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違和感

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 俺は半眼になり瞑想をしている。

 イケメンがなにか喚いていたが聞いていない。



 本気を出す。

 俺は何を言ってるんだ?
 今まで本気を出していなかったのか?

 確かに俺は弱々しく、いじめられていて、ウジウジしていて、それでも人に期待したり……

 なんだ? 
 おかしい?
 それがおれなのか?

 いつも体を襲う倦怠感や頭にモヤがかかる状態じゃない。
 気分爽快!
 いやそのテンションは俺じゃない。
 俺じゃないってなんだ?

 転移してから実時間では数分しかたっていない。
 キャラメイキングからのモンスターパニック告知、戦士たちの乱入。

 多分タブレットが割れた時だ。
 そこから徐々に気分が晴れていく自分がいる。

 心が弱い? 弄られる? いじめ?
 なんでやり返さなかった。
 俺は負けないはずだ。

 そもそもなんで今まで本気を出さなかったんだ?

 親に、師匠に、先生に、幼なじみに、同級生にバカにされ見下され攻撃を受けていた。
 自分はそれが当たり前だと思っていた。
 それは異常なことだ。

 昔に何かあったのか?
 思い出そうとしても記憶があいまいだ。

 良くわからなくても今はいい。

 ただ感動に震えている。
 胸の奥が熱くなってくる。

 身体巣くった何かが少しづついなくなるのを感じる。心が軽い、身体の細部まで力が伝わる。
 憑き物が落ちた。
 まさにそれを体感している。

 俺は強かったんだ……
 身体も心も……
 なんで忘れていた……

 感情が溢れて涙がでてくる。
 灰色だった世界が色づいてくる。


 半眼をカッと見開き俺は感情のおもむくまま叫んだ
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…!! っん、げふ、ごほ……」
 久しぶりに多きな声をだしたら少しむせた……

「生き抜いてやろうじゃねえか! この世界でよ!」


 俺が清く正しく生まれ変わっている間に、戦士たちがクラスメイトを襲いかかっていた。





 どうにか教室に出ようと試みた生徒は、ローブを着た男の杖で殴打されて顔を血だらけにされている。動かなくなるまで杖を何度も振り下ろす。
 弓矢で胸を貫かれ瞬殺される生徒。
 必死に槍で応戦しようとした生徒は、戦士の短剣で槍を切られ腹を切り裂かれていた。

 イケメン君パーティーの姿がない。

 今いるパーティーは2組+俺。
 計11人。男5人+女子5人+俺。

 すでに男が3人死んでいる。

 教室の中を響き渡る悲鳴。
 戦士の男は腰にぶら下げていた手斧を投げた。
 また男が1人死んだ…

 女子は恐怖で固まっている。
 襲われる、奴隷にされる、未知の恐怖に身がすくんで動けない。
 残った男子が女子達の前で、震える手で杖を構えている。

 戦士たちは俺にまだ攻撃をしない。
 なんでだ?

 戦士はニヤニヤしながら俺に語りかけてきた。

「おまえまだいるのか? 逃げなくていいのか? せっかくの生贄だろう?」

 いや意味がわからん。

「女は高く売れるからな……いい取引になる。その前に楽しむがな…… お前もヤッておくか? どうせ童貞だろ」

 女子のほうを見ると

「いや……やめて……」
「助けて、助けて、助けて……」
「あんたが私たちを売ったの! 絶対許さない!」

 俺に対して恐怖、敵意を抱いている。モンスターである戦士と同列にみている。

 杖を抱えた男の子がぶつぶつつぶやいている。

「……殺されるくらいだったら自分で死んでやる……」

 杖から大量の光が発生し、激しい爆発が起きた。

 杖の男子と5人の女子の身体が爆発によって、バラバラになっている。
 無残な死体だけが残った。

 ローブを持った男がなにか言っている。
「あ~あ、自爆魔法持ちかよ。 レベル1だから確か自分が死ぬだけのクズ魔法だったな。 過剰に魔力を込めてたから近くにいた女どもも死んじまったな」

 戦士が机を蹴りながら怒鳴っている。
「くそ、戦利品は無しかよ! 腹立つな……」

「あーもういい、お前も死んでLPよこせや」

 戦士の短剣が恐ろしい速さで俺の胸をめがけて突いてきた。

 胸に当たる瞬間最小限動きで上体をひねり短剣を交わしつつ右手で喉付きをお見舞いした。
 鍛えてある身体でも喉は弱い。
 拳は握らない、手刀で刺す。
 喉を突き破り骨も砕いた。
 目を見開いて崩れる戦士。

 同時に状況を把握する。

 高速で飛んでくる矢を左手で掴む。スナップを効かせて投げ返す。

 弓の男の額に命中した。

 ローブの男の杖から拳大の氷柱のようなものが散弾のように飛んでくる。
 躱し、流し、氷柱の腹を拳で叩き、ローブ男へ近づく。
 かわされて焦ったローブ男は杖で横殴りをする。
 膝を使って上体を落とす。
 頭の上の通過する杖。
 膝を伸ばす。
 上体を上げつつ、ローブ男の腹に拳を突き刺す。
 会心の腹パンだ。
 くの字に折れたローブ男の後頭部に肘打ちを食らわす。
 頭蓋骨が砕ける音を肘に感じる。即死だろう。

 教室が無音になる。
 戦士たちは全滅だ。
 戦闘で血濡れた手を拭き、乱れた制服を直す。

「ふーっ、案外楽勝だったな。 人を殺しても心に来るものがないな……。いや、コイツらモンスターだったか」

「戦える。 道場の連中のほうがよほどバケモンだ……」

「俺は強い。もっと強くなるんだ」

 徐々に死んだクラスメイト達、戦士達が光になって消えていった。

 その時、頭上に電球がついたような、アラーム音のような不思議な音が「ピコーン」と頭の中で鳴り響いた。
 身体から力が湧き上がり、何か超えられない壁を超えた感じがする。

(レベルが3になりました。 詳細はタブレットで確認してください)

「レベルアップ!!」

「ということはモンスターを殺せはレベルは上がる」

「モンスターパニックはボーナスタイムなのか?」

「……狩り尽くすぞ!!」

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