アラフォーの悪役令嬢~婚約破棄って何ですか?~

七々瀬 咲蘭

文字の大きさ
94 / 150
番外編〈第一部 終了ボーナストラック〉

番外編 白百合館へようこそ! side:マリン part5

しおりを挟む
「やっぱり、やめとけば良かったかな……」
 私は何度か通り抜けたことのあるイスキア邸の裏庭でため息をついた。

 ゲンメ邸のメイド、ルーチェさんにメールで約束した時間を過ぎてしまいそうで焦って飛び出してきたものの……。

 この時間帯はタイミングが悪過ぎた。
 今は夕刻。どこの邸であれ、警備も使用人も日勤から夜勤者と交代する時間なのだ。

 交代して最初にする仕事といえば、大抵は持ち場をざっと見回りをするのが普通。
 
 ……判断ミスだったわ。
 遠回りをして後で謝れば良かった……。

 私は唇をかんだ。 
 慌てたのは理由がある。

 ゲンメのメイド、ルーチェさん。
 彼女に私が早く会いたかったのだ。

 ルーチェさんは、今はナゼかメイドをしているけど、闘技大会殿堂入りの伝説のチャンピオン。
 私の憧れの人で、私がカルゾで体術を学んでいた同門の先輩にあたる。

 主命でルーチェさん宛てに届けるように、書簡と荷物を預かった私は公然と彼女に会えることに舞い上がっていたのかもしれない。
 

 音を立てないようにそっと壁伝いに移動していた私は、足を止めた。

 裏庭から母屋へと通じる小さな門。
   
 ザワザワと鳥肌の立つような、うすら寒い独特の感覚。……誰かに見られてる!

「……!」
 シャシャシャシャッ……!
 
 無数の刀子が突然、夕闇の中で私に向かって四方八方から雨のように降り注ぐ。

 ばシュッ! カン! カカンッ!!

 後ろに飛びのいて、太腿に仕込んでおいたショートソードで跳ね返す。
 あらかた跳ね返したつもりだったが、避け損ねた小刀子がメイド服のスカートを切り裂いた。

「やだぁ……見えちゃう」
 私は深いスリットになってしまったスカートを押さえてため息をついた。
 肌は無傷だ。たっぷりと毒物が塗られ、変色した刀子を慎重に私は爪先で蹴り飛ばした。


「……どこのネズミかな?」
 目の前の植え込みや物置小屋の陰から数人の男がバラバラと姿を現す。 
 見るからに怪しい黒装束の団体さんだ。

「えへっ。ただの迷子ですわ」
 私はぶりっ子ポーズで媚びをうってみた。

「嘘をつけ。その動き、タダ者であるはずがない」
 男の一人が冷ややかに言った。

 ……ダメか。
「本当に通りすがりのメイドなんだけど……見逃して……はくれなさそうね」
 私はショートソードをゆっくりと正面に構えた。にわかに色めきたつ男たち。

 最初に声をかけてきた男は、針金のように細い文字通り蛇のような男。 
 こいつが頭か?

 その後ろには、腕だけで私のウエストよりも太い全身筋肉、マッチョ体型の男……。あとは、標準体型のモブタイプ。

 確認できたのは、合計6人。

 全員頭髪がないのが特徴的だ。
 凶悪な蛇が絡み合った刺青がつるりと剃りあげたのか、禿げ上がっているのかはわからない後頭部に禍々しく彫られていた。
 それは彼らが、イスキア家直下の闇組織「海蛇」である証ーー。

 海蛇の幹部クラスは頭髪がある。ツルツルってことは、彼らは下っばだということだ。

 ……うん。これぐらいの人数なら私一人でも何とかなるかもね?


「さぁて。ゆっくり可愛がってやるか……」
 正面のリーダー格の蛇男は、舌なめずりをしながら私に芸もなく突っかかってきた。

 それを合図にシュッと反り返った半月刀を構えて、他の海蛇達も一斉に襲いかかる。

 私はそれを後ろに下がって紙一重でかわすと、手前のモブ体型の男の半月刀を思い切りはねあげ、同時に剣尻でみぞおちを突いてやった。
 
「ぐわっ!」
 男は地面に伸びて転がる。

 よし! 1人目!!
 私は心の中でガッツポーズをする。

「おのれっ!」
 芸のないセリフを吐きながら、モブその二も同じように突きかかってくる。

「よっと」
 私は突進してくる男をヒラリとかわす。

 半月刀は虚しく空を切り、夕陽を照り返して輝く軌跡を空に描いた。

「このっ、ちょこまかと!」
 目の前のマッチョ男の半月刀がぶぅん、と唸りをあげて振り下ろされる。
 当たれば首が跳ね飛ぶ一撃を、私は腰を沈めてかわし、トンっと大きく上に飛び上がった。

「跳んだっ」
「なんと身軽な……!」

 慌てて剣で横に薙いでくる所にガッキリと私はショートソードを噛み合わせると、そこを支点にクルリと身体を回転させ、肘でマッチョ男の下顎をしたたか打ちあげた。

 声もなく、地面に倒れこむマッチョ男。

 よし! 2人目!!
 あと残りは4人!

「くっ、カルゾの体術か!?」
「殺すな! どこの間者か絶対に吐かせてやる!」
 男たちは息巻いて私を取り囲んだ。

 「……だから間者じゃないって。通りすがりのメイドだっていっているでしょ?」
 「信用できるかぁぁぁ!」

 私が親切に教えてあげてるのに。
 素直じゃないわね……。

「うらぁっ!」
 私の背後から足音を潜めた男が、羽交い締めにしようと飛びかかってきた。

 半歩下がって身体を沈めて、その男の腕をとると右足を軸に半回転した。
 その動きと勢いを利用した私の拳が男の鳩尾にめり込む。

「あぐぅっ!」
 前のめりに倒れるその男を、わたしは正面の蛇目の黒装束めがけて蹴り飛ばした。 

 反射的に蛇男はガードするが仲間を受け止めきらず後ろに吹っ飛んで動かなくなった。


 よし、あと残りは2人!
 これは、いけるかな。

「まだ、遊ぶ気? 私、急いでるんだけど?」
 私は余裕しゃくしゃく、挑発するように残った男2人をにらみつけた。その瞬間!


 「……!?」
 覚えのある感覚が突如、私の全身を駆けめぐった!

 思わず片腕で自分の身体を抱きしめる。

「ぅうあっ……んっ」
 
 身体がぞわぞわする! 
 発熱した時の寒気みたいなのモノじゃなくて、身体の芯から疼くようなジワジワと熱い何かが這いのぼってきた。

「…………はぁ、んぅ」
 身体じゅうがゾクゾクして、風があたるだけでも甘い、変な声が出てしまう。

 これ、は。
 パロマに前に媚薬を盛られた時と同じ症状じゃない!
 なんで、今頃……!?

 モニカには即効だったし、私は半分しか食べてないのに……?


 怪訝な顔をして突如悶えはじめた私を見ていた男2人は、お互いに目を見合わせるとニヤニヤ好色な笑いを張りつけて、片膝をついてしまった私にジワジワと近寄ってきた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

奪われたはずの婚約者に激しく求められています?

ROSE
恋愛
「せめてもの情けだ。王子であるこの俺の手で投獄してやろう」 状況が読み込めない。 恥ずかしい秘密を隠すために、主治医から処方薬を受け取ろうとしたシャロンは、なぜか反逆罪で投獄されてしまう。婚約者のジャスティン王子の手によって。 これはなにかの間違いでは? シャロンの言葉は彼には届いていないようだった。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...