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第三章:毒の煙
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小鳥たちのさえずりが響き渡る,昼下がり。エイダは二人の男たちと,ひたすら地を歩いていた。
また森の中に足を踏み込んだわけだが,ここは動物たちの姿が多く見られ,明るく雰囲気の和む所であった。
「はぁ……」
疲労のために,エイダは思わずため息を吐く。旅が意外にも体力を消費するのに,少なからず驚いていた。
「おい,お前歩くのが遅いぞ」
スウェンが嫌みたらしく言ってきた。
「あなたが歩調合わせればいいでしょう? 気の遣えない人ね」
「何だと? これでも遅く歩いてやってるんだぞ!」
――どうも,この男とは相性が悪い。
ちょっとしたことで,すぐに言い争いになるのだから。
幸い,スウェンは女には手を上げないようなので,それは助かった。
常に先頭を歩いていたジャックが,呆れた顏をして二人の間に入った。
「……二人とも。会って間もないのに,よくそんなに喧嘩できるよな。大したもんだよ。けど,大人気ないから,もうやめてくれよな?」
まだスウェンには腹が立っていたが,ジャックに迷惑をかけるわけにはいかないので,エイダは口を閉じる。こちらを睨むスウェンも同じようにした。
しばし無言で歩いていると,突然スウェンとジャックが足を止めた。何事かと思い,エイダは
「どうしたの?」
そう聞くと,スウェンが「静かに」と言うように人差し指を鼻に付けた。
二人は何かに警戒するように,辺りを見回す。気配の感じられないエイダには,さっぱりだった。
「賊か……?」
スウェンが小声で呟いたその時。
どどどど……と,物凄い地響きが聞こえてきた。
驚いてる間もなく,木々の向こう側から,黒色の馬の大群がエイダたちの所に向かってきた。
「な,何だあれ!」
二十,三十――いや,四十頭はいるだろう。あまりにも多すぎる馬の数に,三人は圧倒された。
エイダたちの前に止まったかと思うと,その群れの中から大声で叫ぶ声がした。
「あなたたち,そこは危険よ! 逃げて!」
若い女性の,甲高い声であった。
何が危険なのかさっぱり分からず,エイダたちは立ち尽くしていた。
すると群れの中から,馬具を付けた馬に乗る一人の女性が姿を現した。髪は綺麗なブラックカラーでポニーテール。服装は水色の浴衣を着ていて,顏は西洋ではなく,明らかに和人系であった。
「君は……?」
ジャックが,唖然としながら聞いた。
「あたしは,和国出身のユイコ・ツカダ! よろしくね!」
ユイコという女は,満面の笑みで元気にそう言った。
ユイコはエイダたちの背後を指差し,また大声で言った。
「ていうか,そこ! その木の中に,何かいるみたい! もしかしたら賊かも……。三人とも,下がって!」
ユイコの隣にいた二頭の馬の頭を撫で,何か特殊な言葉を使っていた。
――馬語,か何かだろうか。ユイコに話しかけられた馬は,「ひひん」と小さい声で反応していた。
「おい,君!」
と,ジャックが困った顏をしてユイコに声をかける。
「賊だったら……すぐにオレたちを襲ってくるはずだ」
「そうだけど。でも,そこに何かの気配が!」
ジャックの言葉に聞耳を持たずに,ユイコはまるで犬を扱うように「GO」と言って馬に命令をしていた。
すると二頭の黒馬たちは,勢いよく走り始めた。
ものすごい迫力。エイダは一歩下がった。
気配がするらしい木の間に,二頭は勢いよく飛び込んでいった。
――しかし,
「……?」
何も,起こらなかった。
馬たちは諦めたように体をUターンさせ,大人しくユイコの前に立ち止まった。よく見ると,片方の黒馬が口に何かを加えていた。
「これは……?」
ユイコがその「何か」を手に持つ。
「これは……ナイフ?」
物珍しそうに,ユイコがじろじろとそのナイフを眺めた。
「どうしてそんな物が,森の中に?」
エイダは首を傾げた。
「あー怖い怖い! そんな物,元の場所に置いとけよ!」
ジャックが大声で言った。しかし,ユイコはそれを無視して,
「なんか,刃のところに,模様が刻まれてる……これは……エルフィン王国の国旗の模様かな?」
曖昧にそう言った。
エルフィン王国といえば,ジャックの生まれ故郷。
エイダは彼の方を見た。
「ジャックの武器?」
と聞いてみるが,ジャックは首を横に振る。
ユイコにそのナイフを見せてもらうが,刃こぼれがしていなく,長い期間この森に落ちていたとは考えられない状態だった。
「やっぱり誰かがここにいたんだね!」
「でも賊でないなら,危険ではないな」
ユイコの言葉に,スウェンが笑いながら言った。
苦笑しながらユイコは,武器を持ってきた馬にそれを元の場所に戻させた。そして何事もなかったかのように,三人に言った。
「あなたたち旅の人?」
「そうだ。ある人を探すために」
ジャックが優しく教えていた。すると横にいたスウェンが,急にエイダの方を向く。
「あの女は違うがな」
意地の悪い言い方をされ,エイダは不快に感じた。だが,否定はできない。エイダは黙って彼を睨んだ。
「――ま,この森は広いからね。次の町に行くつもりなら,今日中に着くのは無理だよ。あたしの家に泊まってく?」
ユイコはにっこりと微笑んだ。
一瞬三人は,どうしようかと顏を見合わせたが,ユイコという女が悪人ではないのは明らか。
お言葉に甘えさせてもらうことにした。
「た だ し! あなたたちに夕御飯ぜぇんぶ任せるから,よろしく!」
「……えっ?」
エイダたちは固まってしまった。
――それが狙いか……。
エイダは苦笑しつつ,頷いた。
「客人に飯作らせる気かよ……」
低い声で,スウェンは要らぬことを言った。
「え? なに? 嫌なら泊めませんけど?」
それには誰も逆らえず,結局,三人で夕飯を作ることになった。
「よーし。旅人さんたち! あたしたちに付いてきて!」
ユイコは嬉しそうに,大きな声を出した。彼女の合図と共に,黒馬の大群はゆっくり前進しはじめた。その後を,静かに三人はついていく。
彼女は一体何者なのか,なぜこんなにたくさんの馬たちを引き連れているのか本当に謎であった。
また森の中に足を踏み込んだわけだが,ここは動物たちの姿が多く見られ,明るく雰囲気の和む所であった。
「はぁ……」
疲労のために,エイダは思わずため息を吐く。旅が意外にも体力を消費するのに,少なからず驚いていた。
「おい,お前歩くのが遅いぞ」
スウェンが嫌みたらしく言ってきた。
「あなたが歩調合わせればいいでしょう? 気の遣えない人ね」
「何だと? これでも遅く歩いてやってるんだぞ!」
――どうも,この男とは相性が悪い。
ちょっとしたことで,すぐに言い争いになるのだから。
幸い,スウェンは女には手を上げないようなので,それは助かった。
常に先頭を歩いていたジャックが,呆れた顏をして二人の間に入った。
「……二人とも。会って間もないのに,よくそんなに喧嘩できるよな。大したもんだよ。けど,大人気ないから,もうやめてくれよな?」
まだスウェンには腹が立っていたが,ジャックに迷惑をかけるわけにはいかないので,エイダは口を閉じる。こちらを睨むスウェンも同じようにした。
しばし無言で歩いていると,突然スウェンとジャックが足を止めた。何事かと思い,エイダは
「どうしたの?」
そう聞くと,スウェンが「静かに」と言うように人差し指を鼻に付けた。
二人は何かに警戒するように,辺りを見回す。気配の感じられないエイダには,さっぱりだった。
「賊か……?」
スウェンが小声で呟いたその時。
どどどど……と,物凄い地響きが聞こえてきた。
驚いてる間もなく,木々の向こう側から,黒色の馬の大群がエイダたちの所に向かってきた。
「な,何だあれ!」
二十,三十――いや,四十頭はいるだろう。あまりにも多すぎる馬の数に,三人は圧倒された。
エイダたちの前に止まったかと思うと,その群れの中から大声で叫ぶ声がした。
「あなたたち,そこは危険よ! 逃げて!」
若い女性の,甲高い声であった。
何が危険なのかさっぱり分からず,エイダたちは立ち尽くしていた。
すると群れの中から,馬具を付けた馬に乗る一人の女性が姿を現した。髪は綺麗なブラックカラーでポニーテール。服装は水色の浴衣を着ていて,顏は西洋ではなく,明らかに和人系であった。
「君は……?」
ジャックが,唖然としながら聞いた。
「あたしは,和国出身のユイコ・ツカダ! よろしくね!」
ユイコという女は,満面の笑みで元気にそう言った。
ユイコはエイダたちの背後を指差し,また大声で言った。
「ていうか,そこ! その木の中に,何かいるみたい! もしかしたら賊かも……。三人とも,下がって!」
ユイコの隣にいた二頭の馬の頭を撫で,何か特殊な言葉を使っていた。
――馬語,か何かだろうか。ユイコに話しかけられた馬は,「ひひん」と小さい声で反応していた。
「おい,君!」
と,ジャックが困った顏をしてユイコに声をかける。
「賊だったら……すぐにオレたちを襲ってくるはずだ」
「そうだけど。でも,そこに何かの気配が!」
ジャックの言葉に聞耳を持たずに,ユイコはまるで犬を扱うように「GO」と言って馬に命令をしていた。
すると二頭の黒馬たちは,勢いよく走り始めた。
ものすごい迫力。エイダは一歩下がった。
気配がするらしい木の間に,二頭は勢いよく飛び込んでいった。
――しかし,
「……?」
何も,起こらなかった。
馬たちは諦めたように体をUターンさせ,大人しくユイコの前に立ち止まった。よく見ると,片方の黒馬が口に何かを加えていた。
「これは……?」
ユイコがその「何か」を手に持つ。
「これは……ナイフ?」
物珍しそうに,ユイコがじろじろとそのナイフを眺めた。
「どうしてそんな物が,森の中に?」
エイダは首を傾げた。
「あー怖い怖い! そんな物,元の場所に置いとけよ!」
ジャックが大声で言った。しかし,ユイコはそれを無視して,
「なんか,刃のところに,模様が刻まれてる……これは……エルフィン王国の国旗の模様かな?」
曖昧にそう言った。
エルフィン王国といえば,ジャックの生まれ故郷。
エイダは彼の方を見た。
「ジャックの武器?」
と聞いてみるが,ジャックは首を横に振る。
ユイコにそのナイフを見せてもらうが,刃こぼれがしていなく,長い期間この森に落ちていたとは考えられない状態だった。
「やっぱり誰かがここにいたんだね!」
「でも賊でないなら,危険ではないな」
ユイコの言葉に,スウェンが笑いながら言った。
苦笑しながらユイコは,武器を持ってきた馬にそれを元の場所に戻させた。そして何事もなかったかのように,三人に言った。
「あなたたち旅の人?」
「そうだ。ある人を探すために」
ジャックが優しく教えていた。すると横にいたスウェンが,急にエイダの方を向く。
「あの女は違うがな」
意地の悪い言い方をされ,エイダは不快に感じた。だが,否定はできない。エイダは黙って彼を睨んだ。
「――ま,この森は広いからね。次の町に行くつもりなら,今日中に着くのは無理だよ。あたしの家に泊まってく?」
ユイコはにっこりと微笑んだ。
一瞬三人は,どうしようかと顏を見合わせたが,ユイコという女が悪人ではないのは明らか。
お言葉に甘えさせてもらうことにした。
「た だ し! あなたたちに夕御飯ぜぇんぶ任せるから,よろしく!」
「……えっ?」
エイダたちは固まってしまった。
――それが狙いか……。
エイダは苦笑しつつ,頷いた。
「客人に飯作らせる気かよ……」
低い声で,スウェンは要らぬことを言った。
「え? なに? 嫌なら泊めませんけど?」
それには誰も逆らえず,結局,三人で夕飯を作ることになった。
「よーし。旅人さんたち! あたしたちに付いてきて!」
ユイコは嬉しそうに,大きな声を出した。彼女の合図と共に,黒馬の大群はゆっくり前進しはじめた。その後を,静かに三人はついていく。
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