じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

文字の大きさ
170 / 860
5章 幸せの形

14-2

しおりを挟む
14-2

「……ああ。わかったよ」

俺は虚空に向かってつぶやくと、ライラのそばにかがんだ。

「ライラ。俺たちと、いっしょに行かないか?」

「……」

「俺たちがお前を幸せにしてやれるかどうかは分からない。俺たちは、ほら、けっこう恨まれやすいタチみたいだからさ。だけど、お前と一緒にいて、お前の幸せを見つける手伝いならできるかもしれない」

「……」

「お前さえ良ければ、俺たちは歓迎するぜ。一人ぼっちじゃ寂しいのは、俺たちもいっしょなんだ」

「……わかった」

ライラはぐしぐしと両手で目をこすると、すくっと立ち上がった。そしてぶすっとした顔で、かがんだ俺を見下した。

「仕方ないから、大まほーつかいのライラさまが、いっしょに行ってあげる」

「へへ、そりゃ頼もしい。よろしくな」

俺が手を差し出すと、ライラもその手を握り返した。ライラの小さな、黒い手は、まるで死人のように冷たく、だが確かに命が脈打っていた。



「ライラぁ、まだなのかぁ?」

「もうちょっとだよ。この谷を越えたらすぐのところ」

「ひぃー、まだけっこうあるじゃんか……」

俺は額の汗をぬぐってから、また山道を歩き出した。俺たちは今、ライラの案内のもと、あるところへ向かっている。なんでも、ライラがこの五年間すみかにしていた洞穴があるとのことで、旅立つ前にそこにおいてある物を持っていきたいそうなのだ。しかし、夜の山の歩きにくいことと言ったら……慣れているライラはひょいひょい進むが、こっちにとっては重労働だ。フランがまたおんぶしようかと提案してくれたが、丁重に断った。今夜は激しい戦闘が続いたし、“ファズ”で治したとはいえ、あまり負担を掛けたくなかったのだ。

「ついた!ここだよ」

それから谷一つ越えた崖のふもとに、ライラのすみかはあった。小さな穴ぐらで、中には落ち葉が適当に敷かれているだけだ。こんなところで、よく五年も……

「それで、ライラが持っていきたいものって、なんだ?あんまり大きなものだと……」

「そんなんじゃないよ。ほら、これ」

そう言ってライラが見せたのは、一冊のぶ厚い本だった。ずいぶん古ぼけていて、端っこがあちこち傷んでいる。

「これ、ライラのまほーの教科書なんだ。前に住んでたところから引っ越すときに、これだけ持ってきたの」

前に住んでたところ……ライラの記憶で見た、あの薄暗い書架か。あの中の一冊ってことだな。けどそれより気になるのは、あの書架らしきところに、ライラが監禁されていた、らしいことだ……まだまだ、ライラには謎が多くありそうだな。

「ライラさん、そんな大きな本、重くありませんか?」

ウィルが心配そうに言う。本は厚紙の表紙で綴じられていて、下手するとライラの顔よりでかそうだ。ライラが持つと、ちょっとした盾のようにも見える。

「そうだ!ライラさん、それはエラゼムさんの荷物に入れてもらいましょうよ。それをずっと持ち歩くのは大変でしょう?」

「……エラ、ゼム?」

「ええ。ほら、あちらの鎧の騎士さまです」

ウィルがエラゼムを手で指し示す。そのとたん、ライラは猫のように飛び跳ね、敵意をあらわにフーッとうなった。

「ら、ライラさん?」

「だって、そいつ、ライラのこといじめたんだよ!」

「あ、あの時はしょうがなかったじゃないですか。不可抗力ですよ」

「ふか……?わけわかんないこと言って、ライラ、だまされないからね!」

ウィルが言い返そうとすると、エラゼムがやんわりとそれを制した。

「ウィル嬢、彼女の言う通りです。知らぬこととはいえ、吾輩が敵意を持って彼女に接したのは事実。何を言っても、そのことは変わりありませぬ」

「で、ですが……」

「わだかまりというものは、言葉で解決してもしようがないものですから。ゆっくりと時間をかけなければ、真なる信頼は生まれますまい。ウィル嬢のお気持ちはありがたいですが、今はそのままで」

「……わ、わかりましたよぅ」

ウィルは納得がいっていない様子だったが、ひとまずこの場はあきらめたみたいだ。ライラとエラゼムは、仲良くなるのに時間がかかりそうだなぁ。それはあの場にいた俺の責任でもあるだろうし、機会を見つけて、ライラの誤解を解いてやらないと。

「でも、ライラさん。それはそれとしても、そんな重いものを持って山道は歩けないでしょう?危険ですよ」

「う……」

ライラは本を抱きかかえて、視線をさまよわせる。見てられなくて、俺はライラに声をかけた。

「じゃあさ、俺のカバンに入れようか」

「え?」「桜下さん?」

「その本一冊くらいなら、まあ俺でもなんとかなるだろ。まだカバンにもギリギリ空きがあるし」

「いいの?」

ライラが本をぎゅっと抱きしめ、上目遣いで俺を見上げる。

「ああ。けど、いつか俺のカバンもいっぱいになるかもしれないぞ。それまでには、エラゼムのこと、許してやれよな」

「……わかった」

ライラはぼそりとうなずいた。あんなことがあったけど、根は素直な子どもなんだ。俺はライラからぶ厚い本を受け取り、それを肩にかけたカバンにしまった。うわ、重っ!ちょ、ちょっと後悔したかも……

「あら?ライラさん、それは?」

ウィルがライラの手元をのぞき込んでいる。ライラは、きれいな色の布を握りしめていた。体に巻いているぼろマントとは、明らかに質が違うものだ。

「きれいな布ですね……ショール、ですか?」

「うん……おかーさんが、ライラにくれたの。ライラとおんなじ名前のお花で染めたのよって……」

あ……じゃあ、あれはお母さんの遺品か。そのショールは水色からピンク、そして藤色へと美しいグラデーションで染められていて、ところどころに小さな花の模様が入っていた。

「そう、だったんですか……それじゃあ、大切なものなんですね。それも、桜下さんに持っててもらいますか?」

「ううん。これは、ライラが持ってたい」

「ですか。でも、手に持ってるのもなんですし、肩だとマントがあるし……あ、そうだ。ライラさん、そのショール、少し貸してもらえます?」

ライラは素直にうなずくと、ショールをウィルの手に渡した。ウィルはそれを、ライラの細い腰にきゅっと巻き付けた。

「はい、できた。これならどうですか?桜下さん、かわいいですよね?」

な、なぜ俺に振る。しかもものすごい圧を感じるぞ……俺は見えないウィルの手に動かされるように、ただこっくりと首を縦に振った。

「……!えへへ、ありがとう、おねーちゃん」

「はい、どういたしまして」

ライラがにっこり笑うと、ウィルも優しく微笑んだ。へー、意外な一面を見たな、ウィルが子どもの相手が得意だったなんて……

「さてと……ライラ、持ってく物はそれで全部か?」

「うん。もう大丈夫」

「よし。それじゃもうひと踏ん張りして、今夜のうちに山を下りちゃうか……」

俺が気合を入れようとしたとたん、足からかくんと力が抜けて、思わずよろけてしまった。エラゼムがさっと背中を押さえてくれたが、彼はこれを見逃さなかった。

「桜下殿、今夜はここで休みましょう。連日戦闘続きで、だいぶお疲れとお見受けしました」

「でも、あんなことがあったばかりだし……」

「少なくとも、先の墓場からはある程度遠ざかりました。疲れを抱えて山を往くのは危険です。今夜はここで過ごし、明日の早朝に山を下ることにいたしましょう」

そういえば、本当ならサイレン村で一晩過ごして、朝一番に山を下りるって計画だったっけ……いろいろあって狂っちゃったけど、確かに正直くたびれた。

「わかったよ、そうしよう。ライラ、お前の穴ぐらを借りてもいいか?」

「うん……それに、ライラも、なんだか……」

「え?ら、ライラ?」

ライラはぼーっと立っているが、体がふらふら揺れている。

「おいライラ、大丈夫かよ?」

「つか、れた……」

ライラの体がふらりと倒れた。俺は慌てて手を伸ばし、ライラの体を受け止める。

「おい、ライラ!どうしたんだ!?」

「ライラさん!?」

俺とウィルは血相を変えたが、そこにフランが、落ち着いた声で待ったを掛けた。

「そんなに騒ぐことないよ。この子、寝てるだけだ」

「え……?ね、寝てる?」

俺とウィルはライラの顔を覗き込む。確かにライラは、すぅすぅと寝息を立てていた。

「なんだ、びっくりしたぜ……」

「ライラさん、今日は大活躍でしたものね。きっと疲れ切ったんですよ」

「ああ……にしても、眠るアンデッドか。つくづく規格外だな」

俺はライラの寝顔を見下ろした。生きたまま、アンデッドになった女の子。いくら同じアンデッドとはいえ、フランたちとは違った扱いが必要そうだ。俺はライラを落ち葉の上に寝かせると、自分のマントを取り出して上にかけてやった。

「桜下さん……ライラさんのこと、なんですけど。その、ライラさんがこうなった理由って……」

ウィルが慎重に、言葉を選ぶように口を開く。俺はうなずいて、あぐらをかいて座った。

「うん。みんなにも話しておこうと思ったんだ、ライラに起こったことについて。本人が聞いてないところで言うのも、どうかと思ったんだけど……あれをライラにもう一度説明させるのも、酷だと思うから」

ウィルがごくりと唾をのむのが聞こえた。フランとエラゼムも、俺のそばに腰を下ろす。今日はいろいろあって疲れたから、楽にしながら話させてもらおう。あまり楽しい話題じゃないのが残念だ。

「まず、ライラが昔、暮らしていたところからなんだけど……」



つづく
====================

読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...