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三角関係
しおりを挟む「座っていいかな? 大丈夫、この部屋は隠蔽術がかかっているから誰にも気づかれないよ? ふふ、僕がクリスちゃんと部屋で二人っきりってギルが知ったら……」
「……もういいわよ、隠さなくても。……あなた女の子に興味ないでしょ? フリはいいわ」
「ちぇっ、つまんないの」
カインは幾分疲れた顔で、部屋の中央にある椅子に座った。
私もカインと向かい合って椅子に座る。
部屋には微妙な空気が流れた……
カインから口を開いた。
「はぁ~、こんな展開は初めてだから緊張しちゃうな……。どこから話そうか? うん? 大体知ってるって顔だね? じゃあ、今後のことについて話そうか?」
私は深くため息を吐いた。
そして力任せにカインのほっぺたを平手打ちした。
「ぶはっ!? ちょ、ちょっと!!」
カインは床に叩きつけられる。
少し涙目であった。
「……バカ……あなたは本当にバカよ。カイン、なんでいなくなったの!? ギルが……本当に寂しそうにしているのよ……。――あなたはギルの事を大好きなんでしょ?」
「当然だよ、僕を救ってくれた……大切な……友達。だからこそ、あの場に僕がいたら……ギルが僕を庇って死ぬ可能性があったから……それに裏から聖女の動きを……」
「はぁ? 言い訳はいいわよ! 大好きで大好きでたまらないくせに!」
「…………」
カインは顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。
あの遊び人のカインが恥ずかしがるなんて……初めて見たわ。
「……そうだね、繰り返しの記憶が全部思い出したならわかるもんね。……僕は……ギルの事を……愛している……もちろんクリスちゃんの愛情よりも深いけどね!」
「ぷすーーっ!? カインよりも私のほうが大好きだもん!!」
「残念でしたー、僕のほうがずっとずっと前から好きでした~」
「むかつくわ!!」
絶え間ない言い合いの末、思わず力を使いそうになってしまった!?
「ちょ、使ってるよ!! それは反則だよ!!」
カインは私が放った黒い短剣を受け止めた。
「「はぁはぁはぁはぁ……」」
「やめましょう……」
「うん……時間も無いしね……」
私達は言い争いを止めて落ち着いて話し合う事にした。
カインがどこからともなく、紅茶のセットをテーブルの上に出現させた。
「アイテムスペーサーだよ。何もない空間に荷物を入れられるのさ。何十回と世界を繰り返しているから色々な技を覚えちゃったよ」
私は紅茶をじっと見つめる。
「だ、大丈夫。毒は入ってないよ……」
カインはカップを持ち上げてお茶を口に含んだ。
私もお茶を飲む。……悔しいけど美味しい……。
「ふう……やっと落ち着けたよ。クリスちゃん、なんで繰り返しの記憶が戻ったの?」
「……心の声に従っただけよ。……胸の痛みが消えて……心の中から声が聞こえて……聖女も封印できて、ちゃんと向き合う事にしたの」
「ふーん……じゃあ僕の状況はわかるね? 僕はここじゃない世界から転生した。そして二十四歳だったのが八歳になって生まれ変わった」
私はおとなしく聞くことにした。
カインは続ける。
「初めての世界では生きることに必死だった……ギルと出会わなければ僕はすぐに死んでいたよ」
「……ねえ、あなた何回か死んでるわよね? 自殺もしてるし……」
「ああ、死んでもまた一からやり直し」
「……そう」
「はは、そんな悲しそうな顔しないで! いつも初めに出会うのはギル……それだけが救いだったよ……」
遠い目をしているカインは優しい表情をしていた。
いつもバカみたいな事をして周りの潤滑油として存在していたカイン。
優しい表情の中に悲しみが伝わる。
私は息を吐き出すように言った。
「そして私が世界を壊す……」
「そう。どんな時もクリスちゃんが世界を壊す。そしてどんなときも……その引き金はギルが死んだ時だった」
「……それはわかったわ。あなたが私とギルを合わせないようにしても、絶対出会う……。ねえ、私を殺せなかったの?」
「うーん、何度も殺そうとしたけど、勝てた試しが無かったよ……。瀕死になるといつも覚醒しちゃうんだもん!」
「え、でも私自殺した時もあったわよね?」
「ああ、その時はゾンビとしてギルと対面して……ね……人の心を取り戻して……」
「まって、それ以上聞きたくないわ……」
カインはアイテムスペーサーからお茶菓子を出した。帝国で人気のチーズケーキであった。
「まあまあ、これでも食べて……、話を戻すよ? 僕の最終目的は、ギルを死なせないでこの世界を存続させること。そして……個人的な願いは、一番初めの世界に戻って……一番初めのギルを助けること」
「そんな事できるの?」
「……わからない」
カインの目が決意の眼差しで私を見た。
「でもね、この世界は特別なんだよ。クリスちゃんが乱心してない。……これはテッド君のおかげだね」
「テッド??」
「うん、クリスちゃんとテッド君が出会う事はほとんど無かった。いつも奴隷になってギルが開放していたんだ」
私が無能令嬢だから、ジジイが私にテッドを従者として拾い上げた。
「うん、こうしてクリスちゃんと話している事が異常な状況だ」
「わ、私ってそんなに……」
――でもあの王国の状況が続いていたら……テッドがいなかったら……確かに私は狂っていたかもしれない……
私は盛大にため息を吐いた。
「結局の所、どうすればギルは助かるのかしら? 記憶では……いつも同じ時期に……私が世界を壊しているわ。……あなたの言い方だと、この世界で私がギルと結婚式を挙げる前日よ」
「……ギルの晴れ姿見たかったな。……そうだね、今回は何事も無く終わるのかな? でも……一番最悪なのは召喚者が出ることだからね」
私はふと思い出したことがあった。
「ねえ……聖女が最後呟いていたわ……『主様……カ……』って。あなた何か知ってる?」
「主様、カ? 思いっきり僕が黒幕みたいじゃん!? 違うから! あんな腹黒聖女は二度と見たくないよ! 僕が裏切るって言ったのは、この世界を裏切るって事! あっ」
私は目を細めてカインを見た。
「……はぁ……記憶を遡ると、あなたが初めの世界に固執していることはわかったわ。……認めないけど、まあわからないこともないわ。……じゃあ誰なのかしら?」
「うーん……ギルに敵対する人は……王国と、クリスと、聖女と、召喚者……それだけだったよね……何か抜けているかもしれないから、ちょっと記憶を遡ってみるよ」
「ええ、お願い」
私はお茶を飲もうとしたら、カップは空であった。
「カイン。私はこの世界を存続させたい。ギルを助けたい」
「うん、クリスにとってこの世界が一番大事だもんね」
カインのカップも空であった。
視線が交差する。
「ねえ、裏切るかも知れないけど、僕と手を組まない? ギルを助けたいのはどの世界でも同じ……だから……」
カインは他の世界で私がした行為を思い馳せているのかも知れない。
私もカインが繰り返しの記憶の中、心からギルを守りたい気持ちが痛いほど伝わった。
「ええ、私達はギルを愛している。……それだけで十分よ。一緒にこの世界を乗り越えましょう」
カインが手を出してきた。
握手を求めているようだ。
私はそれに答える。
手をガッチリと握りあう。そこには複雑な感情が渦巻いていた。
「……あなたにはギルを渡さないわよ?」
「ははっ! 僕だって負けないよ!」
私とカインの間に奇妙な連帯感が産まれた……。
握手しながら過去を振り返る。
――あれ? 私……八歳の頃って……何していたの……。
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