じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

文字の大きさ
101 / 860
4章 それぞれの明日

2-3

しおりを挟む
2-3

「あいたぁ~……」

クリスは涙目になって小さなお尻をさすっている。とりあえず手を貸してやろうとしたその時、店の奥から、どすどすと大きな足音が近づいてきた。

「なんだなんだ、でけぇ音がしたぞ!?」

うわ、すごい大男が出てきた!天井に頭をぶつけるんじゃないかというほど背の高い中年の親父が、手に棍棒のようなめん棒を握ってこちらにやって来る。

「んん?」

親父は太い眉毛をぎょろりと動かし、床に倒れたクリスと、俺たちとを交互に見た。あ、やばい。これはまた誤解されるパターンじゃ……

「あ、あの!俺たちは、別に怪しいものじゃ……」

「すまない、お客さん方!またウチのがドジ踏んだみてぇで……」

へ?親父は筋骨隆々の背中をがばっと丸めて、勢い良く謝罪した。俺がぽかんとしていると、親父は床に尻もちをついたままのクリスをギロリと睨んだ。

「クリス!いつまで床に寝てるんだ!とっとと起きないか、お客さんの前で」

「ふひゃ!ご、ごめんなさいお客さま!」

クリスはぴょんと飛び起きると、ペコペコと頭を下げた。親父は後頭部に手をやって、はぁとため息をついた。

「ったく、この娘ときたらいつまでもこの調子で。申し訳ねぇ、お客さん。驚かれたとは思うが、これでもこいつはウチの看板娘なんだ。ちょいとどんくさいが、宿のクオリティを落とすほどじゃねぇはずだ。安心して泊って行ってくださいよ」

「は、はぁ……」

とは言われても……ほんとに大丈夫かな?俺はエラゼムにいぶかしげな視線を送ると、エラゼムはしどろもどろに手をあたふたさせた。

(百年前は、このようなことはなかったのですが……)

(ホントかぁ?)

とはいえ、親父は外見こそゴツイにしても、案外話が分かる人のようだ。外もいよいよ暗くなってきたし、またいちいち歩き回るのも面倒だ。

「じゃあ、チェックインをお願いしようかな」

「そうこなくっちゃ!ほら、クリス!こっからはきちんとできるだろ。お客さんをお待たせすんじゃねえ」

「は、はい!おきゃくちゃ……お客さま、どうぞこちらへ!」

クリスは甘噛みをごまかす様に、ぱたぱたとカウンターへ回った。親父はそれを見てため息をつくと、ぺこりと俺たちに会釈して、また店の奥へ戻っていった。

「えっと、お客さまは三名ですね。お部屋はいかがしますか?」

ふむ、部屋割りか。さて、前はフランと同じ部屋にしたけど、今回はどうしようかな。ベッドが必要なのは俺だけだけど、一部屋に全員ってのも……

「桜下殿。ここは一部屋でよろしいのでは?」

「エラゼム。けど、いいのか?」

「我々はその気になれば、のっぱらでも不自由ないですから。実は夜の間に、ウィル嬢とフラン嬢と話し合ったのです。桜下殿が不快でなければ、今後の経費削減のためにも、宿は一部屋でよいのでは、と」

俺が寝ている間、そんなことを話していたのか。けど経費削減、という響きは魅力的だ。

「えっと、じゃあクリス。一部屋で頼めるかな」

「一部屋ですね……ちょっと狭いかもしれないですけど、よろしいですか?」

「ああ。どうせベッドの数は足りるだろうから」

「はぃ……?えっと、かしこまりました。それと、お夕飯はどうしますか?ここでもいいですし、お外で食べることもできますけど……」

「ん~……じゃあ、俺だけもらおうかな。ほかの仲間は、えー……もう済ませてきたんだ」

「わかりました。えっと、一部屋で一食だから……前払いで、三十五セーファになります」

「あいよ。えーっと」

俺はカバンからコインの入った巾着財布を取り出し……待った、なんだセーファって?この国の単位か?固まった俺を見て、クリスが不思議そうに首をかしげている。エラゼムが、小声で教えてくれた。

「桜下殿。銀貨一枚が十セーファで、銅貨一枚が一セーファです」

「おお、なるほど……」

俺は巾着から銀貨を四枚取り出して、クリスに差し出した。

「はい、確かに。では、お釣り五セーファのお返しです」

クリスから銅色のコインを五枚受け取る。うん、買い物の前に、いい予行演習ができたな。

「あと、こちらがお部屋のカギになります。お部屋は二階にありますので……お夕飯は、すぐにお召し上がりになりますか?」

「ん~、じゃあそうしようかな」

「わかりました。じゃあすぐ支度するように、おと……じゃなくて、コックに伝えておきますね」

俺はうなずき、クリスから鍵を受け取ると、部屋があるという二階に上がった。部屋はなかなかに手狭で、大きなベッドが二つ置かれると、もうほとんど隙間は無いくらいだった。

「ほほー、もうほとんど寝るだけの宿って感じだな」

俺はカバンと剣を放り投げると、ベッドにぼすんと腰かけた。木枠がぎぃっときしむ。ウィルが杖を立てかけながら言った。

「けど、一食付きで三十五セーファは格安だと思いますよ。よく百年も持ちましたね」

「まあでも、いやな古臭さじゃないかな。掃除もされてるみたいだし。エラゼムが落ち着くって言ってたのもわかるよ」

「そう言っていただけると……推薦したのがあだになるのではと冷や冷やしました」

あはは……クリスも親父さんも、悪い人じゃなさそうなんだけどな。

「さて、ウィル?体調が大丈夫なら、俺は下にメシ食いに行ってくるけど……」

「あ、はい。もうすっかり本調子です。それにこんな小さな宿なら、人もそれほど多くないでしょうしね」

「そっか。じゃあ、いっしょに下行くか?」

「ええ。お宿の料理には興味あります。都会の料理は、やっぱりおしゃれなのかしら……」


つづく
====================

読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...