【完結】Good Friends

朱村びすりん

文字の大きさ
3 / 56
第一章:金色の神様

しおりを挟む


 それからどれくらい時間が過ぎただろうか。日は沈みかけ,マイケルたちはすでに帰っていったようだ。
 今の季節は冬。パウダントシティ周辺は,この時期だと午後四時を過ぎれば,日は沈んでしまう。
「ん,んん……」
 スウェンは,目を覚ました。
 気付くとそこは,真っ暗な部屋の中だった。おもむろに立ち上がり,ぼーっとしながら部屋の電気を点けてみる。
 数秒してから,ここがどこなのか分かった。
「……ぼくの部屋だ」
――どうしてここに? たしかさっき,家の外で,気を,失ったはず,だ……。スウェンは考え込む。
――ついに記憶がぶっ飛んだか? あれは夢だったか?
 自分の頭に触れてみる。……傷はなくなっている。いや,しかし。たしかに,痛みならあった。
 あれは夢などではない。いつものことだ。スウェンは苦笑した。
 と,その時。
 ガチャリと扉が開く音がした。心臓に悪い。
「スウェン!」
 そこには母がいた。どたどたとこちらに近づき,力強くスウェンを抱き締めた。
「か,母さん。……どうしたの」
「どうしたの,じゃないでしょ! 仕事が終わって家に帰ってみれば,お前が外で倒れているんだもの。本当に驚いたよ……」
「あ……そっか」
――ここまで運んでくれたのは,母さんだったんだ。
 スウェンは母をじっと見つめた。どことなく,悲しげな表情をしている。
「……また,やられちゃったんだね」
「……」
「服が汚れているよ。ほら,着替えないと」
 そう言うと母は,スウェンの上着をゆっくりと脱がせた。スウェンの身体には傷など全くなく,きれいだった。
「母さん。I・Bについて,本当に何も知らないの?」
「ええ……。何だい急に」
 母は一瞬,手を止めた。
「だって……おかしいじゃないか。どんな怪我も治っちゃうんだよ,ぼくは。悪いことじゃない。でもそんな奇妙な身体が自分自身のものだって思うと,とてもじゃないけど堪えられないよ。今日だって頭に傷を負ったはずなのに,治ってしまった……」
 スウェンはうつむいた。今,彼には悩みがいくつもある。
 I・Bのこと,イジメのこと,友だちができないこと……。そんなスウェンの悩みを理解してくれるのは,母だけだ。
「スウェン。I・Bのことは,いつかきっと原因が分かるよ。それよりもお前には,もっと辛いことがあるだろうに……。訪問者が来ても,絶対に扉を開けちゃ駄目だよ。いいね?」
「うん。……分かってる」
 口だけだった。どんなに分かっていても,いつもマイケルたちにやられてしまう。
 スウェンは気弱な奴だった。度が過ぎることをされても,マイケルたちには何も言えない。毎日毎日,心の中で泣き叫んでいるのだ。
――とても,つらかった。
 だが夜はなるべく,イジメのことは忘れていたかった。
 スウェンは寝巻きに着替えると,毎晩決まって本を読んでいた。
 漫画や小説が大好きで,少ない小遣いで欲しい本を買っていた。
(……ぼくも,マックスのようになれたらいいのになぁ)
 いつもスウェンはそう思っていた。
 マックスとは,ある小説の主人公の名である。信頼できる仲間たちに囲まれた毎日を送り,恋人のためならどんな敵にでも立ち向かっていく逞しい戦士だ。マックスはスウェンにとって憧れの的だった。
 しかし,スウェンは分かっていた。現実はそう甘いものでないと。空想の世界なら,いくらでも都合のいい話を作ることができる。
 だがここは,漫画や小説の世界ではない。現実そのものである。自分は弱くて,友だちの一人もいない。
 こんなに弱い奴が,マックスのようになることなどできない。
スウェンはそう思っている。
 それでもスウェンは,本が好きだった。
 これほど灰色の人生の中で,少しでも楽しみを与えてくれる。
 小説の中でマックスの恋人のヒロインは,ある詩を歌っている。
 スウェンは「君がいた場所」という詩が載っているページを開いた。

*.*.*.*.*.*.*.*.*.*.

なつかしい道を歩いた
誰もこの道を憶えていない
だけど僕は知っている
そこで君が歩いていたことを

.*.*.*.*.*.*.*.*.*.*

 これは内容の一部に過ぎないが,スウェンはこの詩を気に入っていた。どうしてかはよく分からないが,何度も読んでいくうちに好きになったのだ。
 スウェンは夜が更けても本を読み続けた。どうせ昼間になると,いつものようにマイケルたちがやって来るのだ。今が早く終わってしまわないように,毎晩できるだけ遅くまで起きている。
――「そうだ,明日新しい本を買いに行こう」
 最近,あまり外出をしていないので,気分転換にもよいと思った。……奴らが来る前に家を出よう。
 明日どんな素敵な本と出会えるのだろうか。そう考えると,スウェンはとてもわくわくした。
 少し興奮気味に本を読んでいると,その日スウェンは午前三時に就寝した――。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...