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黄泉蜻蛉①
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兵家秘靱録。
私は今そう銘打った書をしたためている。
古今東西、剣術には様々な流派が存在し、その中には秘剣と呼ばれる技術が存在する。 かの伊藤一刀斎が悟りを得たという『夢想剣』。卜伝流の『一つの太刀』。名前だけは聞いたことがあるだろう、どちらも有名な秘剣である。
私はそういった秘剣に、それに付随する逸話の数々に、得も言われぬ憧れを抱いていた。
そしてそういった人物は案外多く、そんな秘剣好きの連中と酒を飲みながら情報交換をするのが私の楽しみの一つだった。
書物屋である胡蝶堂の主人ともそれがきっかけで飲みの席を共にするようになった。
そんな飲みの席で私が呟いた「世の秘剣を記した本はないものか」という一言に、「無いならお前さんが書けばいい、字は書けたろう?」と軽く返した胡蝶堂の主人。
それがきっかけだった。
完成したら高値で買ってやると笑う胡蝶堂の主人と酒に酔った勢いに、思わずやってみるかと発起したが、自分の流派にある秘伝・秘剣を他人に、ましてや本にする為などと言って教えてくれる者がいるはずなどない。
そう思っていたが、やると言った以上駄目で元々と、秘剣好き仲間の伝手を使って探してみると、何人も教えてもいいという人物が現れる。だが、実際に会ってみると彼らが語るのは眉唾ものの秘剣と逸話ばかりだった。
しかし、それでも良かった。彼らの話は面白く、そんな秘剣とそれにまつわる逸話の数々はわたしの心を躍らせた。
だから私はそれらの話をまとめて書にしたためようと決めた。
それから一年。仕事の合間を見て書き進めていきた書も、もうすぐ完成する。
ふと窓の外で遊ぶ子ども達の姿が目に映った。無邪気に走る子ども達、先頭を走る子どもの手には長い棒が握られ、その先端から伸びる糸は宙を舞う蜻蛉に繋がっている。
私も昔よくやった蜻蛉釣りという遊びだ。 それを見た瞬間。あの壮絶な顔が脳裏に蘇り、激しい吐き気が私を襲う。
手で口を覆い吐き気を堪え、書きかけの書に視線を落とす。
誰にも話していないが、この兵家秘靱録には一つだけ、本物の秘剣が記されているのだ。
思い出すたびに背筋も凍り、吐き気を催す、あの悍ましい秘剣。
黄泉蜻蛉が。
私は今そう銘打った書をしたためている。
古今東西、剣術には様々な流派が存在し、その中には秘剣と呼ばれる技術が存在する。 かの伊藤一刀斎が悟りを得たという『夢想剣』。卜伝流の『一つの太刀』。名前だけは聞いたことがあるだろう、どちらも有名な秘剣である。
私はそういった秘剣に、それに付随する逸話の数々に、得も言われぬ憧れを抱いていた。
そしてそういった人物は案外多く、そんな秘剣好きの連中と酒を飲みながら情報交換をするのが私の楽しみの一つだった。
書物屋である胡蝶堂の主人ともそれがきっかけで飲みの席を共にするようになった。
そんな飲みの席で私が呟いた「世の秘剣を記した本はないものか」という一言に、「無いならお前さんが書けばいい、字は書けたろう?」と軽く返した胡蝶堂の主人。
それがきっかけだった。
完成したら高値で買ってやると笑う胡蝶堂の主人と酒に酔った勢いに、思わずやってみるかと発起したが、自分の流派にある秘伝・秘剣を他人に、ましてや本にする為などと言って教えてくれる者がいるはずなどない。
そう思っていたが、やると言った以上駄目で元々と、秘剣好き仲間の伝手を使って探してみると、何人も教えてもいいという人物が現れる。だが、実際に会ってみると彼らが語るのは眉唾ものの秘剣と逸話ばかりだった。
しかし、それでも良かった。彼らの話は面白く、そんな秘剣とそれにまつわる逸話の数々はわたしの心を躍らせた。
だから私はそれらの話をまとめて書にしたためようと決めた。
それから一年。仕事の合間を見て書き進めていきた書も、もうすぐ完成する。
ふと窓の外で遊ぶ子ども達の姿が目に映った。無邪気に走る子ども達、先頭を走る子どもの手には長い棒が握られ、その先端から伸びる糸は宙を舞う蜻蛉に繋がっている。
私も昔よくやった蜻蛉釣りという遊びだ。 それを見た瞬間。あの壮絶な顔が脳裏に蘇り、激しい吐き気が私を襲う。
手で口を覆い吐き気を堪え、書きかけの書に視線を落とす。
誰にも話していないが、この兵家秘靱録には一つだけ、本物の秘剣が記されているのだ。
思い出すたびに背筋も凍り、吐き気を催す、あの悍ましい秘剣。
黄泉蜻蛉が。
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