じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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5章 幸せの形

12-1 墓場の灯火

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12-1 墓場の灯火

短い別れを告げ、俺たちは村の外へと歩き出す。するとミシェルが思い出したように、後ろから大声で叫んだ。

「あ、おい、まっとくれ!あんた!赤毛のあんただよ!」

ミシェルに呼び止められ、ライラが振り返った。

「あんた……もしかして、ライラなのかい?その……あの日から、いなくなった……」

「……」

ライラは何も言わなかったが、その沈黙が肯定を表していた。

「そうかい……礼なんか、言えた義理じゃないだろうけど。それでも言わせておくれ。村を救ってくれて、ありがとう」

「……!」

ライラは驚いたように目を見開いたが、すぐに悔し泣きでもしそうに顔をゆがめた。そしてくるりと踵を返すと、突然走り出してしまった。

「あ、おい!ライラ!」

俺たちは慌ててライラの後を追っていく。ライラは道を外れて森に飛び込むと、がさがさと藪の中を疾走する。あいつ、この辺の森を走りなれてるな。こっちは木の枝に引っかかって大変だってのに……

「シッ!しずかに!」

突然フランが鋭い声を出す。フランの五感の鋭さを知っている俺たちは、ぴたっと動きを止め、息をひそめた。その間にライラは一人突っ走って行ってしまったが……

「……なんだ?誰かが歩いてくる……」

森の中にいる俺たちの隣、ついさっきまで歩いていた道の向こうから、大勢の人間が歩いてくるところだった。

「あ、まさか。墓場で気絶してた連中か?」

「たぶん、そう。武装がおんなじだ」

「おぉ、危なかったな。危うく鉢合わせるところだった。今さっき目が覚めて、村に戻ってくるところなんだろう」

村人たちは、あれで完全に正気に戻れたんだろうか?竜核の脅威は去ったが、彼らをむしばむ竜の呪いまでは、正直わからない。中毒性のある物なら、いつまたぶり返してもおかしくないからな……けど、それに対して俺たちがしてやれることはないし、そこまで面倒を見てやる気も起きなかった。
俺たちは村人たちが完全に行ってしまうまで待ってから、再びライラの後を追いかけた。藪の間を駆け抜けていったライラは、完全に姿をくらましていたが、俺たちはその行き先をおおむね予想することができた。彼女が消えていった方角は、村人たちが今歩いてきた方向と同じだったから。
やがて俺たちは森を抜けて、最初にライラと出会った墓場へと戻ってきたのだった。
ライラは墓石の一つに腰掛け、なにをするでもなく、ぼーっと夜空を見つめていた。

「おーい、ライラ。急に走りだすから驚いたぜ。礼を言われたのがそんなに……」

「……何で追いかけてきたの」

「い、は?何でだって?」

「ほっといてくれてよかったのに。どうせすぐ行っちゃうんでしょ」

「まあ、な。そうするよう言われたし……ハクにも、お前のことを伝えてやらないと」

「……」

「なあ、まだ村の人たちが憎いか?ミシェルもそうだし、スラムの婆さんもお前に感謝してたんだぜ」

「……そんなの、憎いに決まってるよ。あんなことされて、忘れられるわけないよ……!」

ライラは顔をうつむかせると、絞り出すようにそう言った。

「ライラ……」

「……けど。みんなが、悪いわけじゃないのはわかったよ。さっきのミシェルって人とかは、まだ許してあげてもいいかなって思えたし……それに、ハクも」

「……!そっか。うん、その方がいいよ」

「ま、それももう関係ないっぽいけどね。あの村、そのうち無くなるんでしょ?」

「う……そ、ま、まだわかんないぞ。劇的な復興を遂げるかも……」

……自分で言っていても、これは無理があるな。ライラはちっとも興味なさそうに背中を反らせて、墓石とお尻とでバランスを取った。

「まーライラとしては、どーでもいーけどね。ここのお墓が寂しくなっちゃうのは少し困るけど。もう死体が増えないんなら、別の山に行こうかなぁ」

ライラは腰かけている墓石を足でトントン蹴りつけ、キキキッと笑った。

「そ、そうか……あんまり目立つことはしてくれるなよ。またどっかの墓場で魔法をぶっかましたりとか……」

「う、うるさいなぁ。そんなのライラの勝手でしょ。お前には関係ないよっ、ばーか!」

ライラはべーっと舌を突き出すと、墓石から飛び降りて駆けだした。ライラの赤い髪が、はためきながら墓場の奥へ消えていく……俺はもう二度と、ライラに出会えないような気がした。その小さな背中に声を掛けようと思ったが、いい言葉が見つからない。行かないでくれ?どうするつもりなんだ?ううん、違う。こんな言葉じゃ、彼女の胸には響かない。
俺が舌を絡ませていた、その時だった。フランが、走り去るライラの背中に大きな声で呼びかけたのだ。

「ねえ、あなた!本当は、さみしいんでしょ!」

ぴた。ライラが足を止めた!そして、ゆっくりこちらを振り返った。さみしい?俺はフランの横顔を見つめ、それからライラの方を見た。

「……それ、ライラに言ってるの?さみしいって?」

「そう。ほんとは、一人ぼっちで寂しかったんじゃないの?」

フランは確信を持った口ぶりで言う。しかしライラは、馬鹿にしたように笑い声を上げた。

「キャハハ!お前もバカなんだね。そんなウソ言って、ライラが騙されるわけ……」

「嘘?嘘つきはそっちでしょ。わざわざ人気の多い村の近くに住みついたりなんかして」

ぎくり。ライラが笑うのをやめた。

「な、なに言って」

「あれだけ村人を憎んでおきながら、どうして村から離れようとしなかったの。人の気配を感じていたかったんじゃないの?」

「ち、ちがう!ここならいつでもごはんがあるから……」

「それなら、こんな小さな村じゃなくてもいい。もっと大きな町の方が、人の数も多いのに」

「こ、ここの方が、近くて便利だから……」

「へえ?あなたを退治しようとする人たちがたくさんいる、さぞかし便利な食事場ね。知ってる?あなた、村では賞金首になってるんだよ」

「うぐ……」

確かに、言われてみればそうだ。フランはさっきも、ライラになぜ復讐しないのかとたずねていたっけ。ひょっとすると彼女は、ライラの心境を誰よりも理解しているのかもしれないな……フランもまた、家族から離され、孤独にさまよい続けていた過去があるから。

「そ、そんなの!ライラにはまほーの力があるから平気だもん!」

「そうだ。あなたはその気になれば魔法で簡単に村人を殺せたのに、それをしなかった。お母さんの言いつけだって言うけど、それならどうしてわざわざ人前で魔法を使って、見せつけたりしたの?地面の中を掘り進める魔法が使えるんでしょ。見つからずにこっそり骨をかじることなんて、いくらでもできたはずなのに」

「おどかしてやろうと思ったんだよっ!ライラのことを怖がるように」

「ふーん。魔法で慌てる村人を見て、遊んでたわけじゃないんだ?律儀に月が出ている間だけ、なんて時間まで決めてるから、まるで友達と遊ぶ約束をする子どもみたいって思ったけど」

「ちがうよ!ライラのこと、ばかにするなっ!」

ぞくっ。またあの強い気配が、ライラから放たれている。まずいぞ、ライラのやつ、相当きてるんじゃないか?

「お、おい二人とも。少し冷静に……」

「うるさい!」「黙ってて!」

くぅ~、なんでいつも俺の扱いはこんななんだ!いい加減頭にくるぞ!ケンカを治めるはずの俺がなぜか腹を立てている奇妙な状況に、ウィルが優しい声で割って入った。

「お二人とも、少し落ち着いてください。ライラさん、フランさんもあなたのことを馬鹿にしようとしているわけじゃないんです。ただ、ライラさんのことが心配なんですよ」

「だまれっ!お前にライラの何がわかるの!」

「ええ。家族を亡くした悲しみは、孤児だった私にはわかりません。ただ、一人残される寂しさはわかるつもりです」

「へ……?」

「私は、幽霊になって間もないんです。突然死んで、誰からも認識されず、誰にも助けてもらえない……正直、当初は気が変になりそうでした。私はこのまま一人ぼっちで、誰にも知られないまま悪霊になっていくんじゃないかって……怖くて、しょうがありませんでした」

「……そう、ならなかったの?」

「はい。桜下さんたちに出会えましたから」

ウィルはにこりとライラに笑いかけた。

「ずっと一人でいることは、やっぱりつらいです。フランさんとエラゼムさんは、私よりずーっと、何倍もの時間を一人で過ごしていましたから……きっと、たくさんつらい思いをしてきたんだろうなって、私は勝手に思っています」

俺はおもわず、エラゼムの方を振り返ってしまった。エラゼムは何も言わなかったが、こくりと小さくうなずいた。

「だからこそ、ライラさん。あなたが心配です。私たちに力になれるかどうかは、わらないけど……けど、一人でつらくても、つらくないふりをしているライラさんを、このまま放っとけないんです」

「つらく、なんて……」

ライラはうつむくと、小さな肩を落として、さらに小さくなったように見えた。闇夜の中でぽつんと一人佇むその姿は、実に頼りなく、か弱く感じる……

「…………ない」

「え?」

「お前たちにできる事なんて、ないよ」

しばらく黙りこくった後、ライラは駄々をこねるように首を振った。

「そうですか……もしかしてですけど。ライラさんは、ご家族のことを想っているのですか?」

「……うん。この墓場が、おかーさんとおにぃちゃんと最期に一緒にいた場所だから」

あ……そうか。ライラにとっては、ここが、家族とともに過ごした最後の思い出なんだ。さっきライラはここを離れようかなんて言っていたけど、本気じゃなかったんだな。きっと、サイレン村がなくなって、人が誰一人もいなくなっても、彼女はここを離れるつもりはないんだろう……この寂しい墓地に、たった一人で。

「そう、だったんですね。だからライラさんは、ずっとこの墓地に……けれど、ライラさんはそれで、寂しくないのですか?」

「……さみしい、けど」

「なら、やっぱり無理すべきじゃないと思います。お母さんもお兄さんも、きっとライラさんがつらい目にあっていると知ったら、悲しむはずですよ」

「じゃあ、どうするの?ここを離れても、行くあてなんかないよ」

「それは……」

ウィルはすがるような目で、俺を振り返った。うぇ、そんな目で見つめられてもなぁ。

「桜下さん……ライラさんと一緒に行くことはできませんか?」

「ライラを仲間にってことか?う~ん……」

俺は頭をひねってしまった。相手は犬や猫じゃない、一人の女の子だ。簡単にイエスとは言えない。

「そりゃ確かに、戦力増強が急務だとは言ったがなぁ」

「だったら、なおさらいいじゃありませんか。桜下さんだって、たまにはアンデッドじゃなくて、生きた仲間が加わったほうが嬉しいでしょう?」

「そんなことはないけども……けど、その生きてるってのが問題なんだ」

「え?どういうことですか?」

「だってうち、ビンボーだろ。アンデッドはどれだけ増えても食費は増えないけど、生きていたらそうもいかないじゃないか」

今は俺一人ぶんの旅費をひねり出すのが精いっぱいのわが軍勢だ。そこに一人増えるだけで、火の車の財政が燃え尽きてしまうかもしれない。俺たちについてきた結果、ライラを飢え死にさせるようじゃ、無責任にもほどがあるだろう。

「あ……そっか。私たちと同じってわけにはいかないですよね」

「そうなんだよな。だから、まずはそれをどうにかしないと」

「ちょっと!ライラのこと、勝手に話さないでよ!ライラはここを離れる気はないからね!」

う~んとうなる俺たちに、ライラがキャンキャンかみついてくる。仮に諸問題が解決したとしても、これじゃライラ自体の説得にも骨が折れそうだ。この頑固もんを言い聞かせられるのは、それこそお母さんくらいじゃないと……

「―――」

「え?」

今、誰かの声が聞こえなかったか?俺はきょろきょろあたりを見回す。

「桜下さん?どうしました?」

ウィルが不思議そうな顔でこちらを見る。

「ウィル、今何か聞こえなかったか?」

「へ?何かって……」

「―――ライラ―――」

「あ、ほらまた!」

今度はウィルにもはっきり聞こえたらしい。

「ほんとですね。確かに今、ライラさんを呼ぶ声が……」

その本人であるライラは、きょとんとした顔をしている。

「え?ライラを……?」

その時だった。墓場の奥で、二つの淡い光がぽっと浮かび上がった。あの儚い火の玉は、ヒンキーパンクじゃないか?二つの火の玉は、ゆらゆらと揺れながらこちらに近づいてくる。

「あの火の玉が、ライラを呼んでるのか……?」



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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