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番外編〈第一部 終了ボーナストラック〉
番外編 メイドズ☆ブラスト episode10
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「蛇姫の──?」
マスターの言葉に私たちは顔を見合わせた。
先日、私が神殿で蛇姫の鞭を止めた一件だろうか……。
「申し訳ございませんがモーニングの営業は終了したしました。リゾン様」
さすが商売人。マスターはさっとにこやかな表情に切り替えると、腰の左右に丸めたムチを下げた女に向かって丁重に頭を下げた。
「余分な口を出すな、イサルコ。あたくしは蛇姫様のお役目で来たのだ。命が惜しければ下がっておれ!」
魔女ルックのリゾンに吐き捨てるように言われ、マスターは押し黙って店内に下がっていく。
「で、どいつがあのカルゾのメイドだ? 」
リゾンはねっとりとした視線をダルバに注いだ。
「……お前か?」
「ええ。私たちは全員、カルゾメイドだけどそれが何か……?」
ダルバが私とモニカの肩をガシッと掴んだ。
「なんと、全員だと!? このペッタンコ女と乳クサいガキもまさか、あのカルゾメイドだというのか?」
……乳クサいガキぃっ……!?
「ちょっ……!」
「ペッタンコ言わないでよ! ペッタンコ! ちょっと乳がメロンみたいだからってエラそーにっ!」
私とモニカはブーブーと抗議の声をはりあげた。
「確かにモニカはかなりレアなペッタンコだけど、頑張って豊胸グッズを日々試してるのよ!
あんたみたいな天然ホルスタイン人間がそういうことを言うべきではないわ!
そして私は乳クサいではなく、童顔の天然巨乳よ! 訂正しなさい──」
「ちょっとちょっと、マリン! モニカに油注いでどーするのよ、あんたはっ!」
頭頂からシュウシュウと煙をあげるモニカを見て、ダルバが慌てて私の口をふさぐ。
私たちの言葉に戸惑った様子でリゾンは私たちを見回した。
「で、結局どいつなのだ。先日、カルドンヌ様にたてついた、という生意気なメイドは……」
「えっとぉ──」
私は言葉につまった。
このパターン、多分「それは 私です!」と名乗らない方が良いヤツだよね……。
「庇いだてすると為にならんぞ」
私が僅かに言いよどんだのに気づいたのか、リゾンは探るように問いかけてくる。
「それはこのマ──」
さっきのレアペタ発言に私を売ろうとしたモニカを押しのけ、ダルバが口を開いた。
「ここにはいないわ! その生意気なメイドはパロマ・アルバーニ。まだ宿で寝てるわ!」
「ダルバ!」
私とモニカの叫び声にダルバは親指を立ててみせた。
イヤイヤ……。
そんな一時しのぎして後で面倒なことにならないかなぁ、これ。
「そのメイドはどこの宿だ?」
「それが人にモノを聞く態度? せめて教えてくださいって頭ぐらい下げたらどぅ──」
私の言葉をさえぎって。
リゾンの両手がすばやく振られて、空気がビュッと鳴る。
私とモニカは素早くうしろに跳び退いた!
ビシリッ!
バシュッッ!!
リゾンの放った鞭は私たちが先程まで立っていた床板を粉砕した。
破片が盛大に撒きあがる。テーブルが横倒しになり、モーニングプレートが床に転がった。
「うわ、まだ私デザート食べてなかったのに──」
恨めしげに私はプレートを見てため息をついた。
「あんたが挑発するからでしょーが、マリン。せっかく私がパロマになすりつけてやろうとしたのにさ」
ダルバに軽く小突かれる。
「──お前たち、あんまり我ら『海蛇』をなめるなよ。どいつがそのメイドかは、その身体にきいてやるまでだ」
リゾンは苛々と舌打ちして、右手に鞭を構え直した。
「やだぁ、身体にきくだってよ!」モニカ。
「なんかエロいセリフよね──」ダルバ。
「魔女ルックより、SM女王の方が似合うんじゃないの?」
私たちはリゾンに向かって軽口を叩きながら、大通りの方へジリジリと下がった。
かなり見え透いた挑発だが、これ以上マスターに迷惑はかけられない。
「ほざけぇぇぇっ!」
リゾンは私たちの誘いにのって片手で鞭を振り上げた。
鞭はテラス席の日よけの丸太にクルリと何重にも巻きつく。
ニヤリと笑い、腕をくいっと引いて地を蹴ると、彼女の身体は鞭にひかれて空中に飛び上がった。
「──くらえっ!」
私たちの頭上目がけて落ちてくる、異様にギラギラと目を光らせた変態魔女。
落ちてくるその手には鈍い光を放つ刀子が握られている。
刃先が毒々しい紫色に染まっているそれは、『海蛇』お約束の毒武器だった。
「やっ……!」
相手の繰り出してくる斬撃を懐から出した短剣で私は弾き返した。
「せやぁっ!」
続けてリゾンが繰り出す力強い膝蹴りを身をひねって後ろに跳び、かわす。
「……成る程。流石にカルゾメイド。ちょこまかと素早いことだ。が、そろそろ終わりにさせてもらおうか──」
リゾンはニタリとその血を塗りたくったような口元を歪ませ、指をパチンと鳴らした。
「……!?」
それを合図に大通りから何かがカフェのテラスに大量に投げ込まれる。
シュシュシュシュ───!
辺りにもうもうと白い煙が立ち込めた。
「うぇっ! 何よっ?」
モニカが嫌そうに手足を振り回す。
「ゲホゲホッ……これ、煙幕?」
私はウッカリ吸ってしまって咳きこんでしまった。
「いや、違う! これ、マリンあんたは絶対吸っちゃダメなやつよ!」
ダルバの叫び声に慌てて私は咳き込みながら袖で鼻と口を覆う。
……こいつ、一体何を──。
私は口を開こうとして愕然と気がついた。
──舌がまわらない?
「……ぅ!」
覚えのある鈍い痺れが身体を支配する。
身体が──動かない。
……しまった!
これ『海蛇』の痺れ薬──。
今までも何度か食らったことのある感覚が身体を駆け巡る。
「「マリン!」」
ダルバとモニカの声が、ガックリと膝をついた私の耳にグルグルと響いた。
ヤバ──い。さっき思いっきり吸い込んじゃったよ……私、メイドの中でもこの毒に一番耐性がないのに──。
「ホホホホ……油断したな。ここは平和ボケしたカルゾではないぞ。我ら『海蛇』のイスキアだということをゆめゆめ忘れるでないわ!」
勝ち誇ったようにリゾン──『海蛇』の魔女はのけぞって高笑いをあげた。
マスターの言葉に私たちは顔を見合わせた。
先日、私が神殿で蛇姫の鞭を止めた一件だろうか……。
「申し訳ございませんがモーニングの営業は終了したしました。リゾン様」
さすが商売人。マスターはさっとにこやかな表情に切り替えると、腰の左右に丸めたムチを下げた女に向かって丁重に頭を下げた。
「余分な口を出すな、イサルコ。あたくしは蛇姫様のお役目で来たのだ。命が惜しければ下がっておれ!」
魔女ルックのリゾンに吐き捨てるように言われ、マスターは押し黙って店内に下がっていく。
「で、どいつがあのカルゾのメイドだ? 」
リゾンはねっとりとした視線をダルバに注いだ。
「……お前か?」
「ええ。私たちは全員、カルゾメイドだけどそれが何か……?」
ダルバが私とモニカの肩をガシッと掴んだ。
「なんと、全員だと!? このペッタンコ女と乳クサいガキもまさか、あのカルゾメイドだというのか?」
……乳クサいガキぃっ……!?
「ちょっ……!」
「ペッタンコ言わないでよ! ペッタンコ! ちょっと乳がメロンみたいだからってエラそーにっ!」
私とモニカはブーブーと抗議の声をはりあげた。
「確かにモニカはかなりレアなペッタンコだけど、頑張って豊胸グッズを日々試してるのよ!
あんたみたいな天然ホルスタイン人間がそういうことを言うべきではないわ!
そして私は乳クサいではなく、童顔の天然巨乳よ! 訂正しなさい──」
「ちょっとちょっと、マリン! モニカに油注いでどーするのよ、あんたはっ!」
頭頂からシュウシュウと煙をあげるモニカを見て、ダルバが慌てて私の口をふさぐ。
私たちの言葉に戸惑った様子でリゾンは私たちを見回した。
「で、結局どいつなのだ。先日、カルドンヌ様にたてついた、という生意気なメイドは……」
「えっとぉ──」
私は言葉につまった。
このパターン、多分「それは 私です!」と名乗らない方が良いヤツだよね……。
「庇いだてすると為にならんぞ」
私が僅かに言いよどんだのに気づいたのか、リゾンは探るように問いかけてくる。
「それはこのマ──」
さっきのレアペタ発言に私を売ろうとしたモニカを押しのけ、ダルバが口を開いた。
「ここにはいないわ! その生意気なメイドはパロマ・アルバーニ。まだ宿で寝てるわ!」
「ダルバ!」
私とモニカの叫び声にダルバは親指を立ててみせた。
イヤイヤ……。
そんな一時しのぎして後で面倒なことにならないかなぁ、これ。
「そのメイドはどこの宿だ?」
「それが人にモノを聞く態度? せめて教えてくださいって頭ぐらい下げたらどぅ──」
私の言葉をさえぎって。
リゾンの両手がすばやく振られて、空気がビュッと鳴る。
私とモニカは素早くうしろに跳び退いた!
ビシリッ!
バシュッッ!!
リゾンの放った鞭は私たちが先程まで立っていた床板を粉砕した。
破片が盛大に撒きあがる。テーブルが横倒しになり、モーニングプレートが床に転がった。
「うわ、まだ私デザート食べてなかったのに──」
恨めしげに私はプレートを見てため息をついた。
「あんたが挑発するからでしょーが、マリン。せっかく私がパロマになすりつけてやろうとしたのにさ」
ダルバに軽く小突かれる。
「──お前たち、あんまり我ら『海蛇』をなめるなよ。どいつがそのメイドかは、その身体にきいてやるまでだ」
リゾンは苛々と舌打ちして、右手に鞭を構え直した。
「やだぁ、身体にきくだってよ!」モニカ。
「なんかエロいセリフよね──」ダルバ。
「魔女ルックより、SM女王の方が似合うんじゃないの?」
私たちはリゾンに向かって軽口を叩きながら、大通りの方へジリジリと下がった。
かなり見え透いた挑発だが、これ以上マスターに迷惑はかけられない。
「ほざけぇぇぇっ!」
リゾンは私たちの誘いにのって片手で鞭を振り上げた。
鞭はテラス席の日よけの丸太にクルリと何重にも巻きつく。
ニヤリと笑い、腕をくいっと引いて地を蹴ると、彼女の身体は鞭にひかれて空中に飛び上がった。
「──くらえっ!」
私たちの頭上目がけて落ちてくる、異様にギラギラと目を光らせた変態魔女。
落ちてくるその手には鈍い光を放つ刀子が握られている。
刃先が毒々しい紫色に染まっているそれは、『海蛇』お約束の毒武器だった。
「やっ……!」
相手の繰り出してくる斬撃を懐から出した短剣で私は弾き返した。
「せやぁっ!」
続けてリゾンが繰り出す力強い膝蹴りを身をひねって後ろに跳び、かわす。
「……成る程。流石にカルゾメイド。ちょこまかと素早いことだ。が、そろそろ終わりにさせてもらおうか──」
リゾンはニタリとその血を塗りたくったような口元を歪ませ、指をパチンと鳴らした。
「……!?」
それを合図に大通りから何かがカフェのテラスに大量に投げ込まれる。
シュシュシュシュ───!
辺りにもうもうと白い煙が立ち込めた。
「うぇっ! 何よっ?」
モニカが嫌そうに手足を振り回す。
「ゲホゲホッ……これ、煙幕?」
私はウッカリ吸ってしまって咳きこんでしまった。
「いや、違う! これ、マリンあんたは絶対吸っちゃダメなやつよ!」
ダルバの叫び声に慌てて私は咳き込みながら袖で鼻と口を覆う。
……こいつ、一体何を──。
私は口を開こうとして愕然と気がついた。
──舌がまわらない?
「……ぅ!」
覚えのある鈍い痺れが身体を支配する。
身体が──動かない。
……しまった!
これ『海蛇』の痺れ薬──。
今までも何度か食らったことのある感覚が身体を駆け巡る。
「「マリン!」」
ダルバとモニカの声が、ガックリと膝をついた私の耳にグルグルと響いた。
ヤバ──い。さっき思いっきり吸い込んじゃったよ……私、メイドの中でもこの毒に一番耐性がないのに──。
「ホホホホ……油断したな。ここは平和ボケしたカルゾではないぞ。我ら『海蛇』のイスキアだということをゆめゆめ忘れるでないわ!」
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