【完結】Good Friends

朱村びすりん

文字の大きさ
35 / 56
第四章:八年間の友情

12

しおりを挟む



――子供が危ない!

 エイダが叫んだ。まだ幼い少年に襲いかかろうとしていた賊の背後に回り,エイダはその背中を短剣で突き刺した。
「うぎゃぁ!」
 その間にエイダは少年の手を取り,賊から離れる。しかし,あの程度の攻撃でくたばる相手ではないだろう。
「俺が殺る」
 スウェンは鎌を持ち上げ,瞬時に刃で敵の首を斬り落とした。どばっと,血が飛び散る。この快感――たまらないものであった。
 スウェンは敵を目にすると,常に発病してしまうようだった。今も,「狩り」をすることに熱中し続けていた。
 この街は賊どもに襲撃されているようだが,町人の命すら今のスウェンにはどうでもよかった。
「スウェン,どうしよう! この子,お母さんとはぐれちゃったみたいなの……!」
「それがどうした。
それより俺は,次の獲物を捕えたい」
「……ちょっと何言ってんの!?」
 エイダを完全無視して駆け出そうとした時。付近の家から,ばかでかい爆音がした。見ると数件,勢いよく燃やされている。いちいちうるさいとスウェンは思う。
 怖くなったのだろう,子供は泣き出した。これもスウェンにとっては非常に耳障りであった。
「……スウェン! さっきから変よ。そんな人じゃないでしょう!? この子を守ってあげようとか思わないわけ?
戦いがそんなに楽しいの!?」
 そんなエイダの罵声とは裏腹に,スウェンは落ち着いた口調でいた。
「ああ,楽しいよ。正直,これほどまでに興奮できることは他にない」
 スウェンは手に付着した血を舐め,真ん前にいる賊に狙いを定めた。飛び掛ろうとした,その瞬間――
「危ないスウェン!」
 エイダの叫び声と共に,スウェンは誰かに強烈な力で殴打された。
「ぐっ!」
 痛みは全くなかったが,不意をつかれて不快であった。
 背後を振り返り,鎌で突きつけようとしたが,その腕は相手に掴まれてしまった。
「お前は……誰だっ!」
 目の前に立っていたのは,筋肉が立派な巨大な男。太い眉毛,艶やかな髭を生やした顏に,濃い目の化粧。目つきは悪く,着ている物もそこらのザコとは違い,なかなか見事な鎧と紫のマントを纏っていた。
 明らかにその男は,賊の首領かなにかだった。
 だが,男は武器らしきものは何も所持していない。スウェンは細やかな疑問を抱きつつ,自分の腕を掴んでくる手を払おうとした。しかし,男は一向に離そうとしない。スウェンはキッと,睨みつけた。
 そこに,どこからか二人の男がやって来た。
「……よぅ。お二人さん,久しぶりだな」
「もう一人の金髪は,どっか消えちまったかぁ?」
 片目がない白髪と,サングラスの禿頭。以前戦ったルーカスとボビーであった。
「お前ら……」
 スウェンの心臓が,どくんと鳴った。
 ルーカスはじろじろこちらを見るなり,スウェンを指差しながら言った。
「――こいつです! こいつが,オレらの邪魔をした男です!」
 すると,首領らしき男はニヤりと笑った。スウェンの腕を解放し,低い声で言った。
「……お前か。よくここまで成長したな,スウェン・ミラー」
「……お,お前。どうして俺の名を知ってる?」
 見ず知らずの男に名を呼ばれても,あまりいい気分にはなれなかった。
 男は不気味に笑う。
「ふははは……。おれ様はなぁ,お前のことなら何でも知ってるんだよ」
「何言ってるんだ? 俺は貴様のことなんて知らないぞ!」
 気分が悪い。スウェンはゴミは早めに処分した方がいいと考えた。
 大鎌を構え,三人一気に始末しようとした。
「オレたちと戦う気かぁ? いい度胸だ」
 ボビーがニヤニヤしながら言う。
「それはこっちの台詞だ。お前ら,あの時に死ねばよかったんだ。
でも安心しろよ。俺が今からぶっ殺してやるから」
「ふん。デカイ口叩くんじゃねぇ! そっちが負けたら,その女渡してもらうからな」
 と言ってルーカスとボビーは,エイダの方を見た。
 エイダは泣く子供を守るようにして抱きしめ,奴らを睨みつけている。なぜ賊たちが,エイダを狙っているのか。分からなかったが,今のスウェンにはそれすらどうでもよかった。
「……ご自由に」
 言葉を放った直後,スウェンは再び全身が燃えるように熱くなった。目の前が,真っ赤に染まる。
 周辺の家屋に,また爆弾が投げ込まれた。
ものすごく煩わしい音。そして逃げ回る町人たち,それを追いかける賊ども。
 ここは戦いにふさわしい最高の場所であった。
「はは……」
 声を低くして,スウェンは一人で笑った。刃先を的に向けて走り出す。


――『オ前ハ正シイ。人ヲ殺セ。血ヲ浴ビロ。オ前ハ正シイ』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...