じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

文字の大きさ
162 / 860
5章 幸せの形

11-3

しおりを挟む
11-3

「ミシェルー!やべ、ぜんぜん見当たらないぞ……」

「……悪かったね、影が薄くて。あたしはここにいるよ」

「うお、ミシェル!」

ミシェルは少し離れたやぶの中からのそり現れた

「よかった、あんたも無事だったんだな」

「あいにくとね。まったく、あんたたち、あのデカブツをぶっ壊すのに爆弾か何か使ったのかい?吹っ飛ばされた衝撃で目が覚めたよ」

「ああー、あはは。まあ、荒療治ではあったかな」

「ふん、そうかい。あいてて……」

ミシェルは痛みに顔を歪めながら、草むらの上に腰を下ろした。吹き飛んだ時にぶつけたのか、頬に青たんあざができていたし、口の端からは血が出ている。そんなボロボロのところに、こんな話をするのは気が引けるけど……

「なあ、ミシェル。その、ヴォール村長のことなんだけど」

「……ああ。あのバカ、あたしが頭下げてやったってのに、むざむざおっにやがって」

頭は下げてなかった気がするけど……ミシェルはペッと血の混じった唾を吐いた。

「安心おし、あんたたちを殺人者呼ばわりするつもりはないよ。ありゃ、いわゆる身から出た錆だ。責任をひっかぶせようなんざ思ってないからね。もっとも、あのゴーレムを倒したあんたたち相手じゃ、したくてもできないだろうさ」

「へ?ああ、それはありがたいし、大事なんだけど。それより、これからサイレン村はどうするんだ?村長がいないとまずいんだろ?」

「ああ、それかい……ま、こうなっちまったらしょうがないね。この村はオシマイだよ」

「おしまいって、そんな……なぁ、どうにかならないのかよ?」

「……ぷっ。いやだね、あんた。なんて顔してんのさ」

ミシェルは俺の顔を見ると、ケタケタと笑い出した。む、失礼だな。俺は真剣に心配してるのに……

「あはは、悪い悪い。けどねあんた、お人よしもたいがいにしとかないと、あとで痛い目見るよ」

「……どういう意味だよ?」

「さてね。年貢の納め時かねぇ……いいよ、教えてあげるよ。この村の秘密をね」

この村の、秘密?これだけの騒ぎが起きて、まだ何かあるのか……?俺たちが話し込んでいるのを見て、仲間たちも近くに集まってきた。ウィルもかろうじて動けるようになったようで、顔半分が地面に埋まった状態でにじり寄ってきた。こえーよ……
聞き手が増えてもミシェルは特に気にせず、あくまで俺に話しかけている体でつづけた。

「さて。あたしはあんたたちに、村長のことを金稼ぎの天才だと言ったね。ありゃ、半分嘘だ」

「は?どういうことだ?」

「金稼ぎの才があったのは事実だ。けど、それはそこまで飛びぬけた才能じゃなかったのさ。村のボンクラどもよか、毛の一本、二本くらい優秀ってところかね」

「え?けど、村長のおかげで村は持ち直したんだろ?」

「ああ。あれは才能のおかげというより、降って沸いた幸運だったんだろうね」

「こう、うん?金鉱脈でも掘り当てたってのか?」

「うまいこと言うね、それに近いよ。村長はどっから話をつかんだんだか、なんとも怪しい商人仲間とつるむようになったのさ。かっこつけて言やぁブラックマーケットだが、ようはチンケなペテン師どもの集まりだよ」

「……それ、セーフ、なのか?」

「アウトに決まってるだろう。その商人の紹介で、村長はとある闇ルートを手繰り寄せることができたのさ。そこで仕入れたものを売りさばき始めたとたん、金ががっぽがっぽと舞い込んでくるようになってね。つぶれる寸前だった村は何とかもちなおしたってわけだよ」

「闇ルートで売りさばく……?ミシェル、まさかそれって……竜の骨とか、言わないよな?」

「ああ、そんなんだったかね。あたしゃてっきり、そういう名前の薬かと思ってたよ。村の上位層でこそこそやってることだから、実物を見たことはなかったんさ」

まさか!ラクーンの町で出回っていると噂になっていた、あの竜の骨。それの出どころは、この小さな田舎町だったのか!

「そんな、何考えてんだよ!あれがどんなものなのか、知ってるのか?墓場まで行けば、それのせいでおかしくなった連中がまだぶっ倒れてるぞ!」

「知ってるよ。あんたがおかしくなった村人に襲われたって話も、そうだろうと思ってた。上位層の連中は売るだけじゃ飽き足らず、自分たちもそれを使って楽しんでたからさ。さすがに竜核ってやつまでは知らなかったがね」

ばっ……あいつら、自分たちで竜の骨を使ったのか?危険なものだってわかっていて?それじゃあ完全に、やつらの自業自得じゃないか!それなのに俺たちは、ケガを負わせないように必死に作戦を立てて……

「ちっくしょう!」

俺は八つ当たり気味に、足元の雑草を引きちぎった。そんなことしても、ちっとも腹の虫は治まらなかったが。

「ならあんたたちは、竜の骨が危険なものだって知っててそれを売っていたのか?ミシェル、あんたも?」

「ああ、そうなるね。直接取引するのは上層の連中だけだった。あたしたち下層の人間は、在庫を管理したり、山のふもとまで荷運びをさせられたりってとこさ。肝心の品は木箱に入れられてて見えなかったけど、それでも全員、中になにが入っていて、何を運ばされてるのかはわかってたはずだよ」

「誰も、それを止めようとはしなかったのかよ?」

「しないよ。アレを売らなきゃ、あたしたちは飢え死にするしかないんだからね。まあ、それしか道がなかった、とは言わない。けれど目の前に転がってきた幸運を蹴っ飛ばせるほど、この村に余裕なんかなかったのさ」

「……でも、じゃあどうするんだ。あんたたちはこれからも、裏取引を続けていくつもりなのか?だったら俺、見過ごせないぞ」

「まさか、もう終いだよ。じゃなきゃこんなにベラベラしゃべるもんかい。闇ルートの詳しい事も、商人との秘密の会合場所も、知ってたのは村長だけだったからね。そいつがくたばっちまった今、次の担い手がいないんだよ」

「そ、そうか……」

俺はほっと胸をなで下ろした。ミシェルまでとっちめる羽目にならずにすんだからな。

「でも、かえって良かったんじゃないか?それなら、ここはやっと真っ当な村に生まれ変わるんだ。やましいことも何もない、普通の村にさ」

「いいや、さっきも言っただろう。この村はお終いだよ」

え?そりゃあ、大きな財源は無くなったかもしれないが……

「だって、まだ諦めることは……」

「およし、現実を見なよ。ここにまともな産業なんて何もない。経営をしてた上位陣はクスリで頭がパーになっちまってるし、ほかの奴らは学なしだ。炭鉱のオークもあれだけ数を増やしてるんじゃ、もう穴に潜るのも無理だしね……」

あ……そうか。炭鉱が枯れたから、闇ルートに手を出したわけで……それに、オークどももさっきやっつけたのが全員だとは限らない。洞窟の奥深くにもっと数がいるとしたら、そもそもここは安全といえないじゃないか。それじゃ畑を耕したり、人を集めることだって……

「それにね、あたしたちだって薄々予感はしてたんだ、こんな商売は長く続かないってね。ふん、良心の呵責なんかじゃないよ。あたしたちがヤバいもんを流してるって、嗅ぎつかれ始めてたのさ」

「……みたいだな。ラクーンでもそのうわさは聞いたよ」

「だろう?あんたたちがラクーンの町から来たって聞いて、村長は肝を冷やしただろうね。子ども連れだと油断させておいて、実はクスリの出所を探しに来た調査官なんじゃないかってさ」

あ、だからヴォール村長は、やたらと俺たちに質問したり、監視したりしていたのか。その上で俺たちがライラのことを探しているとなったんじゃ、そりゃ目の敵にされるわけだ。

「あたしたちは派手にやりすぎたんだよ。欲に目がくらんで、クスリをばらまきすぎた。最近はそれ以外にも、犯罪者の高跳びの援助やら、奴隷商の密入国の手助けやら……足がついても当然さね」

「え、そんなことまでやってたのか……?」

「ここは三の国との国境が近いだろう。西に行きゃいちの国に出るし……ま、手広く小汚くやってた、そのバチが当たったんだろうね。神様ってぇのは、よーく見てるよ……」

ミシェルは背中を丸めて、鼻から長い息をはいた。俺は、なんと言ったらよいのか分からなかった。何を言っても気休めにしかならないし、そもそもこれは、この村全体が汚い商売をしていた報いだともとれる。

「……」

「……ばかだね、そんな顔するんじゃないよ」

俺の葛藤が顔に出ていたのか、ミシェルがふふんと小さく笑った。

「あんたたちが火事を消して、あの恐ろしいゴーレムを倒してくれたことには感謝してるよ。きっと旧市街の連中も同じだろう。けど、それ以外のやつらは分からない。もしかしたら、あんたたちが村長を殺したんだといちゃもんを付けてくるかもしれない」

「え……そんな、冗談だろ」

「こういう時の人の心ってのは分からないもんさ。あまりに辛い出来事があると、人間の頭は現実を歪めて捉えちまう。だからそうならない前に、あんたたちはおいき。今夜のうちに村を出て、ここから遠く離れた場所に行くんだ」

「……」

「これ以上、この村の厄介ごとには巻き込まれたくないだろう。村を化物から救ってくれただけで十分だ。ははは、その礼がたった十セーファで申し訳ないけどね。さ、おいき」

ミシェルは立ち上がると、有無を言わせぬ様子で、手で俺たちをおいやった。どうしようか悩む俺に、エラゼムが俺にそっと耳打ちをする。

「桜下殿、吾輩も彼女の意見に賛成です。じき、墓場で気絶している連中も意識を取り戻すでしょう。我らと直接戦った彼らと出くわすのは、あまり得策とは言えますまい」

「……わかった。行こう」

俺は最後に、ミシェルに向き直った。

「じゃあなミシェル、世話になった……けっこう短い間だったけど。俺、あんたはいい人だったと思うよ」

「バカ言うんじゃないよ。この村の人間に、いい人なんかいるもんか……」

ミシェルのつぶやきは、夜風にまかれてむなしく消えていった……



つづく
====================

読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...