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5章 幸せの形
8-1 ライラの過去
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8-1 ライラの過去
あの子の母親は、いつぞやかにふらりと現れた。
流れてくる前は、どこぞの屋敷で女給をしていたと聞いた。そこで双子を……ライラと兄のことじゃが……身ごもったということしか、わしらは知らん。あまり多くを語ろうとはしない女じゃったよ、ライラの母は。
じゃがこの村には、昔からそういう流れ者ばかりが集まった。吹き溜まりじゃ。わしらも慣れておったから、その一家を受け入れた。お前たちには異常に映るかも知れんが、それがここの日常じゃ。ところがそんなわしらでも、受け入れがたいことがあった。
その一家の娘は、魔法の才能を有しておったのだ。お前たちも見たじゃろう。あの子のそれは、その辺の砂利とは違う……類いまれなる才能じゃ。わしらはそれを、恐れた。
一家は村の連中から……この旧市街の者たちのことではないぞ。酒場でたむろしている連中のことじゃ……そやつらからも疎まれ、害されるようになった。ろくな仕事も回してもらえず、ことあるごとに難癖をつけられた……だが、それはわしらとて同じじゃな。わしらは飛び火することを恐れて、あの一家に手を貸さなんだから。
それでも一家は懸命に、なんとか日々を過ごしておったんじゃ。わしらも少しずつではあるが、あの家族を受け入れつつあった。だがそんなある日、あの子たちの運命を決定づける事件が起こってしまった。
村の娘が一人、雨で増水した河岸へ出かけたっきり行方が分からなくなった。それからほとんど日を空けずに、今度は炭鉱で大規模な落盤が起こったのじゃ。凄惨な事故じゃった……ここの住民も幾人も犠牲になった。しかし、その事故は予想できないものではなかった。わしらはずいぶん前から落盤の兆候に気付き、それを村長へ報告していた。そうじゃ、当時も今と同じ、ヴォールが村長じゃったよ。また、行方知れずとなった娘についても、村長が出かける娘を見て、引き止めもせず見送りをしたらしいとの噂が流れての。村長は二つの事故について、責任を問われる立場になったのじゃ。そして村長は苦し紛れに……少なくともわしにはそう見えたが……全ての原因はライラが魔法で起こしたことだと釈明した。荒唐無稽で、証拠の一つもない話であったが、あろうことか村の連中と、そしてわしらの同胞の何割かは、その説明で納得してしまったのじゃ。今になって思えば、そうした連中は怒りと嘆きの矛先を、何かにぶつけてやりたかっただけなのかもしれぬ。そして……
一家は罪なき罪で罰せられた。母親は間もなく死んだ。そして二人の子どもも、後を追うように行方が分からなくなった。むろん、単なる行方知れずではないじゃろう。しかし真相はどうあれ、村の連中はそのように説明しておったのじゃ。わしらはそれ以上、ことの顛末を知ることはできなかった……
わしが知っているのは、そこまでじゃよ。
「……以降わしらは、ライラは死んだものと思っていた。しかし、それとほぼ同時期から、墓場に魔物が出没するという話も聞くようになった。そこに奇妙な付合を感じていないでもなかったが、確固たるものは何もなかったからのう」
「じゃあ婆さん、あんたは、どうしてライラがああなったのかは心当たりもないってことか?」
「ない。ところで、わしからも聞いてよいか?お前たちは、いったい誰に頼まれてここに来た?」
「ああ、うん……これも、ちょっと説明しづらいんだけどさ……そいつの名前は、ハクって言うんだけど」
「なに!?まさか、あの子までモンスターになったんか!?」
老婆はうつむきがちだった顔をがばっと上げて、食い入るように俺を見つめた。
「うえ?婆さん、ハクのことまで知ってんの?」
「知っとるも何も、あの子は……リアン!おいで」
老婆は鋭い声で叫ぶと、さっきライラを見たと言った、あの男の子を呼びつけた。この子がなんだっていうんだ?
「こいつはリアン。ハクの弟じゃ」
「えー!」
俺は驚きのまなざしを老婆に向けたが、それはリアンと呼ばれた少年も同じだった。
「でも、ハクは弟がいるなんて……」
「それは異母弟だからじゃろうて。リアンはハクが川に飲み込まれてから生まれた弟じゃ。その直後に父も母も死んでしもうたから、この子もまさか自分に姉がいるとは思いもよらんかったじゃろう。誰もハクが溺れたことは口にしたがらなかったしの」
「ハクが溺れてから……ん、ちょっと待て。さっき川に出かけて行方知れずになった娘がいたって言ってたよな?それって……」
「ハクのことじゃ。あの子は大そう釣りが上手く、あんな父親から生まれたとは思えんほど、やさしい娘じゃった……村の連中のようにわしらを遠ざけず、おそらくライラの唯一の友じゃった。あの日も増水した川に魚を捕りに行ったのじゃろう。川が濁る日は魚も一か所にとどまるのだと、自分はその秘密の場所を知っているのだと、得意げに話しておったわい……」
そんなことが……じゃあよりにもよって、ハクが溺れたことが、ライラたちを追いつめる要因の一つになっちまったってことかよ……
「ハクに、ライラ……わしらが目を背けていた子どもばかりじゃ。そうか、あの子たちが……」
老婆は消え入りそうな声で囁くと、炎に食い尽くされ廃墟と化したスラムを見つめながら言った。
「今夜の出来事は、わしらのツケなのかもしれんて……わしら老いぼれが摘み取ってしまった、未来に対する代償じゃ」
その言葉に、俺は何も言うことができなかった。
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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あの子の母親は、いつぞやかにふらりと現れた。
流れてくる前は、どこぞの屋敷で女給をしていたと聞いた。そこで双子を……ライラと兄のことじゃが……身ごもったということしか、わしらは知らん。あまり多くを語ろうとはしない女じゃったよ、ライラの母は。
じゃがこの村には、昔からそういう流れ者ばかりが集まった。吹き溜まりじゃ。わしらも慣れておったから、その一家を受け入れた。お前たちには異常に映るかも知れんが、それがここの日常じゃ。ところがそんなわしらでも、受け入れがたいことがあった。
その一家の娘は、魔法の才能を有しておったのだ。お前たちも見たじゃろう。あの子のそれは、その辺の砂利とは違う……類いまれなる才能じゃ。わしらはそれを、恐れた。
一家は村の連中から……この旧市街の者たちのことではないぞ。酒場でたむろしている連中のことじゃ……そやつらからも疎まれ、害されるようになった。ろくな仕事も回してもらえず、ことあるごとに難癖をつけられた……だが、それはわしらとて同じじゃな。わしらは飛び火することを恐れて、あの一家に手を貸さなんだから。
それでも一家は懸命に、なんとか日々を過ごしておったんじゃ。わしらも少しずつではあるが、あの家族を受け入れつつあった。だがそんなある日、あの子たちの運命を決定づける事件が起こってしまった。
村の娘が一人、雨で増水した河岸へ出かけたっきり行方が分からなくなった。それからほとんど日を空けずに、今度は炭鉱で大規模な落盤が起こったのじゃ。凄惨な事故じゃった……ここの住民も幾人も犠牲になった。しかし、その事故は予想できないものではなかった。わしらはずいぶん前から落盤の兆候に気付き、それを村長へ報告していた。そうじゃ、当時も今と同じ、ヴォールが村長じゃったよ。また、行方知れずとなった娘についても、村長が出かける娘を見て、引き止めもせず見送りをしたらしいとの噂が流れての。村長は二つの事故について、責任を問われる立場になったのじゃ。そして村長は苦し紛れに……少なくともわしにはそう見えたが……全ての原因はライラが魔法で起こしたことだと釈明した。荒唐無稽で、証拠の一つもない話であったが、あろうことか村の連中と、そしてわしらの同胞の何割かは、その説明で納得してしまったのじゃ。今になって思えば、そうした連中は怒りと嘆きの矛先を、何かにぶつけてやりたかっただけなのかもしれぬ。そして……
一家は罪なき罪で罰せられた。母親は間もなく死んだ。そして二人の子どもも、後を追うように行方が分からなくなった。むろん、単なる行方知れずではないじゃろう。しかし真相はどうあれ、村の連中はそのように説明しておったのじゃ。わしらはそれ以上、ことの顛末を知ることはできなかった……
わしが知っているのは、そこまでじゃよ。
「……以降わしらは、ライラは死んだものと思っていた。しかし、それとほぼ同時期から、墓場に魔物が出没するという話も聞くようになった。そこに奇妙な付合を感じていないでもなかったが、確固たるものは何もなかったからのう」
「じゃあ婆さん、あんたは、どうしてライラがああなったのかは心当たりもないってことか?」
「ない。ところで、わしからも聞いてよいか?お前たちは、いったい誰に頼まれてここに来た?」
「ああ、うん……これも、ちょっと説明しづらいんだけどさ……そいつの名前は、ハクって言うんだけど」
「なに!?まさか、あの子までモンスターになったんか!?」
老婆はうつむきがちだった顔をがばっと上げて、食い入るように俺を見つめた。
「うえ?婆さん、ハクのことまで知ってんの?」
「知っとるも何も、あの子は……リアン!おいで」
老婆は鋭い声で叫ぶと、さっきライラを見たと言った、あの男の子を呼びつけた。この子がなんだっていうんだ?
「こいつはリアン。ハクの弟じゃ」
「えー!」
俺は驚きのまなざしを老婆に向けたが、それはリアンと呼ばれた少年も同じだった。
「でも、ハクは弟がいるなんて……」
「それは異母弟だからじゃろうて。リアンはハクが川に飲み込まれてから生まれた弟じゃ。その直後に父も母も死んでしもうたから、この子もまさか自分に姉がいるとは思いもよらんかったじゃろう。誰もハクが溺れたことは口にしたがらなかったしの」
「ハクが溺れてから……ん、ちょっと待て。さっき川に出かけて行方知れずになった娘がいたって言ってたよな?それって……」
「ハクのことじゃ。あの子は大そう釣りが上手く、あんな父親から生まれたとは思えんほど、やさしい娘じゃった……村の連中のようにわしらを遠ざけず、おそらくライラの唯一の友じゃった。あの日も増水した川に魚を捕りに行ったのじゃろう。川が濁る日は魚も一か所にとどまるのだと、自分はその秘密の場所を知っているのだと、得意げに話しておったわい……」
そんなことが……じゃあよりにもよって、ハクが溺れたことが、ライラたちを追いつめる要因の一つになっちまったってことかよ……
「ハクに、ライラ……わしらが目を背けていた子どもばかりじゃ。そうか、あの子たちが……」
老婆は消え入りそうな声で囁くと、炎に食い尽くされ廃墟と化したスラムを見つめながら言った。
「今夜の出来事は、わしらのツケなのかもしれんて……わしら老いぼれが摘み取ってしまった、未来に対する代償じゃ」
その言葉に、俺は何も言うことができなかった。
つづく
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