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5章 幸せの形
7-1 オークの襲撃
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7-1 オークの襲撃
「焦げ臭い」
フランが見えないにおいを辿るようにしながら言った。
「村のほうだ」
俺は昼間も、フランが焚き火を嗅ぎ当てたことを思い出した。ってことは、今回もおそらくそうなんだろう。
「村で……なにか起こってるのか?」
気になる。しかし、ライラのほうがもっと気になる。こんなチャンス、もう二度とないかもしれない。今なら、彼女の真相がわかるかもしれないんだ。
「私が様子を見てきます」
ウィルが宙に浮かび上がりながら言った。
「私ならひとっ飛びして、そんなに時間もかかりませんから」
「おお、ナイスだウィル!頼んでいいか?」
「任されました!」
ウィルは敬礼すると、ビューンと森の木々の向こうに飛んで行った。
「よし……向こうはウィルに任せるとして、今はこっちだな。エラゼム、まずはその子の縄をほどいてやってくれるか?」
『主様、いけません!』
「桜下殿、よろしいので?」
「うん。アニもわかってくれよ、この子はどう見ても普通のモンスターじゃない。こんな脅すような形じゃ、話を聞くどころじゃないだろ?」
『しかし……はぁ、分かりました。くれぐれも、十分注意してくださいよ』
「分かったよ、ありがとな。それじゃあエラゼム、頼む」
エラゼムはうなずくと、ゆっくりと革ひもをほどいた。ライラは自由になってからもしばらく、手首をさすって、俺たちの様子をうかがっていた。
「あー……ライラ?手荒なことして悪かったけど、先に仕掛けてきたのはそっちなんだから、ここはおあいこってことで手を打ってだな……」
ライラは最後まで話を聞かなかった。猛然と立ち上がると、エラゼムのそばを離れ、ダダダッと俺の背中に隠れてしまった。
「わっ、ライラ?エラゼムだって悪気があったわけじゃ……あ。あの鎧のおじさんはエラゼムっていって……」
「こっ……こわっ、怖かった」
俺の背後から、か細い震え声が聞こえてくる。
「ちょっと!その人から離れて!」
フランが露骨に剣幕を見せながらライラに詰め寄ると、ライラはますます俺の服をきつく握りしめた。ちょ、ちょっと苦しい……
「ふ、フラン、大目に見てやってくれよ……ライラ、とりあえず俺たちの話を聞いてくれないか?」
「……もう、怖いことしない?」
「分かった、約束する。その代わり、お前ももう俺たちを攻撃するなよ」
ライラは俺の服を離すと、こくりとうなずいた。
「よし。じゃあまず、俺たちのことから話すけど。俺は桜下っていうんだ。俺たちはある人の頼みで、赤い髪の、ライラっていう女の子を探している。その子はお兄さんとお母さんの三人家族だって聞いたんだけど、きみで間違いないかな?」
「うん……そう、だと思う」
「じゃ、本当にきみか……けど、それだとおかしいな。その子は俺と同い年くらいだって聞いてたんだけど。きみはどう見ても……」
「む……ライラはこどもじゃないよ!いっぱい魔法が使える、大まほーつかい、なんだから……」
ライラはいばったつもりなんだろうが、まだエラゼムがこちらを見ているので、最後の方は消え入るように尻すぼみになった。
「んー、大魔法使いねぇ。なぁ、けどきみは……あー、気を悪くしたら謝るけど。その、どう見ても普通の人間には見えないぜ?」
「う……ライラは……人間だもん」
「まぁ、露骨なモンスターには見えないかもな。けど、その黒い手足。それに、きみは人の死体を食えるんだろ?きみが人間だっていうなら、どうしてそうなっちまったんだ?」
「それは……」
ライラはうつむいて、口をつぐんでしまった。さすがに俺も、この子が普通の人間です、を信じる気にはなれない。何らかのモンスターに変異してしまっているとして、問題は、それが何なのかだ。さっきも思ったけど、人間がグールになるなんてあるのか?それともフランたちみたいに、もっと別のモンスターなのか……?
それに俺は、さっきからある一つの懸念を抱いてもいた。ありえない予想だとは思うのだが……
俺が質問を変えようかと口を開きかけたその時、ウィルが血相を変えて空から舞い降りてきた。
「お、桜下さん!大変なことになってます!」
「ウィル。何があったんだ?」
「スラムがモンスターに襲われています!オークです!炭鉱跡から、ものすごい数のオークが押し寄せてきて……」
オークだって?確か、ミシェルから聞いた、炭鉱に住み着いているモンスターだ。そいつらが地上に出てきたってことか?
「スラムからすごい火の手があがっています。大勢の人たちが取り残されていて、あのままじゃみんな……」
ウィルが真っ青な顔でふらりとよろめく。俺はとっさに肩を抱いて支えると、フランとエラゼムに振り返った。
「みんな。聞いたからには、ほっとけない。スラムの人たちを助けに行こう」
「わかった」「承知しました」
俺は呆けているライラにも声をかけた。
「ライラ。村の人たちが危険な状況にいるらしい。俺たちは行って、その人たちの助けをしてくる」
「村って、旧市街?火が出てるの?」
「みたいだな。ライラ、もしよかったら、もう一度ここで会いたい。きみのことを探してる友達についてももう少し話したいし。俺たち、またここに戻ってくるからさ」
「またここに……」
「考えといてくれよ。じゃあ、俺たちは行くな。ウィル、案内してくれ!」
「わかりました。こっちです!」
俺たちはウィルを先頭に、暗い森を走り出した。後にはライラだけが、人気のない墓地にぽつんと残された。
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
====================
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「焦げ臭い」
フランが見えないにおいを辿るようにしながら言った。
「村のほうだ」
俺は昼間も、フランが焚き火を嗅ぎ当てたことを思い出した。ってことは、今回もおそらくそうなんだろう。
「村で……なにか起こってるのか?」
気になる。しかし、ライラのほうがもっと気になる。こんなチャンス、もう二度とないかもしれない。今なら、彼女の真相がわかるかもしれないんだ。
「私が様子を見てきます」
ウィルが宙に浮かび上がりながら言った。
「私ならひとっ飛びして、そんなに時間もかかりませんから」
「おお、ナイスだウィル!頼んでいいか?」
「任されました!」
ウィルは敬礼すると、ビューンと森の木々の向こうに飛んで行った。
「よし……向こうはウィルに任せるとして、今はこっちだな。エラゼム、まずはその子の縄をほどいてやってくれるか?」
『主様、いけません!』
「桜下殿、よろしいので?」
「うん。アニもわかってくれよ、この子はどう見ても普通のモンスターじゃない。こんな脅すような形じゃ、話を聞くどころじゃないだろ?」
『しかし……はぁ、分かりました。くれぐれも、十分注意してくださいよ』
「分かったよ、ありがとな。それじゃあエラゼム、頼む」
エラゼムはうなずくと、ゆっくりと革ひもをほどいた。ライラは自由になってからもしばらく、手首をさすって、俺たちの様子をうかがっていた。
「あー……ライラ?手荒なことして悪かったけど、先に仕掛けてきたのはそっちなんだから、ここはおあいこってことで手を打ってだな……」
ライラは最後まで話を聞かなかった。猛然と立ち上がると、エラゼムのそばを離れ、ダダダッと俺の背中に隠れてしまった。
「わっ、ライラ?エラゼムだって悪気があったわけじゃ……あ。あの鎧のおじさんはエラゼムっていって……」
「こっ……こわっ、怖かった」
俺の背後から、か細い震え声が聞こえてくる。
「ちょっと!その人から離れて!」
フランが露骨に剣幕を見せながらライラに詰め寄ると、ライラはますます俺の服をきつく握りしめた。ちょ、ちょっと苦しい……
「ふ、フラン、大目に見てやってくれよ……ライラ、とりあえず俺たちの話を聞いてくれないか?」
「……もう、怖いことしない?」
「分かった、約束する。その代わり、お前ももう俺たちを攻撃するなよ」
ライラは俺の服を離すと、こくりとうなずいた。
「よし。じゃあまず、俺たちのことから話すけど。俺は桜下っていうんだ。俺たちはある人の頼みで、赤い髪の、ライラっていう女の子を探している。その子はお兄さんとお母さんの三人家族だって聞いたんだけど、きみで間違いないかな?」
「うん……そう、だと思う」
「じゃ、本当にきみか……けど、それだとおかしいな。その子は俺と同い年くらいだって聞いてたんだけど。きみはどう見ても……」
「む……ライラはこどもじゃないよ!いっぱい魔法が使える、大まほーつかい、なんだから……」
ライラはいばったつもりなんだろうが、まだエラゼムがこちらを見ているので、最後の方は消え入るように尻すぼみになった。
「んー、大魔法使いねぇ。なぁ、けどきみは……あー、気を悪くしたら謝るけど。その、どう見ても普通の人間には見えないぜ?」
「う……ライラは……人間だもん」
「まぁ、露骨なモンスターには見えないかもな。けど、その黒い手足。それに、きみは人の死体を食えるんだろ?きみが人間だっていうなら、どうしてそうなっちまったんだ?」
「それは……」
ライラはうつむいて、口をつぐんでしまった。さすがに俺も、この子が普通の人間です、を信じる気にはなれない。何らかのモンスターに変異してしまっているとして、問題は、それが何なのかだ。さっきも思ったけど、人間がグールになるなんてあるのか?それともフランたちみたいに、もっと別のモンスターなのか……?
それに俺は、さっきからある一つの懸念を抱いてもいた。ありえない予想だとは思うのだが……
俺が質問を変えようかと口を開きかけたその時、ウィルが血相を変えて空から舞い降りてきた。
「お、桜下さん!大変なことになってます!」
「ウィル。何があったんだ?」
「スラムがモンスターに襲われています!オークです!炭鉱跡から、ものすごい数のオークが押し寄せてきて……」
オークだって?確か、ミシェルから聞いた、炭鉱に住み着いているモンスターだ。そいつらが地上に出てきたってことか?
「スラムからすごい火の手があがっています。大勢の人たちが取り残されていて、あのままじゃみんな……」
ウィルが真っ青な顔でふらりとよろめく。俺はとっさに肩を抱いて支えると、フランとエラゼムに振り返った。
「みんな。聞いたからには、ほっとけない。スラムの人たちを助けに行こう」
「わかった」「承知しました」
俺は呆けているライラにも声をかけた。
「ライラ。村の人たちが危険な状況にいるらしい。俺たちは行って、その人たちの助けをしてくる」
「村って、旧市街?火が出てるの?」
「みたいだな。ライラ、もしよかったら、もう一度ここで会いたい。きみのことを探してる友達についてももう少し話したいし。俺たち、またここに戻ってくるからさ」
「またここに……」
「考えといてくれよ。じゃあ、俺たちは行くな。ウィル、案内してくれ!」
「わかりました。こっちです!」
俺たちはウィルを先頭に、暗い森を走り出した。後にはライラだけが、人気のない墓地にぽつんと残された。
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