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最終章:君がいてくれた時間
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――同年,七月。
戦いはわずか二ヶ月足らずで終結した。その間に,多くの犠牲者が出てしまった。
帝王の死亡後,賊長の指揮によって戦闘は続けられていたが,同盟国の臨時応援もあり,エルフィン軍は何とか勝利を収めることができた。賊長の死亡後,賊たちはみな降伏したのである。
――世界を荒らした賊。
彼等は“薬物”の服用によって,狂人と化した。しかしその治療法はないため,皮肉にも賊兵は全員エルフィン王国によって処刑されたのだった……。
※
エルフィン城では,戦争によって命を落とした兵士たちの葬儀が行われていた。
死者は六十万人以上に及んでいた。そのほとんどが地上戦で武器を振っていた者たちである。
その中には,地上軍指揮官のブライアンの名も含まれていた。
「ブライアン……まだ三十を過ぎたばかりなのに。……とても,残念だ」
ジャックは式の席で,そのようなことを言っていた。涙を流し,愛する部下を失ってしまったことを悲しみ続けていた。しかし,それはブライアンだけに向けられているのではないのだとスウェンは分かっていた。
戦争で亡くなった他の者たち全てを想い,ジャックは泣いているのだ……。
隣で,スウェンはそっとジャックの肩を抱いた。
この時,スウェンは人がいる前で,初めて涙を流した。彼も戦争で,愛する人を失ったからだ――。
*
それから数ヶ月後。戦後の悲しみは消えないまま,めでたいニュースが報道された。
ジャック――ジャッシー王子とティファニー姫の結婚が決まったのである。姫のお腹の中には,既に新しい生命が宿っているという。
この知らせには,国中の誰もが大喜びだ。もちろん,親友のスウェンも。
「ジャック。結婚おめでとう。
俺のことなんか忘れて,幸せになれよ!」
スウェンは最後の一時を,思い出の詰まったあの丘の上でジャックと共に過ごした。
「誰も知らない場所」からの眺めは,やはり世界一美しく見えた。
「おいおいスウェン! お前のことなんて忘れるわけないだろ!
でも,ありがとな」
ジャックはニコニコしていた。
そんな彼を暖かい眼差しで見ながら,スウェンは大鎌を地面に置いた。
「なあ,スウェン」
「ん?」
「本当に,行っちまうのか? マイケルがずっと気にしてたぞ……あのことを」
「……ああ」
涼しい風が,二人の肌を撫でてきた。
――心が落ち着く。
「……こうなったのは誰のせいでもない。彼女は重い病気持ちだったからな」
スウェンの足元には《Ada Wilhoit》と書かれた墓がある。
――そう。
彼女も戦争によってその命を絶った。だがそれは,決して誰のせいでもない。戦争によって起こった,避ける事の出来ない現実そのものなのだから……。
「――ジャック。旅の途中で,俺たちが離ればなれになった時があったろう。その時,エイダは俺に何て言ったと思う?」
「何て言ったんだ」
「『これであなたたちの仲が直らなかったら,二人の友情は本物ではなかったのね』……てな」
「ははは」
二人は笑い合った。眠るエイダのことを見ながら――。
「今も俺たちはこうして笑っている。彼女は,俺に大切なことを教えてくれたんだ」
こう言ってから,スウェンは彼女の墓に一輪の花を置いた。
――「スウェン。一人旅は大変だろ? もう少し,城で休んでいてもいいんだぞ」
「いや,俺は行く。まだ,旅は終わっていないような気がするんだ。本当の自分自身を,これから見つけていきたい」
そうか,と親友は優しく彼に向かって頷いた。
「……まあ,今度は,気楽な旅にするよ。誰の血も浴びることのない旅にな!」
――スウェンは別れ際に,彼女にこんなことを言った。
「君と出会わなければ,今の俺はここにはいなかった。ありがとう。君がいてくれた時間は,決して忘れない」
スウェンはたっぷりと深呼吸をしてから,町を目指した。どこにあるかも,名前すら知らない町へ。
(なつかしい道を歩いた。
誰もこの道を覚えていない。
だけど僕は知っている。
そこで君が歩いていたことを……)
スウェンは強い男になっていた。
戦いはわずか二ヶ月足らずで終結した。その間に,多くの犠牲者が出てしまった。
帝王の死亡後,賊長の指揮によって戦闘は続けられていたが,同盟国の臨時応援もあり,エルフィン軍は何とか勝利を収めることができた。賊長の死亡後,賊たちはみな降伏したのである。
――世界を荒らした賊。
彼等は“薬物”の服用によって,狂人と化した。しかしその治療法はないため,皮肉にも賊兵は全員エルフィン王国によって処刑されたのだった……。
※
エルフィン城では,戦争によって命を落とした兵士たちの葬儀が行われていた。
死者は六十万人以上に及んでいた。そのほとんどが地上戦で武器を振っていた者たちである。
その中には,地上軍指揮官のブライアンの名も含まれていた。
「ブライアン……まだ三十を過ぎたばかりなのに。……とても,残念だ」
ジャックは式の席で,そのようなことを言っていた。涙を流し,愛する部下を失ってしまったことを悲しみ続けていた。しかし,それはブライアンだけに向けられているのではないのだとスウェンは分かっていた。
戦争で亡くなった他の者たち全てを想い,ジャックは泣いているのだ……。
隣で,スウェンはそっとジャックの肩を抱いた。
この時,スウェンは人がいる前で,初めて涙を流した。彼も戦争で,愛する人を失ったからだ――。
*
それから数ヶ月後。戦後の悲しみは消えないまま,めでたいニュースが報道された。
ジャック――ジャッシー王子とティファニー姫の結婚が決まったのである。姫のお腹の中には,既に新しい生命が宿っているという。
この知らせには,国中の誰もが大喜びだ。もちろん,親友のスウェンも。
「ジャック。結婚おめでとう。
俺のことなんか忘れて,幸せになれよ!」
スウェンは最後の一時を,思い出の詰まったあの丘の上でジャックと共に過ごした。
「誰も知らない場所」からの眺めは,やはり世界一美しく見えた。
「おいおいスウェン! お前のことなんて忘れるわけないだろ!
でも,ありがとな」
ジャックはニコニコしていた。
そんな彼を暖かい眼差しで見ながら,スウェンは大鎌を地面に置いた。
「なあ,スウェン」
「ん?」
「本当に,行っちまうのか? マイケルがずっと気にしてたぞ……あのことを」
「……ああ」
涼しい風が,二人の肌を撫でてきた。
――心が落ち着く。
「……こうなったのは誰のせいでもない。彼女は重い病気持ちだったからな」
スウェンの足元には《Ada Wilhoit》と書かれた墓がある。
――そう。
彼女も戦争によってその命を絶った。だがそれは,決して誰のせいでもない。戦争によって起こった,避ける事の出来ない現実そのものなのだから……。
「――ジャック。旅の途中で,俺たちが離ればなれになった時があったろう。その時,エイダは俺に何て言ったと思う?」
「何て言ったんだ」
「『これであなたたちの仲が直らなかったら,二人の友情は本物ではなかったのね』……てな」
「ははは」
二人は笑い合った。眠るエイダのことを見ながら――。
「今も俺たちはこうして笑っている。彼女は,俺に大切なことを教えてくれたんだ」
こう言ってから,スウェンは彼女の墓に一輪の花を置いた。
――「スウェン。一人旅は大変だろ? もう少し,城で休んでいてもいいんだぞ」
「いや,俺は行く。まだ,旅は終わっていないような気がするんだ。本当の自分自身を,これから見つけていきたい」
そうか,と親友は優しく彼に向かって頷いた。
「……まあ,今度は,気楽な旅にするよ。誰の血も浴びることのない旅にな!」
――スウェンは別れ際に,彼女にこんなことを言った。
「君と出会わなければ,今の俺はここにはいなかった。ありがとう。君がいてくれた時間は,決して忘れない」
スウェンはたっぷりと深呼吸をしてから,町を目指した。どこにあるかも,名前すら知らない町へ。
(なつかしい道を歩いた。
誰もこの道を覚えていない。
だけど僕は知っている。
そこで君が歩いていたことを……)
スウェンは強い男になっていた。
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