【完結】Good Friends

朱村びすりん

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第四章:八年間の友情

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 ……また,あの声だった。


自分に声援を送ってくれる,誰かの声。
(そう,俺は正しい。俺は正しいんだ!)
 鎌の刃を大きく上げ,それをルーカス目掛けて振りおろそうとしたその時――邪魔が入ってしまった
 スウェンは舌打ちをする。が,何の問題もないことに気づく。
「ぐっ」
 何と男が,ルーカスをかばってスウェンの攻撃を受けたのだ。胸元に鎌が思いきり刺さっている。ドロドロの赤い液体が,鎧の中から湧き出てきた。
――今まで首ばかりを狙ってきたが,胸を刺して血をじっくり眺めるのも悪くない。
 男を見てみると,無表情のままこちらを向いていた。
――死んだな
 スウェンはおもむろに,鎌の刃を引き抜いた。しかし,奴はずっと立っているままだった。
 スウェンは異変に気づく。
「……ククク」
 男は,不気味な笑みを浮かべた。
――なぜ。なぜ笑っていられる?
 血がボタボタと地面に落ちていく。
「……スウェン。おれは嬉しいよ。お前は,人を殺すことに快感を味わっているだろう。なんて――素晴らしいのだろう!」
 スウェンは下唇を噛み締めた。鎌を持つ手が震える。
「お前……どうしてぴんぴんしてるんだ」
「知りたいか」
 すると男は血だらけの鎧を脱ぎ捨て,自ら胸元をスウェンに見せた。
「……え?」
 それを目にして,スウェンは驚きを隠せなかった。
 奴の胸元には,たった今できたはずの傷がきれいになくなっていたのだ。
――なぜ
 ありえないことであった。
 しかしスウェンは冷静になって,この状況を把握しようとした。すぐに分かった。
まるで,こいつの身体は――
「驚いたか? ま,無理もないだろうな。おれの身体はそう,お前と同じだ」
「I・Bと同じだと……」
 たまらずスウェンは,一歩二歩後ろに下がった。全身が酷く震えはじめる。
「I・B,と呼んでいるのか。それもいいだろう。おれはお前のように,いくら傷を負ってもすぐに完治する」
「…………」
「お前はI・Bのことなど,何も知らないだろう? だがな,おれは知ってるんだよ。全てをな」
「……何だって?」
 男の顏を,スウェンはじっくり見た。
 動揺せずにはいられなかった。スウェンの頭の中には,一人の男の名が思い浮かんでいたからだ――。
「名を教えてやろう。おれの名は,エドガー・シュタイナー。
この名前に覚えがあるだろ?」
「エドガー……!?」
 スウェンは絶句した。
「おれ様はデザイヤ帝国を支配する帝王だ。町や城を襲ったのはな,エルフィン王国の奴らと紛争を巻き起こすためだ」
 スウェンはうつむいた。手の力が抜け,武器は下に落ちていった。
「……ということは,あんたたち! 戦争をする為にこんなことしてるの? どれだけの人が……どれだけの人たちが犠牲になってると思ってるのよ!?」
 スウェンの背後で,エイダが何かを叫んでいる。右耳から左耳へ,左耳から右耳へその声が通過していくだけで,言葉の意味が入ってこなかった。
(……こいつらが町や城を襲った理由なんてどうだっていい。
問題なのは,こいつがエドガー・シュタイナーだということだ)
 エドガーなら,I・Bのことを知っている。最終的な旅の目的は,目の前にあった。
 スウェンはエドガーに近づき,声を震わせた。
「教えてくれ……,あんた,I・Bのと全部知ってるんだよな。俺は何の病気になってるんだ? 一生このままなのか?俺は,死ねないのか?」
 エドガーの肩を揺さぶらせ,質問を連発した。だが,求めていた返事はこなかった。酷く冷たい目つきでこちらを直視している。
「……ふふふ」
 エドガーはまた笑う。
 突然に手の平を向けて,スウェンの顏をバシッと叩いてきた。痛みは全くないが,なぜか泣きたい気持ちになった。
「な,何しやがる!」
「おっと。悪い悪い。――なぁスウェン。そう焦るんじゃない」
「あ……?」
「残念ながらおれたちはもう行かなければならない。話ができるのはここまでだ。本当にI・Bのことを知りたいのなら,デザイヤ帝国まで来るといい……勇気があるならな」
 そう言うとエドガーは横を向き,歩き始めた。

――行ってしまう

 スウェンは慌てて道を塞ごうと走り出す。しかし,突如鉄のハンマーがスウェンの体を襲ってきた。勢いよくはね飛ばされる。
「スウェン大丈夫!?」
 エイダがこちらまで駆けてきて,スウェンの体を支えてくれた。
「……待ちやがれっ」
 立ち上がろうとするが,力がまるで入らない。
 子供の泣き叫ぶ声が耳に響いた。
「――待て,行くんじゃない! エドガー!」
 額に汗を流し,スウェンは声の限り叫んだ。しかしエドガーが立ち止まることはなかった。
 唾を吐き捨ててから,ルーカスとボビーは奴と共に立ち去っていった。
「……ちくしょう,ちくしょう!!」
 どうすることもできず,スウェンはわめいた。

それからの記憶は,ない――。
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