じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

文字の大きさ
173 / 860
5章 幸せの形

15-2

しおりを挟む
15-2

「ん……」

鳥のさえずりが聞こえる。草木や土が湿った匂いが、ひんやりとした空気と一緒に流れ込んできていた。うぅ、ぶるぶるっ。あー、昨日は山ん中の、ライラの巣穴で寝てたんだっけな。
俺の意識がはっきりしてくると、なにやら顎のあたりがふわふわとくすぐったい。俺が視線を下に向けると、もじゃもじゃの真っ赤な毛の塊が俺にしがみついていた。うわっ、毛玉の化け物か!?
ぎょっとした俺だったが、よく見るとそれは丸まったライラだった。寝ている間に、俺のほうへ転がってきたらしい。いっつも、この穴ぐらで一人で寝ていたんだもんな。ぬくもりが恋しくなったのかもしれない。俺はライラを起こさないようにそっと体を離そうとしたが、起き上がろうと手をついた拍子に、落ち葉で派手にずっこけてしまった。ドスン!

「あいててて……」

「……ぅぅん?」

しまった、ライラを起こしちゃったか。ライラは両手でこしこしと目をこすると、まだしょぼついている目でこちらを見た。

「……?」

「あー、おはよう、ライラ。ごめん、起こしちゃ……」

「……おにぃちゃん?」

「へ?いや、俺は」

「おにぃちゃん……へへへ」

ライラはへにゃっと笑うと、俺の腰にきゅっと抱き着いた。これは、どうしたものか……もう少しこうしといてやったほうがいい、のだろうか?

「……」

ライラはまた目をつぶって、まどろもうとしている。どうしよう、俺ももう一度寝ようかな?なんて考えていると、突然ライラが目をぱっちり開き、そして次に俺の顔をまじまじと見た。

「……」

「あー……ライラ?」

「……~~~~っ!」

がばっ。ライラはあつあつの鉄板の上に放り出されたのかというくらいに、ものすごい勢いでぴょーんと起き上がった。

「あ、わ、ら、ライラは、お、お……」

「おはようさん。目は覚めたか?」

「あ、う、うん。その、ライラは、夢だと思って、だから」

「俺の事、お兄さんだと思ったのか?別に気にしなくてもいいのに」

「~~~~~っっっ!ばーっか!」

ば、バカとは何だ、起き抜けに!ライラはべーっと舌を出すと、穴の外へ走って行ってしまった。う~ん、俺はウィルとはちがって、子どもをあやすのに向いていないのかもしれない。そのウィルが、穴のふちからひょこっとこちらを覗き込んだ。

「桜下さん?目が覚めたんですか?」

「おう、ウィル。おはよう」

「……桜下さん、ライラさんに何か変なことしたんですか?真っ赤になって出てきましたけど」

「おいおい、お前も朝イチから失礼だな……」

俺も穴ぐらから出ると、外はまだ薄明かりだった。結構早い時間に目が覚めたらしい。俺の姿を見て、エラゼムが声をかけてきた。

「桜下殿、ずいぶんと早いお目覚めですな。お体の具合はいかがですか?」

「うん、だいぶ元気になったよ。やっぱりこっちに来てから、体の調子がいいや。前だったら絶対、筋肉痛で動けなかっただろうし」

俺は腕をぶんぶん振って、その勢いで屈伸までした。硬い地面で寝たからちょっと体はこわばっているけど、それでも気分は爽やかだった。

「それはなによりです。では予定通り、日が昇ったら山を下る、という方針でよろしいですかな?」

「おう。ここを下りたら、忘れずにハクに会いに行かないとな。川に行けば会えるって言ってたけど」

しかし改めて考えると、ハクに出会ってから、まだ二日しか経っていないんだよな。おとといの朝に川岸でハクに会ってから、サイレン村にきて、昨日はライラと出会って、ゴーレムを倒して……ものすごい濃厚な二日を過ごしてたんだなぁ。

「あ。そういや、俺たちの後をつけてたあの兵士。あいつ、どうなったかな?」

「アニ殿の罠が作動したならば、追手は我らの行方を見失っているはずですな。確かそのあと細工・・をして、我々がまっすぐ川岸を進んだように見せかけたのですから、追手の位置は我々より前方ということになります」

「あ、そっか。じゃあもしかしたら、川の近くにはあいつらの大軍勢がいるかもしれないかな……」

「可能性はありましょうな。街道に出るときも、慎重に参りましょう」

俺とエラゼムが話し合っていると、ウィルが朝ご飯を持ってきてくれた。木の枝に分厚い葉っぱやら、練った小麦粉やらを刺して、火で焼いたもののようだ。

「すみません、簡単なものしか作れなくて」

「いいよ、十分ごちそうだ」

「ふふ、ありがとうございます。あ、この山菜やまなは少し前にフランさんと一緒に採ってきたんですよ。あと、昨日焼いたおネギの残りもあるんですが、食べます?」

う、あれか……でも、貴重な食料を無駄にするわけにはいかない。冷めてもやっぱりゴムみたいな歯ごたえのネギをむちゃむちゃ食っていると、ライラがすごい顔しながら俺を見ていることに気付いた。

「ごくん。なんだよ、ライラ?」

「うぇ……よくそんなもの食べれるね」

「そんなものって、お前……ネギ、嫌いなのか?」

「だいっきらい。あの村の人たちは、よくあんな臭い草をあちこち植えてて平気だよね」

あー……あれはおそらく、ライラというよりグール除けに植えられたものだろうが。意外なところで、結構効果を発揮していたのか。実際ネギの植わっている墓は、荒らされた跡はなかったし。

「ねぇ、おまえもネギ好きなの?」

「俺か?ん、まあ、嫌いってわけじゃないけど。なんでだ?」

「だって、袋に入れて持ち歩いてたじゃん。よっぽど好きだからじゃないの?」

は、袋?いつ俺がネギを袋に入れて持ち歩いたか……?

「……うん?もしかして、袋って。あの魔よけのポプリのことか?」

「ぽ、ぷり?あれ、ポプリっていうの?」

あのポプリが破裂したとき、ライラはひっくり返って悶絶していた。あれもしかして、匂いにやられてたのか?え、じゃあポプリの中身って、ネギ?

『主様、違いますよ』

俺の頭の中を読んだかのように、アニがツッコミを入れた。

『あのポプリに入っていたのは、おそらく“イヤイヤ粉”です』

「はい?いやいやこ?」

『獣が嫌う匂いに変化する粉です。マイコニドというモンスターから作られるのですが、それがあの中に入っていて、グール娘の嫌うネギの匂いになったのだと思いますよ』

ははぁ、なるほど。それは確かに、実に実用的なお守りだ。しっかりものでしたたかな女主人・クレアらしい逸品だな。

「……あ、そうだ。ライラ、俺もお前に聞きたいことがあったんだけど」

「なに?」

「お前さ、あの墓場に来た人たちをおどかすために、時々土をボコってしてただろ」

ピクっと、ウィルの耳が反応した。そう、ウィルがひっくり返った土ボコ事件。あれの犯人はモグラってことにされていたが、真犯人は……

「あ、うん。してたよ」

「やっぱり。ライラ、お前か」

「だって、あれだけでみんな跳び上がるくらい驚くんだもん。きゃはは、おバカだよね。あんなの全然威力のないまほーなのに、あんなにびびっちゃってさ」

それは村に、生き埋めの子どもの怪談話が伝わっていたから……俺はそう続けようとして、口をつぐんだ。ウィルが鬼のような形相で、ライラの背後に仁王立ちしていたから……

「ライラさん!」

「きゃんっ!」

ウィルの雷に、ライラは野ねずみのように飛び跳ね、一目散に逃げだした。

「こらー!待ちなさい、二度と魔法でイタズラしないと誓いなさーい!」

「あんなの引っかかる方が悪いんだよ!ばーかばーか!」

「きぃー!このー!」

「……われらが軍勢も、賑やかになってきましたな、桜下殿」

エラゼムが笑いながら言った一言に、俺はため息で返したのだった。



つづく
====================

読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...