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3章 銀の川
3-3
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俺たちは来た道を戻り、城主の部屋の前まで戻ってきた。
「さて、しかしどこへ行ったもんかな。大広間まで戻ってみるか?」
「……ねえ、じゃあ提案なんだけど」
「フラン?どうした」
フランがガントレットのはまった手を挙げると、くいっと親指で後ろを指した。
「ここに来る間に、一本脇道があった。どうせ同じとこに戻るくらいなら、そっちへ行ってみない?」
へぇ、脇道なんて全然気が付かなかった。さすが、夜目がきくな。フランが言った場所まで戻ると、本当に脇道があった。別の区画へ続く廊下らしい。
「よし。行ってみよう」
こちらの廊下は、今までより一回りほど広く作られていた。そのせいか、通路のあちこちで戦闘が行われたらしい。いたるところに、無残に切り殺された……あるいは突き刺された……骸骨が転がっていた。
「……なんだか、嫌な感じがします……」
ウィルが震える声で言った。それは、俺も感じている。この廊下を進むほど、悲しい気がどんどん強くなってくる。しかもそれとは別に、恨みや憎しみのような、胃がもたれる感情も強くなっている気がした。
やがて俺たちは、またも広い空間に出た。さっきの大広間よりは少し狭く感じるが、ここはそこと違って家具などが一切ない。だだっ広い部屋に、じゅうたんとカーテンが取り付けられているだけだ。そして部屋の一番奥には、玉座のようないすが置かれていた。
「ここは……いわゆる、玉座の間ってやつかな?」
『そのようですね。ずいぶんと簡素なつくりではありますが……』
さっきの部屋が城主の寝室みたいなもので、ここが正式な城主のための部屋になるのかな。家具も何にもないし、ずいぶん殺風景だけど。俺たちは部屋に足を踏み入れ、中ほどまで進んでみた。
「うっ……これは……」
ウィルが突然、胸を押さえて苦しそうにうめいた。
「ウィル、どうした!?」
「胸が、つまりそう……息が、できない……」
「息?」
そういえば、確かにこの部屋に入ってから息苦しい。地下の閉鎖空間だからとかじゃなくて、もっと……それに、この息苦しさ、前もどこかで……
「この感じ、懐かしい」
フランがぽつりとつぶやいた。フランもすこし眉根を寄せているが、ウィルほどつらくはなさそうだ。
「フランは、平気なのか?」
「うん。あなたも、感じたことあるでしょ。この空気……あの森と、同じ匂いだ」
あ!そうか、どうりで覚えがあるわけだ。これは、フランと出会った呪いの森と同じ空気だ。
「え、ちょっと待てよ。あの森と同じってことは、この部屋にも呪いの念が満ちているってことじゃないか……?」
「うん。来たよ……この城に巣食う、怨念たちが」
「え」
う、うわあぁぁぁ!
いつの間にか、俺たちの周りを無数の幽霊が取り囲んでいた。どいつも、胸から血を流していたり、腹に剣が刺さっていたり。中には首が取れかかっている者もいた。
「な、なんだこいつら!」
『おそらくホーントです!霊魂系のアンデッドですが、レイスよりたちが悪いです』
アニが早口に解説する。だが俺は、後半の言葉が聞き逃せなかった。
「たちが悪いって、どんな風に!」
『レイスより攻撃的です。生きている人間にむけて、積極的に攻撃を仕掛けます!』
「うわあ、最悪だ!」
霊魂タイプってことは、物理攻撃は効かないな。どうする、一体ずつディストーションハンドを使うか?けど、数が多すぎるぞ!
「うわっ!飛んだっ」
大量のホーントたちは、一斉に浮かび上がると、俺たちの周りをぐるぐると飛び交い始めた。き、気味が悪い。ホーントたちは無数のうわごとをくちずさみ、うわんうわんと雑音のような音を放っている。羽虫の大群に取り囲まれているみたいだ。
「きゃあああ!」
ウィルが悲鳴を上げる。フランも実体のない相手に対しては、文字通り手も足も出せない。くそ、あとは俺がどうにかするしかないが、もうこうなるとソウル・カノンしか択がないぞ!けど、こんなに飛び回る相手に当てられる気がしないし、なにより威力がない!
「えぇい!もうやけっぱちだ!」
一体にでも当たればいい!俺は右手を構えると、やけくそ気味に叫んだ。
「ソウル・カノーン!」
ボシュン!放たれたソウル・カノンは、なんと奇跡的に一体にも当たらなかった。ウソだろ、これだけいれば目をつぶっても当たりそうなのに?ホーントたちを素通りしたカノンは、そのまま飛んで行って、カーテンをふわりと揺らしただけに終わった。
(ああ、終わった……!)
俺の必殺技は、あえなく不発に終わった。もともと不発弾みたいな威力しか出なかったが……しかしそのとき、不思議なことが起きた。
「きゃあぁぁあ!?」
あれほどいたホーントの群れが、突然蜘蛛の子を散らしたようにちりぢりになったのだ。それと同時に、ウィルが突風に飛ばされたかのようにバランスを崩した。俺が慌ててウィルを抱きとめると、ウィルは目を白黒させていた。
「え、え?今、何が起こったんですか?」
「そりゃこっちのセリフだよ。いきなりホーントがいなくなったと思ったら、ウィルが吹き飛ぶし……」
「あ、あれ?なにか、衝撃波みたいなものに押しのけられた気が……?」
衝撃波ぁ?いったい何を言ってるんだ?そんなもの、ちっとも……
ズグン!
「っ!」
なんだ、この気配!?
肌がビリビリする。とてつもなく強い気配が、こっちに近づいてくる。突然様子が変わった俺に、腕の中のウィルが不安そうな顔をした。
「桜下さん……?」
「ウィル、後ろにいてくれ。ウィルが言ってたこと、わかったよ」
俺はゆっくりとウィルから手を放した。なるほど、この気配は衝撃波といってもいいくらいだ。こんなに強い気、あの森でフランと対峙した時以来だぜ。そのフランも、気配を感じ取ったらしい。ゆっくりと立ち上がった……あれ、いつの間にしゃがんでいたんだろう。
「……やばいのが来た」
フランはつぶやくと、両手をかみ合わせて、鉤爪をむき出しにした。
「ああ。なんで今まで気づかなかったんだろう?」
「きっと、今までは眠ってたんだ。けどさっきの騒動で、目を覚ましたんだよ」
「なるほどな」
そのまま眠っていてくれたほうが良かったかもしれない。そう思うくらいの、凶悪な霊気を感じる。やがて俺の耳には、奇妙な音が聞こえてきた。ガシャガシャという……金属がこすれるような音だ。
「……何者ダ?我ガ主ノ城ヲ踏ミ荒ラス輩ハ」
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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俺たちは来た道を戻り、城主の部屋の前まで戻ってきた。
「さて、しかしどこへ行ったもんかな。大広間まで戻ってみるか?」
「……ねえ、じゃあ提案なんだけど」
「フラン?どうした」
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「ここに来る間に、一本脇道があった。どうせ同じとこに戻るくらいなら、そっちへ行ってみない?」
へぇ、脇道なんて全然気が付かなかった。さすが、夜目がきくな。フランが言った場所まで戻ると、本当に脇道があった。別の区画へ続く廊下らしい。
「よし。行ってみよう」
こちらの廊下は、今までより一回りほど広く作られていた。そのせいか、通路のあちこちで戦闘が行われたらしい。いたるところに、無残に切り殺された……あるいは突き刺された……骸骨が転がっていた。
「……なんだか、嫌な感じがします……」
ウィルが震える声で言った。それは、俺も感じている。この廊下を進むほど、悲しい気がどんどん強くなってくる。しかもそれとは別に、恨みや憎しみのような、胃がもたれる感情も強くなっている気がした。
やがて俺たちは、またも広い空間に出た。さっきの大広間よりは少し狭く感じるが、ここはそこと違って家具などが一切ない。だだっ広い部屋に、じゅうたんとカーテンが取り付けられているだけだ。そして部屋の一番奥には、玉座のようないすが置かれていた。
「ここは……いわゆる、玉座の間ってやつかな?」
『そのようですね。ずいぶんと簡素なつくりではありますが……』
さっきの部屋が城主の寝室みたいなもので、ここが正式な城主のための部屋になるのかな。家具も何にもないし、ずいぶん殺風景だけど。俺たちは部屋に足を踏み入れ、中ほどまで進んでみた。
「うっ……これは……」
ウィルが突然、胸を押さえて苦しそうにうめいた。
「ウィル、どうした!?」
「胸が、つまりそう……息が、できない……」
「息?」
そういえば、確かにこの部屋に入ってから息苦しい。地下の閉鎖空間だからとかじゃなくて、もっと……それに、この息苦しさ、前もどこかで……
「この感じ、懐かしい」
フランがぽつりとつぶやいた。フランもすこし眉根を寄せているが、ウィルほどつらくはなさそうだ。
「フランは、平気なのか?」
「うん。あなたも、感じたことあるでしょ。この空気……あの森と、同じ匂いだ」
あ!そうか、どうりで覚えがあるわけだ。これは、フランと出会った呪いの森と同じ空気だ。
「え、ちょっと待てよ。あの森と同じってことは、この部屋にも呪いの念が満ちているってことじゃないか……?」
「うん。来たよ……この城に巣食う、怨念たちが」
「え」
う、うわあぁぁぁ!
いつの間にか、俺たちの周りを無数の幽霊が取り囲んでいた。どいつも、胸から血を流していたり、腹に剣が刺さっていたり。中には首が取れかかっている者もいた。
「な、なんだこいつら!」
『おそらくホーントです!霊魂系のアンデッドですが、レイスよりたちが悪いです』
アニが早口に解説する。だが俺は、後半の言葉が聞き逃せなかった。
「たちが悪いって、どんな風に!」
『レイスより攻撃的です。生きている人間にむけて、積極的に攻撃を仕掛けます!』
「うわあ、最悪だ!」
霊魂タイプってことは、物理攻撃は効かないな。どうする、一体ずつディストーションハンドを使うか?けど、数が多すぎるぞ!
「うわっ!飛んだっ」
大量のホーントたちは、一斉に浮かび上がると、俺たちの周りをぐるぐると飛び交い始めた。き、気味が悪い。ホーントたちは無数のうわごとをくちずさみ、うわんうわんと雑音のような音を放っている。羽虫の大群に取り囲まれているみたいだ。
「きゃあああ!」
ウィルが悲鳴を上げる。フランも実体のない相手に対しては、文字通り手も足も出せない。くそ、あとは俺がどうにかするしかないが、もうこうなるとソウル・カノンしか択がないぞ!けど、こんなに飛び回る相手に当てられる気がしないし、なにより威力がない!
「えぇい!もうやけっぱちだ!」
一体にでも当たればいい!俺は右手を構えると、やけくそ気味に叫んだ。
「ソウル・カノーン!」
ボシュン!放たれたソウル・カノンは、なんと奇跡的に一体にも当たらなかった。ウソだろ、これだけいれば目をつぶっても当たりそうなのに?ホーントたちを素通りしたカノンは、そのまま飛んで行って、カーテンをふわりと揺らしただけに終わった。
(ああ、終わった……!)
俺の必殺技は、あえなく不発に終わった。もともと不発弾みたいな威力しか出なかったが……しかしそのとき、不思議なことが起きた。
「きゃあぁぁあ!?」
あれほどいたホーントの群れが、突然蜘蛛の子を散らしたようにちりぢりになったのだ。それと同時に、ウィルが突風に飛ばされたかのようにバランスを崩した。俺が慌ててウィルを抱きとめると、ウィルは目を白黒させていた。
「え、え?今、何が起こったんですか?」
「そりゃこっちのセリフだよ。いきなりホーントがいなくなったと思ったら、ウィルが吹き飛ぶし……」
「あ、あれ?なにか、衝撃波みたいなものに押しのけられた気が……?」
衝撃波ぁ?いったい何を言ってるんだ?そんなもの、ちっとも……
ズグン!
「っ!」
なんだ、この気配!?
肌がビリビリする。とてつもなく強い気配が、こっちに近づいてくる。突然様子が変わった俺に、腕の中のウィルが不安そうな顔をした。
「桜下さん……?」
「ウィル、後ろにいてくれ。ウィルが言ってたこと、わかったよ」
俺はゆっくりとウィルから手を放した。なるほど、この気配は衝撃波といってもいいくらいだ。こんなに強い気、あの森でフランと対峙した時以来だぜ。そのフランも、気配を感じ取ったらしい。ゆっくりと立ち上がった……あれ、いつの間にしゃがんでいたんだろう。
「……やばいのが来た」
フランはつぶやくと、両手をかみ合わせて、鉤爪をむき出しにした。
「ああ。なんで今まで気づかなかったんだろう?」
「きっと、今までは眠ってたんだ。けどさっきの騒動で、目を覚ましたんだよ」
「なるほどな」
そのまま眠っていてくれたほうが良かったかもしれない。そう思うくらいの、凶悪な霊気を感じる。やがて俺の耳には、奇妙な音が聞こえてきた。ガシャガシャという……金属がこすれるような音だ。
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