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第三部
第5話 アイツ
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青みがかかった黒い液体を吹き出す化け物からの悪臭がつんと鼻につくせいか、涙目になってしまう。
あたしはゴシゴシと荒っぽく目を擦ると、ボーカの差し出した剣をあらためた。
見た目よりもズッシリとした感触とともに全身の毛が逆立ち、ゾクゾクとした悪寒が背中を走り抜ける。
「うわぁっ!!」
あたしは思わずそれを放り投げた。
「何すんですか、お嬢っ!!」
剣をいきなり顔面に投げつけられたボーカが青い顔で叫ぶ。
「悪い。何か気持ち悪いぞ、この剣⋯⋯呪いでもかかってるんじゃないのか?」
あたしは地面に刺さった剣を嫌そうに見た。
「呪いの剣ですか。その刻印にはピッタリですが、どうでしょうねぇ⋯⋯」
隣から覗き込むボーカにあたしは顎をしゃくる。
「なぁ、ボーカ。この刻印、どう見る?」
刃こぼれが見られる古ぼけた刀身には、絡み合う禍々しい毒蛇がくっきりと刻まれていた。
「⋯⋯イスキアの紋章にしか見えませんが。逆に聞きますが、お嬢には何に見えるんで?」
「⋯⋯悪いがあたしも同意見だ」
「ということはコイツはイスキアからやって来たんでしょうかねぇ。しかし、こんなどデカいの、どうやってヤツらはここまで運んできたんでしょう⋯⋯」
「そう決めつけるのはまだ早いかもしれんぞ」
あたしは胴体だけになった化け物を見つめて首を横にふった。
「いくら何でもイスキア本国からこんな化け物がこちらに向かってる、という情報がゲンメに入らないわけはないだろう?」
「確かに。猪突猛進、単細胞のお嬢にしては鋭いご指摘で」
ボーカは驚いたようにあたしを見る。
「本当の事でも言われると腹が立つんだが?」
「⋯⋯うごぉっ!! いてっ! す、すんません、お嬢。では、コイツはこの辺りから生み出された可能性が高いと?」
あたしにつま先を思いっきり踏まれたボーカが涙目で答えた。
「そうだなぁ⋯⋯ここら辺りでこんなとんでもないモノが出てきそうな場所といえば、あそこか──」
「⋯⋯まさか。カルゾの?」
ボーカから唸り声があがる。
「他にあるか?」
隣国のことなのであたしは詳しくは知らないが、カルゾ公邸の地下に研究室がある、らしい。
そこでは、銀色の髪をしたメイドによって怪しげな研究が日々繰り広げられている、とウワサされている。
⋯⋯あたしの悪評と違い、茶髪のカルゾメイドから聞いたところによると、この研究室は本当にウワサ通りの場所のようだ。
銀髪眼鏡メイドの生み出す発明品はいつも聡明なカルゾ女公の頭痛のタネとなっている、と茶髪メイドがこぼしていた。
そんな厄介な使用人であればとっくにクビになりそうなものだが⋯⋯野放しにするよりも手元に置いておいた方がまだマシだ、とはメイド達を束ねているカルゾ執事の談である。
というわけで。
カルゾの銀髪メイドはあたしよりはるかに危険な人物なのだ。
「⋯⋯アイツならやりそうだと思わんか?」
「しかし、お嬢。こんなものをけしかけて、我が国とカルゾが争う理由があります?」
「ない」
あたしは即座に否定した。
「だが、あの変態メイドのやることは主であるソーヴェ様の理解を超えている。
いつぞやも巨大な石像が城下町で暴走したことがあったろう? 今回もそんな事故の類かもしれん」
「⋯⋯あぁ、確かに。あれは迷惑でしたねぇ」
ボーカが遠い目をした。
昨年の冬頃、城下町に突如現れた全裸の巨像群を思い出したのだろう。
あの時はデカい石像が街中の若い男達の下半身を求めて徘徊し、エスト城下町中が大パニックに陥ったっけ。
血相を変えたカルゾの執事が必死で叩き壊して回っていたのが印象深い。
「この大蛇が仮にあの迷惑なメイドの仕業だとしても、わざわざイスキア紋章の彫られた剣を仕込んだりしますかねぇ⋯⋯」
「さぁ、あの電子機器を扱う輩は我らと脳ミソのつくりが違うからな。考えるだけムダかもしれんぞ」
あたしはおしまい、とばかりにボーカに向かって剣を蹴りあげた。
「⋯⋯とりあえず保管しろ。こいつには出来るだけ触るな。怪しげな術がかかってるやもしれん。用心に越した事はない」
「了解」
悪臭が少し薄まり、あたしの頬にあたる風が生あたたかくなってきた。
雨が近いのかもしれない。
その時。
「⋯⋯お嬢!」
若い黒づくめの男があたしの目の前に転がり込んできた。
「どうしたガヴィ」
「あれを!」
ガヴィが指し示す方を振り返る。
「・・・・・っ!?」
首が無くなり、動かなくなっていた巨体から黒い霧のようなものが立ちのぼっていた。
その霧はまるで生き物のように蠢き、不気味な渦を巻きながら球状に集まっていく。
「・・・・・お嬢! こっちもです!」
手下に布に包ませていた剣からも黒い霧のようなものが立ち上っていた。
「その剣から離れろっ!!」
本能的なものだろう。
顔色を変えたボーカとガヴィがあたしをかばうように立つ。
「何だっていうんだ⋯⋯」
不安げなあたし達の視線の先で、胴体と剣から生じた闇の塊は空中で合わさるとクルクルと上昇し、鋭い光を放った。
「⋯⋯うわっ!」
幾筋もの光線が走ったかと思うと、光が溢れる。
その光に呑み込まれるようにして、大蛇の巨体は完全に消滅した。
あたしはゴシゴシと荒っぽく目を擦ると、ボーカの差し出した剣をあらためた。
見た目よりもズッシリとした感触とともに全身の毛が逆立ち、ゾクゾクとした悪寒が背中を走り抜ける。
「うわぁっ!!」
あたしは思わずそれを放り投げた。
「何すんですか、お嬢っ!!」
剣をいきなり顔面に投げつけられたボーカが青い顔で叫ぶ。
「悪い。何か気持ち悪いぞ、この剣⋯⋯呪いでもかかってるんじゃないのか?」
あたしは地面に刺さった剣を嫌そうに見た。
「呪いの剣ですか。その刻印にはピッタリですが、どうでしょうねぇ⋯⋯」
隣から覗き込むボーカにあたしは顎をしゃくる。
「なぁ、ボーカ。この刻印、どう見る?」
刃こぼれが見られる古ぼけた刀身には、絡み合う禍々しい毒蛇がくっきりと刻まれていた。
「⋯⋯イスキアの紋章にしか見えませんが。逆に聞きますが、お嬢には何に見えるんで?」
「⋯⋯悪いがあたしも同意見だ」
「ということはコイツはイスキアからやって来たんでしょうかねぇ。しかし、こんなどデカいの、どうやってヤツらはここまで運んできたんでしょう⋯⋯」
「そう決めつけるのはまだ早いかもしれんぞ」
あたしは胴体だけになった化け物を見つめて首を横にふった。
「いくら何でもイスキア本国からこんな化け物がこちらに向かってる、という情報がゲンメに入らないわけはないだろう?」
「確かに。猪突猛進、単細胞のお嬢にしては鋭いご指摘で」
ボーカは驚いたようにあたしを見る。
「本当の事でも言われると腹が立つんだが?」
「⋯⋯うごぉっ!! いてっ! す、すんません、お嬢。では、コイツはこの辺りから生み出された可能性が高いと?」
あたしにつま先を思いっきり踏まれたボーカが涙目で答えた。
「そうだなぁ⋯⋯ここら辺りでこんなとんでもないモノが出てきそうな場所といえば、あそこか──」
「⋯⋯まさか。カルゾの?」
ボーカから唸り声があがる。
「他にあるか?」
隣国のことなのであたしは詳しくは知らないが、カルゾ公邸の地下に研究室がある、らしい。
そこでは、銀色の髪をしたメイドによって怪しげな研究が日々繰り広げられている、とウワサされている。
⋯⋯あたしの悪評と違い、茶髪のカルゾメイドから聞いたところによると、この研究室は本当にウワサ通りの場所のようだ。
銀髪眼鏡メイドの生み出す発明品はいつも聡明なカルゾ女公の頭痛のタネとなっている、と茶髪メイドがこぼしていた。
そんな厄介な使用人であればとっくにクビになりそうなものだが⋯⋯野放しにするよりも手元に置いておいた方がまだマシだ、とはメイド達を束ねているカルゾ執事の談である。
というわけで。
カルゾの銀髪メイドはあたしよりはるかに危険な人物なのだ。
「⋯⋯アイツならやりそうだと思わんか?」
「しかし、お嬢。こんなものをけしかけて、我が国とカルゾが争う理由があります?」
「ない」
あたしは即座に否定した。
「だが、あの変態メイドのやることは主であるソーヴェ様の理解を超えている。
いつぞやも巨大な石像が城下町で暴走したことがあったろう? 今回もそんな事故の類かもしれん」
「⋯⋯あぁ、確かに。あれは迷惑でしたねぇ」
ボーカが遠い目をした。
昨年の冬頃、城下町に突如現れた全裸の巨像群を思い出したのだろう。
あの時はデカい石像が街中の若い男達の下半身を求めて徘徊し、エスト城下町中が大パニックに陥ったっけ。
血相を変えたカルゾの執事が必死で叩き壊して回っていたのが印象深い。
「この大蛇が仮にあの迷惑なメイドの仕業だとしても、わざわざイスキア紋章の彫られた剣を仕込んだりしますかねぇ⋯⋯」
「さぁ、あの電子機器を扱う輩は我らと脳ミソのつくりが違うからな。考えるだけムダかもしれんぞ」
あたしはおしまい、とばかりにボーカに向かって剣を蹴りあげた。
「⋯⋯とりあえず保管しろ。こいつには出来るだけ触るな。怪しげな術がかかってるやもしれん。用心に越した事はない」
「了解」
悪臭が少し薄まり、あたしの頬にあたる風が生あたたかくなってきた。
雨が近いのかもしれない。
その時。
「⋯⋯お嬢!」
若い黒づくめの男があたしの目の前に転がり込んできた。
「どうしたガヴィ」
「あれを!」
ガヴィが指し示す方を振り返る。
「・・・・・っ!?」
首が無くなり、動かなくなっていた巨体から黒い霧のようなものが立ちのぼっていた。
その霧はまるで生き物のように蠢き、不気味な渦を巻きながら球状に集まっていく。
「・・・・・お嬢! こっちもです!」
手下に布に包ませていた剣からも黒い霧のようなものが立ち上っていた。
「その剣から離れろっ!!」
本能的なものだろう。
顔色を変えたボーカとガヴィがあたしをかばうように立つ。
「何だっていうんだ⋯⋯」
不安げなあたし達の視線の先で、胴体と剣から生じた闇の塊は空中で合わさるとクルクルと上昇し、鋭い光を放った。
「⋯⋯うわっ!」
幾筋もの光線が走ったかと思うと、光が溢れる。
その光に呑み込まれるようにして、大蛇の巨体は完全に消滅した。
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