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黄泉蜻蛉⑧
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「何処へ向かっているのでしょうか?」
どれくらい歩いただろうか。人気のない方へ進む背に、不安をごまかすように問いかけた。
「もうしばらく歩くと、梅園の馬場に着きます。なぜか馬場の中に一本だけ立派な梅の木がありまして、かつての大名がその梅の美しさを気に入り、切ることを禁じたらしく、そのまま梅園の馬場なんて呼ばれているらしいですよ」
帯刀の声は、自らの半生(彼の言葉を信じるならば)を語っていた時と変わらぬ穏やかなものだった。
「そこで……何をするのですか?」
「それは、はじめ文にてお願いした通り、ただ見届けて伝え残してほしいのですよ」
そういえば。私が彼の話に興味を持った切っ掛けは『伝え残してほしい』という言葉だったなと思い出し、残してほしいのなら、危害は加えられないはず。と安堵の思いが込み上げた。
「何を……でしょうか?」
「これから、弦之助と果し合いをします。その見届け人になっていただきたい。そして、私の語ったすべてを、そしてその決着を、あなたに書いていただきたい」
守谷弦之助。そうだ、まだ話しは半ばで、彼との決着は聞いていない。
つまり今この状況は、まさしくあの話の続きなのだ。
まさか秘剣の逸話。その一部に自分がなれるとは思ってもみなかった。私は高鳴る胸の鼓動が果たして、これから目にする果し合いという禁忌への忌避感からなのか、それとも逸話の登場人物になったことからの高揚からなのか、それはわからなかった。
「では、私はこれから……見られるのですか」
自然と声が震えていた。もしかしたら今夜、目の前の帯刀が死ぬかもしれない。もしかしたら、まだ見ぬ弦之助が死ぬかもしれない。
それを見てしまうかもしれない。
それは本来望まれるべきではないものだろう。
だが、それでも私は見たいのだ。
帯刀は私の問いに一瞥を返し、歩みを止めることなく進んでいる。そこに気負いや恐怖はないのだろうか。
そんな私の思いを察してか、「震えています」と帯刀は己の手を見つめて呟いた。その手は確かに震えていた。
「今度ははっきりとわかります。これは武者震いだ」
これから果し合いに臨む男の、どこか嬉しそうな顔が印象的だった。
「着きました」
それからしばらく二人そろって黙って歩くと、広い馬場に着いた。
柵を越えて中に入ると、場にそぐわぬ立派な梅の木が一本生えている。
梅の木の側まで来ると帯刀は反転し、後ろからついて来ていた私を見て、ほっとしたように笑った。
「あなたも、お好きですねぇ」
もしかしたら、帯刀にとって私が付いてくるかは賭けだったのかもしれない。それはそうだ、誰が好き好んで怪しい男の言に乗って人気のない所まで付いて来るというのか。
それでも、私は見たい。どんな危険に身を曝そうと、どんなに忌避感をおぼえようと。だからその言葉を待っていたのだ。
「ならば今宵見せましょう。我が秘剣・黄泉蜻蛉」
きっと、私も同じ顔で笑っていただろう。
どれくらい歩いただろうか。人気のない方へ進む背に、不安をごまかすように問いかけた。
「もうしばらく歩くと、梅園の馬場に着きます。なぜか馬場の中に一本だけ立派な梅の木がありまして、かつての大名がその梅の美しさを気に入り、切ることを禁じたらしく、そのまま梅園の馬場なんて呼ばれているらしいですよ」
帯刀の声は、自らの半生(彼の言葉を信じるならば)を語っていた時と変わらぬ穏やかなものだった。
「そこで……何をするのですか?」
「それは、はじめ文にてお願いした通り、ただ見届けて伝え残してほしいのですよ」
そういえば。私が彼の話に興味を持った切っ掛けは『伝え残してほしい』という言葉だったなと思い出し、残してほしいのなら、危害は加えられないはず。と安堵の思いが込み上げた。
「何を……でしょうか?」
「これから、弦之助と果し合いをします。その見届け人になっていただきたい。そして、私の語ったすべてを、そしてその決着を、あなたに書いていただきたい」
守谷弦之助。そうだ、まだ話しは半ばで、彼との決着は聞いていない。
つまり今この状況は、まさしくあの話の続きなのだ。
まさか秘剣の逸話。その一部に自分がなれるとは思ってもみなかった。私は高鳴る胸の鼓動が果たして、これから目にする果し合いという禁忌への忌避感からなのか、それとも逸話の登場人物になったことからの高揚からなのか、それはわからなかった。
「では、私はこれから……見られるのですか」
自然と声が震えていた。もしかしたら今夜、目の前の帯刀が死ぬかもしれない。もしかしたら、まだ見ぬ弦之助が死ぬかもしれない。
それを見てしまうかもしれない。
それは本来望まれるべきではないものだろう。
だが、それでも私は見たいのだ。
帯刀は私の問いに一瞥を返し、歩みを止めることなく進んでいる。そこに気負いや恐怖はないのだろうか。
そんな私の思いを察してか、「震えています」と帯刀は己の手を見つめて呟いた。その手は確かに震えていた。
「今度ははっきりとわかります。これは武者震いだ」
これから果し合いに臨む男の、どこか嬉しそうな顔が印象的だった。
「着きました」
それからしばらく二人そろって黙って歩くと、広い馬場に着いた。
柵を越えて中に入ると、場にそぐわぬ立派な梅の木が一本生えている。
梅の木の側まで来ると帯刀は反転し、後ろからついて来ていた私を見て、ほっとしたように笑った。
「あなたも、お好きですねぇ」
もしかしたら、帯刀にとって私が付いてくるかは賭けだったのかもしれない。それはそうだ、誰が好き好んで怪しい男の言に乗って人気のない所まで付いて来るというのか。
それでも、私は見たい。どんな危険に身を曝そうと、どんなに忌避感をおぼえようと。だからその言葉を待っていたのだ。
「ならば今宵見せましょう。我が秘剣・黄泉蜻蛉」
きっと、私も同じ顔で笑っていただろう。
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