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5章 幸せの形
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「で、実際どうなんだ?思い当たる節は」
俺はフランにたずねた。
「……うがって考えてみれば、だけど」
フランは前置きしたうえで続ける。
「女の子のことを隠したがってるのは、それがただの引越しなんかじゃなかったから」
「じゃあ、この村を出てったわけじゃないかもしれないって?」
「例えば、追い出された、とか。でも、そんなの隠す必要ないでしょ」
「じゃあ、もっとヤバいこと……」
「しかも、人には言いづらいこと。人が姿を消す理由で、言い難いことって言ったら……」
「……死んだ……殺された?いやいや、でも待て。ここの墓場にライラの名前はない!今確認したばっかじゃないか!」
そこでエラゼムが、言い難い考えを出すような、慎重な声で口を開いた。
「……フラン嬢の推理に沿って考えてみましょうか。もし村全体が少女の死を隠そうとしたのであれば、わざわざ墓など建てるでしょうか」
「あ……」
「そこへさらに、この村の背景事情も足し合わせます。つまり、この村では仕事に乏しく、貧困層は過酷な炭鉱での仕事に従事するしかなかった。村は幼い子を抱える母親を助けず、それどころか子どもごと炭鉱へ追いやった。結果、事故が起き、少女の一家は全滅してしまった……」
俺の脳裏に、あの廃炭鉱で見た粗末な木の墓が浮かび上がった。あそこにまとめて埋められてしまえば、誰かなんて分かりようがない……
「これはあくまでも推測です。が、村ぐるみでろくな仕事を与えず、それを見て見ぬふりをしたのであれば、村が殺したも同然です。そして村は責任を追及されることを恐れ、少女たちの死を無かった事にした」
「……もし本当だったら胸糞の悪い話だけど、今んとこそれが、一番あり得そうなのがしゃくなところだな。ちくしょう」
「そうですな。正直、村全体が貧しく、一家を支えられなかったという話ならば、彼らを責めるのもどうかとも思えるのですが。しかしあの酒場の繁盛っぷりと、その死を隠そうとした点を考慮すると……村に咎があることは疑いようがないでしょう」
飛び交う死の話題に、ウィルが暗い顔で言う。
「そんなことが、本当に……けど、それでしたら女の子のお墓すら、見つけようがなくないですか?」
「いや。もしそうなら、墓中の死者に聴き込んでやるよ。俺の能力なら、それができる」
骸骨が怖いなんて、いまさら言ってられるか。土の中に押し込められて、なかったことにされるなんて……人間がそんな扱いをされちゃいけないだろ。そんなひどい話があったのなら、きちんと真相を明らかにしなきゃいけない。
「となると、怪しいのはやっぱりあの炭鉱跡の墓地だよな。あそこなら身元不明で誰かを埋葬するのにぴったりだ。ミシェルのとこに戻る前に、あそこに寄ってみよう」
砂時計はもうわずかも残っていないし、そろそろ引き上げてもいいだろう。俺たちは手早く荷物をまとめて、撤収の準備を始めた。砂時計をカバンに押し込み、焚き火を踏みつけて消す。あっという間に夜の闇が迫ってきた。
「あれ?」
俺はそのとき、あたりの風景が、来た当初より良く見えることに気付いた。変だな、もう火は消したはずなのに……少し考えると、その理由にたどり着いた。
「あ……月か」
ゆがんだ楕円形をした黄色い月が、森の木々の黒いシルエットの先っちょに、かろうじてへばりついている。いつの間にか雲が晴れていたんだな。その弱い明りが、あたりを照らしているんだ。
ざわわ……ざわわ……
木々がわななき、枝葉が揺れる。夜の主役が現れたことで、森全体が騒いでいるみたいだな。そのお月様はようやくのお出ましのようだけど、残念ながらもう沈む寸前だ。あと数分もすれば、森の陰に隠れて、姿を消してしまうだろう。あ、そう考えるとあの砂時計、けっこう正確だったんだなぁ……俺は、そんなのんきなことを考えていた。
「…………っ!」
瞬間、ぶわっと鳥肌が立った。空気に不気味な気配が紛れ込み、それをスプレーで俺の皮膚にぺったりとくっつけたようだ。
「桜下殿……!」
エラゼムがさっと剣を構える。気配を感じ取ったのは、俺だけではないらしいと、みんなの顔色を見て悟った。この独特の感覚は、前にルエーガー城でエラゼムと対面したとき以来だ。
「お……桜下さん。私、気づいちゃったんですけど……」
震える声で、ウィルがある一点を指さす。その先には……欠けた月が、浮かんでいた。
「月がどうした?」
「あの、ミシェルさんが言ってたじゃないですか。今夜は月が出てないから、化け物は出てこないだろうって。怪物は月が出ている時間しか、墓場に現れないって」
「ああ。だから今夜は、グールの襲撃はなかったじゃないか。月ももう沈むし……」
「いいえ!ギリギリですけど、まだ浮かんでいます!今はまだ、“月が出ている時間”なんですよ!」
おっと、ウィルのいう通りじゃないか。つまり今は、かろうじてグール出現の条件を満たした状態ってことなのか。最後の最後で……
『主様!十時の方角、森の中です!』
アニが鋭く叫ぶと、細い光を森に向かって照射した。スポットライトに照らされたように、森の一角が浮かび上がる。そこに一瞬、小さな人影のようなものがうつった。
「今の……!」
そいつはすぐに木の陰に隠れたが、俺はそいつの浅黒い腕を見逃さなかった。どう考えても人間のそれじゃない。
「最後の最後でお出ましみたいだな、ちっ!」
噂のグールがついに現れたんだ!フランとエラゼムが警戒態勢に入り、ウィルは上空に浮かび上がって、いつでも魔法を唱えられるように構える。
「相手も魔法を使うっていうし、下手に刺激しないほうがいいよな。フラン、聞いてたか?突っ込むなよ」
俺はいまにも駆け出しそうなフランに注意したが、いまいち聞いてるのか怪しい。爪を抜き、ついでに歯も剥いている。
「~~~~!」
んん?今、叫び声みたいな音が聞こえて……次の瞬間だった。
シュゴウ!真っ赤に燃える火の玉が空中に浮かび上がり、かと思うとこっちに向かって飛んできたじゃないか!
「う、おおぉ!?ウィル、おすわり!」
「え?きゃあ!」
俺が咄嗟に叫ぶと、ウィルは空中で足を正座の形に折りたたみ、ぼてっと地面に落ちた。その一瞬後には、ウィルが直前までいた空間を、紅蓮の火の玉が突き抜けていった。火の玉は地面にぶち当たり、着弾地点は轟音と共に吹っ飛んだ。ズガガガガーン!
「わ、あ、あわわ……」
「あのヤロウ、ウィルを狙ってきた!ウィルが見えてるんだ!」
『主様、じき二弾目が来ます!魔法を使う隙を与えてはいけません、その前に本体を叩かないと!』
「くそ、わかった!フラン、頼めるか!?」
「言われるまでも!」
フランが飛び出し、火の玉の飛んできた方角へ一直線に突っ込んでいく。だがそれと入れ違いになる様なタイミングで、俺たちの方へ地面がもこもこと隆起しながら迫ってきた。まるで土の中をなにかが移動しているみたいだ。
「桜下殿!」
エラゼムが俺を庇うように剣を構える。隆起した地面は俺たちの数歩手前で止まると、突然土を噴き上げて爆発した。
「うわっ!いてて、目に砂が……」
「桜下殿、お気を付けなされ!“やつ”です!」
俺は目をぬぐうと、涙目で前を見た。土の中から、もじゃもじゃの体毛を振りみだしたグールが飛び出してきたところだった。まるでほうき草を頭に乗っけているみたいだ。屍から奪ったのか、体には薄汚れたマントを身に着けている。かなり小柄で、人間の子どもくらいの体格だった。
「退がれ、痴れ者が……!」
エラゼムが大剣を盾のように構え、グールへと突き出す。しかしグールは剣がぶつかる瞬間、両手をかみ合わせて大声で叫んだ。
「エアロフテラ!」
ビュゴオオォォォ!
グールが突き出した薄黒い拳から、とてつもない暴風が吹きだした。
「ぬぅお……!」「うわあ!」
強風にあおられて、俺はなすすべなく地面に打ち倒された。ガシャアンとエラゼムが倒れる音と、ウィルが悲鳴を上げる声が聞こえる。俺は起き上がろうと必死にもがいたが、逆に風に足元をすくわれ、ゴロゴロと転がった。ぐわ、地面が空に、空が地面にあるぞ?
「あイタ!」
ガツンと、頭に鈍い痛みが走る。顔をしかめながら目を凝らすと、大きな砂時計が映り込んだ。これに頭をぶつけたのか?よく見ると、倒れたときにカバンがひっくり返ったのか、中身があちこちに散乱していた。
唐突に、風がやんだ。俺はようやく体の自由を取り戻したが、すぐにどすんと地面に打ち据えられた。胸に何かが飛び乗ってきたんだ。
「ぐるるる……」
グールが俺の上に馬乗りになり、顔を近づけていた。ちぢれ毛の間から、紫色に光る眼球が俺を見据えている。俺は首筋に鳥肌が立つのを感じた。
『このっ!』
アニが鋭い光を放ち、グールの両目を刺した。
「ぎゃん!」
グールは思わず顔をそらせ、俺はかろうじて上半身を動かせるようになった。何か、今のうちに打開策を!けど、腰の剣はグールの体が邪魔で引き抜けない。やけくそでヤツを殴ってみるか?そのとき、俺は視界の片隅に、小さな袋が転がっているのに気づいた。
(あれは……クレアにもらった、魔除けのポプリ!)
思い出した。店から出るとき、おまけとしてもらったんだった。俺は無我夢中でそれをひっつかむと、祈る思いでグールに向かってぶんと投げつけた。
「これでもくらえ!」
ポプリはもだえるグールにぺちっと当たって、ポトリと落ちた……
と思った数秒後には、ポプリの袋はぐんぐん膨らんでいた。ぱんぱんに膨れ上がったポプリは、グールの顔くらいのサイズになっている。グールも気づいてぎょっと身をこわばらせるが、一足遅かった。
パーン!
袋がはじけ、中から白い粉末があたりに飛び出した。
「ぎゃあーーー!」
グールは体に電流でも流れたかのように飛び上がると、顔を覆って地面を転がった。うひゃ、効果テキメンじゃないか!俺はそのすきに起き上がることができたが、グールのほうはそれどころじゃないようだ。ぴくぴくと手足を震わせ、力なく地面に横たわっている。
「桜下殿!無事ですか!」「桜下さん!」
ウィルとエラゼムが血相を変えてこちらに駆け寄ってくる。その後ろからフランも戻って来るのが見えた。
「おう。クレアさまさまだよ、まったく。怪我一つないぜ」
ピンピンしている俺を見て、エラゼムたちはほっとしたようだった。しかし油断ならないとばかりに、倒れたグールから距離を置く。
「では、クレア嬢のお守りのおかげで、こやつはこのありさまになったのですな?」
「ああ。あれ、何が入ってたんだろう。グールに投げつけたら、ひっくり返って倒れたんだ」
「なるほど。魔物に効く毒か何かですかな。まだ息はあるようですが……」
エラゼムは慎重にグールに近づくと、俺たちに下がるように手振りで示した。俺たちが数歩下がると、エラゼムは剣先でグールの体をつついた。グールはうめき声一つ上げない。エラゼムは剣でグールの体をぐいと押して、仰向けにさせた。もじゃもじゃの体毛がはらはらと地面に散る。
「むっ……これは……?」
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「……うがって考えてみれば、だけど」
フランは前置きしたうえで続ける。
「女の子のことを隠したがってるのは、それがただの引越しなんかじゃなかったから」
「じゃあ、この村を出てったわけじゃないかもしれないって?」
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「じゃあ、もっとヤバいこと……」
「しかも、人には言いづらいこと。人が姿を消す理由で、言い難いことって言ったら……」
「……死んだ……殺された?いやいや、でも待て。ここの墓場にライラの名前はない!今確認したばっかじゃないか!」
そこでエラゼムが、言い難い考えを出すような、慎重な声で口を開いた。
「……フラン嬢の推理に沿って考えてみましょうか。もし村全体が少女の死を隠そうとしたのであれば、わざわざ墓など建てるでしょうか」
「あ……」
「そこへさらに、この村の背景事情も足し合わせます。つまり、この村では仕事に乏しく、貧困層は過酷な炭鉱での仕事に従事するしかなかった。村は幼い子を抱える母親を助けず、それどころか子どもごと炭鉱へ追いやった。結果、事故が起き、少女の一家は全滅してしまった……」
俺の脳裏に、あの廃炭鉱で見た粗末な木の墓が浮かび上がった。あそこにまとめて埋められてしまえば、誰かなんて分かりようがない……
「これはあくまでも推測です。が、村ぐるみでろくな仕事を与えず、それを見て見ぬふりをしたのであれば、村が殺したも同然です。そして村は責任を追及されることを恐れ、少女たちの死を無かった事にした」
「……もし本当だったら胸糞の悪い話だけど、今んとこそれが、一番あり得そうなのがしゃくなところだな。ちくしょう」
「そうですな。正直、村全体が貧しく、一家を支えられなかったという話ならば、彼らを責めるのもどうかとも思えるのですが。しかしあの酒場の繁盛っぷりと、その死を隠そうとした点を考慮すると……村に咎があることは疑いようがないでしょう」
飛び交う死の話題に、ウィルが暗い顔で言う。
「そんなことが、本当に……けど、それでしたら女の子のお墓すら、見つけようがなくないですか?」
「いや。もしそうなら、墓中の死者に聴き込んでやるよ。俺の能力なら、それができる」
骸骨が怖いなんて、いまさら言ってられるか。土の中に押し込められて、なかったことにされるなんて……人間がそんな扱いをされちゃいけないだろ。そんなひどい話があったのなら、きちんと真相を明らかにしなきゃいけない。
「となると、怪しいのはやっぱりあの炭鉱跡の墓地だよな。あそこなら身元不明で誰かを埋葬するのにぴったりだ。ミシェルのとこに戻る前に、あそこに寄ってみよう」
砂時計はもうわずかも残っていないし、そろそろ引き上げてもいいだろう。俺たちは手早く荷物をまとめて、撤収の準備を始めた。砂時計をカバンに押し込み、焚き火を踏みつけて消す。あっという間に夜の闇が迫ってきた。
「あれ?」
俺はそのとき、あたりの風景が、来た当初より良く見えることに気付いた。変だな、もう火は消したはずなのに……少し考えると、その理由にたどり着いた。
「あ……月か」
ゆがんだ楕円形をした黄色い月が、森の木々の黒いシルエットの先っちょに、かろうじてへばりついている。いつの間にか雲が晴れていたんだな。その弱い明りが、あたりを照らしているんだ。
ざわわ……ざわわ……
木々がわななき、枝葉が揺れる。夜の主役が現れたことで、森全体が騒いでいるみたいだな。そのお月様はようやくのお出ましのようだけど、残念ながらもう沈む寸前だ。あと数分もすれば、森の陰に隠れて、姿を消してしまうだろう。あ、そう考えるとあの砂時計、けっこう正確だったんだなぁ……俺は、そんなのんきなことを考えていた。
「…………っ!」
瞬間、ぶわっと鳥肌が立った。空気に不気味な気配が紛れ込み、それをスプレーで俺の皮膚にぺったりとくっつけたようだ。
「桜下殿……!」
エラゼムがさっと剣を構える。気配を感じ取ったのは、俺だけではないらしいと、みんなの顔色を見て悟った。この独特の感覚は、前にルエーガー城でエラゼムと対面したとき以来だ。
「お……桜下さん。私、気づいちゃったんですけど……」
震える声で、ウィルがある一点を指さす。その先には……欠けた月が、浮かんでいた。
「月がどうした?」
「あの、ミシェルさんが言ってたじゃないですか。今夜は月が出てないから、化け物は出てこないだろうって。怪物は月が出ている時間しか、墓場に現れないって」
「ああ。だから今夜は、グールの襲撃はなかったじゃないか。月ももう沈むし……」
「いいえ!ギリギリですけど、まだ浮かんでいます!今はまだ、“月が出ている時間”なんですよ!」
おっと、ウィルのいう通りじゃないか。つまり今は、かろうじてグール出現の条件を満たした状態ってことなのか。最後の最後で……
『主様!十時の方角、森の中です!』
アニが鋭く叫ぶと、細い光を森に向かって照射した。スポットライトに照らされたように、森の一角が浮かび上がる。そこに一瞬、小さな人影のようなものがうつった。
「今の……!」
そいつはすぐに木の陰に隠れたが、俺はそいつの浅黒い腕を見逃さなかった。どう考えても人間のそれじゃない。
「最後の最後でお出ましみたいだな、ちっ!」
噂のグールがついに現れたんだ!フランとエラゼムが警戒態勢に入り、ウィルは上空に浮かび上がって、いつでも魔法を唱えられるように構える。
「相手も魔法を使うっていうし、下手に刺激しないほうがいいよな。フラン、聞いてたか?突っ込むなよ」
俺はいまにも駆け出しそうなフランに注意したが、いまいち聞いてるのか怪しい。爪を抜き、ついでに歯も剥いている。
「~~~~!」
んん?今、叫び声みたいな音が聞こえて……次の瞬間だった。
シュゴウ!真っ赤に燃える火の玉が空中に浮かび上がり、かと思うとこっちに向かって飛んできたじゃないか!
「う、おおぉ!?ウィル、おすわり!」
「え?きゃあ!」
俺が咄嗟に叫ぶと、ウィルは空中で足を正座の形に折りたたみ、ぼてっと地面に落ちた。その一瞬後には、ウィルが直前までいた空間を、紅蓮の火の玉が突き抜けていった。火の玉は地面にぶち当たり、着弾地点は轟音と共に吹っ飛んだ。ズガガガガーン!
「わ、あ、あわわ……」
「あのヤロウ、ウィルを狙ってきた!ウィルが見えてるんだ!」
『主様、じき二弾目が来ます!魔法を使う隙を与えてはいけません、その前に本体を叩かないと!』
「くそ、わかった!フラン、頼めるか!?」
「言われるまでも!」
フランが飛び出し、火の玉の飛んできた方角へ一直線に突っ込んでいく。だがそれと入れ違いになる様なタイミングで、俺たちの方へ地面がもこもこと隆起しながら迫ってきた。まるで土の中をなにかが移動しているみたいだ。
「桜下殿!」
エラゼムが俺を庇うように剣を構える。隆起した地面は俺たちの数歩手前で止まると、突然土を噴き上げて爆発した。
「うわっ!いてて、目に砂が……」
「桜下殿、お気を付けなされ!“やつ”です!」
俺は目をぬぐうと、涙目で前を見た。土の中から、もじゃもじゃの体毛を振りみだしたグールが飛び出してきたところだった。まるでほうき草を頭に乗っけているみたいだ。屍から奪ったのか、体には薄汚れたマントを身に着けている。かなり小柄で、人間の子どもくらいの体格だった。
「退がれ、痴れ者が……!」
エラゼムが大剣を盾のように構え、グールへと突き出す。しかしグールは剣がぶつかる瞬間、両手をかみ合わせて大声で叫んだ。
「エアロフテラ!」
ビュゴオオォォォ!
グールが突き出した薄黒い拳から、とてつもない暴風が吹きだした。
「ぬぅお……!」「うわあ!」
強風にあおられて、俺はなすすべなく地面に打ち倒された。ガシャアンとエラゼムが倒れる音と、ウィルが悲鳴を上げる声が聞こえる。俺は起き上がろうと必死にもがいたが、逆に風に足元をすくわれ、ゴロゴロと転がった。ぐわ、地面が空に、空が地面にあるぞ?
「あイタ!」
ガツンと、頭に鈍い痛みが走る。顔をしかめながら目を凝らすと、大きな砂時計が映り込んだ。これに頭をぶつけたのか?よく見ると、倒れたときにカバンがひっくり返ったのか、中身があちこちに散乱していた。
唐突に、風がやんだ。俺はようやく体の自由を取り戻したが、すぐにどすんと地面に打ち据えられた。胸に何かが飛び乗ってきたんだ。
「ぐるるる……」
グールが俺の上に馬乗りになり、顔を近づけていた。ちぢれ毛の間から、紫色に光る眼球が俺を見据えている。俺は首筋に鳥肌が立つのを感じた。
『このっ!』
アニが鋭い光を放ち、グールの両目を刺した。
「ぎゃん!」
グールは思わず顔をそらせ、俺はかろうじて上半身を動かせるようになった。何か、今のうちに打開策を!けど、腰の剣はグールの体が邪魔で引き抜けない。やけくそでヤツを殴ってみるか?そのとき、俺は視界の片隅に、小さな袋が転がっているのに気づいた。
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思い出した。店から出るとき、おまけとしてもらったんだった。俺は無我夢中でそれをひっつかむと、祈る思いでグールに向かってぶんと投げつけた。
「これでもくらえ!」
ポプリはもだえるグールにぺちっと当たって、ポトリと落ちた……
と思った数秒後には、ポプリの袋はぐんぐん膨らんでいた。ぱんぱんに膨れ上がったポプリは、グールの顔くらいのサイズになっている。グールも気づいてぎょっと身をこわばらせるが、一足遅かった。
パーン!
袋がはじけ、中から白い粉末があたりに飛び出した。
「ぎゃあーーー!」
グールは体に電流でも流れたかのように飛び上がると、顔を覆って地面を転がった。うひゃ、効果テキメンじゃないか!俺はそのすきに起き上がることができたが、グールのほうはそれどころじゃないようだ。ぴくぴくと手足を震わせ、力なく地面に横たわっている。
「桜下殿!無事ですか!」「桜下さん!」
ウィルとエラゼムが血相を変えてこちらに駆け寄ってくる。その後ろからフランも戻って来るのが見えた。
「おう。クレアさまさまだよ、まったく。怪我一つないぜ」
ピンピンしている俺を見て、エラゼムたちはほっとしたようだった。しかし油断ならないとばかりに、倒れたグールから距離を置く。
「では、クレア嬢のお守りのおかげで、こやつはこのありさまになったのですな?」
「ああ。あれ、何が入ってたんだろう。グールに投げつけたら、ひっくり返って倒れたんだ」
「なるほど。魔物に効く毒か何かですかな。まだ息はあるようですが……」
エラゼムは慎重にグールに近づくと、俺たちに下がるように手振りで示した。俺たちが数歩下がると、エラゼムは剣先でグールの体をつついた。グールはうめき声一つ上げない。エラゼムは剣でグールの体をぐいと押して、仰向けにさせた。もじゃもじゃの体毛がはらはらと地面に散る。
「むっ……これは……?」
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