じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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3章 銀の川

2-2

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2-2

「……」

「はぁ、はぁ、あはは。もう、桜下さん。機嫌なおしてくださいよ」

ウィルがお腹を押さえながら言う。息が切れたというよりは、笑いを抑えている喋り方だな。口ではこう言っているが、俺が追いかけたとき一番笑っていたのはこいつだ。幽霊だからって、手の届かない高さでくすくす笑いやがって……

「くっそー!もう一回だ。きっとさっきのは何かの間違いに違いないっ」

『主様。それはやめておいた方がいいかと』

「へ?アニ、どうしてだ?」

『ソウル・カノンは、言葉通り魂の力を使う技。あまり連発しては、主様の魂が弱ってしまいます』

「ま、マジかよ」

弱いうえに、使いづらい……

『それに何度試したところで、結果は変わらないと思います。あれは生身の生物や物質にはあまり効果を発揮しません』

「な、どういうことだ?」

『あれの主成分はやみの魔力ですからね。有効なのは、同じ属性を持つもの……すなわちアンデッドが主になってくるかと』

なんだ、じゃあ結局アンデッドにしか効かないってことか。まあネクロマンサーである俺らしいっちゃあ俺らしいけど……

『ただ、あそこまで威力が出ないとは思いませんでしたが。もしかするとアンデッドにも効かないかも。そよ風程度では……』

「ぷふっ」

「……アニ、そういうのは撃ってみなきゃわからないよな。試しにゴーストへ向けて撃ってみようか?」

「ご、ごめんなさいごめんなさい!もう笑いませんから!ふぅー、ふぅー」

「ったく!もういいよ、時間を無駄にしちまった。早いとこそのなんとか城ってのに行こうぜ」

俺はがちゃがちゃと乱暴に食器をかばんに放り込むと、ずんずん歩き出した。あとからウィルとフランがついてくる。ウィルがおずおずと口を開いた。

「あ、あの、桜下さん。怒ってます?」

「……いいや。なんていうか、ちょっと残念だけどな」

「そうですか。すみません、笑ってしまって」

「いいって。ありゃ俺でも笑うよ。まったく、期待外れだな……」

「そうでしょうか?アニさんの説明を聞いて、私は素敵な力だと思いましたよ」

「ウソだぁ、あれのどこが」

「だって、生き物を傷つけない、優しい技じゃないですか。“殺し”はしないっていう、桜下さんらしい技だと思います」

そうかなぁ。ものは言いようって気もするけど。

「それに、フランさんも嬉しそうでしたよ」

ウィルは声を潜めると、耳元に顔を寄せて囁いた。

「は?フランが?なんで?」

「ほら、私たちに隠れてろって言ったときに。大事にしてくれてるんだなって思ったんじゃないですか?」

「まさかぁ。そっちのほうが信じられないぜ」

「もう、そんなこと言っちゃかわいそうですよ。あの子、けっこうあなたのこと気に入ってますよ、きっと」

ほんとかよ?俺はちらりと後ろを振り返り、フランの様子を盗み見た。フランは相変わらず無表情で少し後ろをついてくる。正直、あんまり好かれてないと思ってるんだけど。けっこうフランが嫌がることもしちゃってるからな、やむなしな状況だったとはいえ。

「……ウィル、その根拠は?」

「ふふん、わかりますよ。おんなじ女の子ですもん」

「うさんくさ……」

「あー!ちょっと、それってどういう意味ですか!」

「だぁってさぁ……」

「まあ、冗談はさておき、フランさんとはちょこっと話しましたからね。お互いのこととか、どうしてこうなったとか……少しですけど」

「へ、いつそんな時間があったんだ?」

「夜の間です。桜下さんが寝ている間、私たちは起きていますから」

あ、なるほどな。アンデッドである二人は眠ることがない。今まではフラン独りぼっちだったけど、今は二人で夜を過ごしているんだな。

「フランはよくしゃべるのか?」

「いえ、あんまり。フランさんは無口ですから……でも私たち、仲良くなれると思いますよ」

実際、ウィルとフランの相性はそこそこのようだった。途中で何度か休憩をした時も、
二人はそれとなく近くにいた。この前ふと気づいたのだが、フランは無口な割に、人のそばにいることを好む。近くにべたべたすり寄ることはないが、人の存在を感じ取れる程度の距離によくいるのだ。
が、といって、だれかれ構わず懐くことはない。コマース村での一件がいい例だ。フランは猟師たちに心を許すことはなかったからな。そのうえでウィルと一緒にいるということは、彼女なりにウィルを認めているということなんだろう。

(よかったな)

やっぱり俺だけだと、どうしても彼女を完璧には分かってあげられないから。ウィルが仲間になってくれてよかった。

起伏の多い高原を歩き続け、昼を過ぎたころになって、俺たちはようやくその城の姿を見ることができた。

「見えますか?あれが、ルエーガー城です……」

ウィルが指をさす。それは、断崖絶壁に建てられた城だった。俺たちが歩いてきた高原地帯に、突如として断層のような険しい崖がそびえたっている。ルエーガー城は、その崖に半ば埋もれるように建てられていた。

「ルエーガー城は、天然の洞窟を利用して建てられた城なんです。外に見えているのは表層だけで、実際はあの奥へさらに、居住区画が続いている……らしいです」

「すごいな……素人目だけどさ、すごい守りが固そうじゃないか?アニはどう思う?」

『そうですね、同意見です。絶壁が天然の城壁として生きていますし、高さも十分。正面切って攻め落とすのは至難の業でしょうが、その立地ゆえに長期間包囲されると弱そうです』

「兵糧攻めか……この城が落とされた時も、それが敗因だったのかな。ウィルは知ってる?」

「いえ、そこまで詳しいことは……それより桜下さん、ほんと~に行くんですか?」

「ここまで来たんだ、挨拶くらいしていこうぜ。その幽霊騎士さまとやらにさ」

崖に沿って、急な坂を上っていく。この上に城の入り口があるらしい。

「ひぃ、はぁ……ここを上るだけでも至難の業だな」

『この上から石を転がされたら、ひとたまりもないでしょう。やはり堅牢な城ですね』

坂を上りきると、ようやく入り口が出迎えてくれた。城の門といっても、こんな立地だからめちゃくちゃ小さい。普通に民家の入り口みたいだ。が、それゆえに、真っ黒な入口が明確に“入るべからず”と示しているように感じてしまう。時折吹く風が、城の中に吸い込まれていく。オオオォォォォ……

「や、や、や、やっぱりやめましょうよぉ!バチが当たりますよ、城荒らしなんて!」

「な、な、なにびびってんだ。ゆ、幽霊くらい、俺がいれば屁でもないぜ」

と言いつつ、なかなか一歩が踏み出せない俺たち。フランがあきれたように言う。

「入らないの?」

「……よし、いこう」

俺たちはゆっくりと、ルエーガー城に足を踏み入れた。


つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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