【完結】Good Friends

朱村びすりん

文字の大きさ
17 / 56
第三章:毒の煙

しおりを挟む
 小鳥たちのさえずりが響き渡る,昼下がり。エイダは二人の男たちと,ひたすら地を歩いていた。
 また森の中に足を踏み込んだわけだが,ここは動物たちの姿が多く見られ,明るく雰囲気の和む所であった。
「はぁ……」
 疲労のために,エイダは思わずため息を吐く。旅が意外にも体力を消費するのに,少なからず驚いていた。
「おい,お前歩くのが遅いぞ」
 スウェンが嫌みたらしく言ってきた。
「あなたが歩調合わせればいいでしょう? 気の遣えない人ね」
「何だと? これでも遅く歩いてやってるんだぞ!」
――どうも,この男とは相性が悪い。
 ちょっとしたことで,すぐに言い争いになるのだから。
 幸い,スウェンは女には手を上げないようなので,それは助かった。
 常に先頭を歩いていたジャックが,呆れた顏をして二人の間に入った。
「……二人とも。会って間もないのに,よくそんなに喧嘩できるよな。大したもんだよ。けど,大人気ないから,もうやめてくれよな?」
 まだスウェンには腹が立っていたが,ジャックに迷惑をかけるわけにはいかないので,エイダは口を閉じる。こちらを睨むスウェンも同じようにした。
 しばし無言で歩いていると,突然スウェンとジャックが足を止めた。何事かと思い,エイダは
「どうしたの?」
 そう聞くと,スウェンが「静かに」と言うように人差し指を鼻に付けた。
 二人は何かに警戒するように,辺りを見回す。気配の感じられないエイダには,さっぱりだった。
「賊か……?」
 スウェンが小声で呟いたその時。
 どどどど……と,物凄い地響きが聞こえてきた。
 驚いてる間もなく,木々の向こう側から,黒色の馬の大群がエイダたちの所に向かってきた。
「な,何だあれ!」
二十,三十――いや,四十頭はいるだろう。あまりにも多すぎる馬の数に,三人は圧倒された。
 エイダたちの前に止まったかと思うと,その群れの中から大声で叫ぶ声がした。
「あなたたち,そこは危険よ! 逃げて!」
 若い女性の,甲高い声であった。
 何が危険なのかさっぱり分からず,エイダたちは立ち尽くしていた。
 すると群れの中から,馬具を付けた馬に乗る一人の女性が姿を現した。髪は綺麗なブラックカラーでポニーテール。服装は水色の浴衣を着ていて,顏は西洋ではなく,明らかに和人系であった。
「君は……?」
 ジャックが,唖然としながら聞いた。
「あたしは,和国出身のユイコ・ツカダ! よろしくね!」
 ユイコという女は,満面の笑みで元気にそう言った。
 ユイコはエイダたちの背後を指差し,また大声で言った。
「ていうか,そこ! その木の中に,何かいるみたい! もしかしたら賊かも……。三人とも,下がって!」
 ユイコの隣にいた二頭の馬の頭を撫で,何か特殊な言葉を使っていた。
――馬語,か何かだろうか。ユイコに話しかけられた馬は,「ひひん」と小さい声で反応していた。
「おい,君!」
 と,ジャックが困った顏をしてユイコに声をかける。
「賊だったら……すぐにオレたちを襲ってくるはずだ」
「そうだけど。でも,そこに何かの気配が!」
 ジャックの言葉に聞耳を持たずに,ユイコはまるで犬を扱うように「GO」と言って馬に命令をしていた。

すると二頭の黒馬たちは,勢いよく走り始めた。
 ものすごい迫力。エイダは一歩下がった。
 気配がするらしい木の間に,二頭は勢いよく飛び込んでいった。
――しかし,
「……?」
 何も,起こらなかった。
 馬たちは諦めたように体をUターンさせ,大人しくユイコの前に立ち止まった。よく見ると,片方の黒馬が口に何かを加えていた。
「これは……?」
 ユイコがその「何か」を手に持つ。
「これは……ナイフ?」
 物珍しそうに,ユイコがじろじろとそのナイフを眺めた。
「どうしてそんな物が,森の中に?」
 エイダは首を傾げた。
「あー怖い怖い! そんな物,元の場所に置いとけよ!」
 ジャックが大声で言った。しかし,ユイコはそれを無視して,
「なんか,刃のところに,模様が刻まれてる……これは……エルフィン王国の国旗の模様かな?」
 曖昧にそう言った。
 エルフィン王国といえば,ジャックの生まれ故郷。
 エイダは彼の方を見た。
「ジャックの武器?」
 と聞いてみるが,ジャックは首を横に振る。
 ユイコにそのナイフを見せてもらうが,刃こぼれがしていなく,長い期間この森に落ちていたとは考えられない状態だった。
「やっぱり誰かがここにいたんだね!」
「でも賊でないなら,危険ではないな」
 ユイコの言葉に,スウェンが笑いながら言った。
 苦笑しながらユイコは,武器を持ってきた馬にそれを元の場所に戻させた。そして何事もなかったかのように,三人に言った。
「あなたたち旅の人?」
「そうだ。ある人を探すために」
 ジャックが優しく教えていた。すると横にいたスウェンが,急にエイダの方を向く。
「あの女は違うがな」
 意地の悪い言い方をされ,エイダは不快に感じた。だが,否定はできない。エイダは黙って彼を睨んだ。
「――ま,この森は広いからね。次の町に行くつもりなら,今日中に着くのは無理だよ。あたしの家に泊まってく?」
 ユイコはにっこりと微笑んだ。
 一瞬三人は,どうしようかと顏を見合わせたが,ユイコという女が悪人ではないのは明らか。
お言葉に甘えさせてもらうことにした。
「た だ し! あなたたちに夕御飯ぜぇんぶ任せるから,よろしく!」
「……えっ?」
 エイダたちは固まってしまった。
――それが狙いか……。
 エイダは苦笑しつつ,頷いた。
「客人に飯作らせる気かよ……」
 低い声で,スウェンは要らぬことを言った。
「え? なに? 嫌なら泊めませんけど?」
 それには誰も逆らえず,結局,三人で夕飯を作ることになった。
「よーし。旅人さんたち! あたしたちに付いてきて!」
 ユイコは嬉しそうに,大きな声を出した。彼女の合図と共に,黒馬の大群はゆっくり前進しはじめた。その後を,静かに三人はついていく。
 彼女は一体何者なのか,なぜこんなにたくさんの馬たちを引き連れているのか本当に謎であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...