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5章 幸せの形
11-3
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「ミシェルー!やべ、ぜんぜん見当たらないぞ……」
「……悪かったね、影が薄くて。あたしはここにいるよ」
「うお、ミシェル!」
ミシェルは少し離れたやぶの中からのそり現れた
「よかった、あんたも無事だったんだな」
「あいにくとね。まったく、あんたたち、あのデカブツをぶっ壊すのに爆弾か何か使ったのかい?吹っ飛ばされた衝撃で目が覚めたよ」
「ああー、あはは。まあ、荒療治ではあったかな」
「ふん、そうかい。あいてて……」
ミシェルは痛みに顔を歪めながら、草むらの上に腰を下ろした。吹き飛んだ時にぶつけたのか、頬に青たんができていたし、口の端からは血が出ている。そんなボロボロのところに、こんな話をするのは気が引けるけど……
「なあ、ミシェル。その、ヴォール村長のことなんだけど」
「……ああ。あのバカ、あたしが頭下げてやったってのに、むざむざおっ死にやがって」
頭は下げてなかった気がするけど……ミシェルはペッと血の混じった唾を吐いた。
「安心おし、あんたたちを殺人者呼ばわりするつもりはないよ。ありゃ、いわゆる身から出た錆だ。責任をひっかぶせようなんざ思ってないからね。もっとも、あのゴーレムを倒したあんたたち相手じゃ、したくてもできないだろうさ」
「へ?ああ、それはありがたいし、大事なんだけど。それより、これからサイレン村はどうするんだ?村長がいないとまずいんだろ?」
「ああ、それかい……ま、こうなっちまったらしょうがないね。この村はオシマイだよ」
「おしまいって、そんな……なぁ、どうにかならないのかよ?」
「……ぷっ。いやだね、あんた。なんて顔してんのさ」
ミシェルは俺の顔を見ると、ケタケタと笑い出した。む、失礼だな。俺は真剣に心配してるのに……
「あはは、悪い悪い。けどねあんた、お人よしもたいがいにしとかないと、あとで痛い目見るよ」
「……どういう意味だよ?」
「さてね。年貢の納め時かねぇ……いいよ、教えてあげるよ。この村の秘密をね」
この村の、秘密?これだけの騒ぎが起きて、まだ何かあるのか……?俺たちが話し込んでいるのを見て、仲間たちも近くに集まってきた。ウィルもかろうじて動けるようになったようで、顔半分が地面に埋まった状態でにじり寄ってきた。こえーよ……
聞き手が増えてもミシェルは特に気にせず、あくまで俺に話しかけている体でつづけた。
「さて。あたしはあんたたちに、村長のことを金稼ぎの天才だと言ったね。ありゃ、半分嘘だ」
「は?どういうことだ?」
「金稼ぎの才があったのは事実だ。けど、それはそこまで飛びぬけた才能じゃなかったのさ。村のボンクラどもよか、毛の一本、二本くらい優秀ってところかね」
「え?けど、村長のおかげで村は持ち直したんだろ?」
「ああ。あれは才能のおかげというより、降って沸いた幸運だったんだろうね」
「こう、うん?金鉱脈でも掘り当てたってのか?」
「うまいこと言うね、それに近いよ。村長はどっから話をつかんだんだか、なんとも怪しい商人仲間とつるむようになったのさ。かっこつけて言やぁブラックマーケットだが、ようはチンケなペテン師どもの集まりだよ」
「……それ、セーフ、なのか?」
「アウトに決まってるだろう。その商人の紹介で、村長はとある闇ルートを手繰り寄せることができたのさ。そこで仕入れたものを売りさばき始めたとたん、金ががっぽがっぽと舞い込んでくるようになってね。つぶれる寸前だった村は何とかもちなおしたってわけだよ」
「闇ルートで売りさばく……?ミシェル、まさかそれって……竜の骨とか、言わないよな?」
「ああ、そんなんだったかね。あたしゃてっきり、そういう名前の薬かと思ってたよ。村の上位層でこそこそやってることだから、実物を見たことはなかったんさ」
まさか!ラクーンの町で出回っていると噂になっていた、あの竜の骨。それの出どころは、この小さな田舎町だったのか!
「そんな、何考えてんだよ!あれがどんなものなのか、知ってるのか?墓場まで行けば、それのせいでおかしくなった連中がまだぶっ倒れてるぞ!」
「知ってるよ。あんたがおかしくなった村人に襲われたって話も、そうだろうと思ってた。上位層の連中は売るだけじゃ飽き足らず、自分たちもそれを使って楽しんでたからさ。さすがに竜核ってやつまでは知らなかったがね」
ばっ……あいつら、自分たちで竜の骨を使ったのか?危険なものだってわかっていて?それじゃあ完全に、やつらの自業自得じゃないか!それなのに俺たちは、ケガを負わせないように必死に作戦を立てて……
「ちっくしょう!」
俺は八つ当たり気味に、足元の雑草を引きちぎった。そんなことしても、ちっとも腹の虫は治まらなかったが。
「ならあんたたちは、竜の骨が危険なものだって知っててそれを売っていたのか?ミシェル、あんたも?」
「ああ、そうなるね。直接取引するのは上層の連中だけだった。あたしたち下層の人間は、在庫を管理したり、山のふもとまで荷運びをさせられたりってとこさ。肝心の品は木箱に入れられてて見えなかったけど、それでも全員、中になにが入っていて、何を運ばされてるのかはわかってたはずだよ」
「誰も、それを止めようとはしなかったのかよ?」
「しないよ。アレを売らなきゃ、あたしたちは飢え死にするしかないんだからね。まあ、それしか道がなかった、とは言わない。けれど目の前に転がってきた幸運を蹴っ飛ばせるほど、この村に余裕なんかなかったのさ」
「……でも、じゃあどうするんだ。あんたたちはこれからも、裏取引を続けていくつもりなのか?だったら俺、見過ごせないぞ」
「まさか、もう終いだよ。じゃなきゃこんなにベラベラしゃべるもんかい。闇ルートの詳しい事も、商人との秘密の会合場所も、知ってたのは村長だけだったからね。そいつがくたばっちまった今、次の担い手がいないんだよ」
「そ、そうか……」
俺はほっと胸をなで下ろした。ミシェルまでとっちめる羽目にならずにすんだからな。
「でも、かえって良かったんじゃないか?それなら、ここはやっと真っ当な村に生まれ変わるんだ。やましいことも何もない、普通の村にさ」
「いいや、さっきも言っただろう。この村はお終いだよ」
え?そりゃあ、大きな財源は無くなったかもしれないが……
「だって、まだ諦めることは……」
「およし、現実を見なよ。ここにまともな産業なんて何もない。経営をしてた上位陣はクスリで頭がパーになっちまってるし、ほかの奴らは学なしだ。炭鉱のオークもあれだけ数を増やしてるんじゃ、もう穴に潜るのも無理だしね……」
あ……そうか。炭鉱が枯れたから、闇ルートに手を出したわけで……それに、オークどももさっきやっつけたのが全員だとは限らない。洞窟の奥深くにもっと数がいるとしたら、そもそもここは安全といえないじゃないか。それじゃ畑を耕したり、人を集めることだって……
「それにね、あたしたちだって薄々予感はしてたんだ、こんな商売は長く続かないってね。ふん、良心の呵責なんかじゃないよ。あたしたちがヤバいもんを流してるって、嗅ぎつかれ始めてたのさ」
「……みたいだな。ラクーンでもそのうわさは聞いたよ」
「だろう?あんたたちがラクーンの町から来たって聞いて、村長は肝を冷やしただろうね。子ども連れだと油断させておいて、実はクスリの出所を探しに来た調査官なんじゃないかってさ」
あ、だからヴォール村長は、やたらと俺たちに質問したり、監視したりしていたのか。その上で俺たちがライラのことを探しているとなったんじゃ、そりゃ目の敵にされるわけだ。
「あたしたちは派手にやりすぎたんだよ。欲に目がくらんで、クスリをばらまきすぎた。最近はそれ以外にも、犯罪者の高跳びの援助やら、奴隷商の密入国の手助けやら……足がついても当然さね」
「え、そんなことまでやってたのか……?」
「ここは三の国との国境が近いだろう。西に行きゃ一の国に出るし……ま、手広く小汚くやってた、そのバチが当たったんだろうね。神様ってぇのは、よーく見てるよ……」
ミシェルは背中を丸めて、鼻から長い息をはいた。俺は、なんと言ったらよいのか分からなかった。何を言っても気休めにしかならないし、そもそもこれは、この村全体が汚い商売をしていた報いだともとれる。
「……」
「……ばかだね、そんな顔するんじゃないよ」
俺の葛藤が顔に出ていたのか、ミシェルがふふんと小さく笑った。
「あんたたちが火事を消して、あの恐ろしいゴーレムを倒してくれたことには感謝してるよ。きっと旧市街の連中も同じだろう。けど、それ以外のやつらは分からない。もしかしたら、あんたたちが村長を殺したんだといちゃもんを付けてくるかもしれない」
「え……そんな、冗談だろ」
「こういう時の人の心ってのは分からないもんさ。あまりに辛い出来事があると、人間の頭は現実を歪めて捉えちまう。だからそうならない前に、あんたたちはおいき。今夜のうちに村を出て、ここから遠く離れた場所に行くんだ」
「……」
「これ以上、この村の厄介ごとには巻き込まれたくないだろう。村を化物から救ってくれただけで十分だ。ははは、その礼がたった十セーファで申し訳ないけどね。さ、おいき」
ミシェルは立ち上がると、有無を言わせぬ様子で、手で俺たちをおいやった。どうしようか悩む俺に、エラゼムが俺にそっと耳打ちをする。
「桜下殿、吾輩も彼女の意見に賛成です。じき、墓場で気絶している連中も意識を取り戻すでしょう。我らと直接戦った彼らと出くわすのは、あまり得策とは言えますまい」
「……わかった。行こう」
俺は最後に、ミシェルに向き直った。
「じゃあなミシェル、世話になった……けっこう短い間だったけど。俺、あんたはいい人だったと思うよ」
「バカ言うんじゃないよ。この村の人間に、いい人なんかいるもんか……」
ミシェルのつぶやきは、夜風にまかれてむなしく消えていった……
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「……悪かったね、影が薄くて。あたしはここにいるよ」
「うお、ミシェル!」
ミシェルは少し離れたやぶの中からのそり現れた
「よかった、あんたも無事だったんだな」
「あいにくとね。まったく、あんたたち、あのデカブツをぶっ壊すのに爆弾か何か使ったのかい?吹っ飛ばされた衝撃で目が覚めたよ」
「ああー、あはは。まあ、荒療治ではあったかな」
「ふん、そうかい。あいてて……」
ミシェルは痛みに顔を歪めながら、草むらの上に腰を下ろした。吹き飛んだ時にぶつけたのか、頬に青たんができていたし、口の端からは血が出ている。そんなボロボロのところに、こんな話をするのは気が引けるけど……
「なあ、ミシェル。その、ヴォール村長のことなんだけど」
「……ああ。あのバカ、あたしが頭下げてやったってのに、むざむざおっ死にやがって」
頭は下げてなかった気がするけど……ミシェルはペッと血の混じった唾を吐いた。
「安心おし、あんたたちを殺人者呼ばわりするつもりはないよ。ありゃ、いわゆる身から出た錆だ。責任をひっかぶせようなんざ思ってないからね。もっとも、あのゴーレムを倒したあんたたち相手じゃ、したくてもできないだろうさ」
「へ?ああ、それはありがたいし、大事なんだけど。それより、これからサイレン村はどうするんだ?村長がいないとまずいんだろ?」
「ああ、それかい……ま、こうなっちまったらしょうがないね。この村はオシマイだよ」
「おしまいって、そんな……なぁ、どうにかならないのかよ?」
「……ぷっ。いやだね、あんた。なんて顔してんのさ」
ミシェルは俺の顔を見ると、ケタケタと笑い出した。む、失礼だな。俺は真剣に心配してるのに……
「あはは、悪い悪い。けどねあんた、お人よしもたいがいにしとかないと、あとで痛い目見るよ」
「……どういう意味だよ?」
「さてね。年貢の納め時かねぇ……いいよ、教えてあげるよ。この村の秘密をね」
この村の、秘密?これだけの騒ぎが起きて、まだ何かあるのか……?俺たちが話し込んでいるのを見て、仲間たちも近くに集まってきた。ウィルもかろうじて動けるようになったようで、顔半分が地面に埋まった状態でにじり寄ってきた。こえーよ……
聞き手が増えてもミシェルは特に気にせず、あくまで俺に話しかけている体でつづけた。
「さて。あたしはあんたたちに、村長のことを金稼ぎの天才だと言ったね。ありゃ、半分嘘だ」
「は?どういうことだ?」
「金稼ぎの才があったのは事実だ。けど、それはそこまで飛びぬけた才能じゃなかったのさ。村のボンクラどもよか、毛の一本、二本くらい優秀ってところかね」
「え?けど、村長のおかげで村は持ち直したんだろ?」
「ああ。あれは才能のおかげというより、降って沸いた幸運だったんだろうね」
「こう、うん?金鉱脈でも掘り当てたってのか?」
「うまいこと言うね、それに近いよ。村長はどっから話をつかんだんだか、なんとも怪しい商人仲間とつるむようになったのさ。かっこつけて言やぁブラックマーケットだが、ようはチンケなペテン師どもの集まりだよ」
「……それ、セーフ、なのか?」
「アウトに決まってるだろう。その商人の紹介で、村長はとある闇ルートを手繰り寄せることができたのさ。そこで仕入れたものを売りさばき始めたとたん、金ががっぽがっぽと舞い込んでくるようになってね。つぶれる寸前だった村は何とかもちなおしたってわけだよ」
「闇ルートで売りさばく……?ミシェル、まさかそれって……竜の骨とか、言わないよな?」
「ああ、そんなんだったかね。あたしゃてっきり、そういう名前の薬かと思ってたよ。村の上位層でこそこそやってることだから、実物を見たことはなかったんさ」
まさか!ラクーンの町で出回っていると噂になっていた、あの竜の骨。それの出どころは、この小さな田舎町だったのか!
「そんな、何考えてんだよ!あれがどんなものなのか、知ってるのか?墓場まで行けば、それのせいでおかしくなった連中がまだぶっ倒れてるぞ!」
「知ってるよ。あんたがおかしくなった村人に襲われたって話も、そうだろうと思ってた。上位層の連中は売るだけじゃ飽き足らず、自分たちもそれを使って楽しんでたからさ。さすがに竜核ってやつまでは知らなかったがね」
ばっ……あいつら、自分たちで竜の骨を使ったのか?危険なものだってわかっていて?それじゃあ完全に、やつらの自業自得じゃないか!それなのに俺たちは、ケガを負わせないように必死に作戦を立てて……
「ちっくしょう!」
俺は八つ当たり気味に、足元の雑草を引きちぎった。そんなことしても、ちっとも腹の虫は治まらなかったが。
「ならあんたたちは、竜の骨が危険なものだって知っててそれを売っていたのか?ミシェル、あんたも?」
「ああ、そうなるね。直接取引するのは上層の連中だけだった。あたしたち下層の人間は、在庫を管理したり、山のふもとまで荷運びをさせられたりってとこさ。肝心の品は木箱に入れられてて見えなかったけど、それでも全員、中になにが入っていて、何を運ばされてるのかはわかってたはずだよ」
「誰も、それを止めようとはしなかったのかよ?」
「しないよ。アレを売らなきゃ、あたしたちは飢え死にするしかないんだからね。まあ、それしか道がなかった、とは言わない。けれど目の前に転がってきた幸運を蹴っ飛ばせるほど、この村に余裕なんかなかったのさ」
「……でも、じゃあどうするんだ。あんたたちはこれからも、裏取引を続けていくつもりなのか?だったら俺、見過ごせないぞ」
「まさか、もう終いだよ。じゃなきゃこんなにベラベラしゃべるもんかい。闇ルートの詳しい事も、商人との秘密の会合場所も、知ってたのは村長だけだったからね。そいつがくたばっちまった今、次の担い手がいないんだよ」
「そ、そうか……」
俺はほっと胸をなで下ろした。ミシェルまでとっちめる羽目にならずにすんだからな。
「でも、かえって良かったんじゃないか?それなら、ここはやっと真っ当な村に生まれ変わるんだ。やましいことも何もない、普通の村にさ」
「いいや、さっきも言っただろう。この村はお終いだよ」
え?そりゃあ、大きな財源は無くなったかもしれないが……
「だって、まだ諦めることは……」
「およし、現実を見なよ。ここにまともな産業なんて何もない。経営をしてた上位陣はクスリで頭がパーになっちまってるし、ほかの奴らは学なしだ。炭鉱のオークもあれだけ数を増やしてるんじゃ、もう穴に潜るのも無理だしね……」
あ……そうか。炭鉱が枯れたから、闇ルートに手を出したわけで……それに、オークどももさっきやっつけたのが全員だとは限らない。洞窟の奥深くにもっと数がいるとしたら、そもそもここは安全といえないじゃないか。それじゃ畑を耕したり、人を集めることだって……
「それにね、あたしたちだって薄々予感はしてたんだ、こんな商売は長く続かないってね。ふん、良心の呵責なんかじゃないよ。あたしたちがヤバいもんを流してるって、嗅ぎつかれ始めてたのさ」
「……みたいだな。ラクーンでもそのうわさは聞いたよ」
「だろう?あんたたちがラクーンの町から来たって聞いて、村長は肝を冷やしただろうね。子ども連れだと油断させておいて、実はクスリの出所を探しに来た調査官なんじゃないかってさ」
あ、だからヴォール村長は、やたらと俺たちに質問したり、監視したりしていたのか。その上で俺たちがライラのことを探しているとなったんじゃ、そりゃ目の敵にされるわけだ。
「あたしたちは派手にやりすぎたんだよ。欲に目がくらんで、クスリをばらまきすぎた。最近はそれ以外にも、犯罪者の高跳びの援助やら、奴隷商の密入国の手助けやら……足がついても当然さね」
「え、そんなことまでやってたのか……?」
「ここは三の国との国境が近いだろう。西に行きゃ一の国に出るし……ま、手広く小汚くやってた、そのバチが当たったんだろうね。神様ってぇのは、よーく見てるよ……」
ミシェルは背中を丸めて、鼻から長い息をはいた。俺は、なんと言ったらよいのか分からなかった。何を言っても気休めにしかならないし、そもそもこれは、この村全体が汚い商売をしていた報いだともとれる。
「……」
「……ばかだね、そんな顔するんじゃないよ」
俺の葛藤が顔に出ていたのか、ミシェルがふふんと小さく笑った。
「あんたたちが火事を消して、あの恐ろしいゴーレムを倒してくれたことには感謝してるよ。きっと旧市街の連中も同じだろう。けど、それ以外のやつらは分からない。もしかしたら、あんたたちが村長を殺したんだといちゃもんを付けてくるかもしれない」
「え……そんな、冗談だろ」
「こういう時の人の心ってのは分からないもんさ。あまりに辛い出来事があると、人間の頭は現実を歪めて捉えちまう。だからそうならない前に、あんたたちはおいき。今夜のうちに村を出て、ここから遠く離れた場所に行くんだ」
「……」
「これ以上、この村の厄介ごとには巻き込まれたくないだろう。村を化物から救ってくれただけで十分だ。ははは、その礼がたった十セーファで申し訳ないけどね。さ、おいき」
ミシェルは立ち上がると、有無を言わせぬ様子で、手で俺たちをおいやった。どうしようか悩む俺に、エラゼムが俺にそっと耳打ちをする。
「桜下殿、吾輩も彼女の意見に賛成です。じき、墓場で気絶している連中も意識を取り戻すでしょう。我らと直接戦った彼らと出くわすのは、あまり得策とは言えますまい」
「……わかった。行こう」
俺は最後に、ミシェルに向き直った。
「じゃあなミシェル、世話になった……けっこう短い間だったけど。俺、あんたはいい人だったと思うよ」
「バカ言うんじゃないよ。この村の人間に、いい人なんかいるもんか……」
ミシェルのつぶやきは、夜風にまかれてむなしく消えていった……
つづく
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