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反逆のクリス!
しおりを挟む「はははっ!! 聖女様がいればこの王国も安泰だな!! 念願の世界制覇も夢ではない……」
王様が笑いながらワイングラスを傾けた。
隣にいる公爵夫妻も談笑しながらこの場を楽しんでいた。
「本当に良い娘を持ちました。……クリスが無能で落胆しましたが……プリムは自分の娘ながら素晴らしい!」
「おほほほ、クリスはもう娘じゃないわよ? ただの反逆者でしょ?」
「おお、そうだった! すまんすまん」
僕は魔法学園に通っていた、ただの学生だった。なのに……いきなり戦争が始まって、共和国を攻めたり……蛮族の国に攻め込んだ。
僕はクリス様がイジメられているのを見るのが怖くて、登校拒否をしていたんだ。
久しぶりに学園に登校したらびっくりした。クラスメイトは変わってしまった。
あんなにも野蛮で威圧的で怖い存在だっただろうか?
実験場ではどんどん兵士が黒い闇から蛮族の国へ送り込まれる。
――僕もそろそろいかなきゃ……怖いよ。
誰かが叫んでいた。
「な、なんだ!? 転送装置が消えちまったぞ!?」
「おい、壊したのか! 聖女様の力で動いているから壊れるハズないだろ!」
「あん! 俺のせいじゃねえよ! 勝手に消えちまった……あれ……なんか光が……」
転移装置である黒い闇は霧散していて、代わりに柔らかい光が実験場に現れた。
温かくて優しい光……。
全国各地から集められた貴族兵は特に疑問を持たずにその光に入ろうとした。
「どうせ聖女様の力だろ? 入ろうぜ! 蛮族の国を蹂躙……」
光に入ろうとした貴族兵は足を止めてしまった。
「ま、まさか……」
「聖女様!?」
「え、え、嘘でしょ!?」
「ひぃえ!?」
光の中から聖女様と……クリス様がゆっくりと現れた。
「ク、クリス様……あぁ……」
僕はクリス様を見て涙を流してしまった。
昔からお美しい方だったけど、更に美しさに磨きがかかっている。
美しさの中に、可愛らしさが同居していた。
凛々しい顔なのに優しさが感じられる。
クリス様の後ろには背が高くてすごく格好いい男性の人がいる。
クリス様を見る目がとても優しい……。
あ、テッド君もいた! 良かった……テッド君の事心配だったんだ……。
だけど、その異様な光景にみんな恐怖を覚える。
聖女様の胸には大きな剣が刺さっていて、全身にロープが巻かれていた。
その姿はまるで罪人……
うん、僕は聖女様がすごく怖くて、逃げ回っていたんだよね。
王様も公爵様も口をパクパクさせているだけ。
誰もこの状況を理解出来ない。
ううん、僕は少しだけわかった。
この王国で起きている地獄がやっと終わろうとしている。
クリス様の凱旋によって。
クリス様が息を大きく吸って吐いた。そして……聖女様を実験場の壁に投げつけた。
聖女様の身体は真っ直ぐ空を切って、頑丈な壁にぶち当たって……肉片が飛び散った。
――床に落ちた肉片がもぞもぞと蠢く。うわ!? 気持ち悪!
公爵様が叫んだ。
「プ、プリム!!! わ、私の娘がーー!!」
背の高い男が低い声で僕たちに告げた。
「――黙れ」
その声は強制力があるのか、実験場は静まり返ってしまった。
クリス様は令嬢のお手本のような華麗な歩きで、王様と公爵の所へ一歩一歩歩く。
その姿は美しすぎて僕は見惚れてしまった。
みんなも息を飲む。
クリス様が手に持っていた短剣を公爵様に突きつけた。
可憐な声が実験場に響く。
「――あらひさしぶりね、クソジジイ。……ちょっと掃除のじゃまですわ。どいてくださる?」
公爵様はクリス様の迫力に気圧され微動だに出来なかった。
「あ、う、ク、クリス……わ、私は……心配していたんだ……お前が蛮族の国」
「黙って」
クリス様はゆっくりと周りを見渡した。
「――私は帰って来たわ!! この腐った国を潰しに!!!」
次の瞬間、僕の視界は数多の短剣で埋め尽くされてしまった……
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