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第三章:毒の煙
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三人が連れられた場所には,古びた一軒の小屋があった。
「ここがあたしの家だよ! ちょっと待ってね……」
と言うと,ユイコは一頭の馬にまた特殊な言葉を使って,何かを指示した。それに素直に従った馬は,小屋の裏からイスのようなものを口に加えながら持ってきた。
それは――,
「車椅子?」
エイダはまじまじ見るが,やはりそれは,シルバーに輝く車椅子そのものであった。
ユイコが乗る馬の前にそれは置かれ,また別の二頭が彼女の左右両端に付いた。彼女はその二頭の頭をしっかり掴み,ユイコが乗る馬は首を車椅子に向かって下げた。
「降りるわよー」
そう言うと,ユイコは馬の首を滑るようにして降りていく。ただし,足は一切使っていない。左右の馬たちが,頭でユイコを支えているだけだ。
見たところ本当に慣れたものであった。エイダは言葉をなくした。
すると,ジャックが手を叩いてから言った「ユイコ……もしかして君,下半身障害者か?」
すとんと車椅子に座るユイコは,変わらぬ笑顔で答えた。
「そうだよ!」
決して嬉しいことではないはずなのに,なぜ明るい声で言えるのかエイダには分からなかった。
「……生まれつきか。それとも,『毒の煙』の被害者なのか」
ユイコとは裏腹に,ジャックは至って真剣な眼差しである。
「うーん。正直に言うと,後者かなぁ……」
毒の煙,という単語にユイコが反応しているのが伺えた。彼女は表情を強張らせた。
「なんだよ? 煙がどうしたんだ?」
スウェンは疑問符を頭の上に浮かばせていた。
「そんなことも知らないの?」
悪気があったわけではないのだが,そのエイダの一言がスウェンにとって気に触るものだったようだ。
「なんだよ,お前! バカにしてんのか?」
「そ,そんなんじゃないわよ! いちいち怒らないでよ!」
スウェンが怒鳴るとエイダもつられてしまう。
「はいストップー」と言って,ジャックが間に入り二人の争いは終わる。三人とも,この流れに慣れたようである。
それをユイコがくすくすっと笑いながら見ていた。
「三人とも,息ぴったりだね!」
「そんなことないわ!」「そんなことはない!」
エイダとスウェンの声がハモった。これにはジャックが大爆笑だった。
エイダは恥ずかしくて仕方がなかった。
スウェンも顏を赤く染めていた。態とらしく咳払いをし,ユイコの方を見た。
「……で? 毒の煙って何なんだ」
話が戻されると,ユイコの顏から笑顔が消えた。少し落ち着いた口調で,彼女は言った。
「……賊が作り出した,煙のことだよ。人間の体に,ものすごい害があるの」
エイダはそれを聞いて,胸がどくんと唸った。
「それを吸ってしまった八割の人は,体に何かしらの悪影響を受けるの。声が出なくなったり,あたしみたいに下半身が動かなくなったり……。一番悪い病気にかかって,死んじゃう人もいるんだ」
ユイコは淡々と語っていた。
それを黙って三人は耳にいれる。
「一度,煙の害に遭った人の病気は,今のところ治療法がないの。賊のせいで,たくさんの人が苦しんでるんだ……」
彼女もその一人であった。
「下半身が動かないせいで……あたしは大事な人を失ったんだ……」
ユイコのその哀しそうな声を聞いて,エイダは心が痛くなった。
「ここがあたしの家だよ! ちょっと待ってね……」
と言うと,ユイコは一頭の馬にまた特殊な言葉を使って,何かを指示した。それに素直に従った馬は,小屋の裏からイスのようなものを口に加えながら持ってきた。
それは――,
「車椅子?」
エイダはまじまじ見るが,やはりそれは,シルバーに輝く車椅子そのものであった。
ユイコが乗る馬の前にそれは置かれ,また別の二頭が彼女の左右両端に付いた。彼女はその二頭の頭をしっかり掴み,ユイコが乗る馬は首を車椅子に向かって下げた。
「降りるわよー」
そう言うと,ユイコは馬の首を滑るようにして降りていく。ただし,足は一切使っていない。左右の馬たちが,頭でユイコを支えているだけだ。
見たところ本当に慣れたものであった。エイダは言葉をなくした。
すると,ジャックが手を叩いてから言った「ユイコ……もしかして君,下半身障害者か?」
すとんと車椅子に座るユイコは,変わらぬ笑顔で答えた。
「そうだよ!」
決して嬉しいことではないはずなのに,なぜ明るい声で言えるのかエイダには分からなかった。
「……生まれつきか。それとも,『毒の煙』の被害者なのか」
ユイコとは裏腹に,ジャックは至って真剣な眼差しである。
「うーん。正直に言うと,後者かなぁ……」
毒の煙,という単語にユイコが反応しているのが伺えた。彼女は表情を強張らせた。
「なんだよ? 煙がどうしたんだ?」
スウェンは疑問符を頭の上に浮かばせていた。
「そんなことも知らないの?」
悪気があったわけではないのだが,そのエイダの一言がスウェンにとって気に触るものだったようだ。
「なんだよ,お前! バカにしてんのか?」
「そ,そんなんじゃないわよ! いちいち怒らないでよ!」
スウェンが怒鳴るとエイダもつられてしまう。
「はいストップー」と言って,ジャックが間に入り二人の争いは終わる。三人とも,この流れに慣れたようである。
それをユイコがくすくすっと笑いながら見ていた。
「三人とも,息ぴったりだね!」
「そんなことないわ!」「そんなことはない!」
エイダとスウェンの声がハモった。これにはジャックが大爆笑だった。
エイダは恥ずかしくて仕方がなかった。
スウェンも顏を赤く染めていた。態とらしく咳払いをし,ユイコの方を見た。
「……で? 毒の煙って何なんだ」
話が戻されると,ユイコの顏から笑顔が消えた。少し落ち着いた口調で,彼女は言った。
「……賊が作り出した,煙のことだよ。人間の体に,ものすごい害があるの」
エイダはそれを聞いて,胸がどくんと唸った。
「それを吸ってしまった八割の人は,体に何かしらの悪影響を受けるの。声が出なくなったり,あたしみたいに下半身が動かなくなったり……。一番悪い病気にかかって,死んじゃう人もいるんだ」
ユイコは淡々と語っていた。
それを黙って三人は耳にいれる。
「一度,煙の害に遭った人の病気は,今のところ治療法がないの。賊のせいで,たくさんの人が苦しんでるんだ……」
彼女もその一人であった。
「下半身が動かないせいで……あたしは大事な人を失ったんだ……」
ユイコのその哀しそうな声を聞いて,エイダは心が痛くなった。
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