「この隕石によって地球上のすべての人間が消滅する」との発表があった。 最初は誰もが半信半疑だった。映画の中の世界だと思った。だが、徐々に秩序を失い周りが変化していくうちに自らもその世界の変化に対応しなくてはいかなくなっていくのだった――。 読者の皆さんも「一番大切なもの」は何か? それもついでに考えていただければと思います。  ※小説家になろう にて「中将」の名前で同じ作品を投稿しています。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

処理中です...