じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

文字の大きさ
154 / 860
5章 幸せの形

9-1 墓場の戦闘

しおりを挟む
9-1 墓場の戦闘

「恐ろしいですねぇ。我々を骨だけに!やはり怪物が考えることは正気の沙汰とは思えませんな。まさに狂気、悪辣!」

暗がりの中に、たいまつの明かりがぽつぽつと湧き出てきた。その中の一つに、見覚えのある紫の服が浮かび上がる。

「ほーらほらほら、私の言った通りでしょう!あの怪物を、今こそ!退治せねばなりません!やつが私たちに牙を剥くよりも早く、さあ!」

そう言ってヴォール村長は、まわりを扇動するように腕を大きく広げた。

「ヴォール村長……!どうしてここに?」

「ちっ……つけられてたのかも」

フランが敵意をむき出しにして唸る。突然の展開に、ライラは理解が追い付いていないようだった。

「な、なに?どうなって……」

「さぁー、みなさんの勇気をお見せいただく時が来ましたぞ!あの卑劣な旅人もろとも、魔物を打ち倒すのです!やつらは魔物と共謀して、われらの村を滅ぼそうとしたのですぞ!先ほどの大火事がその証拠です!」

なっ!あの野郎、またとんだでまかせを!しかも俺たちまで敵と来たもんだ。こんなホラ話、許しておけな……
ドスッ!

「うぉっとお!」

俺の足元に、突然矢が生えた……もとい、弓矢が飛んできた。

「くそ、やっぱり話を聞いてはくれないか!」

村長ってのは、どいつもこいつも人を煽るのがうまいらしい。墓場の周りを取り囲むようにして、俺たちは村人の軍勢に包囲されていた。

「桜下殿、吾輩の後ろに。弓兵がいるようです」

エラゼムが臨戦態勢をとる。

「わかった。ちっ、なんで毎回こうなるかな。ライラ、お前もこっちに来て隠れてろ。どうやらお前も標的らしいからな」

「う、うん……ねぇ、あの人たち、村の人だよね?」

「あん?そうみたいだな……安心しろって、俺たちは軍隊とも一戦交えたことがあるんだ。今更村人くらいどうってこと……」

俺がそこまで話したとき、ウィルが鋭い声で俺を呼んだ。

「桜下さん!でもあの人たち、様子が変じゃないですか?」

「は?変って、どこが……」

俺は口をつぐんだ。ウィルの言ってたことが、分かったからだ。
村人たちは、全員笑っていた。ニタニタと締まりのない笑みを浮かべて、手には木でできた槍を握りしめて、こちらへやってくる。武器を構えているのに、顔には笑顔。殺意があるのかないのかわからない。

「これは……気味が悪いな」

「気持ち悪いなんてもんじゃないですよ。あの人たち、正気じゃない。まるで夢でも見ているみたい……」

「ウィル、念のため魔法をいつでも使えるようにしておいてくれ。こりゃあひと悶着あるぞ……」

異様な様子の村人たちにたじろぐ俺たちを見て、ヴォール村長は得意げにニンマリ笑った。

「おや、気付かれましたかな?彼らを甘く見ない方がいいですぞ。何せ彼らは死を恐れない、不死身の軍勢なのですからな!」

「は……?不死身だって?ゾンビだとでもいうのか!」

「ノンノン!ナンセンス!そんなチンケなもんじゃございません」

チンケなもの呼ばわりに、フランが顔をしかめる。ゾンビじゃないなら、いったい何だというんだ?

「いいですか、彼らは“竜骨”の力で幻想を見ているのです。ゆえに死を恐れるということがない!なぜなら彼らは、“夢の世界では”不死身なのですからね」

「は……?あんた、何言ってんだ?ぜんぜん答えになってないぞ!」

「いやですねぇ、理解力のない人というのは。ならば見せてあげましょう、そして焼き付けなさい!“竜核”の威力をねぇ!」

ヴォール村長は高々と片腕を上げる。その手には何かが握られているようだ……次の瞬間、村長の手からまばゆい紫の光がパァーっと放たれ、墓場を不気味に染め上げた。

「行きなさい、不死の軍勢よ!そいつらを滅ぼせっ!」

「ウォォォォ!」「キヒャヒャヒャヒャ!」

村人たちは奇声を上げて突進してきた!どうにも気味が悪いが、やるしかない!呪文の準備をしていたウィルが高らかに叫ぶ。

「フレイムパイン!」

ズゴゴゴ!燃え盛る木の柱が俺たちの周りに立ち並ぶ。うまいぞ、これで防護壁になる、はずが……

「え!?あの人たち、どうして止まらないんですか!?」

村人たちは表情一つ変えぬまま、燃え盛る柱に突っ込んでいく。飛んで火にいる……なんてどころじゃない。まるで最初から炎など見えていないかのようだ。村人たちは炎に服や髪を焼かれながらも、強引に柱の間をすり抜けて突破してきた。だが、痛みに呻くことさえしない。

「な、なんであの人たち……と、止まってください!このままじゃ、火で死んじゃう!止まって!」

「ちっ!聞いてないよ、あいつら!」

フランは駆け出して、燃え盛る柱の一本を、鉤爪で根元から切り倒した。それを怪力で抱え上げると、バットのようにフルスイングで振り回した。

「らあぁ!」

ドコッ!村人たちが柱に吹っ飛ばされて、森の中へと消えていく。しかし、それを見てもほかの村人は怯えるどころか、それを避けようとさえしない。ひどい時は吹っ飛ばされた先で、何食わぬようにむくりと起き上がるやつさえいた。

「なんだあいつら、どうなってんだ!村長の言ってた竜核ってなんだ!?」

俺がいらだち紛れに叫ぶと、アニが胸の上でチリンと弱弱しく鳴った。

『主様……私は、思い違いをしていたかもしれません』

「アニ?なんだ、思い違いって?」

『前の街にいたとき、怪しい行商人に声をかけられましたよね。あの時、私はあの男が竜の骨と言って売っていたものを、まがい物だろうと言いました。竜素材のような貴重品が、そう簡単に出回すはずがないと思っていたのです。ですが……』

「だから、それとこれとどう関係があるんだよ!」

『この村人たちは、“本物の”竜の骨液を服用しているのかもしれません。だとしたら、あの異様さもうなずけるのです』

「なに……?」

『ある種の竜の骨液には、他とは比べ物にならないほどの毒が含まれています。あの症状だと、恐らくファーヴニール科の……それは微量では死に至ることはありませんが、その代わりに陶酔、錯乱、情緒不安定など、およそ健常とは言えない精神状態に陥ります。そして本人には、尋常ならざる快楽と幸福感、絶頂感をもたらすのです』

「うぇ……じゃああいつら、本当にラリってたのか?だから炎にも何にも感じないで……なら、村長が持ってるあの竜核ってのはなんなんだよ?」

『竜の体内で作られる特殊な結晶体です。竜の魔力が込められているので、彼はそれを使って、毒に侵された村人たちの精神を操っているのだと思われます』

「まじかよ……」

なんでそんなもん持ってるんだ?いや待てよ、じゃああの村人たちは、毒でおかしくされた挙句、村長に戦いの駒として使われてるってことか?ヴォール村長が高らかにうたっていた、“死をも恐れぬ軍勢”ってのは、そういう……?

「くそったれ!フラン、その人たちを傷つけちゃだめだ!」

「はぁ!?何言って……」

「いいから聞いてくれ!ウィルとエラゼムも!」

俺はみんなに、アニが話したことを猛烈な早口で伝えた。

「なんと。しかし、だからとて……ふん!」

エラゼムが飛んできた弓矢をこぶしで跳ね飛ばした。村人のほとんどが炎の柱を抜け、こちらに迫ってきている。しかし、火傷のせいでその足取りはのろのろと鈍かった。痛みは感じなくても、体が受けたダメージまでは無視できないらしい。

「だからとて、このままみすみすなぶり殺しになるわけにもまいりませんぞ」

「ああ、わかってる。けど、あの人たちは自分の意思で戦ってるわけじゃないんだ。何もかも分からなくされて、村長にいいように使われているだけ……今だって、大やけどを負ってるんだ。そんな人たちをこれ以上ボコボコにするなんて、できないよ」

「殺しはしないんだから、それで十分でしょ!」

フランは猫が怒ったような声を出す。エラゼムとフランの言うことももっともだ。しかし……

「なあアニ、毎度毎度だが、どうにかならないのか?あの竜核ってのをぶっ壊せば、洗脳が解けたりしないかな?」

『可能性はあります。ですが、それは向こうも承知済みでしょう。私たちが竜核を狙おうとすれば、周りの村人たちが死に物狂いでそれを防いでくるはず。それを容赦なく吹っ飛ばせるなら話は早いでしょうが』

「それでいいじゃんむぐ」「いや、それはなしでいこう」

俺はフランの口を押えつけて、早口で言った。あイテ、噛むなよこいつ。

『では、もう一つだけ思い当たる節があります。竜による呪いの類は、その竜が倒されたときの怨念によってもたらされているという、話があります。その話が事実だと仮定して、今の村人たちには竜の恨みの魂が宿った状態とします。その魂を体の外に吹き飛ばしてやれば、あるいは呪いが解け、洗脳状態も解除されるかもしれません』

「魂を、外に……あ!じゃあ、ソウルカノンを使うか?」

『いいえ、ダメです。方法としては効果があるでしょうが、対象が多すぎて、主様の魂が損傷してしまいます。ソウルカノンは、主様の魂を素としていると言ったでしょう?』

あ、そうか。ソウルカノンは連発できないんだ。あれだけの人数に同時に撃つのは不可能か……そのときウィルが、唐突に口を開いた。

「あの、でしたらほかの人の魂をぶつけるのはどうでしょうか?」

ほかの人の、魂?



つづく
====================

読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...