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黄泉蜻蛉⑦
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「あとはただ修行あるのみと、帯刀は山に籠って、その秘剣が身体に染み込むまでただひたすらに、剣を振るい続けました」
そこまで話し、語り部たる目の前の痩せた男は、一息つくように冷めた茶を啜った。
すっかり話に引き込まれてしまった私も、同じく冷めた茶で喉を潤した。
引っ張りに引っ張って、ついに名前が出てきた。黄泉蜻蛉とはどんな術理をもって放たれるのか、虚を突く秘剣としかわからないが、どう虚を突くのか。
知りたい。続きを早く知りたい。
そう私の中で、秘剣好きの欲求が高まっていた。しかし、どうしても気になることが
あり、それがその思いを押しとどめた。
「帯刀は何故弦之助を斬りたかったのでしょうか?」
「先も言った通り、仇討ちのためですよ」
素直に疑問を口にすると、男はさらりと返した。
「ですが、帯刀は弦之助を恨んでいなかったと。それに、両親の仇を討とうという気概も感じませんでした」
「然り、親の為の仇討ちではありませんからねぇ。帯刀自身弦之助に対する恨みなどなかったでしょう。それでも、帯刀にとってもっとも大事なものを殺された仇だけは、討たねばならぬのです」
絶対に。そう小さく呟いた男の目に狂気が宿った気がした。その目が恐ろしくなった私は、いまだ渦巻く疑問を棚に上げ、話をそらしていた。
「で、では……帯刀は山に籠っての修行で、秘剣ならではの特殊な修行法などはしていたのですかね」
「ええ、それこそ常軌を逸したことを……ね」
しかし、その目の狂気はより一層の深みを増し、私を射抜いた。
「その修行は身体を鍛えるものではなく、心身を酷くすり減らすもので、秘剣が完成した時、帯刀は幽鬼のようにやつれ果てていました」
ああ。とその言葉に何かを悟った気分になり、私は目の前の痩せた男を改めて見つめた。
「そういえば……まだお名前をお聞きしていませんでしたね。教えていただいてもよろしいですか?」
「…………」
そう尋ねると、重い沈黙が返ってくる。私が唾を飲み下した音だけがやけに大きく響く。
それを合図に男が、悪戯に成功した童のように笑った。痩せた顔に張り付く童のような笑顔は、ひどく不気味であった。
私のそんな気持ちを感じ取ったのか、男は急に真顔に戻ると、ぎょろりとした目でこちらを見据え、その口をゆっくりと開いた。
「申し遅れた、拙者の名は……秋津帯刀」
やはり。私はそう納得すると同時に、少しだけ落胆する気持ちがあった。
今まで様々な秘剣の逸話を聞き、中にはその秘剣の遣い手だという人間も多くいた。力自慢といった具合に筋肉質で、いかにも剣豪といった見た目の人間もいれば、逆に見るからに鍛えていなさそうな私でも勝てそうだと思う人間もいた。
目の前の帯刀はそれで言うと、私でも勝てそうな、それこそ強い風が吹けば飛んでいってしまうような、そんな印象だった。
私だって、別に剣の遣い手に力が必ずしもいるものだとは思っていない。技術次第で如何様にも強くなれるものだと思っている。
しかし目の前の帯刀はあまりにも貧弱そのものの見た目だった。
何をするかわからない不気味さはあれど、ここまで来るとそれも、話に引き込むための演出のように思えてしまうのだ。
騙される側としては、せめて秘剣の遣い手を騙るのであれば、それなりの立ち居振る舞いをしてほしいと思ってしまう。
そもそも、壮絶な特訓をしたのに痩せるという話が、どうにも胡散臭い。
途中まではよかったのだがなぁ。口には出さず、心の中でそう呟くと、まるでそれを見透かしたかのように、帯刀がすっと立ち上がる。
「では、行きましょうか」
帯刀はそう言って代金を払い、こちらの返事も待たずに歩き出す。
「ちょ、待ってください!」
私は同じように代金を払うと慌ててその背を追った。胡散臭いと感じたのだから、そこで別れることもできただろうになぜ。
疑問の答えは一瞬で出た。
帯刀の立ち姿に一本筋のようなものが見えたから。そして、その背に有無を言わせぬ迫力があったからだ。
何より、嘘でも興味があったのだ、悍ましいとまで評するその黄泉蜻蛉の正体に。
私は黙って帯刀の後ろをついて歩く。どこまでも伸びる影法師が夕暮れを告げ、真っ赤に焼ける空に不吉な予感をおぼえた。
そこまで話し、語り部たる目の前の痩せた男は、一息つくように冷めた茶を啜った。
すっかり話に引き込まれてしまった私も、同じく冷めた茶で喉を潤した。
引っ張りに引っ張って、ついに名前が出てきた。黄泉蜻蛉とはどんな術理をもって放たれるのか、虚を突く秘剣としかわからないが、どう虚を突くのか。
知りたい。続きを早く知りたい。
そう私の中で、秘剣好きの欲求が高まっていた。しかし、どうしても気になることが
あり、それがその思いを押しとどめた。
「帯刀は何故弦之助を斬りたかったのでしょうか?」
「先も言った通り、仇討ちのためですよ」
素直に疑問を口にすると、男はさらりと返した。
「ですが、帯刀は弦之助を恨んでいなかったと。それに、両親の仇を討とうという気概も感じませんでした」
「然り、親の為の仇討ちではありませんからねぇ。帯刀自身弦之助に対する恨みなどなかったでしょう。それでも、帯刀にとってもっとも大事なものを殺された仇だけは、討たねばならぬのです」
絶対に。そう小さく呟いた男の目に狂気が宿った気がした。その目が恐ろしくなった私は、いまだ渦巻く疑問を棚に上げ、話をそらしていた。
「で、では……帯刀は山に籠っての修行で、秘剣ならではの特殊な修行法などはしていたのですかね」
「ええ、それこそ常軌を逸したことを……ね」
しかし、その目の狂気はより一層の深みを増し、私を射抜いた。
「その修行は身体を鍛えるものではなく、心身を酷くすり減らすもので、秘剣が完成した時、帯刀は幽鬼のようにやつれ果てていました」
ああ。とその言葉に何かを悟った気分になり、私は目の前の痩せた男を改めて見つめた。
「そういえば……まだお名前をお聞きしていませんでしたね。教えていただいてもよろしいですか?」
「…………」
そう尋ねると、重い沈黙が返ってくる。私が唾を飲み下した音だけがやけに大きく響く。
それを合図に男が、悪戯に成功した童のように笑った。痩せた顔に張り付く童のような笑顔は、ひどく不気味であった。
私のそんな気持ちを感じ取ったのか、男は急に真顔に戻ると、ぎょろりとした目でこちらを見据え、その口をゆっくりと開いた。
「申し遅れた、拙者の名は……秋津帯刀」
やはり。私はそう納得すると同時に、少しだけ落胆する気持ちがあった。
今まで様々な秘剣の逸話を聞き、中にはその秘剣の遣い手だという人間も多くいた。力自慢といった具合に筋肉質で、いかにも剣豪といった見た目の人間もいれば、逆に見るからに鍛えていなさそうな私でも勝てそうだと思う人間もいた。
目の前の帯刀はそれで言うと、私でも勝てそうな、それこそ強い風が吹けば飛んでいってしまうような、そんな印象だった。
私だって、別に剣の遣い手に力が必ずしもいるものだとは思っていない。技術次第で如何様にも強くなれるものだと思っている。
しかし目の前の帯刀はあまりにも貧弱そのものの見た目だった。
何をするかわからない不気味さはあれど、ここまで来るとそれも、話に引き込むための演出のように思えてしまうのだ。
騙される側としては、せめて秘剣の遣い手を騙るのであれば、それなりの立ち居振る舞いをしてほしいと思ってしまう。
そもそも、壮絶な特訓をしたのに痩せるという話が、どうにも胡散臭い。
途中まではよかったのだがなぁ。口には出さず、心の中でそう呟くと、まるでそれを見透かしたかのように、帯刀がすっと立ち上がる。
「では、行きましょうか」
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「ちょ、待ってください!」
私は同じように代金を払うと慌ててその背を追った。胡散臭いと感じたのだから、そこで別れることもできただろうになぜ。
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何より、嘘でも興味があったのだ、悍ましいとまで評するその黄泉蜻蛉の正体に。
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