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第五章:血の旅人
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――受け付けで部屋の番号を聞き,スウェンは4Fまで階段を登る。両手に,ドーナツがたくさん入った袋を抱えて。
国立病院406号室。
そこは,エイダがいる部屋だ。
深く深呼吸し,ドアをノックしようとした
その時――。
「おい,君。エイダの見舞いに来たのか」
声の方を振り返る。そこには,白衣を着用し,髪が藍色の短髪ストレートの男が立っていた。頬にうっすらと,大きな切傷があった。それがあるだけで,何となく柄が悪く見えるのは気のせいか。
「そうですけど。何か?」
若干,警戒しつつスウェンは男に答える。彼はスウェンをじっと見つめた。
「……君が,スウェンくんか」
スウェンは言葉をなくした。
――また知らない人に,自分の名が知られている
テレビか何かのせいかもしれないが,こういうのには未だ慣れないスウェンであった。
“貴方は誰だ”と目で訴えると,男は小さく笑ってから答えた。
「失敬。わたしの名はアルフレッド。エイダの担当医師だよ」
「エイダの……?」
アルフレッドという男,見た目からして二十代後半もしくは三十代前半に思える。こんなに若い医師にエイダが診られているなど,少し不安であった。
彼はポケットに手を入れて話した。
「君のことはテレビでも見たことがあるが――,彼女からも話はよく聞いているよ。想像していたよりも,大分違う印象だ」
スウェンは何と答えようか迷った。どことなく,アルフレッドが皮肉を言っているような気がしたのだ。
「ひとつ聞いてもいいか?」
アルフレッドはスウェンに近づき,こちらを見下ろした。なかなか背が高い。
「見舞いに来ただけ,というのに間違えないかな?」
「当然だろ。他に何があると思う?」
「いやあ……少し心配でね」
作ったような笑顔で,アルフレッドは目をそらさずに続ける。
「まさかとは思うが,君がエイダを連れて行きそうな気がして」
「あっ?」
「ニュースで見たが,君たちがこの国に滞在できるのは,明日の夜までなんだろう? ……残念な話だが,それまでには彼女を退院させることはできない」
そう言ってから,アルフレッドは初めてこちらに向けていた目を離した。
スウェンは,愕然とした。 また不幸が襲ってきた。そう思いながら,スウェンは声を震わせた。
「どうして……明日じゃ間に合わないのか」
「明日――というより,……いや,わたしの口からでは言えんな」
そう言う彼に,スウェンは苛立ちを覚えた。
「なんだよッ? 何が言えないんだよ!?」
感情的になり,スウェンは静かな病院で怒鳴りちらした。
完全に無表情になったアルフレッドは冷静だった。
「……どんな医者でも,治療困難な病気は幾つもある。特にこの時代だとな……」
その言葉が,スウェンにとってものすごく耳障りなものであった。
――医者なんて,こんなものか
スウェンはうつむいた。 彼の話を無視し,そのまま部屋に入ろうとした直前――。
「君は彼女と少しの間旅をしてきたらしいが――エイダは,普通の一人の女性だ。しかし君は……これからも,賊と戦っていく血の旅人だ」
言葉をひとつずつ,アルフレッドは強調していた。スウェンは耳だけを,彼に傾ける。
「もう,これで彼女との旅は終わりにしなさい。あとはわたしに任せて,君は彼女の回復を祈っていることが一番いいんだ」
全て肯定したくないことであったが,アルフレッドの話は正しかった。スウェンは一度だけ彼の顏を見てから,そのまま何も言わずに部屋の扉を開けた。
――エイダが倒れたのは事実。しかし,それからスウェンはまだエイダに会っていないのだ。もしかすると,ただの軽症かもしれない。
スウェンは,なるべくネガティブな考えをしたくなかった。
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