【完結】Good Friends

朱村びすりん

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第一章:金色の神様

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 家に帰っても,スウェンはマイケルたちのことばかりを考えていた。やるせない気持ちでいっぱいだ。
 汚れた服を洗い,シャワーを浴びて,青のTシャツと黒いジーパンを着用する。
――用を済まして部屋に戻ると,そこにはベッドの上で横たわり,菓子を頬張りながらくつろぐジャックの姿。彼が食べているのが自分の物だと気付き,スウェンは「あっ」と思わず声を漏らした。
「俺のドーナツ……少しは遠慮したらどうなんだ」
「ちょっとくらい,いいじゃないか。テレビもねぇし,暇なんだよ」
「悪かったな」
 家に来ると,ジャックはいつもこんな調子だ。
 たしかにスウェンの部屋にテレビはない。
音楽プレイヤーもなければ,ファッション雑誌などもない。小説本ならいくらでもあるが,ジャックはそんな物に興味がない。
 スウェンの好物のドーナツを全て食すると,ジャックはぬくっと起き上がった。椅子に腰掛け,何やら突然真顔になった。
「お前に相談したいことがあるんだけど」
「相談?」
 一体どうしたというのか。
 スウェンは床に座って彼を見上げた。
「本当に急で悪いんだけど,お前の為になる話だ。……実は,I・Bについての謎が分かるかもしれないんだよ」
「何? 本当か?」
 スウェンはすぐに身を乗り出した。
「実はオレ,お前と会った日からずっとI・Bについて調べてたんだ」
「……ずっと? 八年間もか」
「――まぁな。当初はこれといった情報も得られなかったけど,最近になってやっと……貴重な手掛かりを入手したんだ」
 黙ってスウェンはその話を聞いた。
「……デザイヤ帝国っていう国があるだろ。
世界各地を荒らし,戦争を起こした最大の原因となる国だ。詳細はよく知らないけど,そこに『エドガー・シュタイナー』という男がいる。
……I・Bと何らかの関わりを持つ男だ」
 そう話しながら,ジャックは窓の外を見つめた。彼の横顔が,どことなく怯えている――スウェンはそんな気がした。
そしてそのまま,ジャックはとんでもない方向へ話を進めるのだった――。

「奴に会えば,I・Bのことが全部分かるかもしれない。
でもこれを解決するには,この町でいつまでもじっとしていたって何も始まらない」
「…………」
「――スウェン。旅に出よう」
 どう答えていいのか迷ってしまった。いくらなんでも唐突すぎる話だ。
「戸惑うよな、でも……時間がないんだ。
明日にでも旅立とう」
「明日っ?」
 スウェンはその言葉に大きく首を横に振った。母親のこともあるのだ。明日いきなり今の生活をなくしてしまうなど,納得できるわけがない。
「それは……無理だ」
「何でだ? 大丈夫だよ。今日のうちに支度をすれば,明日には――」
「そうじゃないだろ。
旅に出てしまったら,今の俺の生活はどうなる。母さんを一人にしておけないし……」
「心配症な奴だな。別に金がないわけでもないんだし,おばさんを一人にしても生活には困らないぜ。
そんなんじゃ,いつになっても自分の悩みを解決できないぞ」
「……そうじゃない。違うんだ」
 スウェンはうつむいた。たしかに今まで,I・Bのことで随分悩まされている。
自分だけ人と違う――

 戸惑い

 苦しみ

 恐怖

 様々な辛さを抱えてきた。それなのに,いざ旅立とうと言われると抵抗があった。ジャックがじっとスウェンを見ている。
――彼は八年も前からI・Bについて調べてきたんだと言った。
 もしもスウェンが旅を断ってしまえば,今までのジャックの苦労は全て水の泡になる。
 よく考えてから,スウェンは口を開いた。
「お前は俺のために,頑張ってたんだな。望みが叶うなら,その話に賛成したい」
「そうか! それなら……」
「ああ。――でも,明日いきなり出発というのには反対だ」
 しばらく日を改めてから旅立とう。それでいいと思った。
 スウェンの予想からして,ジャックも納得してくれるはずだった。
しかし――彼はその返事を聞くと,怪訝な表情を浮かべた。溜め息を吐いてから,またスウェンに同じ言葉を投げ掛ける。
「明日じゃないと,だめなんだ」
「……どうして?」
「……急ぎなんだよ! 勝手なこと言うようだが,とにかく日を置きたくないんだ! オレの都合が悪くなる!」
――意味が,分からない。
「お前は親友だろ? 親友なら,少しはオレのわがままを聞いてくれよ」
 その言い草に,スウェンは苦笑した。
――少しは,ねぇ。
 スウェンは幾度となくジャックのわがままを聞いてきた。
 ジャックという人間は,やんちゃでとにかく明るい性格なのだが,自分の意思を絶対に曲げない面がある。スウェンが彼の考えを否定しても,聞き入れようとしない。頑固者なのだ。
 だからといって,今日も彼の言うことを聞き入れるなんてとんでもない。
 スウェンは小声で言った。
「だったら……俺の言うこともたまには聞けよ,ジャック」
 するとジャックは,血相を変えた。
「オレはお前の手助けをしてやるんだぞ? 今日だけは――いや,これからもオレの言うことを聞いてもらう!
お願いだから。明日,旅に出よう」
 あまりにも図々しいお願いだと,スウェンは思った。今日のジャックは,いつもと違った。
「なぁジャック……」
「悪い,スウェン。お前の話を聞いてる時間はないんだ」
「何だ,自己中だな」
 ジャックの態度に少し腹が立った。
「……そうだよ,オレは自己中だ。スウェンもよく知ってんだろ」
「開き直るな!」
「とにかく――明日,朝の6時にパウダントシティ南部の森林前で待ち合わせだ」
「はあ? 勝手に話を進めるな。
――あ,おい。ジャック!」
 ジャックは言うだけ言って,ドアの方に背を向ける。荒々しくドアを開けると,無言で家の外に出ていってしまった。
 窓から顏を出し,スウェンは,
「ジャック待て。どうしてだ。どうして,俺の話を聞いてくれない? ふざけるのもいい加減にしろ!」
 必死に叫んだが,彼は何も答えないで走り去っていってしまった。
――これほど身勝手なジャックの行動,今までにあっただろうか。一体どういうつもりなのだろう。

 イライラしながらスウェンはベッドに横たわり,やがて浅い眠りに入っていった――。
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