【完結】Good Friends

朱村びすりん

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第六章:終ワラナイ遊ビ

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 目の前にいる人間があまりにも非人間で――スウェンは耳が痛くなった心拍数がどんどん上がって行くのを感じていた。
「おれ様が帝国を乗っとるのにそう時間はかからなかった。ドラッグを飲用した約十年後に,I・Bの力は手に入る。力を手に入れたとき,おれ様は前帝王を殺害し,その地位を奪った。I・Bの力さえあれば,誰もおれに逆らえる者はいなかった」
「帝王になったのも,殺しの世界を作るためか」
 ジャックが物凄い形相で静かに問う。ニヤニヤしながらエドガーは頷いた。
「……そうかそうか。だから貴様のせいで,近年我が国とデザイヤ帝国の対立がより深まったわけだ」
 ジャックは,エドガーのことを睨み続けている。そんな彼を無視し,帝王は急にベルトコンベヤーに乗っていた袋をひとつ掴んだ。
 その中から出てきたのは,ビー玉と同じくらいの大きさの粒であった。
「これはおれ様が,賊のために開発した薬物だ」
 鼻を高くしながらエドガーは言う。
(お前は科学者か)
 スウェンは密かに思う。
 態とらしくエドガーは薬物を見せつけた。
「何となく予想はついてると思うが,奴らはこれを服用して狂人と化したんだよ。くくく……この中には人間の脳を操る微生物が入っている。これを飲んだら最後,服用者は一生,脳を操られることになるのだ」
 面白そうに奴は話すが,なんて恐ろしい物を作り出すのだろう……。ややこしい話だが,スウェンは何とか頭で追いついていこうと努力する。
 想像以上に,エドガーの企みは大変に悪徳な内容だからだ……。
 と,最初は冷静だったジャックは,もう限界になったらしく怒鳴りちらした。
「なぜだ! なぜ賊などを!! お前は何を考えてあんな狂人を生み出したんだ!!」
 叫ぶ彼の顔は炎のように真っ赤だった。
「興奮するな,ジャッシー王子。殺し合いの世界を生み出すためにはな,この世の全てを支配する必要がある! おれ様が世の中心となり,誰にも逆らえないようにな! それにはエルフィン王国を初めとする他国は,とても邪魔な存在だった。だから世界中を賊どもに襲わせ,そして『毒の煙』を至るところに撒き散らし,気絶した者を徹底的に拉致したんだよ!」
 それを聞き,スウェンの胸はむかむかした。毒の煙の被害者たち――ユイコやその家族,そして愛する彼女の顔が頭に浮かんだ。
 そんな中,エドガーはまだまだ続けていた。
「拉致した奴らには,薬物を飲ませた! そしてそいつらは数時間しないうちに,世界を襲撃する狂人……賊になるんだよ!! わははははははは! どうだ,傑作だろう!? たった10年の間に,賊は500万人を越えた。おれ様が世界を支配するのも時間の問題だよ!!」
 腹を抱えて,一人で大笑いする悪党――。
 許せなかった。そんな下らない理由で各地を荒らし,世界中の人たちを苦しめている……。
(エイダたちはこんな奴のせいで,辛い人生を……。ジャックだって,こんな時代に生まれたから王子として苦しい思いをしている……。世界には,一生苦しみ続けなければならない人たちで溢れているんだ……。こんな,最低最悪の,奴のせいで……!)
 そう考えれば考えるほど,スウェンは悔しくなった。目の前に立っている『悪魔』が,許せなかったのだ。
「ふざけるな! ふざけるなエドガー!! お前がやっていることは,誰も望んでいないことだ!!」
 スウェンが喉が壊れそうになるほど,大声を投げ付ける。
 ……そうすると,『悪魔』はこんなふざけたことを言うのだった。
「どうした息子よ。お前もおれ様と同じI・Bの力の持ち主。仲間,だろう?」
「……!? 何言ってやがる!」
 持っていた袋を床に落とし,エドガーはゆっくりと近寄ってきた。
「お前も殺人に快楽,を感じられる仲間だ。言い忘れていたが――ドラッグを飲用した約二十年後,賊を見ると殺意を抱くようになる……。これは脳の影響によるものだ。お前は既に,その効果が出ている。おれももうすぐで,最高に快楽を味わえるようになるのだよ! この効果は死ぬまで続く! 治す方法などないぞ,スウェン!!」
 悪魔はスウェンの前で立ち止まり,突然上半身の鎧を脱ぎ始めた。
「これからも賊を増やし続け,毒の煙を撒きながら人間たちを拉致し,そしてまた賊を生み出す……。
おれが世界を支配すれば,あとは好きなとき好きなように賊を殺し血を浴びる。どうだ,素晴らしい考えだろう!? わはははははわははははわはははははは!! 考えるだけでも楽しい! あはははははは!! スウェンも一緒に世界中を血まみれにして,一生楽しむんだ!!」
 スウェンはこの上ない怒りに満ちていた。怒りで全身が熱くなるばかり――。
(狂ってやがる……狂ってやがる!)
 スウェンは歯を食い縛り,目の前の悪魔を消し去ろうと思った。こんな人間は,存在してはいけない――本気でそう考えられたからだ。
 その時。後ろにいたジャックが,剣を持ってものすごい絶叫をした。
「お前が許せない!! 死んでくれ!」
 その叫び声と共に,ジャックは走り出した。金色に光る剣は,悪魔の頭上を狙う。……しかし,その攻撃を受ける前に,悪魔の大きな拳がジャックの腹を襲った。
「ぐあ……!」
 ジャックは床の上へと倒れた。
「大丈夫か,ジャック!」
 もがく彼の元に駆け寄り,スウェンは体を支えてやった。
 この直後,部屋の扉の向こうからは縦にも横にも長い大男が現れた。身長は軽く,二メートルを超えているだろう。顏や腕にはたくさんの切傷があり,殺し合いをしたくない相手を選べと言われたら真っ先にこういうタイプに指をさす。
 のそのそと,大男は部屋の中へと入ってくる。
「……ん?」
 スウェンは気づいた。その男の太い腕の中には,誘拐された姫――ティファニーが包まれているのを。彼女は気を失っているようだ。
「……ティファニー!!」
 ジャックは叫び,大男を睨みつけた。それに負けず,相手もものすごい形相でジャックを見た。
 大男は,部屋の端の方に設置されている長机の上に,ティファニーを寝かせた。
 それを見た瞬間,ジャックは彼女の所まで駆け付けようとする――が。
「潰せ」
 エドガーがそう命令すると,大男は素手でジャックに殴りかかろうとした。すかさず彼はその攻撃をかわす。だがこの時,何かが折れるような鈍い音がした……。
「……!! な,なんてことだ」
 大男の拳は,床にぶつけられた。しかしよく見てみると,手の下にはジャックが“ジャック”だった時に使っていた大きな弓があった。今の衝撃のせいで,弓は完全に壊れてしまったのだ。
「貴様,よくも。よくも親友との思い出の弓を!!」
 そんなジャックの怒りの言葉を無視し,大男はまたもや両腕を上げる。
 怯む様子も見せず,ジャックは剣を構えた。
――あんなのに立ち向かっていくのか!
「ジャック!」
 彼に加勢しようとスウェンは歩き出すが,行く手をエドガーに拒まれる。
「……どけ! エドガー!」
 スウェンは高まる感情を無理に抑えようとする。先ほどから,狂人になるときの感覚がまた湧いてきている気がした――。
 スウェンは地面を蹴りつける。
「まあ,お友だちを助ける前に,I・B同士,遊んでみようじゃないか」
「あっ?」
 エドガーは両手を大きく広げた。
「さあ息子よ! 父さんが遊んでやる。思いっきり父さんのことを斬ってみろ。その鎌で,この体に傷をつけてみろ!」
「……」
 それを聞いたとき,スウェンの全身は炎のように熱くなった。
 感情をおさえようとするのは,無駄なことであった……

“殺すぞ……殺すぞ……”
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