婚約破棄の無能令嬢 魔力至上主義の王国を追い出されて……

うさこ

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クリスのため息

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 私は自分の部屋で物思い耽っていた。
 ――王国で育った私が、王国に虐げられ、ギル達と出会い、帝国に移り住む。

 ……そして、ギルの告白……婚約……。

 聖女も沈黙させたし、万事順調なはずだ。
 だけど、心の奥底でいつも私に問いかける声がある。

 ――そう言えば防衛している時は必死だったけど、あの時の声は何だったんだろう?

 胸の痛みは無い。
 代わりに声が聞こえる。

(――ギルを守るのよ)

 ――あなたは誰?

(――あなたは私。ただの残滓……)

 ――残滓? ギルを守るって? 誰から? もう脅威は無いでしょ?



 そもそも私に魔力が無い事が発端だった。
 もし少しでも魔力があったら、レオンと結婚させられていた。
 テッドと出会うことが無かった。……ギルとも出会えなかっただろう。

 そもそもなんで私は魔力が無かったの? テッドもそうだけど、貴族で……しかも公爵家で魔力ゼロが産まれ出るなんておかしい。

 私は一体……何者なの?
 本当にギルに愛される資格はあるの?

「はぁ……そんな事考えていてもしかたないわね。……早くギルと結婚式をあげたい……」

 そう、今はそれだけを考えて先に進もう。
 カインの事も忘れて、ギルの事だけを考えましょう……。





 そんな事をベットに寝転がりながら考えていたら、いきなり視界が暗転した。

「え!? な、なに!?」




 私は暗闇から気がつくと知らない場所に立っていた。

 身体がふわふわする。
 まるで夢の世界にいるみたいだ。

 声が出せない。身体が自由に動かない。
 ……見ることしか出来ない。


 ここは王国の広場であった。
 ギルとテッドが私に剣を向けていた。
 足元には聖女の死体とレオンの死体が転がっていた。

『……クリス。俺は……なぜ俺たちは敵同士なんだ……』
『ふふ、どうしようもないわ……ギル……』
『クリスさん……もう終わりにしましゅ……ギル様の言うことを聞いてほしいでしゅ』

 ただお互いを見つめているだけの私とギル。
 その時、何かがギルの胸を貫いた。

『!?』
『ギルーー!!!』

 賢者の杖から伸びた緑の蔦がギルの胸を貫く。
 呆然と立ち尽くす私が叫び声を上げて発狂した。
 そして強大な力が世界を覆い尽くした。




 ――視界が暗転する。



 ここは帝国であった。
 精霊の泉で私とギルが抱きしめ合っていた。

『クリス、俺を信じてくれ』
『ふん、私は誰も信じない……そ、そりゃ、あんたのおかげでどうにかこの国まで逃げられたけどさ……。はぁ……仕方ないわね。私で良ければ好きにしな』

 状況が頭の中へ勝手に入ってくる。

 私は虐げられた中、テッドと出会わず屋敷から抜け出して家出をした。
 そして道中、盗賊に襲われている時にギルと出会う。
 カインはギルの執事として働いていた。

 最後は王国の聖女にギルが殺されて、私が発狂して世界を壊した……




 ――視界が暗転する。



 私は一人で王国を滅ぼした。
 そして、賢者の知恵と私の力を使い、召喚の儀を執り行う。
 世界に召喚者があらわれ、混沌をもたらした。

 私は召喚者の王女として、世界に君臨した。

 私の横には誰もいない。テッドも、ギルも、アリッサも、ミザリーも……。
 そして私の前に立ちはだかるギル……とカイン。

『ギルバード……お前は私の物にならないのか……』
『貴様を成敗する……だが、正気に戻るのなら……』

 ギルに恋しているのに、殺さなきゃいけない立場。
 私は歯を食いしばりながらギルの頭を消し去った。
 悲しみの感情が私を襲い……世界が真っ暗になった。



 ――視界が暗転する。
 ――視界が暗転する。
 ――視界が暗転する。


 何十回繰り返しただろうか?

 私の知らない、私の記憶が流れ込んで来る。
 王国を抜け出した私、王国を滅ぼした私、力に飲み込まれて支配者となった私、ギルと運命的な出会いをする私、王国で自殺する私、王国で惨殺される私……。

 偽物じゃない。これは……記憶だ。

 その記憶の中に必ずいるのが、ギル……そしてカインであった。

 ギルは最後……必ず死ぬ。
 そして私が世界を壊す?

 カインは……こんな狂った世界を何度も繰り返していた……


『大丈夫、俺は最強だよ! 絶対負けないからさ! ギルとクリスちゃんは幸せになってね!』
『……あははっ! 今から話すことは本当の事だよ! 実は……僕、何度もこの世界を繰り返しているんだ!』
『……今回も駄目だったか……どうすれば……ギルを助けられる……』
『この世界は見捨てよう』
『ギルとクリスをあわせないように……駄目だ……どうしても出会ってしまう』
『ははっ……今回で最後だ……クリスを殺せばギルが死なない……』
『クリスちゃんを殺せるハズないよ……悲しむギルを見たくない……最高の答えを探すんだ!!』
『……もういいよ……この世界のギルたちと世界が終わる時までゆっくり……』
『くそっ!! 負けるか!! もしかして……今回は!? ……ああ……あの糞聖女が……ギ、ギル……』


 カインは何度も世界を繰り返していた。
 誰も繰り返しがあった事実を覚えていない。……今、私が気がつくまでは……。
 みんな記憶がリセットされる。
 八歳のとある時に戻される。

 カインは運命に抗っていた。
 まるで物語の主人公のように。カインはこの世界の異物であった。転生者ってなによ?


 ――視界が暗転する。






 目を開けるとそこは、私のベットの上であった。

「……カイン……ギル……」

 頭の整理が追いつかない。
 ……私は理解した。

 この世界は繰り返していると。

 私は小さく呟いた。

「だけどね、カイン。……あなたが一番初めのギルを求めているように、この世界にいるギルはこの世界だけなの……」


 この世界は最悪の選択を免れた世界であった。
 私はテッドと出会い、精神が安定した。
 ギルとカインによって王国から逃げ出せた。
 アリッサとミザリーという大切な友達が出来た。


「カイン、あなたはこれからもこの世界を繰り返そうと思ってるかもしれない……。私がそんな事許さないわ……私はギルと結ばれたいの……だから私が……命をかけても世界を、ギルを救うわ!! ねえ、そうでしょ! カイン!!」


 私は誰もいないはずの部屋で声上げた。


 私の後ろで気配がにじみでる。


「マジで!? 僕以外に記憶が戻ったの!? ……はぁ……クリスちゃん、少し話そうか?」


 久しぶりに見たカインは、見たことがない真剣な眼差しをしていた。


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