203 / 860
6章 風の守護する都
8-2
しおりを挟む
8-2
「ぞ、ゾンビだ……」
兵士たちが、恐れおののいた様子でささやいた。ゾンビたちは、森の中から次々と現れてくる。数十、いや数百、いやそれ以上……
「どうだ。これでも、俺たちを捻りつぶせると思うか?」
俺は、顔を真っ青にしているジェイに向かってたずねた。
「きっ……貴様、まさか、ネクロマンサーか?」
「その通りだ。そして、あのゾンビたちは、あんたたちが起こした戦いで犠牲になった人たちだ」
俺は、こちらに向かっておぼつかない足取りで歩いてくるゾンビの群れを見た。あの人たちのほとんどは、ここに来る途中で嫌と言うほど見た、戦いの最中に命を落とした兵士たちだ。道端にうち捨てられ、亡霊になってからも無念を嘆いていた兵士たち。町中に散らばっていた彼らを、俺はまとめて仲間にしたんだ。
「あの人たちは、全員あんたらを恨んでる。そしてそれ以上に、この町に暮らす家族を、仲間を、守りたいと思ってるんだ。だから俺は、あの人たちに“魂”を貸してやったんだよ」
「た……魂だと?ふざけるな、貴様の邪悪な術によって、死体を操っているだけだろう!」
「いいや。今ここにいるのは、俺の呼びかけに応じてくれた人だけだ。ほとんどは王国の兵士だけど、街の住人もちらほらいるな。ほんの少しだけど、あんたら側の兵隊もいるんだぜ」
「う、嘘をつくな!デタラメだ!貴様の、醜悪な能力のせいだろうが!」
ところが、本当だ。俺は協力してくれる代わりに、死霊たちに“ある条件”を出した。それを聞いた死霊たちは、ほとんどが協力を申し出てくれたんだ。
「今まで俺の能力は、一人一人にしか使えなかった。だけど力を薄めることで、代わりに広範囲に能力を拡大することができたんだ」
そう。これが、一瞬で人数差を埋める秘策、オーバードライブの種明かしだ。前に俺は、サイレン村で複数の火の玉を仲間にするとき、ディストーションハンドの効果を拡大することで、同時に術をかけることができると気づいた。アニいわく、俺の能力は使えば使うほど効力が増しているらしいから、その賜物だろう。しかし、その後俺はものすごい脱力感に襲われてしまった。そのことについて、アニがしてくれた説明を思い出す。
『あの時、主様はディストーションハンドの効果を百パーセントのまま拡大したので、膨大な魔力を消費する形になってしまったのです。なので、今回のように町中を効果の対象にしたい時に全力のままでやれば、間違いなく魔力切れで死にます』
「うっ……ん、まてよ。だったら、一体一体にかける魔力量を減らせば、範囲を拡大できるんじゃないか?」
『その可能性はあります。そのぶん術の強度は下がってしまいますが、今回のように単なる死体をゾンビに変えることくらいならわけないでしょう……しかし、私もそのような大規模なネクロマンスの術は見たことがありません。試す時間もありませんから、ぶっつけ本番で成功させるしかありません……それでも、やるのですか?』
「おう。心配すんなって……決めてやるよ、必ずな」
結果として、思惑はうまくいったのだった。へへ、ちょっぴり緊張したけどな。だが、実際やってみると、不思議とうまくいく気がしてならなかった。火事場のなんとやらってやつかな。
「効果が薄まっちまったから、俺の呼びかけに応えてくれた人しか仲間にできなかったけど……だからこの人たちは、無理やりじゃなくて、正真正銘俺に力を貸してくれてる人たちだぜ」
「だっ……だぁまぁれええぇぇぇえ!おい、お前たち!ネクロマンサーであれば、術者を殺せばゾンビもただの死体に戻る!やつを殺せ!」
ジェイは近くにいた兵士をほとんど蹴とばすようにして、俺たちの方へ追いやる。ゾンビの出現に怯えながらも、兵士たちは剣を構えた。
「……ようやく、出番が来た」
ジャキン。ドス紫色の鉤爪を抜き、フランが一歩踏み出した。異様な様相の少女に、兵士たちの剣先が震える。
「みんな。後は頼めるか?」
俺は、頼もしい仲間たちに舞台を譲った。ゾンビたちは早くは走れない。ここまで来るのに、もう少し時間が必要だ。
「お任せくだされ。桜下殿には、指一本も触れさせはしませぬ」
エラゼムが大剣をぐるりと回した。全身鎧のエラゼムは、兵士たちに一番恐怖を与えている。
「……」
ピリピリした空気が、辺りを包み込む。一触即発ってやつだな。
「えぇい!かかれぇー!」
先に動いたのは、兵士たちだった。一人の兵士が雄たけびを上げて、フランに切りかかる。その姿に鼓舞されて、他の兵士たちも一斉になだれ込んできた。わああぁぁぁぁ!
「死ねぇー!」
「……それは、無理」
兵士が剣を突き出す。顔面目がけて迫ってくる剣先を、フランは鉤爪で思い切り薙ぎ払った。ガシャーン!剣は、一撃でバラバラに砕けてしまった。
「ふっ!」
ドゴォ!フランの回し蹴りが兵士の胸を直撃する。兵士は仰向けにぶっ飛び、ごろごろ転がって、後ろの兵士も巻き込みながら倒れた。ドガガーン!
「……もう、死んでるから」
フランの強烈な一蹴りは、敵に大きな影響を与えたらしい。大声を上げて飛び込んできた兵士たちは、恐怖で足を縫い付けられたかのように、ぴたっと動きを止めてしまった。フランは大きく息を吸い込むと、深紅の目を見開き、牙を剥いた。
「ああああぁぁぁぁぁ!!!」
咆哮。フランの姿が一瞬で消えたかと思うと、次の瞬間には兵士の何人かが宙をぶっ飛んだ。フランは銀の髪を振り乱し、大暴れしている。俺は見たことないけれど、実際に夜叉がいたら、あんな姿だろうと思った。
「私も続きます!フレーミングバルサム!」
バチバチバチ!ウィルは呪文を唱え、弾ける火花を生み出した。
「今日の魔法は、いつもと一味違いますよっ!」
ウィルがロッドを振りかざすと、火花は意思を持ったかのように、ふわふわと兵士目がけて追尾を始めた。バチバチ弾ける火花に追い回されて、兵士たちはハチの巣をつついたような有様になった。
「うわあああぁぁ!」「あちちちち!」「ぎゃ!こいつ、鎧の中に!ぐ、ぐああー!」
哀れにも追いつかれてしまった兵士に、火花は容赦なく襲い掛かった。火花は鎧の中に入って爆発したり、開いた口や鼻の穴に飛び込んだりと、手段を選ばない。ひどいものは、ズボンの股にもぐりこんで炸裂したものすらあった。
「くひひひひ!ナニがダメになってしまっても、私はしりませんよ~!」
ウィルは、今まで見た中で一番邪悪な笑みを浮かべている。悪魔みたいなやつだ……
そうしてみんなが時間を稼いでいるうちに、ゾンビたちは兵士たちの目と鼻の先まで迫っていた。
(みんな、頼む!力を貸してくれ、殺さない程度にな!)
俺の心の声に応じるかのように、ゾンビたちが唸りを上げて兵士たちに襲い掛かった。
「ウガアァァァ……」「グガガガガガ……」
「う、うわあああぁ!」「うぎゃあああぁぁ!」
兵士たちは阿鼻叫喚だ。俺たちとゾンビの群れに挟まれ、兵士たちの指揮は完全に崩壊していた。
「この馬鹿ども!落ち着け、冷静になれと言っているのに!」
ジェイは棍棒を振り回しているが、その程度の脅威では兵士たちの混乱はおさまらなかった。それよりもはるかに恐ろしい存在に襲われているんだからな。
「どけ、ジェイ!私が出るっ!」
どんっとジェイを突き飛ばして、巻きひげのハルペリン卿がシュルリと剣を抜いた。
「邪魔をするな、小僧!死ねえぇー!」
「ッ!」
キィン!ハルペリン卿の突き出した剣は、エラゼムの大剣によって阻まれた。
「……吾輩がいる限り、この方には一歩も近づかせぬ。ここを通りたくば、吾輩を退けてみるがいい」
「むぅ……!」
ギギギギ!ハルペリン卿とエラゼムの剣がつばぜり、火花が飛ぶ。ハルペリン卿は顔を赤らめて力んでいるが、それでもエラゼムの大剣はピクリとも動かなかった。
「ッ……~~~!キエェェェエヤッ!」
ハルペリン卿は奇声を上げて剣を引き、そこから目にも止まらぬ速さで斬撃を繰り出し始めた。右に斬り、左に斬り、足元を突き、胸を薙ぎ払う……ダメだ、俺の目にはこれ以上追えない。しかし、エラゼムにはその太刀筋が完璧に見えているようだ。ハルペリン卿の剣舞は、ことごとくエラゼムの大剣にはじき返された。
ガキン、キン、キィン!何回かもわからない応酬の後、ハルペリン卿はばっと距離を置いた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……馬鹿な、私の剣をことごとく防ぐなど……」
「そう悲観したものでもないぞ、御仁。なかなかの腕前だ。しかし、残念だが吾輩には一歩及ばぬな」
「ぬぉっ……おのれぇ!私を侮辱するかっ!このハルペリン卿を!」
「そうではない。懸命な判断をせよと言っているのだ。このまま斬り合っても、苦しむのはそなただ」
「ふんっ……それは、どうかなぁ!」
ボフン!ハルペリン卿が地面に何かを投げつけると、目の前に突然真っ黒な煙が立ち上った。煙幕だ!
「くらえ!」
声は聞こえても、煙幕に遮られて、ハルペリン卿の姿は見えない。何を仕掛けてくる気だ……?
「っ!」
キン!エラゼムがいきなり腕を振り上げたかと思ったら、小さな金属音が聞こえてきた。エラゼムの鎧に、何か当たった?
「小癪なまねを!」
エラゼムが大剣を大きく振り回す。ブゥーンという風切り音とともに、煙幕が吹き飛ばされた。煙が晴れてみると、ハルペリン卿は剣に代わって、何か細い筒のようなものを持っていた。
「見下げ果てた輩め!飛び道具で不意を突こうなど!撤回しよう!貴様のような者は、武人の風上にも置けぬ!」
飛び道具?あっ、もしかしてあれ、吹き矢みたいなもんか?さっきの音は、針をエラゼムが防いでくれたものだったんだ。
「うわ、こっすいまねするなぁ。卿、なんて名乗ってるくせに」
「だ、だまれ!戦いにおいて、勝った方が正義なのだ!お前のような尻の青いガキにとやかく言われる筋合いなど……」
「もうよい、黙れ。これ以上喋っても、貴様の格を落とすだけだ」
エラゼムが大剣を大きく横に薙ぐ。ハルペリン卿はとっさに剣の腹でガードをしたが、エラゼムの剛剣は剣ごと砕いて、ハルペリン卿の横っ面をバシッと引っぱたいた。ハルペリン卿は、数メートルは確実に飛び、どさりと地面に落っこちた。
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
====================
Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。
↓ ↓ ↓
https://twitter.com/ragoradonma
「ぞ、ゾンビだ……」
兵士たちが、恐れおののいた様子でささやいた。ゾンビたちは、森の中から次々と現れてくる。数十、いや数百、いやそれ以上……
「どうだ。これでも、俺たちを捻りつぶせると思うか?」
俺は、顔を真っ青にしているジェイに向かってたずねた。
「きっ……貴様、まさか、ネクロマンサーか?」
「その通りだ。そして、あのゾンビたちは、あんたたちが起こした戦いで犠牲になった人たちだ」
俺は、こちらに向かっておぼつかない足取りで歩いてくるゾンビの群れを見た。あの人たちのほとんどは、ここに来る途中で嫌と言うほど見た、戦いの最中に命を落とした兵士たちだ。道端にうち捨てられ、亡霊になってからも無念を嘆いていた兵士たち。町中に散らばっていた彼らを、俺はまとめて仲間にしたんだ。
「あの人たちは、全員あんたらを恨んでる。そしてそれ以上に、この町に暮らす家族を、仲間を、守りたいと思ってるんだ。だから俺は、あの人たちに“魂”を貸してやったんだよ」
「た……魂だと?ふざけるな、貴様の邪悪な術によって、死体を操っているだけだろう!」
「いいや。今ここにいるのは、俺の呼びかけに応じてくれた人だけだ。ほとんどは王国の兵士だけど、街の住人もちらほらいるな。ほんの少しだけど、あんたら側の兵隊もいるんだぜ」
「う、嘘をつくな!デタラメだ!貴様の、醜悪な能力のせいだろうが!」
ところが、本当だ。俺は協力してくれる代わりに、死霊たちに“ある条件”を出した。それを聞いた死霊たちは、ほとんどが協力を申し出てくれたんだ。
「今まで俺の能力は、一人一人にしか使えなかった。だけど力を薄めることで、代わりに広範囲に能力を拡大することができたんだ」
そう。これが、一瞬で人数差を埋める秘策、オーバードライブの種明かしだ。前に俺は、サイレン村で複数の火の玉を仲間にするとき、ディストーションハンドの効果を拡大することで、同時に術をかけることができると気づいた。アニいわく、俺の能力は使えば使うほど効力が増しているらしいから、その賜物だろう。しかし、その後俺はものすごい脱力感に襲われてしまった。そのことについて、アニがしてくれた説明を思い出す。
『あの時、主様はディストーションハンドの効果を百パーセントのまま拡大したので、膨大な魔力を消費する形になってしまったのです。なので、今回のように町中を効果の対象にしたい時に全力のままでやれば、間違いなく魔力切れで死にます』
「うっ……ん、まてよ。だったら、一体一体にかける魔力量を減らせば、範囲を拡大できるんじゃないか?」
『その可能性はあります。そのぶん術の強度は下がってしまいますが、今回のように単なる死体をゾンビに変えることくらいならわけないでしょう……しかし、私もそのような大規模なネクロマンスの術は見たことがありません。試す時間もありませんから、ぶっつけ本番で成功させるしかありません……それでも、やるのですか?』
「おう。心配すんなって……決めてやるよ、必ずな」
結果として、思惑はうまくいったのだった。へへ、ちょっぴり緊張したけどな。だが、実際やってみると、不思議とうまくいく気がしてならなかった。火事場のなんとやらってやつかな。
「効果が薄まっちまったから、俺の呼びかけに応えてくれた人しか仲間にできなかったけど……だからこの人たちは、無理やりじゃなくて、正真正銘俺に力を貸してくれてる人たちだぜ」
「だっ……だぁまぁれええぇぇぇえ!おい、お前たち!ネクロマンサーであれば、術者を殺せばゾンビもただの死体に戻る!やつを殺せ!」
ジェイは近くにいた兵士をほとんど蹴とばすようにして、俺たちの方へ追いやる。ゾンビの出現に怯えながらも、兵士たちは剣を構えた。
「……ようやく、出番が来た」
ジャキン。ドス紫色の鉤爪を抜き、フランが一歩踏み出した。異様な様相の少女に、兵士たちの剣先が震える。
「みんな。後は頼めるか?」
俺は、頼もしい仲間たちに舞台を譲った。ゾンビたちは早くは走れない。ここまで来るのに、もう少し時間が必要だ。
「お任せくだされ。桜下殿には、指一本も触れさせはしませぬ」
エラゼムが大剣をぐるりと回した。全身鎧のエラゼムは、兵士たちに一番恐怖を与えている。
「……」
ピリピリした空気が、辺りを包み込む。一触即発ってやつだな。
「えぇい!かかれぇー!」
先に動いたのは、兵士たちだった。一人の兵士が雄たけびを上げて、フランに切りかかる。その姿に鼓舞されて、他の兵士たちも一斉になだれ込んできた。わああぁぁぁぁ!
「死ねぇー!」
「……それは、無理」
兵士が剣を突き出す。顔面目がけて迫ってくる剣先を、フランは鉤爪で思い切り薙ぎ払った。ガシャーン!剣は、一撃でバラバラに砕けてしまった。
「ふっ!」
ドゴォ!フランの回し蹴りが兵士の胸を直撃する。兵士は仰向けにぶっ飛び、ごろごろ転がって、後ろの兵士も巻き込みながら倒れた。ドガガーン!
「……もう、死んでるから」
フランの強烈な一蹴りは、敵に大きな影響を与えたらしい。大声を上げて飛び込んできた兵士たちは、恐怖で足を縫い付けられたかのように、ぴたっと動きを止めてしまった。フランは大きく息を吸い込むと、深紅の目を見開き、牙を剥いた。
「ああああぁぁぁぁぁ!!!」
咆哮。フランの姿が一瞬で消えたかと思うと、次の瞬間には兵士の何人かが宙をぶっ飛んだ。フランは銀の髪を振り乱し、大暴れしている。俺は見たことないけれど、実際に夜叉がいたら、あんな姿だろうと思った。
「私も続きます!フレーミングバルサム!」
バチバチバチ!ウィルは呪文を唱え、弾ける火花を生み出した。
「今日の魔法は、いつもと一味違いますよっ!」
ウィルがロッドを振りかざすと、火花は意思を持ったかのように、ふわふわと兵士目がけて追尾を始めた。バチバチ弾ける火花に追い回されて、兵士たちはハチの巣をつついたような有様になった。
「うわあああぁぁ!」「あちちちち!」「ぎゃ!こいつ、鎧の中に!ぐ、ぐああー!」
哀れにも追いつかれてしまった兵士に、火花は容赦なく襲い掛かった。火花は鎧の中に入って爆発したり、開いた口や鼻の穴に飛び込んだりと、手段を選ばない。ひどいものは、ズボンの股にもぐりこんで炸裂したものすらあった。
「くひひひひ!ナニがダメになってしまっても、私はしりませんよ~!」
ウィルは、今まで見た中で一番邪悪な笑みを浮かべている。悪魔みたいなやつだ……
そうしてみんなが時間を稼いでいるうちに、ゾンビたちは兵士たちの目と鼻の先まで迫っていた。
(みんな、頼む!力を貸してくれ、殺さない程度にな!)
俺の心の声に応じるかのように、ゾンビたちが唸りを上げて兵士たちに襲い掛かった。
「ウガアァァァ……」「グガガガガガ……」
「う、うわあああぁ!」「うぎゃあああぁぁ!」
兵士たちは阿鼻叫喚だ。俺たちとゾンビの群れに挟まれ、兵士たちの指揮は完全に崩壊していた。
「この馬鹿ども!落ち着け、冷静になれと言っているのに!」
ジェイは棍棒を振り回しているが、その程度の脅威では兵士たちの混乱はおさまらなかった。それよりもはるかに恐ろしい存在に襲われているんだからな。
「どけ、ジェイ!私が出るっ!」
どんっとジェイを突き飛ばして、巻きひげのハルペリン卿がシュルリと剣を抜いた。
「邪魔をするな、小僧!死ねえぇー!」
「ッ!」
キィン!ハルペリン卿の突き出した剣は、エラゼムの大剣によって阻まれた。
「……吾輩がいる限り、この方には一歩も近づかせぬ。ここを通りたくば、吾輩を退けてみるがいい」
「むぅ……!」
ギギギギ!ハルペリン卿とエラゼムの剣がつばぜり、火花が飛ぶ。ハルペリン卿は顔を赤らめて力んでいるが、それでもエラゼムの大剣はピクリとも動かなかった。
「ッ……~~~!キエェェェエヤッ!」
ハルペリン卿は奇声を上げて剣を引き、そこから目にも止まらぬ速さで斬撃を繰り出し始めた。右に斬り、左に斬り、足元を突き、胸を薙ぎ払う……ダメだ、俺の目にはこれ以上追えない。しかし、エラゼムにはその太刀筋が完璧に見えているようだ。ハルペリン卿の剣舞は、ことごとくエラゼムの大剣にはじき返された。
ガキン、キン、キィン!何回かもわからない応酬の後、ハルペリン卿はばっと距離を置いた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……馬鹿な、私の剣をことごとく防ぐなど……」
「そう悲観したものでもないぞ、御仁。なかなかの腕前だ。しかし、残念だが吾輩には一歩及ばぬな」
「ぬぉっ……おのれぇ!私を侮辱するかっ!このハルペリン卿を!」
「そうではない。懸命な判断をせよと言っているのだ。このまま斬り合っても、苦しむのはそなただ」
「ふんっ……それは、どうかなぁ!」
ボフン!ハルペリン卿が地面に何かを投げつけると、目の前に突然真っ黒な煙が立ち上った。煙幕だ!
「くらえ!」
声は聞こえても、煙幕に遮られて、ハルペリン卿の姿は見えない。何を仕掛けてくる気だ……?
「っ!」
キン!エラゼムがいきなり腕を振り上げたかと思ったら、小さな金属音が聞こえてきた。エラゼムの鎧に、何か当たった?
「小癪なまねを!」
エラゼムが大剣を大きく振り回す。ブゥーンという風切り音とともに、煙幕が吹き飛ばされた。煙が晴れてみると、ハルペリン卿は剣に代わって、何か細い筒のようなものを持っていた。
「見下げ果てた輩め!飛び道具で不意を突こうなど!撤回しよう!貴様のような者は、武人の風上にも置けぬ!」
飛び道具?あっ、もしかしてあれ、吹き矢みたいなもんか?さっきの音は、針をエラゼムが防いでくれたものだったんだ。
「うわ、こっすいまねするなぁ。卿、なんて名乗ってるくせに」
「だ、だまれ!戦いにおいて、勝った方が正義なのだ!お前のような尻の青いガキにとやかく言われる筋合いなど……」
「もうよい、黙れ。これ以上喋っても、貴様の格を落とすだけだ」
エラゼムが大剣を大きく横に薙ぐ。ハルペリン卿はとっさに剣の腹でガードをしたが、エラゼムの剛剣は剣ごと砕いて、ハルペリン卿の横っ面をバシッと引っぱたいた。ハルペリン卿は、数メートルは確実に飛び、どさりと地面に落っこちた。
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
====================
Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。
↓ ↓ ↓
https://twitter.com/ragoradonma
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる