じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

文字の大きさ
139 / 860
5章 幸せの形

5-1 少女の行方

しおりを挟む
5-1 少女の行方

「ん。あんたたち、昨日はよく眠れなかったみたいだね?」

翌朝、俺たちがカウンターまで出ていくと、ミシェルがあいさつもそこそこに声をかけてきた。

「ふぁ~……そのとおりだよ。なんでわかったんだ?」

「くくく。この店は、屋根が薄いからね。大雨が降った日の翌朝は、みーんなそうなるのさ」

わかってるんだったら、どうにかしてくれよ……と言ったところで、このおばさんは聞く耳なんか持たないだろう。

「今も降ってるけど、これくらいの雨だったら、夜には止んでるだろ。今夜はクエストに出てもらうよ。あんたたち、怖気づいちゃいないだろうね?」

「おう。日が沈む前に、ここに戻ってくりゃいいんだよな?」

「そうだよ。どっかでかけるのかい?」

「ああ。昨日教えてもらった、旧市街ってとこに行ってこようかと思ってさ」

今日の予定は、日中はハクに頼まれた赤髪少女の捜索のつもりだった。俺たちもあんまりのんびりはしていられないからな、今日中に片をつけたいところだ。

「……ああ、あそこに行くつもりかい」

「うん。町はずれにあるっていってたよな?」

「そうだよ。この店を出て、ずーっと道なりに進みゃあ、入り口が見えてくるはずさ」

「わかった。そんじゃあ、行ってくるな」

俺はミシェルにひらひらと手を振ると(ミシェルは俺を無視した……)、扉を開けて宿の外に出た。外はまだ曇っていて、ずいぶん弱まったが、まだ小雨が降っている。長引く雨だな、夜には止んでいるといいんだけど。俺たちは水たまりでぬかるむ通りを歩きながら、村のはずれにあるという旧市街を目指した。

旧市街とやらがある村はずれは、宿からずいぶん距離があった。そりゃ村はずれなんだから当たり前なんだけど、下手すると同じ村とは思えないくらいで、小さな別の村があるみたいだ。
そして俺たちは、旧市街への入口を見つけるのにもかなり苦労した。べつに入り組んだ場所にあるわけじゃないんだ。ただ、それが人の住む場所だと気づかなくて、二度も通り過ぎてしまっただけで。

「これは……名前から多少はそんな予感がしてたけど、それよりすごいな……」

そこは、どう見ても廃墟にしか見えない……貧民窟スラムだった。まともな屋根がある家は一つもない。目に入る全ての家は潰れているか、半壊していた。あとは申し訳程度に木の板を組み合わせた家?や、汚い布きれを継ぎ合わせたテントすら見える。俺は小さなころに作った秘密基地を思い出していた。違いは、そこがれっきとした家であり、人が暮らしているということだ……

「桜下さん……ここで聞き込みをするんですか?」

ウィルはすぐ目の前のがれきの山を見ながら、こわごわ言う。

「ま、まあちょっとおっかないけどな。ミシェルがすすめてくれたんだから、大丈夫じゃないか?それにほら、ハクが女の子は村はずれに住んでたって言ってたし……」

俺たちは……というか俺とウィルは、なるべく仲間のそばに固まって、おそるおそるスラムの中へ入っていった。ウィルが怖がって(幽霊のくせに)俺のすぐそばまで近寄るもんだから、俺はずっと左の肩がひんやりしていた。
スラムの廃墟たちは、相当の年月を感じさせるものだった。外壁は崩れ、屋根板は腐り、雑草が生い茂る。それでも、基礎があるだけマシなようだ。ここに住む人たちの多くは、廃屋をぼろ布や廃材を使って“繕って”いた。
ところで廃墟の中には、巨大な施設、だったらしい建物の残骸まであった。今は壁だけ残して完全にぺしゃんこになっているが……

「当時は、いまよりよっぽど立派な村だったらしいな。人も家もたくさんあったんだ……」

「それがどうして、こんなことに……それに、おかしくないですか?」

「何が?」

「だってさっきから、お家はあっても、誰とも出会わないじゃないですか」

そうなんだよな。みんな出かけているのか?それとも、崩れかけの屋根の中から、俺たちの様子をじっとうかがっているのか……道中で見かけたのはやせ細った野良犬だけだった。犬は見慣れない訪問者にワンと一声吠え、俺とウィルは飛び上がった。

「ん……」

ふと、フランが足を止めた。

「フラン?」

「なんか、こげくさい。こっち……」

フランは鼻をクンクンさせて、ひっくりかえったトロッコと廃屋の間をすり抜けて行ってしまった。俺たちは顔を見合わせて、フランの後に続く。廃屋の隙間を抜けたその先は空き地になっていた。大きく枝を茂らせた背の高い木が一本生えていて、その根元で何人かが火を焚いて囲んで座っている。フランがかぎつけたのは、このにおいか。

「……!」

向こうが俺たちに気づいた。白髪の老婆と、やせ細った体にぼろ布の眼帯をまいた男と、小柄な男の子の三人組だった。三人は俺たちを見て、というかエラゼムの鎧を見て目を丸くしている。

「あー、えーっと。こんにちは」

俺はとりあえずあいさつしたが、向こうはいぶかしげにこちらを見るだけで、何も返さない。こ、困ったな。

「あー、俺たちもそっちに入っていいかな。この雨だろ、雨宿りしたくてさ」

俺がそういうと、男の子はさっと立ち上がり、老婆の後ろに隠れてしまった。しかしそのおかげで、火の近くにはスペースができた。ここに来い、と受け取ってもいいだろうか。

「ありがとう」

俺たちが近づいても、老婆たちは文句を言わなかった。焚き火の一角に腰を下ろす。そのすぐそばにフランも座った。エラゼムは自分が警戒されているとわかっているのか、俺たちよりもずいぶん離れた場所で片膝をついた。

「長い雨だな。ここの木は傘みたいになってて、すてきな雨宿り場所だ」

「……」

「あー……俺たち、昨日この村に来たばかりなんだよ。すぐそこの宿に泊まってるんだ、ほら、あのミシェルおばさんのいる」

老婆は眼だけでうなずいた。リアクションは薄いが、話を聞いてくれてはいるらしい。それじゃあ本題に入ろう。

「それで、ここに来た目的なんだけど。俺たち、ある人に会ってみたいんだ。おばさんに聞いたら、ここの人たちなら話を聞いてくれるだろうって。こんな子を知らないかな?赤い髪の女の子で、お母さんとお兄さんの三人家族、名前はえっと確か……ライラっていうんだ」

ライラ、といった瞬間、ぼんやりしていた眼帯男の体が、ぴくっと揺れた。

「もしかして、知ってるのか?たぶん俺と同い年かそこいらなんだけど」

「……」

しかし、眼帯男は何もしゃべらない。それどころか、下を向いて俺の目を見ないようにした。

「……なんでなんじゃ?」

老婆が、初めて口をきいた。しわがれ、つぶれたような声だ。

「理由か?えっと、その子は、俺たちの知り合いの友達なんだ。そいつから、その子を訪ねてみてほしいって頼まれたんだよ」

「訪ねてどうする?」

「え?そりゃ、世間話したりとか……最近元気か?とか……様子を見て、その友達に伝えてやりたいんだ」

「……」

老婆はむっつり黙り込んでしまった。まるで俺の腹の底を探りかねているようだ。

「……その子は、もういない」

「え?いない?」

「いなくなったのじゃ。わしらの知るところじゃない」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ。どこかに引っ越したってことか?この村にはもういないの?」

「さあ。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。わしは知らん」

「……」

うそだ。俺は直感的に思った。この老婆はぜったい何か知っている、俺はそう思えてならなかったが、老婆はそれきり頑として口を開こうとはしなかった。眼帯男のほうも、うつむいてこちらを見ようとしない。男の子は老婆の背中に隠れたままだった……これ以上は、無理か。

「そっか……わかった。ありがとな、話を聞いてくれて。ほかにも知ってる人がいないか当たってみるよ」

俺は立ち上がった。フランとエラゼムも続く。老婆は何も言わなかった。



つづく
====================

読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...