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5章 幸せの形
8-2
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「あのお婆さん、どうしていきなり、いろいろ話す気になってくれたんでしょうね……」
スラムを後にする道すがら、ウィルがふわふわ浮かびながら、ぼんやりした顔で言った。
「んー……やっぱり、ライラに助けられたってのが大きいんじゃないか?自分たちが見捨てた相手に、命を救われたことになったんだから」
俺の言葉に、さらにフランが重ねた。
「それに、わたしたちへの恩を感じたのかもよ。恩人の頼みは断りずらいでしょ」
「お前、それ自分で言うかよ?」
「いいでしょ、事実なんだから。それくらいの見返りがないとやってられないよ」
「けど、確かに収穫だったな。どうしてヴォール村長が俺たちのことを嗅ぎまわりたかったのか、これで分かったよ。昔の不祥事をいまさら掘り返されるのが嫌だったんだ」
「村長ってのは、ああいう人種しかいないわけ?チッ」
“村長”に恨みのあるフランが、憎々しげに舌打ちする。
「じゃあやっぱり、俺たちの情報を村に流してたのも村長のしわざなんだろうな。俺たちが余計な詮索をしないように、さ」
「でも、まだ油断はできないよ。他にも手下がいるかも……」
そこまで言って、フランは急に声のボリュームを落とした。何事かと俺が振り返ると、フランの視線の先、スラムの入り口の近くに一人の人影が立っていた。ミシェルだ。
「あんたたち……」
ミシェルは消え入りそうな声でつぶやいた。あ、やべ。帰りが遅くなったから、様子を見に来ちまったのか。
「ミシェル。ごめん、遅くなっちまって……」
「そんなことどうでもいいよ。それより、こりゃいったい……」
ミシェルは俺たちの遅刻を責めるでもなく、茫然として、焼け焦げたスラム街を眺めている。
「あー……火事があったんだ。オークの襲撃があって」
「オーク!?炭鉱の奴らかい?まさかそんな……」
「おっと、疑うんならここの人たちに聞いてくれ。この先にみんないるから」
「ぐ……」
ミシェルは言い返したそうにしたが、俺はそのきっかけを与えなかった。
「そうだミシェル、これ返すぜ」
俺はミシェルの手に砂時計の入ったカバンを押し付けた。
「仕事が終わって、戻ろうとしたらこの現場に出くわしたんだ。サボってたんじゃないぜ、念のため」
「それは……そうだろうさ。火事があったと言ったが、火は消えたんだね。もしかして、あんたたちが消したのかい?」
「いいや。詳しくは言いにくいんだけど、ある女の子が消してくれたんだ」
「は、女の子だって?まさか、そんな事あるわけ……ならどこにいるってんだい、その子は?」
「ここにはいない。だから俺たち……」
話を続けようとした俺を、ミシェルは首を振ってさえぎった。
「……いや、いや、まあいい。こんなところでくっちゃべっててもしょうがないね。ひとまず店に戻ろう。そこで詳しい話を聞かせておくれ」
「あー……悪い、ミシェル。俺たち、今からその女の子に会いに行ってこようと思ってるんだ。だから宿には戻らないんだよ」
「なにぃ?本気で言ってんのかい。いいじゃないか、そんならあたしも……」
げ。まさか、一緒についてくるとか言わないだろうな。まだミシェルが完全にシロだと決まったわけじゃない。その状態でライラに会わせるわけには……
「……いや、なんでもない。ほら、これを受け取りな」
あん?ミシェルは思い直したように首を横に振ると、ポケットから何かを取り出して、ピンと俺のほうへ弾いた。俺の顔面目がけて飛んできたそれをギリギリ受け止めると、それは鈍く輝く銀貨だった。
「今夜の報酬だよ。いちおう、きちんと仕事はこなしてくれたみたいだからね……さてと、あたしゃ戻るかね。アンタたちも、あんまり遅いと鍵を閉めちまうからね。ほどほどで切り上げな」
ミシェルは俺が渡したカバンを担ぐと、くるりと背を向けて、そのまますたすたと歩いていってしまった。なんだって、急に気が変わったんだろう。絶対についてくると思ったのに。ミシェルの後姿を見つめて、俺は受け取ったコインをピーンと指ではじくと、それをポケットにしまいながら言った。
「あれでけっこう律義なんだな。怪しいから報酬はナシだって言われるかと思ったけど」
「そんな理由ないじゃないですか!私たちは人命救助をしていたから戻るのが遅れたんです。むしろ追加の謝礼があってもいいくらい……」
ウィルが憤慨した様子で言う。がめついなぁ、ウィルは。言わないけど。
「でもさ、あの様子を見るに、ミシェルもシロって考えていいのかな」
俺の言葉に、エラゼムが悩ましげに腕を組んだ。
「まだ何とも言えませんな。スジは通す女性であるようですが、彼女もおそらくあの赤毛の少女について何か知っているのでしょう。あの少女のことは秘匿したほうが良いと思います。ミシェル嬢が善人か否かという観点でも、あれほどの火災に、村の人間が誰一人として駆けつけなかったことが気がかりです。彼女は助けを呼ぶ気が無かった、と捉えられませぬか?」
「うーん、たしかに……はぁ。人を信用するっていうのも、ずいぶん難しいもんだな」
俺はしみじみつぶやいた。
「この村が何を隠してるのか、誰が黒幕なのか。まださっぱりわからないけど、今はライラに話がききたいな。ただのカンなんだけど、あの子の過去が、全てに繋がっているような気がするんだ」
ライラはどこかに走り去ってしまったが、俺がまた会いたいと言ったことを覚えていてくれれば、あの墓地に戻ってきてくれるかもしれない。それに今の彼女にとっては、あの墓場が帰る家みたいなものだろうから。
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「あのお婆さん、どうしていきなり、いろいろ話す気になってくれたんでしょうね……」
スラムを後にする道すがら、ウィルがふわふわ浮かびながら、ぼんやりした顔で言った。
「んー……やっぱり、ライラに助けられたってのが大きいんじゃないか?自分たちが見捨てた相手に、命を救われたことになったんだから」
俺の言葉に、さらにフランが重ねた。
「それに、わたしたちへの恩を感じたのかもよ。恩人の頼みは断りずらいでしょ」
「お前、それ自分で言うかよ?」
「いいでしょ、事実なんだから。それくらいの見返りがないとやってられないよ」
「けど、確かに収穫だったな。どうしてヴォール村長が俺たちのことを嗅ぎまわりたかったのか、これで分かったよ。昔の不祥事をいまさら掘り返されるのが嫌だったんだ」
「村長ってのは、ああいう人種しかいないわけ?チッ」
“村長”に恨みのあるフランが、憎々しげに舌打ちする。
「じゃあやっぱり、俺たちの情報を村に流してたのも村長のしわざなんだろうな。俺たちが余計な詮索をしないように、さ」
「でも、まだ油断はできないよ。他にも手下がいるかも……」
そこまで言って、フランは急に声のボリュームを落とした。何事かと俺が振り返ると、フランの視線の先、スラムの入り口の近くに一人の人影が立っていた。ミシェルだ。
「あんたたち……」
ミシェルは消え入りそうな声でつぶやいた。あ、やべ。帰りが遅くなったから、様子を見に来ちまったのか。
「ミシェル。ごめん、遅くなっちまって……」
「そんなことどうでもいいよ。それより、こりゃいったい……」
ミシェルは俺たちの遅刻を責めるでもなく、茫然として、焼け焦げたスラム街を眺めている。
「あー……火事があったんだ。オークの襲撃があって」
「オーク!?炭鉱の奴らかい?まさかそんな……」
「おっと、疑うんならここの人たちに聞いてくれ。この先にみんないるから」
「ぐ……」
ミシェルは言い返したそうにしたが、俺はそのきっかけを与えなかった。
「そうだミシェル、これ返すぜ」
俺はミシェルの手に砂時計の入ったカバンを押し付けた。
「仕事が終わって、戻ろうとしたらこの現場に出くわしたんだ。サボってたんじゃないぜ、念のため」
「それは……そうだろうさ。火事があったと言ったが、火は消えたんだね。もしかして、あんたたちが消したのかい?」
「いいや。詳しくは言いにくいんだけど、ある女の子が消してくれたんだ」
「は、女の子だって?まさか、そんな事あるわけ……ならどこにいるってんだい、その子は?」
「ここにはいない。だから俺たち……」
話を続けようとした俺を、ミシェルは首を振ってさえぎった。
「……いや、いや、まあいい。こんなところでくっちゃべっててもしょうがないね。ひとまず店に戻ろう。そこで詳しい話を聞かせておくれ」
「あー……悪い、ミシェル。俺たち、今からその女の子に会いに行ってこようと思ってるんだ。だから宿には戻らないんだよ」
「なにぃ?本気で言ってんのかい。いいじゃないか、そんならあたしも……」
げ。まさか、一緒についてくるとか言わないだろうな。まだミシェルが完全にシロだと決まったわけじゃない。その状態でライラに会わせるわけには……
「……いや、なんでもない。ほら、これを受け取りな」
あん?ミシェルは思い直したように首を横に振ると、ポケットから何かを取り出して、ピンと俺のほうへ弾いた。俺の顔面目がけて飛んできたそれをギリギリ受け止めると、それは鈍く輝く銀貨だった。
「今夜の報酬だよ。いちおう、きちんと仕事はこなしてくれたみたいだからね……さてと、あたしゃ戻るかね。アンタたちも、あんまり遅いと鍵を閉めちまうからね。ほどほどで切り上げな」
ミシェルは俺が渡したカバンを担ぐと、くるりと背を向けて、そのまますたすたと歩いていってしまった。なんだって、急に気が変わったんだろう。絶対についてくると思ったのに。ミシェルの後姿を見つめて、俺は受け取ったコインをピーンと指ではじくと、それをポケットにしまいながら言った。
「あれでけっこう律義なんだな。怪しいから報酬はナシだって言われるかと思ったけど」
「そんな理由ないじゃないですか!私たちは人命救助をしていたから戻るのが遅れたんです。むしろ追加の謝礼があってもいいくらい……」
ウィルが憤慨した様子で言う。がめついなぁ、ウィルは。言わないけど。
「でもさ、あの様子を見るに、ミシェルもシロって考えていいのかな」
俺の言葉に、エラゼムが悩ましげに腕を組んだ。
「まだ何とも言えませんな。スジは通す女性であるようですが、彼女もおそらくあの赤毛の少女について何か知っているのでしょう。あの少女のことは秘匿したほうが良いと思います。ミシェル嬢が善人か否かという観点でも、あれほどの火災に、村の人間が誰一人として駆けつけなかったことが気がかりです。彼女は助けを呼ぶ気が無かった、と捉えられませぬか?」
「うーん、たしかに……はぁ。人を信用するっていうのも、ずいぶん難しいもんだな」
俺はしみじみつぶやいた。
「この村が何を隠してるのか、誰が黒幕なのか。まださっぱりわからないけど、今はライラに話がききたいな。ただのカンなんだけど、あの子の過去が、全てに繋がっているような気がするんだ」
ライラはどこかに走り去ってしまったが、俺がまた会いたいと言ったことを覚えていてくれれば、あの墓地に戻ってきてくれるかもしれない。それに今の彼女にとっては、あの墓場が帰る家みたいなものだろうから。
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