じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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7章 大根役者

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ラクーンの町を出てからの道のりは、順調の一言だった。道中とくにトラブルが起きることもなく、俺たちは日が暮れる前には予定通り、国境前の最後の壁となる、ニオブ山脈のふもとまで到着した。明日ここを越えちまえば、いよいよ三の国だ。少しでも先に進みたがるライラをなだめて、俺たちはふもとの森でキャンプを張った。

「ん~……桜下さん、これ、少し味見させてくれますか?」

夕飯の支度をするウィルが振り返る。

「ん、わかった。なに作ってんだ?」

「クレアさんのお店で、ワンパン産のおいしそうなパンが手に入ったので……」

ウィルの傍らには、縦に切れ込みの入ったコッペパンが置かれていて、今はフライパンでベーコンと彩り鮮やかな野菜とを炒めている最中だった。炒め物をパンに挟んで、ホットドッグみたいにするんだろうか?

「これ、お願いできます?」

ウィルはフライパンの中身を指さした。幽霊であるウィルは、そのままでは食べ物の味が分からない。そういう時は俺が魔力をこめて、ウィルに食べさせてやることになっていた。俺は肉と野菜をひときれフォークでつまむと、ぐっと冥属性の魔力をこめた。

「ほい。あーん」

「あーん……」

ウィルが俺の差し出したフォークにぱくっと食いつく。最初の方はやたらと照れていたウィルだけど、最近になってようやく慣れてきたみたいだ。俺はどうかって?そりゃあ、ウィルだって女の子だけど……どっちかっていうと、友達と食べさせあいっこをしている感覚なんだよな。そういうこと最後にしたのは、小学生の時だったかなぁ……

「……?桜下さん?」

遠い目をしている俺を、ウィルが不思議そうな顔で見つめていた。
夕飯を食べ終わったころになって、俺が眠たげに焚き火のそばに座っていると、珍しくアニの方からリィンと話しかけてきた。

『……主様、少しよろしいですか?』

「うん?どうしたんだアニ、珍しいな」

『いえ、明日は国境を越え、三の国に入ることになるでしょう?その前に、すこし話しておきたいことがありまして。あの、仮面のマスカレードについてです』

「マスカレード?いいけど、なんについてだ?」

『今日、日中に姉バカ娘から竜骨について話を聞いたでしょう』

「姉バカ娘って……クレアのことだな。うん、それで?」

『彼女は、闇商人はいなくなったと話していました。事実、主様は出所であるサイレン村を潰したのですから、あながち間違ってはいないようにも思えます』

「そうだな。でも、なんでいまさら蒸し返すんだ?」

『ですが、本当に闇商人はいなくなったのでしょうか?』

「え?」

『サイレン村は潰れました。しかし、あの村人たちは自力で竜の素材を採取してきていたわけではありませんでした。彼らは、こう言っていましたよね。怪しいマーケットから竜の骨を仕入れ、それを売りさばいていた、と』

「……あ!」

『お気づきですか。サイレン村の上に、さらに上流となる流通元がいたのです。そして、そこはいまだに捕捉されず、捕まってもいない……』

そうだった。どうして忘れていたんだろう。そいつらが無事な限り、第二第三のサイレン村が出てきたっておかしくないじゃないか。

「じゃあ、またあのやばい薬が広まっちまうかも……!」

『ええ。ですが、そこで一つの疑念が持ち上がります。以前も何度か口にしましたが、竜の素材というのは、大変に希少なシロモノなのです。鱗一枚でも落ちていれば大騒ぎになるほどです。ですから、そんな貴重な素材が複数の流通元を持っているとは思えません。おそらく一か所から流れてきているはず……そこで、ふと思ったのですが。最近、そんな超貴重な竜素材でできた品と、それを持つ人物に出会いませんでしたか?』

「……竜木の杖!まさか、そいつがマスカレードだって言いたいのか……?」

『その可能性が、高いのではないでしょうか。竜木の杖とは、竜の牙一つから一本しか作製できない、恐ろしく希少で強力な魔道具です。ですが逆にとらえれば、竜木の杖が作れるということは、ふんだんな竜の素材を持っているということになります。彼が、この一連の竜骨騒動の黒幕なのではないでしょうか』

「それは、また……じゃあマスカレードは、ドラゴン専門のハンターかなにかなのかな?」

『さて……現代において、ドラゴンスレイヤーというのは死語とされています。ドラゴンはもともと生息数の少ないモンスターでしたが、先の大戦でその数をさらに減らしてしまい、今ではほとんど見かけることはなくなってしまったからです。魔王の大陸ゲヘナにはまだ辛うじて竜がいるそうですが……』

「じゃあ、マスカレードは魔王の国に忍び込んで、そこで竜を狩ってきている……?まさかな、それはないだろ」

『あまり現実的ではありませんよね。まっとうに考えれば、取れる手段は、すでに死んだ竜の骨をあさってくることでしょうか』

「ああ、そっちもあるのか……ん、まてよ?」

俺は過去に一度、その竜のものと思しき亡骸を見たことがあったんじゃないか……?

『ええ。以前、私たちも見ましたよね。ゾンビ娘と出会った、あの瘴気の森での出来ことです。あのように、死んだ竜の骨を集めるのであれば、人間の領土の中でも可能です』

そっか、それなら割と簡単……なんだろうか。フランと出会ったあの森は、おぞましいほどの怨念と瘴気に包まれていた。俺はネクロマンサーの能力で平気だったけど、普通の人間は五分ともたずに発狂しちまうんじゃなかったっけ?

『……ドラゴンという種族は、人間よりもはるかに優れた能力を持つ生き物です。そしてその力は、竜が死んだ後もその骸に宿り続ける……竜の死骸から素材を集めるというのも、決して容易なことではありません。竜の死んだ地は、その骸に宿った呪いの力によって、魔境へと姿を変えてしまうからです』

「え。じゃあ、あの森も……?」

『竜が死んだことで、あのようになってしまった可能性が高いです。その瘴気によって、ゾンビ娘はアンデッドとなったのでしょう』

竜のせいで、フランが……竜がほとんどいなくなったのは、人類にとっては幸福なことだったかもしれない。あんな森があちこちにできちまったら、この世の地獄だ。

『なので纏めますと、マスカレードはどこかの魔境を攻略して、そこで竜の素材を得たのではないでしょうか。しかし、たった一人であれほどの魔境を攻略できるとは、正直考えにくいです』

「そうだな。俺もネクロマンスの能力と、なによりアニの案内があったから生きて帰ってこれたんだし」

『……ありがとうございます。それはさておき、なのでマスカレードは個人ではないと思うのです。相当な力を持った集団、もしくはそれから援助を受けていると推測します……それこそ、国家レベルで』

「こっ、国家レベル?国ぐるみで骨をあさってるってことかよ?」

『ええ……なので、主様には注意してほしかったのです。これから行く三の国は、こことは違う文化、考え方を持つ、まったくの別国です。うかつに竜骨について質問すれば、下手すると逮捕されてしまうかもしれないのですから。もっとひどければ、路地裏で背後からブスリと……』

「うわ、やめろよ、脅かすなよ!……けど、アニの言いたいことはわかった。ようは、発言に気を付けろってことだな」

『その通りです』

確かに、国境を越えるってことばかりにはしゃいでいたな。国を渡るってことは、それなりにリスクもあるってことだ。

「三の国かぁ……なあ、アニは三の国について詳しいのか?」

『あくまで知識ですが……良くも悪くも、魔術師優先の国です。魔力に優れた者は大変優遇される傾向にあります。主様やグール娘のような強い魔力を持つ人間は注目されますよ』

「あ、そうなんだ」

『だからこそ、言動には注意してくださいよ。主様はいちいち発言がストレートなんですから』

「わ、わかったってば」

三の国、いったいどんなところなんだろう。今までは楽しみなだけだったけど、今は少し不安が……ええい、やめだやめだ。どうせ明日になったら分かることさ。



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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