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第一章:金色の神様
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それからどれくらい時間が過ぎただろうか。日は沈みかけ,マイケルたちはすでに帰っていったようだ。
今の季節は冬。パウダントシティ周辺は,この時期だと午後四時を過ぎれば,日は沈んでしまう。
「ん,んん……」
スウェンは,目を覚ました。
気付くとそこは,真っ暗な部屋の中だった。おもむろに立ち上がり,ぼーっとしながら部屋の電気を点けてみる。
数秒してから,ここがどこなのか分かった。
「……ぼくの部屋だ」
――どうしてここに? たしかさっき,家の外で,気を,失ったはず,だ……。スウェンは考え込む。
――ついに記憶がぶっ飛んだか? あれは夢だったか?
自分の頭に触れてみる。……傷はなくなっている。いや,しかし。たしかに,痛みならあった。
あれは夢などではない。いつものことだ。スウェンは苦笑した。
と,その時。
ガチャリと扉が開く音がした。心臓に悪い。
「スウェン!」
そこには母がいた。どたどたとこちらに近づき,力強くスウェンを抱き締めた。
「か,母さん。……どうしたの」
「どうしたの,じゃないでしょ! 仕事が終わって家に帰ってみれば,お前が外で倒れているんだもの。本当に驚いたよ……」
「あ……そっか」
――ここまで運んでくれたのは,母さんだったんだ。
スウェンは母をじっと見つめた。どことなく,悲しげな表情をしている。
「……また,やられちゃったんだね」
「……」
「服が汚れているよ。ほら,着替えないと」
そう言うと母は,スウェンの上着をゆっくりと脱がせた。スウェンの身体には傷など全くなく,きれいだった。
「母さん。I・Bについて,本当に何も知らないの?」
「ええ……。何だい急に」
母は一瞬,手を止めた。
「だって……おかしいじゃないか。どんな怪我も治っちゃうんだよ,ぼくは。悪いことじゃない。でもそんな奇妙な身体が自分自身のものだって思うと,とてもじゃないけど堪えられないよ。今日だって頭に傷を負ったはずなのに,治ってしまった……」
スウェンはうつむいた。今,彼には悩みがいくつもある。
I・Bのこと,イジメのこと,友だちができないこと……。そんなスウェンの悩みを理解してくれるのは,母だけだ。
「スウェン。I・Bのことは,いつかきっと原因が分かるよ。それよりもお前には,もっと辛いことがあるだろうに……。訪問者が来ても,絶対に扉を開けちゃ駄目だよ。いいね?」
「うん。……分かってる」
口だけだった。どんなに分かっていても,いつもマイケルたちにやられてしまう。
スウェンは気弱な奴だった。度が過ぎることをされても,マイケルたちには何も言えない。毎日毎日,心の中で泣き叫んでいるのだ。
――とても,つらかった。
だが夜はなるべく,イジメのことは忘れていたかった。
スウェンは寝巻きに着替えると,毎晩決まって本を読んでいた。
漫画や小説が大好きで,少ない小遣いで欲しい本を買っていた。
(……ぼくも,マックスのようになれたらいいのになぁ)
いつもスウェンはそう思っていた。
マックスとは,ある小説の主人公の名である。信頼できる仲間たちに囲まれた毎日を送り,恋人のためならどんな敵にでも立ち向かっていく逞しい戦士だ。マックスはスウェンにとって憧れの的だった。
しかし,スウェンは分かっていた。現実はそう甘いものでないと。空想の世界なら,いくらでも都合のいい話を作ることができる。
だがここは,漫画や小説の世界ではない。現実そのものである。自分は弱くて,友だちの一人もいない。
こんなに弱い奴が,マックスのようになることなどできない。
スウェンはそう思っている。
それでもスウェンは,本が好きだった。
これほど灰色の人生の中で,少しでも楽しみを与えてくれる。
小説の中でマックスの恋人のヒロインは,ある詩を歌っている。
スウェンは「君がいた場所」という詩が載っているページを開いた。
*.*.*.*.*.*.*.*.*.*.
なつかしい道を歩いた
誰もこの道を憶えていない
だけど僕は知っている
そこで君が歩いていたことを
.*.*.*.*.*.*.*.*.*.*
これは内容の一部に過ぎないが,スウェンはこの詩を気に入っていた。どうしてかはよく分からないが,何度も読んでいくうちに好きになったのだ。
スウェンは夜が更けても本を読み続けた。どうせ昼間になると,いつものようにマイケルたちがやって来るのだ。今が早く終わってしまわないように,毎晩できるだけ遅くまで起きている。
――「そうだ,明日新しい本を買いに行こう」
最近,あまり外出をしていないので,気分転換にもよいと思った。……奴らが来る前に家を出よう。
明日どんな素敵な本と出会えるのだろうか。そう考えると,スウェンはとてもわくわくした。
少し興奮気味に本を読んでいると,その日スウェンは午前三時に就寝した――。
それからどれくらい時間が過ぎただろうか。日は沈みかけ,マイケルたちはすでに帰っていったようだ。
今の季節は冬。パウダントシティ周辺は,この時期だと午後四時を過ぎれば,日は沈んでしまう。
「ん,んん……」
スウェンは,目を覚ました。
気付くとそこは,真っ暗な部屋の中だった。おもむろに立ち上がり,ぼーっとしながら部屋の電気を点けてみる。
数秒してから,ここがどこなのか分かった。
「……ぼくの部屋だ」
――どうしてここに? たしかさっき,家の外で,気を,失ったはず,だ……。スウェンは考え込む。
――ついに記憶がぶっ飛んだか? あれは夢だったか?
自分の頭に触れてみる。……傷はなくなっている。いや,しかし。たしかに,痛みならあった。
あれは夢などではない。いつものことだ。スウェンは苦笑した。
と,その時。
ガチャリと扉が開く音がした。心臓に悪い。
「スウェン!」
そこには母がいた。どたどたとこちらに近づき,力強くスウェンを抱き締めた。
「か,母さん。……どうしたの」
「どうしたの,じゃないでしょ! 仕事が終わって家に帰ってみれば,お前が外で倒れているんだもの。本当に驚いたよ……」
「あ……そっか」
――ここまで運んでくれたのは,母さんだったんだ。
スウェンは母をじっと見つめた。どことなく,悲しげな表情をしている。
「……また,やられちゃったんだね」
「……」
「服が汚れているよ。ほら,着替えないと」
そう言うと母は,スウェンの上着をゆっくりと脱がせた。スウェンの身体には傷など全くなく,きれいだった。
「母さん。I・Bについて,本当に何も知らないの?」
「ええ……。何だい急に」
母は一瞬,手を止めた。
「だって……おかしいじゃないか。どんな怪我も治っちゃうんだよ,ぼくは。悪いことじゃない。でもそんな奇妙な身体が自分自身のものだって思うと,とてもじゃないけど堪えられないよ。今日だって頭に傷を負ったはずなのに,治ってしまった……」
スウェンはうつむいた。今,彼には悩みがいくつもある。
I・Bのこと,イジメのこと,友だちができないこと……。そんなスウェンの悩みを理解してくれるのは,母だけだ。
「スウェン。I・Bのことは,いつかきっと原因が分かるよ。それよりもお前には,もっと辛いことがあるだろうに……。訪問者が来ても,絶対に扉を開けちゃ駄目だよ。いいね?」
「うん。……分かってる」
口だけだった。どんなに分かっていても,いつもマイケルたちにやられてしまう。
スウェンは気弱な奴だった。度が過ぎることをされても,マイケルたちには何も言えない。毎日毎日,心の中で泣き叫んでいるのだ。
――とても,つらかった。
だが夜はなるべく,イジメのことは忘れていたかった。
スウェンは寝巻きに着替えると,毎晩決まって本を読んでいた。
漫画や小説が大好きで,少ない小遣いで欲しい本を買っていた。
(……ぼくも,マックスのようになれたらいいのになぁ)
いつもスウェンはそう思っていた。
マックスとは,ある小説の主人公の名である。信頼できる仲間たちに囲まれた毎日を送り,恋人のためならどんな敵にでも立ち向かっていく逞しい戦士だ。マックスはスウェンにとって憧れの的だった。
しかし,スウェンは分かっていた。現実はそう甘いものでないと。空想の世界なら,いくらでも都合のいい話を作ることができる。
だがここは,漫画や小説の世界ではない。現実そのものである。自分は弱くて,友だちの一人もいない。
こんなに弱い奴が,マックスのようになることなどできない。
スウェンはそう思っている。
それでもスウェンは,本が好きだった。
これほど灰色の人生の中で,少しでも楽しみを与えてくれる。
小説の中でマックスの恋人のヒロインは,ある詩を歌っている。
スウェンは「君がいた場所」という詩が載っているページを開いた。
*.*.*.*.*.*.*.*.*.*.
なつかしい道を歩いた
誰もこの道を憶えていない
だけど僕は知っている
そこで君が歩いていたことを
.*.*.*.*.*.*.*.*.*.*
これは内容の一部に過ぎないが,スウェンはこの詩を気に入っていた。どうしてかはよく分からないが,何度も読んでいくうちに好きになったのだ。
スウェンは夜が更けても本を読み続けた。どうせ昼間になると,いつものようにマイケルたちがやって来るのだ。今が早く終わってしまわないように,毎晩できるだけ遅くまで起きている。
――「そうだ,明日新しい本を買いに行こう」
最近,あまり外出をしていないので,気分転換にもよいと思った。……奴らが来る前に家を出よう。
明日どんな素敵な本と出会えるのだろうか。そう考えると,スウェンはとてもわくわくした。
少し興奮気味に本を読んでいると,その日スウェンは午前三時に就寝した――。
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