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第四章:八年間の友情
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すっかり日も暮れ,エルフィン王国に夜が訪れた。空には静かに輝く星。雲に半分隠されている満月。どこかの木の中では,フクロウが独特な鳴き声を響かせていた。
ジャッシーは最上階の塔のテラスから,長い時間夜空を眺めていた。
若干,肌寒い。
「風邪を引きますよ,ジャッシー」
「母上……」
母上が,女王特有のスマイルと共に,ジャッシーに声をかけてきた。
「あなたの後ろ姿が,いつもと違って寂しそうですよ」
「そうですか……?」
ジャッシーは苦笑しながら,わざとそう言った。
「あなたはフロントン王家の唯一の後継者です。多くのことで困難があると思いますが,もっと強くなりなさい。心も,体も」
「……はい」
いつも優しい母上が,珍しく厳しいことを言っているのが分かった。
母上はそっと,ジャッシーの肩に手を置いた。
「あなたはやっとの思いで,授かった子です。私たちもそろそろ年――,あなたがティファニー姫と共に王位を継承するのは時間の問題なのですよ」
「……分かっています,母上」
ジャッシーは内心,母上の話にうんざりしていた。この人は,いつも同じような話をする。
決して,生意気なことはジャッシーには言えないが――。
「ご覧なさい」
と言って,母上はテラスから下を指差す。
そこを見てみると,花を眺める姫の姿が。近くには,二人のメイド。花が好きな姫は,しばしば庭園の花壇を見ながら心を休めている。
「なんと美しい女性でしょう。折角,クロックス連邦からいらした姫様です。そろそろ結婚を申し込んだらどうですか」
その話に,ジャッシーはしばらく黙りこんだ。
姫は自分にとって最愛の女性であるのは確かである。しかし,今は――結婚どころではない。
「お言葉でありますが,母上……」
とジャッシーが言いかけた,その時だ。
――突然,鼓膜が裂けるような,物凄い爆発音がした。
「……!?」
見ると,城下町の方には真っ赤に燃え盛る炎が。
事故か,と思ったのも束の間,城門の方からまたも爆発音がした。光が眩しすぎて,ジャッシーは目を細めた。
最悪な出来事の始まりの予感がして,背筋に寒気が走った。
「母上は,部屋の中で伏せていてください!」
ジャッシーが言うと,母上は怯えた顏で頷いた。
部屋にあった剣と弓矢を持ち,大声で兵たちに命令を下した。
「敵襲! 賊の敵襲!
兵は全員武器を持て! 城を守り通せ!!」
持ち場にいた兵たちがすぐさま,武器を持って動き始めた。
ジャッシーはテラスから,庭園を見下ろす。
破壊された城門から,次々と賊が侵入してくる。その先には,姫の姿――。
「姫が……!」
テラスから飛び降りようとしたが,この高さだと自分の命が危ない。
ジャッシーは弓を構え,そして百発百中で賊を倒していく。
しかしその数はあまりに多く,ジャッシー一人の力では侵入を防ぐことができなかった。
「くそ……護衛隊は何をしているんだ!!」
なかなか来ない隊員に,ジャッシーは苛々していた。
そうこうしている内に,ジャッシーの存在に気付いた賊の一人が,こちらを見上げて弓を構えてきた。その矢には,火が付いていた。
「……!!」
襲いかかってきた矢を,ジャッシーはすかさず避けた。だがそのわずかな時間の間に,賊たちがティファニーの腕を掴みとっていた。
「しまった……!」
その時に姫の護衛隊が庭園にやってきたが,賊たちが素早く煙幕を投げつけていた。
「ティファニー! ティファニー!!」
ジャッシーは叫ぶことしか出来なかった。
その叫びも虚しく,煙が消えたころ,既に賊とティファニーの姿はなくなっていた。
(何ということだ……)
自分の無力さに,ジャッシーは脱力して膝をついた。
「ジャッシー様!」
ブライアンが,焦った様子でやって来た。
「どうした……」
「賊が,街を襲っている模様です! このままでは街はやられてしまいます! いかがいたしましょう……!」
ジャッシーの頭の中は,真っ白になった。
しかし,ジャッシーの心に思い浮かんだことは街の危機ではなく,たった一人の命を奪われたくないという思いだった。
(ティファニー……お願いだ,殺されないでくれ……!)
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