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5章 幸せの形
14-3
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俺はライラの記憶の中で見たこと、どうしてライラが屍を食べるようになってしまったのかについて、大体話し終わった。
「……」
ウィルは目を真っ赤にして、静かに涙を流していた。
「では、ライラ嬢は母上と兄上の肉を食べたことによって、グールに……アンデッドと化してしまった……ということなのですかな?」
エラゼムが腕を組みながらうなる。
「それが原因なのは間違いないと思うんだけどな。ただ、どうしてそうなったかまではわからないんだけど」
「ねえ、そもそもずっと疑問だったんだけど。生きたままアンデッドになるなんてこと、ありうるの?」
フランが当然の疑問を口にする。
「それが、ないこともないらしいんだよ。なあ、アニ?」
俺は首の下にぶら下がる、ガラスの鈴にたずねた。
『ええ。ヴァンパイアやリッチが、その代表例です』
「なあ、ヴァンパイアは有名だからわかるんだけど、その、リッチってのはなんだ?」
『リッチは、魔術師が高度な魔術を用いて、魂を肉体から分離して生まれるモンスターです』
「え?それって、人間ってことじゃないのか?」
『そこは諸説がぶつかるところではあるのですが、今のところは魂が宿っていない人間は人間とは認められない、とする説が最有力です』
それは、そうか。魂のない人間を、何と呼ぶのが適切か。俺だったら、それをモンスターと呼ぶだろうな。
「じゃあアニは、ライラのことをどう思う?アルフの言う通り、生きたままアンデッドになったんだと思うか?」
『……主様の見た、グール娘の過去の記憶と照らし合わせて考えると、それが妥当だと思います。ただし、生きたまま、という言い方は語弊があるかもしれません』
「うん?どういうことだ?」
『そもそも、主様はアンデッドになるということを、どういうことだと認識していますか?』
「え?えーっと、確か、アンデッドってのは未練を残した魂のことなんだろ?ってことは、後悔とかを遺したまま、死んじまうってことじゃないのか?」
『その通りですが、少し足りません。七十点といったところですかね』
「あ、そう……」
『振り返りになりますが、アンデッドとは、強い未練を抱いたままの霊魂が、死霊となってよみがえったモンスターです。しかし例外として、リッチやヴァンパイアのように、死せずしてアンデッドになるモンスターも存在する。つまり、必ずしも死亡する必要はない……これらを踏まえると、アンデッドになるということは、“死の世界の住人”になるということだと言えるでしょう』
「死の、世界……?」
『我々が生きているのが生者の世界、死後行きつくのが死の世界。それを隔てる境目に、“死”という概念があります』
うん、そうだな。俺は前に、死を一本の川に例えたことがあった。死という川を挟んで、こちら側が俺たちの生きる世界。向こう側が、フランたちのいる死後の世界だ。
『アンデッドとは、その境をまたいで、死の世界に足を踏み入れた存在……つまりアンデッドになるには、“死”という境界を越える必要があるのです』
「死を、越える……?」
『寿命や病気、いわゆる普通に死んだ人たちは、死を迎えたと言うでしょう?言い換えれば、死のほうからやってきた、つまり受動的な死なのです。もっとも、これが“死”の境を越える通常の方法であり、大多数の命が辿る運命ですが……ごく一部の方法を使えば、こちらから死を迎えに行くことができます』
死を、迎えに行く……?
『この方法を使えば、“死”の境を超克することができます。つまり、死を克服できるのです』
「死を、克服って……それじゃ、その方法を使えば、死ななくなるのか?」
『ええ。だから、そういう存在を死なないというのですよ。ヴァンパイアやリッチになる方法も、その一つです。これらは死を迎えることなく、自分から“死”を飛び越えることでアンデッドとなった存在です』
な、なるほど……死を、飛び越えるか。確かに不死身の存在ならば、死を超越したと言っても過言はないだろう。
「でも……じゃあ、ライラは?ライラのしたことも、その境界を飛び越えるようなことだったってことか?」
『いいえ。あのグール娘がしたことの中で、死を超克するような行為は、私が知る限りありません』
「じゃあ、どうして?それともライラは、アンデッドじゃないのか?」
『いえ、主様の能力が発動したということは、あの少女は間違いなくアンデッドです。ただ、もしかすると……あの少女は、死を越えたのではなく、死に惹かれた、のかもしれません』
「は?死に、ひかれる?」
『ええ。こちらの世界では、おばけと遊ぶとおばけになる、悪魔と友達になると悪魔になる、ということわざがあるのですが……主様の世界の言葉で言うと……』
「もしかして、朱に交われば赤くなる、って言いたいのか?」
『あ、それです。つまりですね、死の世界のものに多く触れると、死に誘われるようになってしまうのです。神隠しや謎の失踪の理由の一つに、悪霊に長期間祟られ続けて、その人も霊になってしまった、というものがあるのですが、今回もそのパターンなのではないでしょうか?』
「それは、ライラが死の世界のものに触れ続けていたってことか?」
『ええ。それは、死んだ家族の肉です』
あ……そうか。死んだ人の体は、まぎれもなく死の世界に触れたものだろう。
『彼女は死んだ親兄弟の肉という、死の精気を多量に含んだものを、大量に摂取し続けた。大人と子ども、計二人分です。普通という名のものさしで測れば尋常ならざる量です』
「まあ、確かにな……」
『ただ、それだけでアンデッドになってしまったのかというと、少々疑問が残ります。というのも、それ自体はそこまで珍しいことでもないからです』
「は?おいおい、死体の肉を食うなんてこと、そうほいほいあっちゃ困るぜ」
『それは、人間に限ってものを見た話でしょう。屍肉をあさる生物はたくさんいるのですよ?グールなんて、それこそあの少女の比較にならない量の屍肉を食べますが、前にも言った通り彼らはアンデッドではありません』
「あ、そうか」
『なので、ほかの要因も組み合わさったことだろうと思うのですが……まず、あの場が墓場という、死の精気で満ちた空間だったこと。第二に、グール娘自身も死にかけ、死に近づいていたこと。第三に、グール娘は生き残りたいという強い思い、すなわち現世への強い未練を抱いていたこと、そして第四に、死体の肉を大量に摂取したこと……これらの条件が重なり合い、奇跡的に、グール娘は生きているにもかかわらず、死の精気を過剰に含む存在になってしまった。状態としては、非常にグレー……“死”の境の上に立っている、とでも言えばいいんでしょうか。少し正確ではないでしょうが、わかりやすく言えば、“半死霊”みたいなものだと思います』
「半、アンデッド……」
『たとえるなら、ですがね。主様の能力が発動したように、比重はそうとう死霊に傾いているはずです。もう普通の人間に戻ることはできないでしょう。死は不可逆な現象ですから……しかし、完全なるアンデッドでもないので、眠ったり食べたりすることができる。非常に絶妙なバランスの上で生まれた、偶発的な存在。それが彼女の正体なのだろうと、私は推測します』
「たまたま、ってことか……じゃあ、ライラが土や水の魔法を使えるようになったのも、偶然だったのかな?」
『そちらの方がよりわからないです……他人の肉を食べたからって、その人の属性を獲得できるはずがありません。魂の属性は生まれてから変化することは無いはずなんです』
「でも、実際ライラは属性魔法を使えてるぜ?」
『そうなんですよね……主様を疑いたいわけではありませんが、やはり信じられません。グール娘が勘違いしていたのでは?もともと複数の属性は持っていたのに、それに気付いていなかったとか。だとしても、四属性持ちなど聞いたこともありませんが……』
「うーん、それはライラに聞いてみないとわからないけど……アルフは、ある程度確信を持ってたっぽかったけどな」
『くどいようですが、後天的に魂の属性を変えるすべはないはずなんです。他人の肉を食べるなどという、倫理観を抜きにすれば非常に容易な方法で属性を増やすことができるのなら、世の魔術師の大半がその方法に手を染めるでしょう』
「うぇ、まじかよ……なあウィル、お前はどうだ?そんな方法について、聞いたことある?」
「ぐずっ、いいえ。そんなおぞましい方法、どこにも載っていませんよ。時には人間の体の一部をも術に用いるとも聞いたことはありますが、だとしても属性が変わるなどという話は、聞いたこともありません、ずび」
うーん、じゃあやっぱり、ライラが四つの属性を扱えるようになったのも、何かの偶然……ってことなんだろうか。
『主様は、かつてグール娘が、どこか書架のようなところに幽閉されていた、かもしれないと言っていましたよね。もしかすると、そこは魔術師の研究所で、グール娘は何らかの実験対象にされていたのかもしれません』
「え?その影響で、ライラにいろんな偶然が起きてるってことか?」
『ただ、あくまで推測の域は出ませんが。魔術とは神秘にして、深淵なるもの。毎日昼夜問わず各地で研究がすすめられ、日々新たな魔術が構築されています。どこかでまだ見ぬ術が開発されていても不思議ではありませんし、その逆もしかり、です』
「よーするに、詳しくはわからないってことか……ふわーあ」
俺は足を投げ出すと、落ち葉の上に寝っ転がった。
「疲れたなぁ。今日はいっぱい考えることがあってさ」
エラゼムが立ち上がると、穴ぐらの入り口に仁王立ちする。
「夜が更けてしまいましたな。桜下殿、そろそろお休みくだされ。不寝番は我々がいたしましょう」
「ん、わるいな、頼むよ。さすがに眠いや、ふぁ……」
体をもぞもぞと動かし、おさまりのいい位置を見つける。ほぼ地面に直寝なので、けっして心地いいとは言えないが……今はそれより、眠気のほうが勝った。カサコソと足音がして、フランとウィルも穴のぐら外に出て行ったようだ。俺は目を閉じる前に、すぐそばで眠るライラの寝顔を見た。ライラはすぅすぅと、穏やかな寝息を立てている。こんなに小さな女の子が、アンデッドだなんて信じられない。だが、それは紛れもなく事実だ。理屈だけじゃなくて、今なら俺の魂の直感が、それをはっきりと告げているのが分かった。
「ライラの幸せ、か」
アルフと母親から託された願い。一人の女の子を幸せにするだなんて、なかなかヘヴィな頼まれごとだ。でも、ま、やれるだけやってみよう。俺にできることなんてたかが知れてるし、だったらできることを精いっぱいやればいいだけの話だ。
(……もしも、あの時にも俺が、あの人の力になれていたら)
……よそう。昔のことを掘り返したって、つらくなるだけだ。それより、明日に備えて早く寝なきゃ。俺は目を固く閉じると、まもなく深い眠りに落ちていった……
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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俺はライラの記憶の中で見たこと、どうしてライラが屍を食べるようになってしまったのかについて、大体話し終わった。
「……」
ウィルは目を真っ赤にして、静かに涙を流していた。
「では、ライラ嬢は母上と兄上の肉を食べたことによって、グールに……アンデッドと化してしまった……ということなのですかな?」
エラゼムが腕を組みながらうなる。
「それが原因なのは間違いないと思うんだけどな。ただ、どうしてそうなったかまではわからないんだけど」
「ねえ、そもそもずっと疑問だったんだけど。生きたままアンデッドになるなんてこと、ありうるの?」
フランが当然の疑問を口にする。
「それが、ないこともないらしいんだよ。なあ、アニ?」
俺は首の下にぶら下がる、ガラスの鈴にたずねた。
『ええ。ヴァンパイアやリッチが、その代表例です』
「なあ、ヴァンパイアは有名だからわかるんだけど、その、リッチってのはなんだ?」
『リッチは、魔術師が高度な魔術を用いて、魂を肉体から分離して生まれるモンスターです』
「え?それって、人間ってことじゃないのか?」
『そこは諸説がぶつかるところではあるのですが、今のところは魂が宿っていない人間は人間とは認められない、とする説が最有力です』
それは、そうか。魂のない人間を、何と呼ぶのが適切か。俺だったら、それをモンスターと呼ぶだろうな。
「じゃあアニは、ライラのことをどう思う?アルフの言う通り、生きたままアンデッドになったんだと思うか?」
『……主様の見た、グール娘の過去の記憶と照らし合わせて考えると、それが妥当だと思います。ただし、生きたまま、という言い方は語弊があるかもしれません』
「うん?どういうことだ?」
『そもそも、主様はアンデッドになるということを、どういうことだと認識していますか?』
「え?えーっと、確か、アンデッドってのは未練を残した魂のことなんだろ?ってことは、後悔とかを遺したまま、死んじまうってことじゃないのか?」
『その通りですが、少し足りません。七十点といったところですかね』
「あ、そう……」
『振り返りになりますが、アンデッドとは、強い未練を抱いたままの霊魂が、死霊となってよみがえったモンスターです。しかし例外として、リッチやヴァンパイアのように、死せずしてアンデッドになるモンスターも存在する。つまり、必ずしも死亡する必要はない……これらを踏まえると、アンデッドになるということは、“死の世界の住人”になるということだと言えるでしょう』
「死の、世界……?」
『我々が生きているのが生者の世界、死後行きつくのが死の世界。それを隔てる境目に、“死”という概念があります』
うん、そうだな。俺は前に、死を一本の川に例えたことがあった。死という川を挟んで、こちら側が俺たちの生きる世界。向こう側が、フランたちのいる死後の世界だ。
『アンデッドとは、その境をまたいで、死の世界に足を踏み入れた存在……つまりアンデッドになるには、“死”という境界を越える必要があるのです』
「死を、越える……?」
『寿命や病気、いわゆる普通に死んだ人たちは、死を迎えたと言うでしょう?言い換えれば、死のほうからやってきた、つまり受動的な死なのです。もっとも、これが“死”の境を越える通常の方法であり、大多数の命が辿る運命ですが……ごく一部の方法を使えば、こちらから死を迎えに行くことができます』
死を、迎えに行く……?
『この方法を使えば、“死”の境を超克することができます。つまり、死を克服できるのです』
「死を、克服って……それじゃ、その方法を使えば、死ななくなるのか?」
『ええ。だから、そういう存在を死なないというのですよ。ヴァンパイアやリッチになる方法も、その一つです。これらは死を迎えることなく、自分から“死”を飛び越えることでアンデッドとなった存在です』
な、なるほど……死を、飛び越えるか。確かに不死身の存在ならば、死を超越したと言っても過言はないだろう。
「でも……じゃあ、ライラは?ライラのしたことも、その境界を飛び越えるようなことだったってことか?」
『いいえ。あのグール娘がしたことの中で、死を超克するような行為は、私が知る限りありません』
「じゃあ、どうして?それともライラは、アンデッドじゃないのか?」
『いえ、主様の能力が発動したということは、あの少女は間違いなくアンデッドです。ただ、もしかすると……あの少女は、死を越えたのではなく、死に惹かれた、のかもしれません』
「は?死に、ひかれる?」
『ええ。こちらの世界では、おばけと遊ぶとおばけになる、悪魔と友達になると悪魔になる、ということわざがあるのですが……主様の世界の言葉で言うと……』
「もしかして、朱に交われば赤くなる、って言いたいのか?」
『あ、それです。つまりですね、死の世界のものに多く触れると、死に誘われるようになってしまうのです。神隠しや謎の失踪の理由の一つに、悪霊に長期間祟られ続けて、その人も霊になってしまった、というものがあるのですが、今回もそのパターンなのではないでしょうか?』
「それは、ライラが死の世界のものに触れ続けていたってことか?」
『ええ。それは、死んだ家族の肉です』
あ……そうか。死んだ人の体は、まぎれもなく死の世界に触れたものだろう。
『彼女は死んだ親兄弟の肉という、死の精気を多量に含んだものを、大量に摂取し続けた。大人と子ども、計二人分です。普通という名のものさしで測れば尋常ならざる量です』
「まあ、確かにな……」
『ただ、それだけでアンデッドになってしまったのかというと、少々疑問が残ります。というのも、それ自体はそこまで珍しいことでもないからです』
「は?おいおい、死体の肉を食うなんてこと、そうほいほいあっちゃ困るぜ」
『それは、人間に限ってものを見た話でしょう。屍肉をあさる生物はたくさんいるのですよ?グールなんて、それこそあの少女の比較にならない量の屍肉を食べますが、前にも言った通り彼らはアンデッドではありません』
「あ、そうか」
『なので、ほかの要因も組み合わさったことだろうと思うのですが……まず、あの場が墓場という、死の精気で満ちた空間だったこと。第二に、グール娘自身も死にかけ、死に近づいていたこと。第三に、グール娘は生き残りたいという強い思い、すなわち現世への強い未練を抱いていたこと、そして第四に、死体の肉を大量に摂取したこと……これらの条件が重なり合い、奇跡的に、グール娘は生きているにもかかわらず、死の精気を過剰に含む存在になってしまった。状態としては、非常にグレー……“死”の境の上に立っている、とでも言えばいいんでしょうか。少し正確ではないでしょうが、わかりやすく言えば、“半死霊”みたいなものだと思います』
「半、アンデッド……」
『たとえるなら、ですがね。主様の能力が発動したように、比重はそうとう死霊に傾いているはずです。もう普通の人間に戻ることはできないでしょう。死は不可逆な現象ですから……しかし、完全なるアンデッドでもないので、眠ったり食べたりすることができる。非常に絶妙なバランスの上で生まれた、偶発的な存在。それが彼女の正体なのだろうと、私は推測します』
「たまたま、ってことか……じゃあ、ライラが土や水の魔法を使えるようになったのも、偶然だったのかな?」
『そちらの方がよりわからないです……他人の肉を食べたからって、その人の属性を獲得できるはずがありません。魂の属性は生まれてから変化することは無いはずなんです』
「でも、実際ライラは属性魔法を使えてるぜ?」
『そうなんですよね……主様を疑いたいわけではありませんが、やはり信じられません。グール娘が勘違いしていたのでは?もともと複数の属性は持っていたのに、それに気付いていなかったとか。だとしても、四属性持ちなど聞いたこともありませんが……』
「うーん、それはライラに聞いてみないとわからないけど……アルフは、ある程度確信を持ってたっぽかったけどな」
『くどいようですが、後天的に魂の属性を変えるすべはないはずなんです。他人の肉を食べるなどという、倫理観を抜きにすれば非常に容易な方法で属性を増やすことができるのなら、世の魔術師の大半がその方法に手を染めるでしょう』
「うぇ、まじかよ……なあウィル、お前はどうだ?そんな方法について、聞いたことある?」
「ぐずっ、いいえ。そんなおぞましい方法、どこにも載っていませんよ。時には人間の体の一部をも術に用いるとも聞いたことはありますが、だとしても属性が変わるなどという話は、聞いたこともありません、ずび」
うーん、じゃあやっぱり、ライラが四つの属性を扱えるようになったのも、何かの偶然……ってことなんだろうか。
『主様は、かつてグール娘が、どこか書架のようなところに幽閉されていた、かもしれないと言っていましたよね。もしかすると、そこは魔術師の研究所で、グール娘は何らかの実験対象にされていたのかもしれません』
「え?その影響で、ライラにいろんな偶然が起きてるってことか?」
『ただ、あくまで推測の域は出ませんが。魔術とは神秘にして、深淵なるもの。毎日昼夜問わず各地で研究がすすめられ、日々新たな魔術が構築されています。どこかでまだ見ぬ術が開発されていても不思議ではありませんし、その逆もしかり、です』
「よーするに、詳しくはわからないってことか……ふわーあ」
俺は足を投げ出すと、落ち葉の上に寝っ転がった。
「疲れたなぁ。今日はいっぱい考えることがあってさ」
エラゼムが立ち上がると、穴ぐらの入り口に仁王立ちする。
「夜が更けてしまいましたな。桜下殿、そろそろお休みくだされ。不寝番は我々がいたしましょう」
「ん、わるいな、頼むよ。さすがに眠いや、ふぁ……」
体をもぞもぞと動かし、おさまりのいい位置を見つける。ほぼ地面に直寝なので、けっして心地いいとは言えないが……今はそれより、眠気のほうが勝った。カサコソと足音がして、フランとウィルも穴のぐら外に出て行ったようだ。俺は目を閉じる前に、すぐそばで眠るライラの寝顔を見た。ライラはすぅすぅと、穏やかな寝息を立てている。こんなに小さな女の子が、アンデッドだなんて信じられない。だが、それは紛れもなく事実だ。理屈だけじゃなくて、今なら俺の魂の直感が、それをはっきりと告げているのが分かった。
「ライラの幸せ、か」
アルフと母親から託された願い。一人の女の子を幸せにするだなんて、なかなかヘヴィな頼まれごとだ。でも、ま、やれるだけやってみよう。俺にできることなんてたかが知れてるし、だったらできることを精いっぱいやればいいだけの話だ。
(……もしも、あの時にも俺が、あの人の力になれていたら)
……よそう。昔のことを掘り返したって、つらくなるだけだ。それより、明日に備えて早く寝なきゃ。俺は目を固く閉じると、まもなく深い眠りに落ちていった……
つづく
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読了ありがとうございました。
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