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6章 風の守護する都
8-3
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8-3
「嘆かわしい、あのようなものが首領だとは。卿の称号が泣いている」
エラゼムはやりきれんとばかりに、大剣の先で地面を突いた。
俺は、背後のロア王女に振り返った。
「王女さま、さっきのやつが敵のボスなのか?」
「え?いや……恐らく、この反乱の名目上のリーダーではあろうが。首謀者は、別にいる、と思う」
「ジェイっていう、キツネみたいな男のことか?」
「たぶん。ハルペリンも馬鹿ではないが、これほど大それたことを考える男ではなかった……と、思う」
「わかった。じゃあ、ジェイってやつもぶっ飛ばさないとな」
確かに、さっきから指揮を出していたのもジェイだ。あいつを抑えないと、この戦いは終わらせられない。それにまだ、スパルトイも出てきちゃいないんだ。
「アニ!フランたちに俺の声を届けられるか!」
『承知しました。いつでもどうぞ』
俺はガラスの鈴を握りしめると、頭の中で強く呼びかけた。
(フラン、ウィル!いったん戻ってきてくれ!第二段階に移行だ!)
俺が念じ終えるか終わらないかの内に、兵士たちの山の中からフランが駆け戻った。その上からウィルが飛んでくる。俺は早口で、仲間に指示を伝えた。
「攪乱は十分効いてる。ゾンビたちが兵士を抑え込んでくれてるから、ここは彼らに任せよう。俺たちは、敵の切り札を釣り出しにかかるぞ。フラン、ウィル!多分あのやぐらに、捕まった兵士たちがいるはずだ。そいつらを頼む!」
「了解!」「しました!」
フランとウィルが、やぐらのほうへと飛んでいく。それを見て、ロアが俺の袖を掴んだ。
「捕虜を、助けてくれるのか?」
「ああ。捕まってる人たちは何人いるんだ?」
「わ、わからない。私も正確には……っ!え、エドガー!エドガーはどこだ!?」
エドガー?ロアはすっかり取り乱して、辺りを激しく見渡している。エドガーってたしか、あのリーダー兵士の名前だ。さっきまで、この辺りに縛られていた気が……
「エドガー!返事をしろ、エドガーッ!!!」
「おい、落ち着けって。あんまり離れると危ないぞ」
ロアは押さえていなければ、兵士たちの中に飛び込んでいきそうだった。ずいぶん大事な人みたいだな……
「桜下さん、戻りました!」
ちょうどその時、フランとウィルが、捕虜を連れて戻ってきた。フランは縛られた兵士を二人、左右の手で軽々と持ち上げている。ウィルは自力で歩けそうな兵士の縄をほどき、肩を貸していた。兵士は見えない何かに支えられ、目を白黒させている。そして、もう一人。ぐったりした兵士を、首のない死体がおぶって連れてきていた。
「ひっ……」
首なしの動く死体を見て、ロアが息をのむ。
「怖がらないでやってくれ。あの人は、助けが間に合わなかった捕虜の人なんだ。仲間を助けるのを、手伝ってくれたんだよ」
「え……まさか、バレスなのか……?」
俺は首なしの死体が、仲間をそっと地面に下すのを見ていた。彼はもはや言葉を話すことも、怒ったり泣いたりすることもできない。それでも彼は、俺の呼びかけに応えてくれたのだ。その姿は不気味そのものだったけど、俺は不思議と恐怖を感じなかった。
「よし、これで残りは、エドガーってやつだな。とりあえず王女さまたちを、どこか安全な場所に連れていこう」
「ま、待ってくれ。エドガーはどうする?私も探す!」
「それは俺たちに任せてくれ。敵の狙いはあんただ、あんたがいつまでもここにいたんじゃ危ないだろ」
俺はなおもぐずぐずするロアの肩を押して、この場を離脱しようとした。
「そうは、させんっ!」
わっ。俺たちの前方に、ジェイが両手を広げて仁王立ちしていた。手には棍棒に代わって、鎖の巻かれた杖を握っている。
「貴様たちは、まとめてここで死ぬのだ!」
「そんなんで、はいそうですか、って言うと思ったら大間違いだぜ!」
「その気がなくとも、言わせてくれるわ!この“竜木の杖”の力によってなぁ!」
竜木の杖だって?ジェイが杖を振りかざすと、鎖がジャラジャラと鳴った。その切っ先で鋭く地面を突く。そのとたん、ジェイの足元に灰色の魔法陣が広がった。
「召喚円陣!あいつ、アレを呼び出す気だよ!」
ライラが大声で叫んだ。そしてライラのいう通り、ついにあいつらが姿を現した。
魔法陣の下の地面が、ボコボコと盛り上がっていく。そこからにょきにょきと、白い骨がせり上がってきた。まるで植物の成長の早送りを見るかのように、細い足が、鋭い爪のついた腕が、そして恐竜そっくりの頭が生成された。
「ゆけ、スパルトイよ!やつらを八つ裂きにしろ!」
スパルトイは次々と地面から生え、あっという間に大軍を成した。ものすごい増殖スピードだ!
「こりゃあ、まともに相手してられないな……予定変更!このままポイントまで向かうぞ!ライラ、頼む!」
「うん!」
ライラは目を閉じると、速やかに呪文を唱えた。
「フロートフラフ!」
ライラの手から若草色の風が吹き出し、ロアと捕虜たちを包んだ。
「きゃっ。な、なに!?」
「魔法をかけたんだ。王女さま、悪いがもう少し付き合ってもらうぜ。ちょいと失礼」
俺は体を反転させると、ロアの両手を首に回してひょいと担ぎ上げた。ロアの体は、ほとんど重さを感じさせない。ライラの魔法のおかげで、重さが紙くらいになっているのだ。
「わ、な、なにをする!」
「このままじゃ、スパルトイと戦えない。数が多すぎるし、周りの兵士を巻き込んじまう。だから場所を移動して迎え撃つんだ」
「迎え撃つって……」
耳元でわめくロアを無視して、俺はさっとあたりを見渡した。縛られた捕虜たちは、仲間が分担して担いだ。フランなんか、両手と両脇に一人ずつ抱えている。彼女なら、魔法の補助がなくても問題なかったかもしれないな……
「よし、いこう!」
俺たちは迫りくるスパルトイの群れに背中を向けて、兵士たちの隙間を縫って走り始めた。
「うぁ~!逃げろー!スパルトイになんか勝てっこないぞー!」
俺は顔だけ振り返ると、大声で後方に叫んだ。面白がって、ライラがまねをする。
「きゃー!こわーい!おしっこ漏れちゃいそー!」
「ライラ……俺はまじめにやってるんだぞ……?」
俺たちの泥臭い演技が功を奏したのか、ジェイは目を血走らせて杖を振り回した。
「逃がすかぁぁぁ!ありったけの数をつぎ込んでやる!必ずとらえ、確実に息の根を止めてくれるわっ!」
ぞくぞくと生み出されるスパルトイたちは、俺たちだけをまっすぐ追ってくる。いいぞ、その調子だ。目指すのは、堀の周りに作られた森の中。フランがとエラゼムが邪魔な兵士を吹き飛ばして道を作ってくれたので、俺たちはほとんどフルスピードで駆け抜けることができた。
「よぉーし、あと少しだ!」
順調に森の入り口までやってきてから、俺は後ろを振り返った。うわ、見るんじゃなかった。視界のほとんどが、スパルトイで埋め尽くされている。さっきまで戦っていた兵士たちの数の比じゃないぞ。
「ぼさっとしてないで、走って!」
フランに怒鳴られ、俺は尻に火が付いたように、再び走り出した。暗い森の中を、アニが放つ光のナビゲートに沿って、目的のポイントまで疾走する。背後からは、ものすごい数の草を踏みしめる足音が迫ってくる。やつら、ゴーレムと違って足まで速いらしい。
「も、もっと早く走らんかっ!追いつかれてしまうぞ!」
ロアが耳元で叫び、ぎゅうと肩に指を食い込ませる。気楽に言ってくれるぜ、チクショウ!
「安心しろよ、王女さま!俺たちだって、何の策もなく鬼ごっこをしてるわけじゃないさ!」
「なに?それは、どういう……」
そのとき突然、背後でドーン!という爆発音が轟いた。ロアが悲鳴を上げる。
「きゃああー!」
「ぐわ、耳元で叫ばないでくれよ!」
「だ、だって!魔法よ、敵が魔法を撃ってきたんだわ!」
「違うよ、あれは俺たちが仕掛けた“地雷”さ」
「じ、じらい……?」
そうだ。俺たちは前もって、アニの魔法地雷を森のあちこちに仕掛けておいたのだ。実は俺もどこに仕掛けてあるのかほとんど覚えていないんだけど、アニは正確に記憶していて、俺たちが引っかからないように光でナビゲートしてくれている。
「あれで少しは足止めできるはずだ。だろ、アニ?」
『時間稼ぎくらいにはなるでしょう。ただ、威力はお察しです。一体倒せればミラクルでしょうね』
「そ、それでは意味がないではないか!あの竜牙兵は、数万匹はいるのだぞ!?」
「だーから、安心しろって。ちゃんと考えてるよ」
そろそろ息が苦しくなってきたので、俺はそれ以上ロアに答えてやらなかった。集中しないと、木の根につまずきそうだ。なぜか時々、フランが怖い目で睨んでくるのも気になるし。
「はぁっ、はぁっ……あ、見えた!目印だ!」
それからしばらく走ったところで、俺たちは目的のポイントに到着した。目印である俺たちの荷袋が、ひときわ大きなモミの木の枝からぶら下がっている。
「よし!ウィル、頼む!」
「はい!いきます……フレイムパイン!」
ウィルが呪文を唱えると、俺たちの後方に燃え盛る木の柱がそびえ立った。柱は一列に並び、幅十メートル程度の壁になった。そしてその奥から、スパルトイの黒波の大群が押し寄せてくる。スパルトイたちは、それなりに知能も高いらしい。炎の壁に突っ込むことなく、きっちり真ん中で左右に分かれ、壁をよけた。それどころか、さらに広がって、俺たちを中心に円を描いていく。あっという間に、俺たちは数万匹のスパルトイに包囲されてしまった。
「かっ、囲まれてしまったではないか!どうする気なんだ!?」
ロアが背中でぎゃあぎゃあ喚く。だが、ここまでは完ぺきに計画通りだ。そしていよいよ、大詰めに入る。俺はロアを背中から降ろすと、小さな魔法使いを振り返った。
「ライラ、出番だ。後は頼んだぜ」
「まっかせて!大まほーつかいライラ様の真の実力!“風の最強呪文”を見せてあげる!」
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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エラゼムはやりきれんとばかりに、大剣の先で地面を突いた。
俺は、背後のロア王女に振り返った。
「王女さま、さっきのやつが敵のボスなのか?」
「え?いや……恐らく、この反乱の名目上のリーダーではあろうが。首謀者は、別にいる、と思う」
「ジェイっていう、キツネみたいな男のことか?」
「たぶん。ハルペリンも馬鹿ではないが、これほど大それたことを考える男ではなかった……と、思う」
「わかった。じゃあ、ジェイってやつもぶっ飛ばさないとな」
確かに、さっきから指揮を出していたのもジェイだ。あいつを抑えないと、この戦いは終わらせられない。それにまだ、スパルトイも出てきちゃいないんだ。
「アニ!フランたちに俺の声を届けられるか!」
『承知しました。いつでもどうぞ』
俺はガラスの鈴を握りしめると、頭の中で強く呼びかけた。
(フラン、ウィル!いったん戻ってきてくれ!第二段階に移行だ!)
俺が念じ終えるか終わらないかの内に、兵士たちの山の中からフランが駆け戻った。その上からウィルが飛んでくる。俺は早口で、仲間に指示を伝えた。
「攪乱は十分効いてる。ゾンビたちが兵士を抑え込んでくれてるから、ここは彼らに任せよう。俺たちは、敵の切り札を釣り出しにかかるぞ。フラン、ウィル!多分あのやぐらに、捕まった兵士たちがいるはずだ。そいつらを頼む!」
「了解!」「しました!」
フランとウィルが、やぐらのほうへと飛んでいく。それを見て、ロアが俺の袖を掴んだ。
「捕虜を、助けてくれるのか?」
「ああ。捕まってる人たちは何人いるんだ?」
「わ、わからない。私も正確には……っ!え、エドガー!エドガーはどこだ!?」
エドガー?ロアはすっかり取り乱して、辺りを激しく見渡している。エドガーってたしか、あのリーダー兵士の名前だ。さっきまで、この辺りに縛られていた気が……
「エドガー!返事をしろ、エドガーッ!!!」
「おい、落ち着けって。あんまり離れると危ないぞ」
ロアは押さえていなければ、兵士たちの中に飛び込んでいきそうだった。ずいぶん大事な人みたいだな……
「桜下さん、戻りました!」
ちょうどその時、フランとウィルが、捕虜を連れて戻ってきた。フランは縛られた兵士を二人、左右の手で軽々と持ち上げている。ウィルは自力で歩けそうな兵士の縄をほどき、肩を貸していた。兵士は見えない何かに支えられ、目を白黒させている。そして、もう一人。ぐったりした兵士を、首のない死体がおぶって連れてきていた。
「ひっ……」
首なしの動く死体を見て、ロアが息をのむ。
「怖がらないでやってくれ。あの人は、助けが間に合わなかった捕虜の人なんだ。仲間を助けるのを、手伝ってくれたんだよ」
「え……まさか、バレスなのか……?」
俺は首なしの死体が、仲間をそっと地面に下すのを見ていた。彼はもはや言葉を話すことも、怒ったり泣いたりすることもできない。それでも彼は、俺の呼びかけに応えてくれたのだ。その姿は不気味そのものだったけど、俺は不思議と恐怖を感じなかった。
「よし、これで残りは、エドガーってやつだな。とりあえず王女さまたちを、どこか安全な場所に連れていこう」
「ま、待ってくれ。エドガーはどうする?私も探す!」
「それは俺たちに任せてくれ。敵の狙いはあんただ、あんたがいつまでもここにいたんじゃ危ないだろ」
俺はなおもぐずぐずするロアの肩を押して、この場を離脱しようとした。
「そうは、させんっ!」
わっ。俺たちの前方に、ジェイが両手を広げて仁王立ちしていた。手には棍棒に代わって、鎖の巻かれた杖を握っている。
「貴様たちは、まとめてここで死ぬのだ!」
「そんなんで、はいそうですか、って言うと思ったら大間違いだぜ!」
「その気がなくとも、言わせてくれるわ!この“竜木の杖”の力によってなぁ!」
竜木の杖だって?ジェイが杖を振りかざすと、鎖がジャラジャラと鳴った。その切っ先で鋭く地面を突く。そのとたん、ジェイの足元に灰色の魔法陣が広がった。
「召喚円陣!あいつ、アレを呼び出す気だよ!」
ライラが大声で叫んだ。そしてライラのいう通り、ついにあいつらが姿を現した。
魔法陣の下の地面が、ボコボコと盛り上がっていく。そこからにょきにょきと、白い骨がせり上がってきた。まるで植物の成長の早送りを見るかのように、細い足が、鋭い爪のついた腕が、そして恐竜そっくりの頭が生成された。
「ゆけ、スパルトイよ!やつらを八つ裂きにしろ!」
スパルトイは次々と地面から生え、あっという間に大軍を成した。ものすごい増殖スピードだ!
「こりゃあ、まともに相手してられないな……予定変更!このままポイントまで向かうぞ!ライラ、頼む!」
「うん!」
ライラは目を閉じると、速やかに呪文を唱えた。
「フロートフラフ!」
ライラの手から若草色の風が吹き出し、ロアと捕虜たちを包んだ。
「きゃっ。な、なに!?」
「魔法をかけたんだ。王女さま、悪いがもう少し付き合ってもらうぜ。ちょいと失礼」
俺は体を反転させると、ロアの両手を首に回してひょいと担ぎ上げた。ロアの体は、ほとんど重さを感じさせない。ライラの魔法のおかげで、重さが紙くらいになっているのだ。
「わ、な、なにをする!」
「このままじゃ、スパルトイと戦えない。数が多すぎるし、周りの兵士を巻き込んじまう。だから場所を移動して迎え撃つんだ」
「迎え撃つって……」
耳元でわめくロアを無視して、俺はさっとあたりを見渡した。縛られた捕虜たちは、仲間が分担して担いだ。フランなんか、両手と両脇に一人ずつ抱えている。彼女なら、魔法の補助がなくても問題なかったかもしれないな……
「よし、いこう!」
俺たちは迫りくるスパルトイの群れに背中を向けて、兵士たちの隙間を縫って走り始めた。
「うぁ~!逃げろー!スパルトイになんか勝てっこないぞー!」
俺は顔だけ振り返ると、大声で後方に叫んだ。面白がって、ライラがまねをする。
「きゃー!こわーい!おしっこ漏れちゃいそー!」
「ライラ……俺はまじめにやってるんだぞ……?」
俺たちの泥臭い演技が功を奏したのか、ジェイは目を血走らせて杖を振り回した。
「逃がすかぁぁぁ!ありったけの数をつぎ込んでやる!必ずとらえ、確実に息の根を止めてくれるわっ!」
ぞくぞくと生み出されるスパルトイたちは、俺たちだけをまっすぐ追ってくる。いいぞ、その調子だ。目指すのは、堀の周りに作られた森の中。フランがとエラゼムが邪魔な兵士を吹き飛ばして道を作ってくれたので、俺たちはほとんどフルスピードで駆け抜けることができた。
「よぉーし、あと少しだ!」
順調に森の入り口までやってきてから、俺は後ろを振り返った。うわ、見るんじゃなかった。視界のほとんどが、スパルトイで埋め尽くされている。さっきまで戦っていた兵士たちの数の比じゃないぞ。
「ぼさっとしてないで、走って!」
フランに怒鳴られ、俺は尻に火が付いたように、再び走り出した。暗い森の中を、アニが放つ光のナビゲートに沿って、目的のポイントまで疾走する。背後からは、ものすごい数の草を踏みしめる足音が迫ってくる。やつら、ゴーレムと違って足まで速いらしい。
「も、もっと早く走らんかっ!追いつかれてしまうぞ!」
ロアが耳元で叫び、ぎゅうと肩に指を食い込ませる。気楽に言ってくれるぜ、チクショウ!
「安心しろよ、王女さま!俺たちだって、何の策もなく鬼ごっこをしてるわけじゃないさ!」
「なに?それは、どういう……」
そのとき突然、背後でドーン!という爆発音が轟いた。ロアが悲鳴を上げる。
「きゃああー!」
「ぐわ、耳元で叫ばないでくれよ!」
「だ、だって!魔法よ、敵が魔法を撃ってきたんだわ!」
「違うよ、あれは俺たちが仕掛けた“地雷”さ」
「じ、じらい……?」
そうだ。俺たちは前もって、アニの魔法地雷を森のあちこちに仕掛けておいたのだ。実は俺もどこに仕掛けてあるのかほとんど覚えていないんだけど、アニは正確に記憶していて、俺たちが引っかからないように光でナビゲートしてくれている。
「あれで少しは足止めできるはずだ。だろ、アニ?」
『時間稼ぎくらいにはなるでしょう。ただ、威力はお察しです。一体倒せればミラクルでしょうね』
「そ、それでは意味がないではないか!あの竜牙兵は、数万匹はいるのだぞ!?」
「だーから、安心しろって。ちゃんと考えてるよ」
そろそろ息が苦しくなってきたので、俺はそれ以上ロアに答えてやらなかった。集中しないと、木の根につまずきそうだ。なぜか時々、フランが怖い目で睨んでくるのも気になるし。
「はぁっ、はぁっ……あ、見えた!目印だ!」
それからしばらく走ったところで、俺たちは目的のポイントに到着した。目印である俺たちの荷袋が、ひときわ大きなモミの木の枝からぶら下がっている。
「よし!ウィル、頼む!」
「はい!いきます……フレイムパイン!」
ウィルが呪文を唱えると、俺たちの後方に燃え盛る木の柱がそびえ立った。柱は一列に並び、幅十メートル程度の壁になった。そしてその奥から、スパルトイの黒波の大群が押し寄せてくる。スパルトイたちは、それなりに知能も高いらしい。炎の壁に突っ込むことなく、きっちり真ん中で左右に分かれ、壁をよけた。それどころか、さらに広がって、俺たちを中心に円を描いていく。あっという間に、俺たちは数万匹のスパルトイに包囲されてしまった。
「かっ、囲まれてしまったではないか!どうする気なんだ!?」
ロアが背中でぎゃあぎゃあ喚く。だが、ここまでは完ぺきに計画通りだ。そしていよいよ、大詰めに入る。俺はロアを背中から降ろすと、小さな魔法使いを振り返った。
「ライラ、出番だ。後は頼んだぜ」
「まっかせて!大まほーつかいライラ様の真の実力!“風の最強呪文”を見せてあげる!」
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