婚約破棄の無能令嬢 魔力至上主義の王国を追い出されて……

うさこ

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カインのため息

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 帝国にある精霊の泉。
 僕はそこで一人で佇んでいた。

 清らかな木々の香りが僕を包み込む。
 精霊達が僕を祝福しているようだ。

 ――ギルと遊んでいた毎日を思い出すな……

 無愛想に見えて驚くほど優しくて、わがままに見えて周りをすごく気を使っているギル。
 子供の頃から……いつ会っても変わらないね。

 僕はそんなギルが大好きだよ。

 世界で一番大切な友達……。





 初めて会ったのは僕がここの世界の年齢で八歳の時だ。
 不器用なギルは貴族のパーティーでも友達が出来ずに一人佇んでいた
 僕が近づくと、眉をひそめ僕を睨みつけた。

 僕は臆することなく、涙をこらえて、軽い調子でギルに話しかけた。
 それからあるごとにギルを見つけて、ちょっかいをかけ続けた。やがてギルの周りには段々と人が集まるようになってきた。

 ――今回の世界ではね……




 僕は初めてこの世界に来た時、右も左もわからなかった。
 突然荒野に投げ出されて、身体も小さくなっていて、途方にくれていた。
 現代人の僕は一瞬で自分の状況を理解した。

『異世界転生!? マジで!? ステータスオープン!』



 程なくしてお約束のように野盗が僕に襲いかかった。



『ふん、俺の後ろにいろ!』

 その時の事は今でも鮮明に思い出す。
 僕と同じ背格好なのに、大きな剣を構えて野盗を退治するギルバード。

 ――僕は一発で憧れてしまった。

 ギルとの楽しい生活はずっと続くと思っていたあの頃。
 ギルに鍛えられて徐々に強くなっていく僕。
 奴隷になっていたテッド君を救って、三人で過ごした冒険の日々。

 そして物語の始まりには必ず終わりがある……







 ギルが死ぬ。世界が魔女によって壊される。
 そして僕は繰り返す。
 





 何度も何度も何度も何度も繰り返しても変えられない事実。




 僕は地面に寝っ転がって星を見た。
 地球とは全く違う星の位置。

 ――今回はいつもと少し違う……。僕がいない状態であそこまで聖女を圧倒できた事なんて無かった。聖女を倒せなかった場合がほとんどだ。しかも封印? わけがわからない?

 クリスの出現が早いのか? 
 テッド君がクリスと出会えるのは奇跡だね。
 アリッサとミザリーも仲が良いのも珍しい。……セバスが執事だなんて……ふふ。
 ギルはいつも真っ直ぐにクリスを好きになるね……。ちょっと嫉妬しちゃうよ……。


 僕の大切な仲間……
 それは一番初めに出会ったギルだ。
 あの世界に戻れるのなら……僕はどんな事だってする。
 もしかしたら破滅を回避したら精霊様にお願いしたらあの世界に戻れたりするのかな?

 ……心が擦り切れそうだけど、まだだ。僕を助けてくれたギルを救うために……世界を救うために……



 ――だから……僕は何度だって繰り返す!!



 たとえこの世界を裏切ってでも!!!



 大好きなギルのために、『転生勇者』の名にかけて!!!!


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