じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

文字の大きさ
69 / 860
3章 銀の川

3-1 幽霊城

しおりを挟む
3-1 幽霊城

暗黒。光の一寸も刺さない、黒だけが満ちる世界。

「―――マタ何奴カ、城ニ入リ込ンダヨウダナ―――」

鎧は軋み、亡霊たちは新たな同胞の誕生を祝福する……



城の入口からは、細長い廊下が続いていた。やはりというか、かなり狭い。外から見ただけでも、ずいぶんながっ細い城だったからな。面積をとるために、縦に長くせざるを得なかったんだろう。野ざらしにされて長いからか、中は土ぼこりが積もっていて、歩くたびにジャリジャリと鳴った。
やがて廊下を抜けると、小さなホールのようなところに出た。

「う……これは」

ホールは、当時はきっときれいに飾られていたのだろう。豪華な家具や、数々の調度品とか……だがそれらは、すべて無残に破壊しつくされていた。高価なものは根こそぎ持ちだされてしまったのか、残っているのは原型がわからないほど粉々になった家具たちだけだ。

「戦闘の跡、でしょうか……」

ウィルがおびえた声で言う。するとフランが、ある一角を指さした。

「……あれ」

「うわ、これ……血の跡、じゃないか?」

壁一面に、真っ黒なしぶきの跡がこびりついている。あまりに風化しすぎていて、もはや判別はつかないが……

「……どうやらウィルの言ってた伝説は、あながち間違っていなさそうだな」

「や、やっぱりもどりませんか?よくないですよ、こんなの……」

「うん……けど、入ってみて感じたんだけど。ここ、確かに幽霊がいるみたいだ。それも結構いっぱい」

「ひっ。ほんとですか!?」

「ああ……けど、全員浮かばれてない。なんていうか……みんな、悲しんでるみたいなんだ」

「悲しんでる……?」

俺にもはっきりとはわからない。けど、感じるんだ。かつてここで起こった悲しみ、嘆き、痛み……

「もしかしたら、俺たちの知らない、伝説の裏があるのかもな。こんなに強固な城が落とされた理由も、強靭な騎士が倒されたわけも……よし、もう少し調べてみよう。何もなければそれでよし、本当にお宝があればばんばんざいだ」

「うえぇ……」

俺たちはさらに奥へと進んでいく。城の深くへと進むほど、陽の光は届かなくなる。暗いな。ウィルの話では、この城は崖の中まで続いているという。そこへと向かっているってことだろうか。まるで夜になったみたいな暗闇のなかでは、アニの輝きをたよりにするしかない。
やがて壁の一部が、まるで岩肌のようにごつごつしている場所が出てきた。

「うわ、ほんとに洞窟の中みたいだな」

「たぶん、その通りだと思います。洞窟の岩肌をそのまま壁として利用してるんですよ」

「へぇー。ということは、こっからはいよいよ、奥の洞窟部分ってことだな」

ついに最深部ってわけだ。階下へ向かう階段を見つけ、俺たちはしずしずと城の深みへと潜りはじめた。

「……暗いですね。それに、すごく静か……」

ウィルの声が地下の階段にこだまする。半透明なウィルの姿は、薄明りの下ではぼんやりとしか見えない。声までぼやけると、この世のものではないみたいだ。あ、本当にこの世の存在ではないけども。

「こんな場所ですから、静かなのは当たり前ですけれど……なんというか、不気味な静けさみたいな……」

階段に入ってから、空気はじっとりとかび臭く、よどんでいた。さっきまでの地上階は、そうは言っても空気が入れ替わっていたんだろう。くそ、息苦しいな。

「ち、ほんとだな。ウィルたちはアンデッドだからわからないかもしれないけど、ここ、上よりずいぶん寒い。たぶん、この下に“溜まってる”な」

ウィルがごくりとつばを飲み込む音が聞こえた。俺も本当はべそをかきたいくらいだけど、言い出しっぺだし、ここは我慢だ。なぁに、いざとなったら俺の新技、ソウル・カノンをお見舞いしてやろう。けどいざというときに威力不足だなんて、ならないよな……?
階段は洞窟の構造に合わせて作られているのか、うねうねと何度も右に左に折れ曲がった。これ、実際の垂直距離よりかなり長くなってるんじゃないか?下が暗くてよく見えないから、余計にじれったく感じる。だんだん疲労感が増していき、疲れと緊張から額の汗も増していく。俺の気力がそろそろ限界になろうかというとき、唐突に目の前が開け、広い空間が現れた。

「おぉ。はぁー、ようやく下りきったか」

狭い階段ばかりのせいで気持ちどころか息まで詰まっていたようだ。広間に出れて、途端に気分が楽になった。

「広いところに出ましたね。大広間でしょうか……?」

ウィルが辺りを見回す。薄暗い部屋は見通しが悪く、細かな様子は見て取れない。やれやれ、それにしてもずいぶん面倒なつくりの城だな。当時の人たちは毎回あんな長い階段を行ったり来たりしてたのか?

「はぁー疲れた、ちょっと休憩しようぜ」

俺は椅子を探す気力すらなく、床の上にへたり込んだ。ズボンが汚れようが、知るもんか。どっこらせ……
カシャ!

「うひゃ!な、なんだ?」

お尻で何かを踏んづけた。なんか乾いた、炭をつぶしたみたいな音だけど……

「桜下さん、それ……」

ウィルが白い顔で、俺の後ろを指さしている。な、なんだよ、その顔……俺は恐る恐る、自分がつぶしたものを確認してみた。

「これ……骨、か……?」

俺がつぶしてしまったそれは、白い無数の破片に砕けていた。だけどかろうじて残った断片は、人の骨の特徴的な形を残している。おそらく、手の骨だ……だけど骨というには、あまりにももろかったが……

『相当の年月が経っていますね。風化して、ボロボロです。地下の密閉空間のおかげで、かろうじて原形をとどめていたのでしょう』

アニの冷静な分析。相当昔の、人の骨……

「ってことは、この骨、当時城に住んでた人のものか……?」

俺のつぶやきに、ウィルが真っ青な顔でこたえる。

「伝説なら、城の人たちは全員……でもこの骨、おかしいですよ。どうして、手の骨だけ・・が落ちているんですか?」

はっとした。そうだ、本来なら手の先に続くはずの、体がどこにも見当たらない。ありえないだろ、手だけが勝手に歩き回るわけない……その答えは、フランが見つけた。

「あれ。たぶん、あの人のだ」

フランの示した先に、アニの光を向ける。そこには、壁にもたれかかるようにして力尽きた、一体の骸骨が打ち捨てられていた。体に引っかかっているぼろきれは、着ていた服だろうか。もとの形が分からないほど朽ちはてている。その骸骨の右手にあたる部分は、どこにも見当たらなかった。かわりにおびただしい血の跡が残っているだけだ。
フランが淡々とした声で告げる。

「その伝説とやら、どうやら本当みたい。そこらじゅう、むくろだらけだ」

そこらじゅう?俺は嫌な予感を覚えながら、アニの光を部屋中にあててみた。

「うっ……」

「これは……ひどい……」

大広間の中は、一面屍だらけだった。おびただしい数の骸骨。倒れているもの、うずくまっているもの。誰かに覆いかぶさっているもの、家具の下敷きにされているもの。剣を持っているもの、鎧を着ているもの。さっきの骸骨のように、体の一部が欠けているものも少なくなかった。一番多く無くなっていたのは、頭だ。首から上がない骸骨は、他と比べて明らかに多い。

『……どうやらここが、主戦場になったようですね。広い部屋ですし、大規模な戦闘が行われたのでしょう』

「だからって、こんなに……」

「……伝説では、死霊となってよみがえった騎士さまの亡霊は、城にいた人間を残らず切り殺したといいます。まさか、ここが……」

その現場だって、いうのかよ?じゃあやっぱり伝説はその通りで、ここで起こったのは見境のない復讐、ただの大量殺人だったってことなのか?

「……でも、じゃあどうしたってこんなに悲しい気分になるんだ……」

俺は誰にも聞こえないくらい小声で、小さくつぶやいた。恨みや憎しみなら、まだわかる。復讐って、そういうもんだろ。けど、悲しみってのはなんだ?その復讐劇に、悲しい出来事が関係しているのか……

「―――」

「え?」

なんだ、いま、だれか何か言ったか?だがウィルはきょとんとしているし、フランも無表情だ。アニなら、リンと鈴の音が鳴るはず。じゃあ、いったい誰が……?

「あっ……!」

俺は、はっきりと見た。大広間の向こう側、開け放たれた扉の前に。ウィルのように透けて、薄青く光る人影が立っている。まだ若い男だ。その顔に生気は感じられないが、瞳だけは悲しげな光をたたえているように見えた。

「あ、おい。あんた、さっきなにか……」

俺が言い終わる前に、その男はふっと暗がりの中に消えてしまった。なんだ?何かを伝えようとしているのか。

「桜下さん……?どうしたんですか?」

ウィルが不安そうにたずねる。ウィルはあの男に気づかなかったらしい。

「さっき、むこうに男の影が見えたんだ。そいつが何か言った気がしたんだけど、聞き取る前に消えちまった」

「ええ!消えたって、それ幽霊じゃないですか……!」

「たぶんそうだろうな、透けてたし。何かを伝えたがってるんだと思うけど……追いかけてみるか」

「冗談でしょぉ……」



つづく
====================

読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...