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3章 銀の川

4-1 城を守りし者

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4-1 城を守りし者



そいつは、俺たちが入ってきた入口から現れた。鎧だ……全身鎧姿の男が、がしゃがしゃと音を立てながらやって来る。男だと言うのは声でわかった。だって、そいつの顔は見えなかったからな。正確には、無いんだ。そこには兜も、その下にあるはずの顔もない。その鎧の首から上は、ただ虚ろな闇がぽっかりと空いているだけだった。

「首なしの騎士か……こいつが、その伝説の幽霊騎士ってやつらしいな」

俺は額の冷や汗をぬぐうと、にやりと笑った。こいつは、想像以上に強そうだぜ。だがそのぶん、仲間にし甲斐もあるってことだ。俺はその鎧を注意深く観察した。そいつの手には、巨大な金属の板が握られている。ずいぶんでかいな、長方形のサーフボードみたいだ。盾にでも使うのか?

「……ヌ?ウヌラ、何奴ダ。人間カ?」

首なし騎士は、壮年の男の声でしゃべる。口もないのに、どっからだしてるんだ?そいつの声は、空っぽの鎧の中から響いてくるようだった。俺はとりあえず、質問に返す。

「ああ。俺は、人間だ。けど、一人はゾンビで、一人は幽霊だ……」

くそ、声が小さくなっちまった。ビビってると思われたかな。話ができるのならば、交渉のしようもあると思うんだけれど。

「フム。貴様モ人間ニシテハ、妙ナ気ヲシテイル。城ニ忍ビ込ムヨウナ輩ダ、ろくナ人間デハ無イト思ッテイタガ」

「へへ。少し訳ありでね……そういうあんたは、いったい何者なんだ?」

「ソレハ知ラナクテモヨイ」

へ?首なし騎士は持っていた盾を担ぎ上げると、大きく一歩踏み出した。

「貴様ハ、ココデ死ヌノダカラ」

「っ!ふせて!」

どわ!フランに蹴飛ばされて、俺は尻もちをついた。と同時に、頭のすぐ上を何かが掠めていった。

「な、なんだこれ」

俺のすぐ頭上に迫っていたのは、首なし騎士の盾……いや、これ盾じゃない!とんでもなく巨大な大剣だ!やつの剣はどでかい長方形をしていて、端っこがカミソリのようにとがっている。それをこちらに突き出したんだ。

「このっ!」

フランが鉤爪を抜いて大剣をはじき飛ばす。首なし騎士は、自分の背丈ほどもあるその剣を、軽々と担ぎなおした。

「フン。ゴミ虫メ、吾輩の剣ヲ退ケルカ」

あ、危ないところだった。フランがいなかったら、今ごろ俺の頭は胴体に別れを告げていただろう。フランが俺に下がるように指示する。

「危ないから、下がってて。あいつの剣、とんでもないリーチだ」

「ああ。くそ、話し合いじゃ済まなそうだな。フラン、気を付けろ」

「分かってる!」

フランが首なし騎士に向かって飛び込んでいく。

「ゴミ虫ガ、命知ラズヨ」

首なし騎士は、余裕たっぷりにフランを待ち構えている。だが、その油断が命取りだ。フランの鉤爪をくらったら、無事じゃ済まないぞ。

「ああぁ!」

フランが鉤爪を振り下ろす。それに合わせて、首なし騎士は大剣を盾のように構えた。ガキン!

「なに!?」

弾かれた!フランの、爪が!?信じられない、岩すらぶった切るんだぞ!

「ドウシタ。アダマンタイト製ノ剣ヲ見ルノハ初メテカ?」

アダマンタイト?似たような名前を、前の世界でも聞いたことがあるぞ。スーパーヒーローが使ってなかったか、両手から爪を生やすやつ。っておい、うそだろ、あれと同じ金属だってことか?

「くっ!」

フランは大剣には強度で勝てないと分かると、猛スピードでやつの側面へ回り込んだ。そうか、剣には勝てなくても、本体の鎧ならいけるかもしれない。ガードさせないよう、スピードを生かして電撃戦にもつれこませる気だな。

「ふっ!」

フランが首なし騎士のふところにもぐりこんだ。よし、いける!

「狙イハヨイ。ガ」

え?な、なに?首なし騎士は、一歩だけ後ろに下がった。それだけ、たったそれだけで、フランの鉤爪はむなしく宙を裂く。それだけじゃない。飛び込んだフランは、無防備な姿を騎士の前にさらす形になった。

「マダ青イ」

バツン!

「ぐぅ!」

うお、フランがこっちに背中を向けてぶっ飛んできた!俺はフランを抱きとめ、その勢いでどすんと尻もちをついた。あの騎士、何しやがった?早すぎて何も見えなかった。

「フラン、大丈夫か!?」

「く……」

ドサ!そのとき突然、俺のすぐ横に何かが落ちてきた。なんだこれ。革製の手袋みたいなものから、ひょろっとした白いものが生えている……後ろでウィルが、息をのむ音が聞こえた。

「え……」

これ……これって……フランの・・・・右腕・・だ。

「……ッッ!!フランセスッ!」

「……大丈夫。ゾンビは痛みも感じないって、言ったでしょ」

フランは苦々しげに唇をかむと、俺の腕の中から起き上がった。ほ、ほんとに大丈夫なのか?

「くそ、やられた……ごめん」

「な、なんで謝るんだよ」

「だって、わたし以上に戦える人がいないでしょ。そのわたしが腕を落とされるんなら、もう逃げるしかない」

あ、そ、そうか。フランが勝てない相手に、どうやって勝てばいいんだ。



「……三十六計逃げるに如かずだな。ウィル!」

「わかってます!」

俺が言うよりも早く、ウィルは杖を両手で握ると、呪文を唱え始めていた。魔法であの騎士の隙を作ってもらって、その間に逃げ出す寸法だ。

「ム、魔術師カ」

首なし騎士は大剣を担ぐと、こちらへ歩き出した。あいつ、ウィルが見えてるのか?同じ幽霊だから、もしかしたら幽霊に攻撃する手段も持っているかもしれない。

「くそ、時間を稼がないと……!」

だが、やつにうかつに近寄れば首を跳ね飛ばされてしまう。ちぃ、俺の剣が役に立つわけないし、そのへんの瓦礫でも投げつけてやろうか?その時、俺の視界の端に何かが映った。青白くて、ふわふわしてる……これ、幽霊か?にしては、おぼろげな……思念の塊みたいだ。もしかして、さっきのホーントの“かけら”みたいなもんだろうか。

「けどラッキーだ!このさい、なんでもいい!」

俺はホーントのかけらに駆け寄ると、それに右手で触れた。

「ディストーションハンド!」

かけらはぽっと桜色に色づく。俺はそれを掴むと、思い切り振りかぶった。

「くらえ!幽霊アターック!」

ホーントのかけらは、首なし騎士にぼふんと当たると、そのまわりをぐるぐる飛び回った。

「ムッ……コレハ……!?」

首なし騎士の動きが止まった!その隙に、ウィルはよどみなく呪文を唱え終わった。

「フレイムパイン!」

ズゴゴゴ!地面から太い木の柱がせり出してきて、首なし騎士を取り囲んだ。

「フン。コンナ小細工……」

だが次の瞬間、木の柱はゴォっと音を立てて燃え始めた。すごい、炎の檻だ。

「桜下さん、今のうちに!そんなに長くはもちません!」

「あ、おう!フラン、逃げるぞ!」

俺はフランの腕を肩に担ぐと、一目散に走り出した。炎の檻の中では、首なし騎士が切り付けているのか、柱がガタガタと揺れている。その度に雨のような火の粉が舞い、逃げる俺の首筋をチリチリ焦がした。

「うおお!はしれはしれー!」


つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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