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6章 風の守護する都
3-2
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3-2
パリーン!防護膜が木の枝に当たってはじけ、俺たちは地面に投げ出された。グチョォ!
(ぐちょ……?)
あれ、思ったより地面がやわらかい……クリーム生地に突っ込んだみたいで、俺は少しだけ心地が良かった。
(……?……!!……!?!)
お、おぉ!?頭が抜けない!俺の首から上はぬっぽりと地面にはまって、びくともしなかった。やばい、これシャレにならないぞ。このままじゃ窒息する……!
俺が必死に手足をじたばたさせてもがいていると、何かが、俺の足をむんずとつかんだ。そのまますごい力で引っ張られる。ズボッ!
「ぷはぁ!」
「ちょっと、大丈夫!?」
「ん……?ああ、フランだったのか。助かったよ」
俺が泥まみれの目元を雑にぬぐうと、心配そうな顔をしたフランがこちらをのぞき込んでいた。フランは自分の髪をひとふさつまむと、それを俺の顔に当てて泥をぬぐいはじめた。
「わっ。よせよフラン、汚れちまうぞ」
「いいよ。これぐらいしか、拭けるものがないから」
まあ確かに、俺もフランもぐしょぐしょだったが……フランの髪は絹糸の束のような感触で、俺はこそばゆく思いながらも、されるがままにしていた。
「……はい。とりあえず、取れる泥はとったから」
「そっか。サンキュー、フラン」
俺はフランに礼を言うと、あたりを見渡した。俺たちが突っ込んだのは、川岸に張り出した森の中だった。マングローブのようなくねくねした根っこの木々が、ぬかるんだ地面に根を下ろしている。俺は運よく根っこを避けられたおかげで、ふかふかの泥がクッションになってくれたようだ。
「他のみんなはどこだろう?」
「わかんない。けど、たぶんその辺に……」
フランの言う通り、そのすぐ後に、森の奥から泥だらけのエラゼムとライラが連れ立ってやってきた。
「桜下殿、フラン嬢。ここにおられましたか。ご無事そうでなによりです」
「ああ、なんとかな。エラゼムとライラも大丈夫か?」
「ええ、幸いにして……はて、ウィル嬢の姿が見えませぬな?」
「あれ?ほんとだ。あいつは幽霊だから無事なはずだけど……おーい!ウィルー!」
俺たちは木々の間を、ウィルを探して回った。ほどなくしてフランが、木々の合間をしくしく泣きながら飛んでいるウィルを見つけた。
「あ。あれ」
「ん?あ、いたっ!おーい、ウィル!」
「ふぇ?」
ウィルは俺たちを見つけると、泣き顔をぱあっと輝かせてこちらにすっ飛んできた。
「み、みなさん!ああよかった、無事だったんですね!」
「おう。でもなんだって、ウィルだけはぐれてたんだ?」
「だ、だって。波で防護膜が跳ねたとき、私だけすり抜けて置いてかれちゃったんですもん!ロッドだけが皆さんと一緒に行っちゃって、そしたら皆さん森に落っこちていくし。私、みんなどこかの木にでも刺さっているんじゃないかって、それで……」
「あー、よしよし。心配かけて悪かったって」
ウィルがまたぐずぐずしだしたので、俺はウィルの肩をぽんぽんと叩いた。意外に涙もろいよな、ウィルって。ウィルはずびーっと鼻をすすると、目をこすりながら森の奥を指さした。
「ぐずん。あ、それでなんですけど。さっきロッドだけ見つけたときに、休めそうな場所を見つけたんです。とりあえず、そこまでいきませんか?」
「ほんとか?助かるよ、この泥んこじゃ動きづらくって」
ぬかるみに足をとられながら、俺たちはウィルの案内のもと、木の枝と根っこが絡み合って、広いベッドのようになっている場所まで歩いていった。
「おお、こりゃいいな。座れるだけでめちゃくちゃありがたいぜ」
俺がどっかり座っても、木の根はびくともしなかった。俺はぐっしょり濡れた靴を脱ぐと、逆さまに振って中に入った泥を捨てた。
「みなさんひどい格好ですね……」
ウィルが泥んこになった仲間を見て、あわれそうに目を細める。
「ったく、ひどい目にあったぜ。あの金髪ヤロウ……」
うえ、シャツの中にまで泥が入っている。それに、帽子の中にも……しょうがない、これは後でこっそり取ろう。
「……あっ!しまった、カバンも濡れちまった!まずい、ライラの本が……」
「えっ!」
俺とライラは、慌ててカバンをひっくり返して、ライラの魔法の教科書を確認した。分厚い本には少しだけ水が染みてしまっていたが、そこまでひどい被害は出ていなかった。俺が突っ込んでいたマントがカバーになってくれたらしい。
「よかったぁ」
「ほんとにな……ん、まてよ。エラゼム、あんたのは大丈夫か……?」
俺のカバンはともかく、エラゼムの荷袋には食料が入っているんだぞ。もしそれも泥にやられていたら……エラゼムが重々しくうなずく。
「……一度、被害状況を確認してみましょうか。桜下殿も、お体に本当にお怪我がないかどうかお確かめください」
「そうだな。なんか落っことしたりしてないかな……」
俺たちはいっせいに荷物を広げ、ダメになったものがないか調べて回った。案の定、エラゼムの荷袋も放り出されたときに水に浸かってしまったらしい。泥水が中までしみてしまっていて、小麦粉やパンなんかの食材はダメになってしまっていた。
「……どうにか、洗ったら食えないかな?」
「やめてくださいよ桜下さん、これなんかまっ茶色になってますし……」
ライラが魔法で乾いた風を起こして、無事だった荷物を乾かした。俺の服もぱりっと乾き、気持ち悪いじめっと感はさっぱりなくなった。最後に、俺はフランに“ファズ”の呪文をかけて、雷で焼け焦げてしまった服を元に戻してやった。
「……こうしてみると、ずいぶんこっぴどくやられたなぁ。くっそー、あのヤロー!次あったら覚えてろよ……」
「……あれ?桜下さん、別にあの勇者を倒さなくてもいいって言ってませんでした?」
ウィルがじとっとした目で見てくるが、俺は断固として首を横に振った。
「悔しくないとは言ってないからな!機会があれば、きっちり借りは返す!」
「桜下さん……仲間のほうが大事だって言いきったとき、私、ちょっとかっこいいって思ったのに……」
「だって、許せるか!?あいつ、自分以外みんな女の子でパーティ組んでたんだぞ!しかも全員美人だった!」
「えぇ、そこ?」
「きっとあいつは、みんなからちやほやされて、華々しく冒険に旅立ったパターンの勇者だぞ。ゆ、ゆるせない……うらやましい……」
「や、やっかみ……桜下さん、ちっちゃー……」
「ライラ知ってる。こういうの、タマが小さいっていうんだよね?」
「それは違うと思いますけど……」
俺たちは荷物をしまいなおすと、その日はここで休むことにした。思わぬ来客のせいで、ひどく疲れてしまった。おまけに、街道からは大きく外れてしまった……
「……まあとりあえず、明日のことは、明日考えよう……」
俺と、魔法を連発して気力を消耗したライラは、それこそ泥のように眠りに落ちた。その日の夢にはあの金髪の勇者が現れて、俺は夢の中でまで悔しさに苛まれることとなった……
つづく
====================
【年末年始は小説を!投稿量をいつもの2倍に!】
年の瀬に差し掛かり、物語も佳境です!
もっとお楽しみいただけるよう、しばらくの間、小説の更新を毎日二回、
【夜0時】と【お昼12時】にさせていただきます。
寒い冬の夜のお供に、どうぞよろしくお願いします!
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Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
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よければ見てみてください。
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「わっ。よせよフラン、汚れちまうぞ」
「いいよ。これぐらいしか、拭けるものがないから」
まあ確かに、俺もフランもぐしょぐしょだったが……フランの髪は絹糸の束のような感触で、俺はこそばゆく思いながらも、されるがままにしていた。
「……はい。とりあえず、取れる泥はとったから」
「そっか。サンキュー、フラン」
俺はフランに礼を言うと、あたりを見渡した。俺たちが突っ込んだのは、川岸に張り出した森の中だった。マングローブのようなくねくねした根っこの木々が、ぬかるんだ地面に根を下ろしている。俺は運よく根っこを避けられたおかげで、ふかふかの泥がクッションになってくれたようだ。
「他のみんなはどこだろう?」
「わかんない。けど、たぶんその辺に……」
フランの言う通り、そのすぐ後に、森の奥から泥だらけのエラゼムとライラが連れ立ってやってきた。
「桜下殿、フラン嬢。ここにおられましたか。ご無事そうでなによりです」
「ああ、なんとかな。エラゼムとライラも大丈夫か?」
「ええ、幸いにして……はて、ウィル嬢の姿が見えませぬな?」
「あれ?ほんとだ。あいつは幽霊だから無事なはずだけど……おーい!ウィルー!」
俺たちは木々の間を、ウィルを探して回った。ほどなくしてフランが、木々の合間をしくしく泣きながら飛んでいるウィルを見つけた。
「あ。あれ」
「ん?あ、いたっ!おーい、ウィル!」
「ふぇ?」
ウィルは俺たちを見つけると、泣き顔をぱあっと輝かせてこちらにすっ飛んできた。
「み、みなさん!ああよかった、無事だったんですね!」
「おう。でもなんだって、ウィルだけはぐれてたんだ?」
「だ、だって。波で防護膜が跳ねたとき、私だけすり抜けて置いてかれちゃったんですもん!ロッドだけが皆さんと一緒に行っちゃって、そしたら皆さん森に落っこちていくし。私、みんなどこかの木にでも刺さっているんじゃないかって、それで……」
「あー、よしよし。心配かけて悪かったって」
ウィルがまたぐずぐずしだしたので、俺はウィルの肩をぽんぽんと叩いた。意外に涙もろいよな、ウィルって。ウィルはずびーっと鼻をすすると、目をこすりながら森の奥を指さした。
「ぐずん。あ、それでなんですけど。さっきロッドだけ見つけたときに、休めそうな場所を見つけたんです。とりあえず、そこまでいきませんか?」
「ほんとか?助かるよ、この泥んこじゃ動きづらくって」
ぬかるみに足をとられながら、俺たちはウィルの案内のもと、木の枝と根っこが絡み合って、広いベッドのようになっている場所まで歩いていった。
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俺がどっかり座っても、木の根はびくともしなかった。俺はぐっしょり濡れた靴を脱ぐと、逆さまに振って中に入った泥を捨てた。
「みなさんひどい格好ですね……」
ウィルが泥んこになった仲間を見て、あわれそうに目を細める。
「ったく、ひどい目にあったぜ。あの金髪ヤロウ……」
うえ、シャツの中にまで泥が入っている。それに、帽子の中にも……しょうがない、これは後でこっそり取ろう。
「……あっ!しまった、カバンも濡れちまった!まずい、ライラの本が……」
「えっ!」
俺とライラは、慌ててカバンをひっくり返して、ライラの魔法の教科書を確認した。分厚い本には少しだけ水が染みてしまっていたが、そこまでひどい被害は出ていなかった。俺が突っ込んでいたマントがカバーになってくれたらしい。
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