38 / 56
第四章:八年間の友情
15
しおりを挟む――ジェニと別れ,二人は町に出た。
昨晩,命を絶った町人や賊の遺体がまだたくさん横たわっている。建物も,何建か崩れてしまっていた。
痛ましい光景。全て全てが直るまでに,時間が掛りそうである……。
スウェンが全力疾走していると,エイダは少し遅れ気味だった。苦しそうな表情をしていたのに気付く。
「ゴホッ……ゴホッ」
「おいエイダ? 咳,大丈夫か」
「ええ……平気。それより,ジャックが……」
スウェンは立ち止まり,エイダの肩を優しく支えた。
ふと,空を見上げると,何かが飛んできた。城の方から続々と。大きな航空機であった。先頭には,見覚えのある船。
――ロバウト号?
「まさか」
嫌な予感がした。
ジャックの――顔が頭によぎる。
急に,怖くなってしまい,足が凍りついた。
「ジャック……そこにいるのか」
スウェンは両手を大きく上げて,だんだん近付いてくる航空機に向かって叫んだ。
「俺だ,俺だよ。ジャック!」
どんなに大声を出しても,聞こえないのはスウェンは分かっていた。大鎌を取り出し,両手でそれを振りはじめた。
――“間に合わなかった”
そんな言葉を捨てて。
「エイダも,ここにいる。俺たちは,帰ってきたんだ。また三人で旅をしよう。ジャック! 気付いてくれよ……!」
虚しく,スウェンの声は航空機の音で掻き消されていった――。
と,この時,エイダが前に出てバッグの中から短剣を取り出しては,それを大きく空に向けた。
「ジャックー! ただいま! ただいまー! 私たち帰ってきたよー!」
スウェンに負けないくらい,エイダは叫んでいた。その彼女の姿に,とても感激する。スウェンが彼女を見つめながら固まっているとエイダはこちらを振り向き,笑顔で言う。
「ほらスウェン。ボーッとしてないで,ジャックを呼ばないと!」
「……ああ!」
町のど真ん中で,二人は彼を呼び続けた。
航空機はどんどんこちらに近付いてくる。
――あの航空機たちは,これから戦争に行くのだ。今までのスウェンには,戦争などとは全くの無縁であった。きっと,想像を絶するほど恐ろしいものだろう。
それでもスウェンは,たった一人の友に会いたかった。ただそれだけの想いを胸に,彼に自分の存在を伝えようとした。
しかし――,
「ジャック……?」
やはり,現実など甘いものではなかった。
叫び声をまるで無視し,航空機たちは彼らの頭上をあっという間に通りすぎていくのだ。静止すらしてはくれない。
航空機たちを見つめたまま,スウェンは鎌を下に向けた。
「置いていくのか……?」
――どうして。どうして行ってしまう!
スウェンは後ろを振り向いた。よろけながらも,すぐさま走り出す。
「スウェン!」
エイダも共に。
“永遠にさよなら”
感情に振り回された自分が思わず口にしてしまったそんな言葉が、現実になるなんて絶対に嫌だった。
二度とジャックに会えなくなるなど。
考えられない。考えられるはずもない。
誰よりも彼のことを想っているのに!
「待ってくれ」
彼らを追い掛けながら,スウェンは再び叫ぶ。
「待ってくれ……行かないでくれ。ジャック!!」
情けない声――。
溢れるそうになる涙をグッと堪え,スウェンは手足を激しく振った。見る見るうちに,距離は離されていく。
(待ってくれ、お願いだよ)
スウェンの心の叫びも虚しく
数十分もすれば,完全に彼らを見失ってしまった。
――いつの間にか,何もない広大な砂原にたどり着いていた。
強い風が乱暴に砂を掻き乱す。
――ジャックは,行ってしまった
「ハァ……ハァ。……スウェン」
息を切らせながら,エイダがスウェンの背中に手を置いた。二人はその場に倒れる。
絶望。
たったひとつのその言葉が,スウェンの心を苦しめるのだった。
――なぜ,こんなことに
これほど残酷な運命があるのだろうかと,スウェンは問いかけたくなった。
涙なんて,流したくない。しかし――ずっとずっと堪えてきた悲しみさえも,ここまでで限界なのだろうか。
手が壊れてしまいそうになるほど砂を握り締め,スウェンは後悔に溺れた。
(ジャックは八年間,俺に嘘をついてきた。あいつは,王子だった。I・Bの力を利用するために,あいつは俺に近付いた。俺はそれが許せなかった。だから俺はあいつを殴り,あいつから離れたんだ。でも……あいつは俺を大切な友だちだと言ってくれた。八年間,築き上げてきたこの関係は,こんな形で終わるはずがなかった。俺が悪い……俺が悪い! 俺があいつから離れたせいでこんなことになったんだ!)
スウェンは自分で自分に苦しみの刃物を胸に刺した。――しかしそんな時だ。
スウェンの背後に,突然誰かの気配が現れたのだ。
「――スウェン」
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる