28 / 41
カインのため息
しおりを挟む帝国にある精霊の泉。
僕はそこで一人で佇んでいた。
清らかな木々の香りが僕を包み込む。
精霊達が僕を祝福しているようだ。
――ギルと遊んでいた毎日を思い出すな……
無愛想に見えて驚くほど優しくて、わがままに見えて周りをすごく気を使っているギル。
子供の頃から……いつ会っても変わらないね。
僕はそんなギルが大好きだよ。
世界で一番大切な友達……。
初めて会ったのは僕がここの世界の年齢で八歳の時だ。
不器用なギルは貴族のパーティーでも友達が出来ずに一人佇んでいた
僕が近づくと、眉をひそめ僕を睨みつけた。
僕は臆することなく、涙をこらえて、軽い調子でギルに話しかけた。
それからあるごとにギルを見つけて、ちょっかいをかけ続けた。やがてギルの周りには段々と人が集まるようになってきた。
――今回の世界ではね……
僕は初めてこの世界に来た時、右も左もわからなかった。
突然荒野に投げ出されて、身体も小さくなっていて、途方にくれていた。
現代人の僕は一瞬で自分の状況を理解した。
『異世界転生!? マジで!? ステータスオープン!』
程なくしてお約束のように野盗が僕に襲いかかった。
『ふん、俺の後ろにいろ!』
その時の事は今でも鮮明に思い出す。
僕と同じ背格好なのに、大きな剣を構えて野盗を退治するギルバード。
――僕は一発で憧れてしまった。
ギルとの楽しい生活はずっと続くと思っていたあの頃。
ギルに鍛えられて徐々に強くなっていく僕。
奴隷になっていたテッド君を救って、三人で過ごした冒険の日々。
そして物語の始まりには必ず終わりがある……
ギルが死ぬ。世界が魔女によって壊される。
そして僕は繰り返す。
何度も何度も何度も何度も繰り返しても変えられない事実。
僕は地面に寝っ転がって星を見た。
地球とは全く違う星の位置。
――今回はいつもと少し違う……。僕がいない状態であそこまで聖女を圧倒できた事なんて無かった。聖女を倒せなかった場合がほとんどだ。しかも封印? わけがわからない?
クリスの出現が早いのか?
テッド君がクリスと出会えるのは奇跡だね。
アリッサとミザリーも仲が良いのも珍しい。……セバスが執事だなんて……ふふ。
ギルはいつも真っ直ぐにクリスを好きになるね……。ちょっと嫉妬しちゃうよ……。
僕の大切な仲間……
それは一番初めに出会ったギルだ。
あの世界に戻れるのなら……僕はどんな事だってする。
もしかしたら破滅を回避したら精霊様にお願いしたらあの世界に戻れたりするのかな?
……心が擦り切れそうだけど、まだだ。僕を助けてくれたギルを救うために……世界を救うために……
――だから……僕は何度だって繰り返す!!
たとえこの世界を裏切ってでも!!!
大好きなギルのために、『転生勇者』の名にかけて!!!!
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる